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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第6章 地獄篇 グリード領グリード街
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97話 大災害1~上空にて~

 空がまぶしい・・・

 最近まで日の光・・・もとい月の光を目にしていなかったから。


 「準備はいい?」

 「ええ、後は崩すだけよ」

 「シフィー、私は魔具の制御に入るから、ブルちゃんの制御お願い」

 「分かったわ~」


 着々と準備が整っていく。

 俺は不干渉。

 何もしない。

 見守るだけだ。

 今は、まだ。


 「よし、エネルギーも準備いいわ。いつでもいける」

 「オーケー」


 どうやら準備が終わったみたいだった。


 今、俺達がいる場所。

 そこは、ウルファンス山脈の上空。

 みんな青龍(ブルードラゴン)に乗って、バサバサ飛行中。

 雪山の麓の少し先にある、グリード領グリード街が全体に渡って一望出来る位置だった。


 街の周囲には、高い城壁のような壁が円形状に取り囲んでいて、中は2階建てぐらいの建築物がズラッと並んでいる。

 雪山の方角にある壁は2倍くらい高くなっていて、ウルファンスを警戒しているのが視覚的によく分かる。


 なにせ、ウルファンスがこの雪山に居を構えて200年。

 これだけの防護壁が建造されても何もおかしくはない。

 だから、この街と彼女の関係は本人に聞かなくても理解出来る。

 実際、彼女はただ黙って雪山と街を隔てる壁を憎々しげに眺めていた。


 「やっとね。やっとこの日が来たのね」


 期待で口調がランランとしていた。

 そりゃそうだろう。

 険悪な関係の元を、自分の手でぶち壊せるのだから。

 それを夢見た時間はあまりにも長い。

 ・・・長すぎる。


 「ウルファンス、思いっきりやってちょうだい」

 「もちろんよ!!」


 意気揚々だ。

 物凄い張り切っている。


 「シフィー、スフィー、ソフィー!見てなさい。お母さん、頑張っちゃうんだから!!」

 「ヒュー!頑張れ~」

 「一思いにやっちゃってください!!」

 「お母さん、やっちゃえ~!」


 ついでに家族も応援していた。

 心はもう一致団結。

 ウルファンス一家は、多分この日を記念日として定めるかもしれない。

 そのくらい長い長い時を待っていた。


 「じゃあ・・・」


 言ってウルファンスは目を閉じる。

 彼女の握っている魔具・・・千年雪がうっすらと光りだす。


 この魔具は、ある一定の地域に雪を降らし続けることを可能とする代物だ。

 通常より少ないエネルギーで、ひたすら効率よく雪を積もらせる。

 使用者の力量により、積雪量の加減も可能で、魔具がめいいっぱい稼働すれば雪嵐のような環境を作ることも出来る。

 ウルファンス山脈が、200年も厳しい環境を保っていた原因の1つがこれ。


 この魔具を放棄することは、雪山を捨てたも同然。

 そこに住まう魔物。

 有用な資源。

 広大な土地。

 全部失うことになる。

 彼女はそれでもいいと言った。

 だからここにいる。


 雪山から軽い地響きが聞こえた。

 バランスの瓦解。


 雪山の環境はかなり危ういバランスの元、その環境を保ち続けている。

 重力、圧力、気温の上昇などなど、様々な要素が絡んで崩壊を招く。

 天秤のようなバランスの中で、何かが抜け駆けをしただけで、その景色は一変する。

 ・・・極端な話、その箇所だけ世界が変わると言ってもいい。

 崩壊し、変貌したその場所で生物は新たな営みを生み出す。


 ただ・・・今回は絶対にそんなことは起こらない。

 全部消えるからだ。

 200年前の原初の姿に戻すという行為。

 それは、雪山に生息した全ての生物を殺すということでもある。

 最初の衝撃に耐えて、幾らか生き残ったとしても、後の環境が彼らを殺すだろう。


 ・・・災害死。

 自然死と言っても良いかもしれない。

 野生の生物は周りの環境に依存しているが故に、自然環境そのものを生物の延長として捉える考え方。

 或いは他殺と言ってもいいかも。

 この災害には、他者の思惑が絡んでいるから。


 この雪山にアバランチコントロールなんて親切なことをする悪魔は皆無。

 止めようもない。


 聞いた話、極限まで高めたと思う能力をもう1段階威力アップさせたい時はどうするのか?と能力を幼少の頃習う時、質問されるのだという。

 ここで、誰もが実践可能で簡単な方法が1つある。

 ・・・自然環境を利用すること。

 今、この場合は・・・


 「さようなら」


 雪山の全てに対して、お別れが告げられた。

 ウルファンスの家族が神妙そうにその様子を見ている。

 その瞬間、魔具は光輝いて・・・大規模な雪崩を発生させた。



 ---



 「まず、大魔石を取るなら麓のグリード街からでしょ」


 ウルファンスが当然だと言わんばかりに提案した。


 「この山の近くに街があるのか・・・」

 「グリード街って言うの。長い間あっちとは険悪関係でね。さっきララが言ってた力の均衡ってやつよ」


 険悪関係か・・・

 てことは、200年も?

