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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第5章 地獄篇 グリード領ウルファンス山脈
96/244

96話 目的

 「さてっと」


 マリアさんが一つ、咳払いをする。

 それだけで、だだっ広い室内に音が響く。

 余計な障害物がないと、室内でもこうなるんだなと、頭の片隅で思ってしまった。


 現在俺達は、城のある一室に集まっていた。

 白を基調とした内壁に、部屋の中央に置かれた人数分のイスとテーブル。

 それ以外の家具はありはしない。

 ・・・悪く言うと、殺風景というやつだ。


 それでも、この場にはかなり適しているのかもしれない。

 重要な話をする際に、邪魔な物はなるべく取り払っておいた方がいい。

 余計な思考は余計な過程を総じて作りやすい傾向にある。

 この場には、必要な会話しかいらない。

 それを支えるイスとテーブルがあれば、十分だ。


 室内にいるメンバーは順に、ウルファンス、マリアさん、ダゴラスさん、ララ、そして俺。

 計5名。

 他の悪魔は別室で思い思いにやっていることだろう。

 彼女達を外した理由は、まだ実際の年齢・・・もっと言うと、精神年齢が幼いからだ。

 こうした場には、それはそぐわない。

 シフィーは別に参加しても問題はなかったそうだが、本人が残りの小さな悪魔達の世話を申し出た。

 結果、5人が集合。

 城に到着してから、3日目のことだった。


 「作戦会議って言ったらなんだけど、今後の方針について決めていくわよ」


 今後の方針。

 マリアさんやウルファンスは一体俺をどうしたいのか?

 俺は、どのような願望を持ち、どのようにしたいのか?

 それを達成する最善の道はどこに存在するのか?


 みんな、思い思いに考えているんだろう。

 マリアさん側は慈善と慈悲の心を持って俺を助ける気だ。

 理由は詳しく聞いていない。

 ただ、俺を本当に助けたいのか・・・マリアさん達が何を思っているのかは、俺には正直分からない。


 ウルファンス側は俺が別世界への転移するのに便乗して、自身達もこの世界から脱出したいらしい。

 何故かは詳しく聞いていない。

 今までの会話から想像すると、過去に悪魔と何か因縁があるような・・・そんな感じだ。


 両者の動機の底がはっきりしない以上、状況が二転三転することもありうる。

 敵か味方かの要素は、実はかなり不安定なものだ。

 立場は時と共に変わり、役割も変わる。

 役割は衝突を生むし、逆に支えあうこともあるだろう。


 悪魔はそこを、心を読むことで補ってきた。

 だが、ここにいるのはその均衡を壊すことが出来る力の権力者達だ。

 相互の関係性を持ちえない悪魔は、人間のソレに近くなる。

 力を持ったがための、下落。

 ・・・矛盾だ。

 だからこの場では、人間のような話し合いが必要だった。


 そんなことはみんな理解してるのだ。

 その証拠に、即決即断満場一致で話し合いの場を設けることに賛成をした。

 ちなみに、最初に提案をしたのはマリアさんだ。


 俺の体力の消耗を考えて、話し合いは3日後と決定された。

 傷の治療、心の療養などなど。

 俺が話の中心となる以上、反対意見などでなかった。


 「まず、最初に重要なこと。私から改めて聞くわ」


 マリアさんが俺に話しかける。

 真剣モードでだ。

 俺もそれ相応に切り替える。


 「君はこれからどうしたい?殆どの悪魔、魔物から付け狙われる危ういその立場で、どんな願望を持つの?」


 単純な質問。

 俺の願望。

 単純だが、簡単には答えられない種類の質問だ。


 自身の願望の明確化。

 これはかなり難しい。

 アイデンティティーに関わるような、デリケートな問題は必ずと言っていい程みんなぶち当たる。

 

