惑星ランチ
ついに地球人は地球外生命体を発見しました。
星を超え、銀河を超え、ある座標にとても良く似た銀河、とても良く似た星を見つけたのです。
そこは地球からは遠過ぎて、ワープを駆使しても、今の技術では生きて帰る時間はありません。
しかし私は調査団の宇宙飛行士として、この地に立てる事を神に感謝し、限りない喜びを感じます。
既に観測されていた事ですが、この星は生態系も地球に良く似ており、人間が住んでいます。言葉の発音も骨格がほぼ同じらしく、私が長く観察した地域では、古英語に似ている言葉を話すという事がわかりました。翻訳が進んだので、いよいよコミュニケーションをとってみようと思います。この星は自然が豊かで、人はのんびりと農作物や家畜を育てて暮らしています。まるで歴史に見られる、昔の我々の生活もこのような光景だったのだろうと思わせられます。
私は宇宙船を停め、農民であろう娘に接触しました。
「こんにちは」
話しかけると、彼女は多少怯えている様子でしたが、彼女たちの言葉で言いました。
「あなたが神様ですか?」
彼らも我々と同様に、宗教活動をしている事がわかっていたので、宇宙服を着た私の格好を見て彼女が私を神と認識した事は、すぐに理解出来ました。
「私を食べてしまうのですか?私は皆の健康を管理している者ですが」
彼女は言いました。食べる?翻訳が間違っているのでしょう。
「健康を管理?」
「そうです。どういった生活をし、どういう風に物を食べればより健康な身体が出来るかを、皆に教えています」
彼女はつまり、生活アドバイザー、料理研究家、ないし医者のような役割を持っているのでしょう。
家の周りには畑があり、厩舎で何かが鳴いていました。豚のような生き物でした。
私は彼女の生活ぶりや、食生活を見せてもらう事にしました。それは地球で言うスローライフ、スローフードというものに表せるでしょう。
彼女は同じ集落の人間に料理を教えていました。どの人間も規則正しく生活し、生き生きとして健康そうでした。不健康な人間は隔離され、速やかに治療されていました。そういった人間の暮らしを彼女が管理していました。
当初は安全の為、宇宙船で食事をとっていましたが、彼女に頼み、食事を作ってもらいました。毒素は認識されなかったので、儘よと口にすると、非常に地球のものに似ており、私は少々のホームシックにかかりました。体調に異常は見られません。非常に生命力に溢れた美味なものでした。
私は、この星の人類はまだ若いのだ、と思いました。どうか地球と同じ轍を踏まぬよう...
私が去ろうとした時、彼女は言いました。
「それで、どの人間がお気にめしましたか?」
「いや、君はとても素晴らしい方だ。とても気に入ってるし、尊敬の念を抱いている」
私は言いました。
「やはり、私なのですね。わかりました」
そう言って彼女は、また少し怯えた風で、食卓の上に横になりました。
「これはどういう意味の行動ですか?」
私はまだ知らない彼女たちの文化だと思い、聞きました。
「殺されるのでしょう?私たちは、神様の食べ物ですから。私はとても健康に気を使って育ちましたから、きっと美味しいはずです。私の父は金賞の祝福を貰いましたし」
私は説明しました。私は神ではなく、別の宇宙の、あなたと同じような存在、同じ人間であると。食べたりはしない、と宇宙服を脱いで、同じ生物である事を見せようとすると、彼女の顔色が変わったのです。
「ではあなたは、神様が言っていた、「病にかかった厩舎」の人間ですか?大変、あなたが触れたもの、すべて消毒して焼き払わなくては!」
不穏な言葉に、私は彼女の家を飛び出しました。案の定、彼女は斧のような凶器を振りかざして追いかけて来ます。
「病にかかった厩舎とは?」
追い詰められた私は彼女に聞きました。
「伝染病だと神様は言いました。人間は神様の食べ物で、環境も、動物も、植物も美味しい人間を育てるために用意したものなのに、その病にかかると人間はそれを破壊してしまい、とても食べられたものではなくなる。なので長く放置していたのですが、そのウイルスは他の厩舎へも拡散しようとしている事がわかりました。だから、飛び火しないうちに消毒して燃やしてしまわなければと神様は言いました」
私は彼女の一瞬の隙をついて逃げ出しました。
何とか宇宙船に逃げ帰り、人間の目に届かないであろう距離まで浮上し、緑豊かなこの星を見下ろしながら、録音していた彼女の言葉を翻訳しました。
引き続き調査を続行し、神という存在の目視、可能ならば接触を試みます。
以上が今回の調査の報告です。
私はこの星をランチと呼ぶ事にした。人間より上にいる生態系が人間を放牧している地。この映像が地球に届くのは2年後だ。それでも素晴らしい、技術の進歩だ。私は誇りに思っている。
...私は地球に帰れない。地球がこの星と同じ1つの牧場で、神に滅せられたかどうかなど、知る事は出来ないのだ。