 悪魔の寿命がいくら長くたって、それは・・・


 「でもあそこ、力の強い悪魔が結構いたのではありませんでしたっけ?」


 ララが思い出したかのような発言。

 それに対してダゴラスさんが、それまた思い出したかのように答える。


 「うーん、強い魔物が割合的に多い雪山の麓だからなぁ。鍛えられて強い悪魔もそれなりにいるさ」

 「私が知っている連中では、峻嶮の火アマンダ、輪火の足エラ。他にも火の属性能力を使う悪魔が多かった気がしますが」

 「そこも雪山ならではだろ。コイツと力の均衡を保つ為の相性作りさ」


 ダゴラスさんはチラッとウルファンスに目を向ける。

 当然彼女が気が付かない訳がない。


 「おまけに、街を守る結界も火と順応するように出来てるし。固有能力か何かかしら?」

 「でしょうね。結界が属性を伴なったら、もう個人による固有能力の可能性が高いわ」


 ウルファンスの質問に対して、マリアさんが答えた。

 そうか。

 結界能力と属性能力が合わさることだってあるのか。

 やっぱり固有能力のバリエーションは豊富だな。


 「幾ら近場とは言え、守りも手堅い、敵も多い。おまけに倒すのに時間がかかりそうな悪魔が数名。モタモタしてたら、ラースの魔王側だって救難信号聞きつけてやってくるわよ」

 「言っとくけど私、ヴァネールとは絶対に戦わない。いくら命があっても足りないし」


 ウルファンスの宣言。

 ヴァネールの扱う能力は火。

 反対に彼女の扱う能力は氷。

 ・・・すごい相性悪いな。

 本人が戦闘を嫌うのも納得の話だ。


 「って言うか、みんな戦うこと前提で考えてるんですね」

 「それ以外にどんな方法があるっていうのよ?」

 「ほら、マリアさんの洗脳能力でみんな操るとか」

 「残念ながら無理ね」


 本人のダメ出しが返ってきた。


 「私の洗脳能力だって、何も万能じゃないのよ?」

 「ん・・・」

 「そもそも私の洗脳は、無制限大量の悪魔を操れる訳じゃない。ちゃんと限界人数は存在するわ」

 「具体的には?」

 「相手の実力にもよるけど・・・今の私の状態では、並みの悪魔なら1千人。72柱クラスなら10人ってとこかしら?」

 「1千人!?」


 軽く軍隊じゃないか。

 これのどこが万能じゃないだよ。

 道理で空中要塞で大量の魔物を操ってた訳だ。

 ・・・中には操れていなかった魔物もいるけど。


 「相手が精神抵抗の能力を備えていた場合は完全に洗脳は出来ないし、やったとしても感情の誘導まで。魔物も大体似たようなものよ」

 「でも、それで他の悪魔に大魔石を取ってもらうために戦わせられるじゃないですか」


 我ながらえげつない考え方だけど・・・


 「いい?そんじょそこらの悪魔を操ってもダメなの。実力者は、一般の悪魔や下級兵を無傷で無力化する方法くらいみんな心得てる。それに洗脳は、だいぶ前から周囲に溶け込まさせないと、すぐに心の機微を能力で読まれて悟られてしまう」

 「じゃあ、ラース街の時は・・・」

 「君が認定書を読んでいる間に、色々と仕込みをしてたのよ」


 ・・・そういえば、俺がベットに寝ている間マリアさんを見ない時が長くなった気がする。

 それってそういうことか?