 人間の願望には色々あるだろう。

 金持ちになりたい。

 有名になりたい。

 幸せになりたい。

 本当に様々だ。


 でも、そのどれもがなりたいで終わってしまう脆い願望だ。

 脆いが故に、すぐに忘れたり諦めたりしてしまう。


 マリアさんのことだ。

 人間の性質なんて、熟知しているはず。

 つまるところ、これは覚悟の意思表示を見せろ、とも言ってるのだ。


 他人に頼って叶えてもらおうなどという態度は、この先俺に死を招く。

 流されっぱなしでは、どこまでも流されていくばかりだ。

 俺の願望・・・もとい、意思の明確化。

 それこそが・・・


 「・・・俺の願いは、元いた世界へ帰ることです。そのために大魔石を集めて、門で現世へ転移します」


 強く言った。

 漠然とではなく、はっきりと。

 今まで何度も思ってきたことだ。

 言うこと自体は簡単だろう。

 けど、重要なことだった。


 「オーケー」


 俺の意思がみんなに伝わる。

 これが俺の願望だ。

 これでいい。


 「ウルファンス、あなたにも同じ質問をさせてもらうわ」

 「ええ、いいわよ」


 母親の悪魔同士で目線が合う。

 こちらはこちらで、俺とは違う意味合いの質問のような気がする。

 ごまかしの効かないもの同士だもんな。

 ・・・俺の立場は相変わらず下だ。


 「私はこのくそったれな世界から抜け出して、早く平穏を築きたい。プレッシャーのかかるような立場はもうたくさん。だから彼のサポートをして、こちらも別世界へのキップを手に入れる・・・これでいい?」

 「ありがとう。もういいわ」


 珍しい。

 マリアさんが感謝の言葉。

 意外と聞かないのに・・・


 「ララ、あなたは?」


 今度はララへ視線を向ける。

 ララの種としてのルーツはダゴラスさんから聞いている。

 吸血鬼。

 種族としての誇り。

 ・・・本人から聞かせてもらおう。


 「私は、許せないのです」

 「何を?」


 マリアさんが問う。

 あいまいな返答には、厳しく追及してくるだろうな。


 「差別が」

 「・・・」


 ・・・差別。

 悪魔同士の間では、およそ無縁の言葉だろう。

 ララならではの発言と言える。


 「私は差別が嫌いです。死ぬ程嫌いです。魔王様の中央執行所にて、決別する際にルフェシヲラに言いましたが、72柱の生き残りや、魔物が人間を欲しがる原因の一旦は我々悪魔という種族にあります」

 「・・・」

 「我々の元々残していた問題が、人間の到来によって表面化しただけです。72柱は強大で、手も出せないが故に薄っぺらいいつ破られるかも分からない、強制的な協定を残して沈静化させただけ。魔物だって遠い昔に故意に使い魔として繁殖させたりしなければ、簡単な対処で済んだ筈なのです」

 

 悪魔側が悪いとララが言いたいのは、俺でも分かった。

 ダゴラスさんは、かつてこの世界には平和なんて言葉は存在しないと俺に言った。

 それ程悪魔同士は安定してると。

 だが、それはあくまで悪魔という種族間のみでの話だ。


 魔物の住む領域は自然界。

 そこでは、多くの悪魔が犠牲になってきたのだろう。

 が、その領域では悪も善もない、生きる為の行為が存在しているのみに過ぎない。

 平和とか、混沌の概念がそもそもないのだ。


 だから悪魔側が自然界を安定させようとしてきた。

 極少数の犠牲を出しながらも。


 悪魔の統制を行うこと。

 自然界のバランスをとること。

 以上から転じて、通常の悪魔の意見。

 つまり、平和だ。

 平和という言葉が必要とされない程の平和。


 そしてララは、多分こう思ってる。

 ・・・俺が来ただけで乱される、薄っぺらい平和。

 改善の余地があった平和。


 いわゆる、臭い物に蓋をしていたと思っているのだと思う。

 俺には、悪魔のやらかしてきた細かいことなんて知らない。

 けど、ララの伝えたいことの核は分かった。


 「人間を殺すなんて選択をしなくても、我々で改善出来る箇所はいくらでもあります。72柱の連中だって、力で抑えて均衡を作るなんて関係じゃなく、もっと別の関係を作っていくことだって出来る筈」

 「それで?」

 「だから私は、人間を殺させません。利用もさせません。魔王様側が考えを改めるまで・・・守り抜きます」


 堂々と宣言した。

 少し長く語ったのは、それだけ彼女の中で思っていたことだったからだろうか?

