↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第5章 地獄篇 グリード領ウルファンス山脈
92/244

92話 思い違い

 「えっ!?」


 戦いで地形が荒れに荒れた通路。

 真ん中には、邪悪種を押し潰した巨大な氷塊。

 滅茶苦茶なこの空間で、俺は驚愕していた。


 何で驚愕しているかと言えば、目の前にマリアさんが相変わらずの笑顔でそこに立っていたからだ。

 ・・・なんの冗談だよ。


 さっきまで、必死に戦ってたと思ったらこれだ。

 新参の悪魔が現れたり、味方の悪魔が現れたり。

 なんでこう状況がすぐにコロコロ変わるんだ?

 地獄に来てから今まで、こういうことが非常に多い。

 横槍が入ると言うか、なんと言うか・・・


 「ちょ、ちょっと待て。なんでマリアさんがこの悪魔と一緒に?と言うかそれ以前に、マリアさんがなんでここにいるんだ?」


 助けが来るとは思わなかった。

 もし仮に救援が来るならば、それはダゴラスさんかとてっきり思ってたのに。


 「んな!?」


 しかも、それだけじゃなかった。

 マリアさんの後ろから人影が、1つ、2つ、3つ。

 小さい影、もっと小さい影、それなりに大きな影。

 計3つの人影が見えた。


 「お兄ちゃん!」


 そう言って、俺に抱きついてくる1番小さな影。

 俺をお兄ちゃんなんて呼ぶ悪魔。

 そいつ・・・と言うかその子は、ソフィーだった。


 「良かった!やっぱり生きてたんだな!」

 「うん!」

 「ええ、まあ」


 スフィーの隣から声が聞こえた。

 妹の代わりに答えた悪魔。

 それは姉であるスフィーだ。

 小さい影の正体。

 姉妹そろって生き残っていたのだ。


 どうやってあの時抜け出したんだ?とは思ったが、この際それはどうでもいい。

 とりあえず、死んでなくて良かった。

 ・・・本当に良かった。


 「あの時、うまく逃げだせたんだな」

 「・・・すいません」

 「・・・?」

 「貴方を置いて、逃げてしまって」


 申し訳なさそうに、スフィーは目を伏せる。

 心を読める筈の悪魔とは到底思えない態度だ。

 だからこそ、俺は言う。


 「・・・別にいいんだ。そんなこと」


 聞いて目を見開くスフィー。

 俺はコイツらに命を助けられた。

 スフィー達がいなければ、死んでた可能性だってあった筈なのだ。

 そんな命の恩人を責められるか?

 ・・・無理だろ。


 「別にって・・・いいんですか?」

 「いいだろ。本人が言ってるし」


 自分で自分を指差す。


 「逃げてもいいと俺は思うんだよ。俺自身、この地獄では逃げっぱなしだし」

 「・・・逃げてたんですか?」


 あっ。

 そういえば・・・


 「・・・いきなりこんなこと言っても分からないよな・・・」


 今の俺の事情とか、彼女達に話してなかったもんな。

 そういうことを思い出すと、妙な罪悪感が芽生え出す。

 そうだ、命の恩人だとは思いつつも、肝心のことは話していない。

 今回の魔物の戦闘だって、俺が原因だというのに。


 「・・・ごめん」


 言いながら頬をポリポリ掻く。

 そうしたら何故か、クスッと笑われた。

 

 「謝られる側が謝ってどうするんですか」

 「いや、悪いなと思って」

 「何か、貴方ってちょっとおかしいですよね」

 「・・・何で笑うんだよ」

 「いえ、別に大したことじゃないんです」


 言ってることがよく分からん。

 すまなそうにしたかと思えば、急に一転してクスクス笑うし。


 「あらあら、何かいい雰囲気じゃない?」

 「彼も頑張ってたからね。惚れたんじゃない?」

 「ふーん」


 マリアさんとウルファンスが何か話している。

 表情から推察するに、どうでもいいことだろうな。

 だって、いやらしくにやけてるもの。


・・・しかし、この2人は顔見知りか。

 む、でもだぞ、確かセーフハウスでマリアさん自身が言ってたな。

 友好的な関係だと。


 友好という関係性。

 プライベートな友人同士の関係。

 ただ、社会の中で芽生える利害的な側面を持つ友好という意味とも取れる。

 関係を築く存在の立場によって、様々に友好という言葉の意味が変わってくるのだ。

 では、マリアさんとウルファンスの場合はどうか?