 「獲るなら頭って訳だな」

 「そういうこと」


 ダゴラスさんが話を纏める。

 いくら周りを抑えても、無意味ってことか。

 数の力も有用に運用しなければ、時には無力になるってことか・・・

 と言うか、それくらいで街が混乱に陥ってたらこんなに長続きしてないよな。

 これまでウルファンスが傍の雪山に住んでいながら、グリード街が長い間平静を保っていられたのは、それなりの理由があったからだ。

 決して舐めてはいけない・・・ような気がする。


 「頭と言えば、グリードの魔王は今どうしてる?私、だいぶ会ってないんだけど」


 みんなに目線を向けて言うマリアさん。

 事情を知っていそうな悪魔は、やっぱりウルファンスしかいない。

 1番近場に住んでる悪魔だもんな。


 「相も変わらず堅ったい奴よ。サタンとも素直に連携を取ってくるでしょうね」

 「・・・グリードの魔王って誰ですか?と言うか魔王って1人じゃなかったんですね」

 「・・・」


 俺の急な質問にみんな押し黙る。

 俺はラースのサタン以外に魔王がいるなんてことを、知らなかった。

 初耳だ。

 だから、そんなビックリしたみたいな顔をしないでくれ。


 「・・・七罪帝という言葉は聞いたことが?」


 質問に質問で返すララ。

 そんなこと、聞いたこともない。


 「・・・いいや、聞いてない」

 「マリア、あんたそんなことも教えてなかったの?」

 「あれ?大魔石が7つ必要なことは君に話したわよね?」

 「それは話してくれましたね。それだけですけど・・・」

 「あらあらあら」

 「・・・あんた、やっぱ教えてないじゃないの」


 てへっとマリアさんはごまかした。

 ・・・ごまかすんスか。


 「まあ、七罪帝って言うのは、7人の魔王のことです。魔王達を総称して七罪帝」

 「へえ・・・」


 7人も魔王がいたのか。

 じゃあ・・・


 「領地が7つ、街も7箇所、魔王も7人?」

 「そうですね。街は他にも無数に存在しますが、その認識でひとまずは良いでしょう」

 「だから大魔石も7つとか?」

 「厳密に言えば、大魔石が採掘された時点で、その地域に街が建造される感じです。今は7つしか大魔石が発見されていないだけなので、新しく見つかれば新しい魔石の番人である魔王が定められ、一般の悪魔も住み着いていくと思います」

 「・・・そんな理屈だったのか」

 「大魔石が見つかればそれを守護する魔王が・・・魔王が決まればそれを守護する悪魔達がやって来る。それだけ集まれば住居なんかが立っていって、ライフラインが整っていく。転移の陣が出来て、他の地域から悪魔達が集まって、そうして街になっていって・・・大魔石が発見された土地の地形と、街の発展具合を見て、領土が新しく制定される。今の領土ってそうやって出来ていったのよ」


 マリアさんの丁寧な解説。

 とてもありがたい。


 「でも、古代で集中して大魔石が7つ取れて、それ以降発見されてないらしいから、もう増えることはないと俺は思うけどな」


 ダゴラスさんの意見。

 それに対して、ウルファンスが分かりきった風に答える。


 「多分そうでしょうね。7つの領土の歴史は古いわ。それからずっと見つかってないし」

 「取り尽くしたってことですか?」

 「さあ、どうだろう?今まで見つかってないってだけだし」


 ・・・見つかんないんだろうな。

 新しく俺らで大魔石を掘ればいいんじゃね?とか思ったが、それは無理っぽい。

 戦わずして逃げるのが1番良いのだが・・・

 理想はやはり遠い。


 「今回は私の宿敵の魔王、アモン・マモンの城にある大魔石を強奪しようって訳」


 ウルファンスが魔王の名前を言った時、少し目つきが変わった。

 宿敵か・・・色々あったんだろうなぁ。


 「けどねぇ、あのクソマモンが結構なやり手なのよね~」

 「・・・強いのか?」

 「全然。実力的には上級騎士程度なんじゃないの?」

 「でもやり手?」

 「魔王達って戦闘能力自体は大したことないのよ。問題なのは、悪魔の上に立てるカリスマと、忌々しい神聖種を使ってくるってこと」


 神聖種か。

 俺はユニコーンを思い出す。

 あの不可解な能力を使った聖馬だ。


 「固有能力を使うのか?」

 「使う奴もいる。今回の魔王・・・クソアモンの神聖種は、悪魔達の指揮とか、士気の上げる厄介な能力を持ってるわ」


 そっち系か。

 集団の指揮。

 確かにこれは、使い方を誤らなければ厄介かもしれない。


 「マリアみたいに悪魔を操る訳じゃないけど、むしろそっちの方が純粋な戦闘になった時に恐ろしいのよ」

 「ああ、ただ戦うなら本人の意思があった方が勝率は高いよな」


 黒い大剣をいじりながら、ダゴラスさんが返答する。

 彼が1番近接戦闘で強そうだもんな。

 ずいぶんとその手のことは詳しいのではないだろうか?


 「だからもし戦闘に入った時、多数対少数の状況はなるべく作りたくないのよ」

 「でも、街の悪魔殆どが敵みたいなものなんだろ?どうしたってあっちの方が多いじゃないか」

 「だ・か・ら!」


 話を強制的に引き戻すようにマリアさんが声を張る。

 みんなの視線が一気に集合する。


 「私に作戦があるのよ」

 「どんなよ?」


 ウルファンスの問い。

 マリアさんは淀みなく、予めこれを考えていたかのようにこう言った。


 「まず、街を雪崩で全部壊滅させましょう!」

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