 それにしても、俺を守り抜くか・・・

 ちょっと俺、恥ずかしい。

 男が女に言われるような言葉じゃないな。


 「うんうん、分かったわ」


 マリアさんは追及の目を閉じて、ダゴラスさんを普通に見る。


 「じゃあ、あんたの願望とやらを言ってよ」


 ウルファンスが言った。

 恐らく唯一、同列の立場の悪魔が。

 厳密に対等と言えるかどうかは分からないが・・・それでも1番近い力量を持っているのは確実に彼女だ。

 だからだろう。

 率先してマリアさんに質問したのは。

 で、それに対してマリアさんがどう答えたのかと言うと・・・


 「彼を助けたい。そのために別世界へ転移で送る。以上」


 極めて簡潔的だった。


 「超シンプルな回答をありがとう、と言いたいとこだけど、あんたに・・・あんた達にメリットはあるの?人間を助けて」

 「ないけどあるわ」

 「は?」


 当然の反応を彼女はした。

 俺も同じだ。

 ないけどある。

 ないならないんじゃないか、普通。

 まあ、普通が通用しない悪魔達なんだけど。


 「人間を助けることに、実質的な見返りは確かにない。ゼロよ。ゼロゼロゼロ。けど、助けたという結果は残る。それだけで助けるに値するわ」

 「・・・それって人間だけに当てはまることじゃないわね」

 「当然。私が地獄でやってきたことはみんな知ってるでしょ?ウルファンス。貴方を悪魔の軍勢から襲われないようにサポートして」

 「・・・」

 「ララ。貴方の祖先には種族としての尊厳を残して」

 「・・・はい」

 「数えればキリがないけど・・・今回もそうしたものと同一と思ってくれていいの。私は人間を別世界に送る。或いは帰す。ただそれだけ」


 ・・・1番聖人的な答えが、マリアさんから返ってきた。

 俺自身、善意と慈悲がマリアさんの根底感情だとは思っていたが・・・

 改めて聞くと、凄まじいものがそこにあった。


 相手を助け、自身の見返りを求めない。

 現世の古代、キリストが行ってきた行為・・・それは自己犠牲だ。

 一見良いことのように思える。

 だが、それは普通の人間と比べて、特異なことでもある。


 人間は何かしらの対価を求めなくては生きてはいけない。

 人間同士の相互関係によって、はじめて人間は人間でいられる。

 だけども、キリストは一方的に相手へ何かを送り続けた。

 ・・・聖人と言うのは、人間としての異常の一種をそう言うのかもしれない。

 或いは、異常を昇華させた形とでも言うのか。


 無償の愛。

 これほど人間の負担になるような善行はない。 


 マリアさんは悪魔だ。

 人間の性質に近い悪魔。

 だから・・・こういう異常性を孕むのか。


 それを享受する俺。

 感謝はする。

 それは当然のことだ。

 だが、俺は・・・

 

 「ダゴラス、あんたも同意見なの?」

 「ああ、マリアに従う」


 夫のダゴラスさんも同じく簡潔に。

 従う、か。


 「あんた達って、本当・・・」


 何か言いかけて。


 「いいわ、分かった」


 納得したみたいだった。

 それに続いてマリアさんが言う。

 もうこの2人が実質的な進行役だな。


 「じゃあ、みんな人間の別世界に送るってことに反対意見はないのね」


 それを聞いて、ララはむず痒い反応を示す。


 「ララ。貴方としては、人間が地獄世界に受け入れるようなことを望んでいるでしょうね」

 「中途半端で終わるのは個人的には嫌ですが・・・人間の尊厳を守るにあたって、主張されたことは尊重されるべきでしょう。彼が別世界への回帰を望むのであれば、私は反対しません。それまで守ります」


