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逆転生if  作者: 楽楽
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唐突な自分語り

 最近の流行を無視していきたいと思っていますので、ご了承ください。

 それは、物心ついた頃だった。

 

 なにか、ちがう。


 それは違和感とか不思議だとか、そういう感情であったが、当時はそのもやもやとしたよく分からないものが自分の中で動き回っているようで、気持ちが悪くてよく泣いていた。

 それまでは特に泣かない子どもであった、と聞いた。赤ん坊の頃でさえあまり夜泣きしなかったため、両親は更に不安に思ったという。


 するとある時期から、突然の泣き癖は嘘のようにぴたりと止まった。昨日まで毎日のように泣いていた息子が今度はいきなり泣かなくなったので、両親はまた大層心配したらしい。何か精神的な病気を患ったとか、オカルトめいたことが起きたのか、など、大騒ぎしたという。

 結局様々な病院へ行ったが、どの結果も「異常なし」であった。

 ある医者が言うには、子どもはこういった時期があるものだと、今まで当たり前であった物事に対し、急に恐怖を感じることがあると。それが何でもないきっかけで収まったり自然と落ち着いてくるものだと。だから騒ぎ立てるよりは、落ち着いて何が怖いのかなどしっかり聞いてあげること。それが何でもなくても「大丈夫だよ」と笑顔で一緒にいてあげること。とにかく、安心させることが大事だと。

 

 両親はそれをしっかり受け止め、自分で言うのも恥ずかしいが、息子に大して大層愛情を注いでくれた。あの時は本当に心配をかけたと思う。今の自分がひねくれもせずに健康にわりかしまともに育っているのも、あの頃の両親の甲斐甲斐しい気遣いや正しい理解のおかげだ。感謝してもし切れない。

 ただ、ありがたいアドバイスをくれたその医者の先生(今でもたまに交流がある)にも多少の間違いはある。まあ、間違いと言っても仕方の無いものなのだが。


 その泣き癖のあった頃の後。俺は、急に思い出していた。いわゆる前世というものを。ここではないどこか遠い世界で、今など考えもできないくらいに生きていくのに精一杯だった頃の話を。・・・自分でも何を馬鹿なことを、と思う。他人が言ったら白い眼で見てふーん、と他人事、妄言と聞き流すだろう。ただ、それを思い出してしまったのは自分で、実際に苦しんだのは自分だ。だから、他人事でも妄言でもなかった。妄想だったらどんなに楽だったか。


 急にそんなことを、しかもほぼ全て、いたいけな子どもが一気に思い出したのだから、心身ともに不安定になるのは仕方の無いことだったと思う。しかも「実は別の世界からの生まれ変わりなんだ」なんて、まだ物心付いた頃の自分にはとてもではないが許容できるものではなかった。なにせ10以上もある年上の思考や経験などがごちゃまぜになって「自分」として突然頭に流れ込んできたのだ。下手をすればそこで廃人になってもおかしくは無かった。


 しかし、両親が与えようとした精一杯の安らぎと愛情は、前世の記憶があってもなくても、俺の心を深く深く暖かいもので満たしてくれた。その暖かさで、俺は前世の自分を過去の自分として受け止め、今の自分

の過ぎ去った記憶として、あくまでこれから成長していく自分がこの世界で生きていく自分だとはっきりと定めることができた。


 もうひとつ、自分を自分たらしめる出来事があった。それは、俺が兄になったことだ。まだ自分が不安定だった頃に発覚した母の妊娠、そして出産。

 父に連れられ、くちゃくちゃな顔であぶあぶと寝ている双子の弟と妹を見たとき。自分が何者なのかなど、そのときはどうでもよくなった。

 この二人は、自分が守っていくんだ、と沸きあがる気持ちの前には自分のことなど些末なことだった。その時になってようやく、俺は「俺」として生きていくことになった。

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