 らしかった。

 そもそもの話。

 ララは人間という種族を、尊重することに意義を置いている。

 人間という種族にだ。

 俺個人ではない。

 そこはマリアさんと対照的に、安定を遂行してきた悪魔らしいところを含んでいると、俺は思った。


 「行動の大本が明確になれば、後は今後、どう動くかね」


 次の段階。

 この願望を持って、どう動くのか。

 現在の状況にどう対処するのか。

 俺は、どうするのか。

 ・・・しっかり聞いとかなくちゃな。


 俺は悪魔程にこの世界について、知ってる訳じゃない。

 知らないことの方が多いだろう。

 ここは、悪魔達の知識を借りる必要がある。

 その為のこの場だ。


 「とりあえず人間、あんた、星門って知ってる?」

 「・・・いいや、知らない」

 「君に教えた奴よ、世界への門のこと」


 マリアさんの補足が入る。

 門っていうと、俺が行きたい方の門か。

 その名前が、星門って言うのか。


 「あの門も一種の魔具だからね。当然名前くらいはついてる」

 「へえ・・・俺、今まで門としか言ってこなかった」

 「その方が分かりやすいでしょ?」


 またしてもマリアさんの補足。

 まあ、確かに分かりやすかった。

 ありがたい配慮だとは思う。


 「まあ、その星門にあんたは行きたい訳だ」

 「そうなるな」

 「どこにあるか知ってる?ちなみに私は知らない」

 「・・・俺も知らない」

 「これ、場所が分からないんじゃあ大魔石を集めても、意味ないんじゃない?」


 ・・・その通りだ。

 先に調べておくべきこと、は幾らかありそうな気がする。

 門の位置は、その内の1つだ。


 「大丈夫。私が知ってるから」


 マリアさんがそう答えた。


 「あれって確か魔王しか知らないんでしょ?どう知ったのよ」

 「魔王から聞いたのよ」

 「・・・そうだった。なんでもありだったわよね、あんた」


 ・・・忘れてた。

 ダゴラスさんのセーフハウスにいた時。

 マリアさん本人が言っていた。

 魔王から情報を抜き出したと。

 そのために俺は、街で大脱出をするはめになったんだっけか。


 「ラース街で珍しくトラブルがあったって、風の噂で聞いてたけど・・・」

 「多分、それね」

 「ゴタゴタの合間に何かするのは、あんたの得意分野だったっけね」


 言ってることは間違ってない。

 ゴタゴタしている間に、なんかかんかやっていたのだから。


 「その話は置いておいて、星門。これがある場所は魔王によると、この世界の裏側・・・深淵にあるとされて・・・」

 「深淵!?」


 ウルファンスが、マリアさんを遮って声を荒げる。

 俺と出会ってから、取り乱すのは今回が初めてだ。


 「深淵なんて、そんなとこまで行けっての!?」

 「悪いんだが・・・深淵が、まずよく分からない」


 その発言を予見していたであろうマリアさんは、丁寧に説明してくれる。


 「前にこの地獄は星の形状をしてるって私言ったでしょ?」

 「言ってましたね」

 「で、この世界の月は一定の位置で固定されているってのは見ていて分かるわよね?」

 「はい」


 昼・・・その光源は赤い光を薄くしたような黄昏の色。

 月とは思えないほ程、明るく光る不思議な景色。


 夜・・・その光源は赤という色を純粋に表現したかのような、純血の色。

 童話に出てくるような、幻想的で飲み込まれそうな狂気の景色。


 地球とはだいぶ違う空の色だ。

 最初に来た時は、随分不思議がってた気がする。

 死んだ先が星だって聞いた時も、かなりびっくりしてたな。


 「ここは月の見える、いわゆる可視可能なぐらいに明るい領域。だから悪魔も生活出来る」

 「・・・はい」

 「対して深淵は暗い領域。月という光源が丁度裏側に固定されているせいで、光がそこまで届かない暗黒の場所・・・ってことかな」


 暗黒の場所・・・


 「そこは・・・見えないんですか。色々と」

 「全部ね。深海みたいに光が届かないからいつも夜なの。夜空に輝く星も見えないし、本当に真っ暗」

 「じゃあ、暗くて誰も住めないじゃないですか」

 「住めないわよ。しかも、魔物は光を嫌う傾向がある。必然、深淵に魔物が集中しやすい」


 前に聞いたことがある。

 魔物は洞窟内部に溜まりやすい。

 光を嫌うということも、そこに関係しているだろうな。


 「随分昔に行ったけど、あそこはもう並みの悪魔じゃ近寄れない場所になってる。殆どの魔物が邪悪種に変貌してたわ」


 それを聞いて、ウルファンスは苦々し気な表情を見せる。


 「お前なら、洞窟でやったみたいに簡単に邪悪種を倒せるんじゃないのか?」

 「・・・あれは倒したんじゃなくて、凍らして封印しただけ。前に邪悪種は殺せないって言ったでしょ」

 「じゃあ凍らせればいいじゃないか」

 「あんたが会ったような、小さな邪悪種ならそりゃあね」

 「・・・?」

 「あれは覚醒したての個体。本来の邪悪種は成長すると、ドラゴン並みに大きくなる。だから私が相手したのは、生まれたての子供みたいなもんなのよ」

 「・・・あれでか」


 その子供に殺されかけたんだが・・・

 あれがまた成長するのか。

 しかも巨大に。

 ・・・手に負えない気がする。


 「1頭2頭なら対処も出来る。けど、マリアの発言からじゃあそれは出来そうにないわね」

 「お前でもか・・・」

 「私は普通の悪魔より、出来ることが多くある。でも、出来ないものは出来ない。強くなると、そういうのに対する分別がより一層身についてくるもんよ」

 「そこは私も同感ね」


 と、マリアさんも同意見を言った。

 強者2人のお墨付きだ。

 俺がどうこう出来る問題のレベルじゃないな・・・

 そこでダゴラスさんがポツリと喋る。


 「俺の友達も昔深淵に行ってたな・・・72柱のエトヌゥス」

 「ちょっと、ソイツとっくの昔に消息不明になった悪魔じゃない」

 「深淵で死んだって話だ。結構強かったのに」

 「・・・なんでこう、力を持つと自殺行為に走るバカが現れるのかしらね」


 そんなこと言われてもな・・・

 人間だってそうだ。

 力を持てば、愚行に走る人間のなんと多いこと。

 実に哀れだ。

 悪魔と人間じゃあ意味合いが違うかもしれないけど。


 「エトヌゥスって奴は言うほど強かったんですか?」

 「ここの連中には劣るけど、邪悪種1頭ぐらいは倒せた筈だぞ?討伐経験もあったし。」

 「エトヌゥスって言ったら晩転のあの子?」


 マリアさんの質問。

 それに対して、ダゴラスさんはああ、と答えた。


 「知ってる。当時49位で固有能力バンバン使ってた子でしょ?」

 「おう、100年前くらいだっけな・・・懐かしい」


 ・・・懐かしいの単位がまるで違うっす。

 もうちょっとその長大なスケールを、小さくコンパクトに出来ないものか。


 「・・・もうちょっと他の悪魔の助けもいりそうね。助っ人に心当たりは?」


 テーブルをトントン指で叩きながら、ウルファンスが問う。


 「水の王子エマとか・・・塵と狼煙の王ロノウェ・・・後は変幻のオセ辺りかしら、動機で簡単に操れそうなのは」

 「げぇ、どれも変人奇人ばっかっじゃない。もうちょっとマシなのは?」

 「いない。これでもマシなチョイスだと思うけど?拷問大好きなベリトもいるっちゃいるけど」

 「ムリムリムリ。アイツとは噛み合わないから」


 いろんな名前が出てきたな。

 72柱かどうかは知らないが、王の付いてた悪魔なんか強そうじゃないか?

 頼れそうな悪魔はまだいるらしい。

 これもマリアさんの能力の賜物か。

 とりあえず、拷問大好きナントカさんは俺もなんとなく遠慮したい。


 「洗脳すれば他に幾らでもいるけど、私を警戒して消息を絶ってるか、対抗策ぐらいは持ってる奴らになるわ」

 「・・・めんどいわね」

 「でしょ?」


 マリアさんを警戒してですかい。

 どれだけ彼女は凄いんだろう。


 「しかも、勧誘するための時間がそんなにないのよ」

 「え・・・」


 俺、ちょっと反応。

 時間がない。

 いい印象を抱かない言葉だ。

 例えどう意図して言ったか分からなくても。


 「マリアが教育し直した私のペットが、雪山に入って調査してる悪魔を見つけたのよ」

 「それは・・・魔王側の悪魔か?それとも別の悪魔?」

 「魔王側の悪魔よ。あんた達が来る前、ラースの隊長格が私の敷地に入ってきてね・・・ソイツを縛ってたのはいいんだけど、急に連絡取れないことに異常を感知して、ここに悪魔達が結構来てんのよ」


 悪魔が・・・ここに来ている?


 「こんな悠長に話し合いなんかしていていいのか?」

 「大丈夫大丈夫。そう簡単にこの城へは来れないから。まだ時間はあるわよ」

 「と言っても、見つかるのは時間の問題なんだがなぁ」


 ダゴラスさんの渋い顔。

 ことが深刻なことを表している。

 ・・・不安だ。


 「その、捕らえた悪魔って今も閉じ込めてるのか?」

 「ん?処分したわよ」


 ウルファンスの軽い口調。

 俺は一瞬で戦慄した。

 ピキッと頭の中で何かが割れる。


 「テレパシーで救難信号出されるのも嫌だし。マリアに情報を吸わせた後、ちゃんと殺したわ」


 マリアさんの方を見る。

 さも当然という顔をしていた。


 「戦闘に入った時、ソイツ・・・リタ・ソコノームって言うんだけど、私を本気で殺そうとしたわ。ダイレクトに感情が伝わってきてね」

 「相手を殺そうとするなら、殺される覚悟を持つのは常識。違う?」

 「・・・確かに、そうです」


 俺もその覚悟を持って、悪魔を多数殺した。

 ここでウルファンスを否定するのは簡単だ。

 簡単すぎて、吐き気がする。

 そんな言葉を吐くのは、綺麗に育った何も知らない大人だけだ。

 ・・・真実と摂理を全く見ていない。

 恐らく、ララに聞いたって同じ答えが返ってくるだろう。

 だから、素直にウルファンスとマリアさんを肯定する。


 「まあ、先にネタバレしちゃったけど、魔王側のやろうとしていることも、頭の中にちゃんと私はインプットしてるわけ」

 「では、この先どうするんですか」


 ララの形式的な質問。


 「城の位置が特定出来たら、すぐにでも攻撃を仕掛けてくるでしょうね。特定は騎士団連中にやらせておいて、実際に叩くのは騎士団隊長上位格、ヴァネールだけじゃなくて、クルブラドも来るらしいわ」

 「・・・嫌すぎる情報ですね」

 「また知らない名前が出てきたんだけど・・・」

 「クルブラド・オドロリス。現在騎士団で1番強い方だと思ってください」

 「しかもソイツも72柱さ」


 ・・・聞いただけでやばそう。

 あれだろ?

 ヴァネールより強いってことだろ?

 クルブラド・・・どんだけ強いんだろうな。


 「今の魔王側の調査スピードを予想するに、大体3日4日かかるくらいじゃないかしら」

 「そこは私のペットで引き続き監視は行っていくわ。妨害もしながらね」


 ニイッと雪女のような容姿には似つかわしくない顔をするウルファンス。

 コイツもやっぱ好戦的なんだな。


 本当に、よくこんな悪魔が俺に協力してくれていると思う。

 ラッキーとしかいいようがない。

 俺にとって実に都合のいい利害一致だ。


 「ここからが話の肝よ。ララの質問、この先どうするのか」


 表情が自然と引き締まる。

 みんなも似たような感じだ。


 話の核心。

 一言一句逃すまい。


 結局、俺がこの先の方向性を決める訳じゃない。

 サポートをするのは彼女達だ。

 俺は車で牽引されていくようなもの。


 ただ、ここから先に進む俺の意思は俺自身にしか決められない。

 だから、周囲と対等じゃなくても、対等のように振舞える。

 そんな姿勢で俺に何が出来るのか吟味していくことも、俺が話し合いの場に参加している意味だと思う。

 そう思う収穫として、みんなの言葉はしっかりと俺の頭に残ってくれるだろう。


 そういう思考が、頭の中で反芻されていく。

 そうさ、反芻だ。

 繰り返し考えて、よく味わうのだ。


 俺なりにじっくり考えてみれば、何か助けになるかもしれない。

 じっくり考えるなら、その元となる素材も集めなければならない。

 重要なのは俺なりに、だ。


 そう自分に言い聞かせるようにし、マリアさんの次の言葉を耳にガッチリと入れたのだった。

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