 ・・・見た感じ、両方含まれているような気がした。


 と、俺が考えていると、ウルファンスが横からヌッと顔を出してくる。

 どうでもいいが、この女、近くに寄られるだけで肌寒い。

 防寒着を貫く冷たさに、思わずたじろぐ。

 これじゃあますます、雪女っぽい雰囲気に拍車をかけているじゃないか。


 「スフィーも珍しいじゃないの。こんなに親しげに話すなんて」

 「・・・スフィーが?」

 「表面上はいかにも友好的でしょ?でも、意外と他人は信用しないタイプの子なのよ」


 マジでか。

 なら、俺のことも信用はされていなかった?

 初対面で俺に話しかけてきたのは、俺の力がどうしても必要だったから?

 あわよくば、盾にしようとも思ってたのだろうか?


 ・・・考えるのは止めとこう。

 俺も逆の立場であれば、同じことをするかもしれない。

 相手を利用しないという確証が見当たらないのだ。


 人間は裏切りに生きる生き物。

 その認識はちょっとやそっとじゃ変わらない。

 変えられない。


 「ちょっと、お母様!誤解されるようなことを言わないでください!」

 「何が誤解なのよ?」

 「さっきまでお互い命を張ってたんです!そんな説明をしたら、彼が困惑するでしょう!」

 「ハハハ!へえ〜。スフィーちゃんがそんなことを言うとわね」


 凄く意外そうな、そして嬉しそうな反応を見せるウルファンス。

 そんで、スフィーの口から漏れた言葉・・・お母さん。

 つまり・・・


 「貴方が、スフィーとソフィーのお母さん?」

 「あら?まだ気付いてなかったの?この山脈に家族以外の悪魔なんて滅多に入れないわよ」


 ・・・そうだよな。

 スフィーとソフィーは、お世辞にもここで生き残れるような戦闘技術は持ち合わせていない。

 とすれば、誰か擁護してくれる存在がいるだろう。

 それがウルファンスだと、何で俺は推測出来なかったのだろうか?


 そう。

 姉妹達がこの雪山に入れ、尚且つここで生き残れているのは、ウルファンス山脈のボスがバックについているからだ。

 姉妹の会話の端々からも、容易に推測は出来ただろう。


 お母さんがいれば・・・

 そんな言葉の裏にある隠れた意味は、自分の母親に対する強固な信頼だ。

 だから命を賭けたあの状況で、そんなセリフが出た。

 そういうことだろう。


 さて。

 俺はマリアさんに向き直る。

 本来ならここにいない筈の悪魔に。


 「マリアさん」

 「悪いわね、黙ってて」

 「・・・いつからいたんですか」


 一体いつから俺のことを見ていたんだろう?

 結構前から見ていたのは間違いない。

 マリアさんの反応はそれを示している。


 「それじゃあ、逆に質問していい?」

 「・・・ええ」

 「今は、君がダゴラスのセーフハウスから出て行ってから何日目でしょうか?」

 「はい?」


 妙なことを質問するな。

 そんなの答えは決まってるだろ。


 「まだ1日もたってないはずです」

 「んー残念」

 「えっ・・・」

 「うん、当然気付かないわよね」


 ハズレ?

 何で?

 だって・・・

 今までのことを思い返してみる。


 セーフハウスで現状説明。

 雪道をダゴラスさんと歩く。

 そして、洞窟へ。

 ダゴラスさんの失敗で、俺はクレバスの中へ。

 その後気絶し、目の前にいる姉妹に助けられる。


 ・・・むむ。

 そっか。

 俺、1回気絶してるんだもんな。

 うっかり忘れていた。

 落下による怪我がないせいだ。

 能力を使って直してくれたから・・・


 待てよ?

 俺は最初にスフィーに会った時のことを思い出す。

 俺が目覚めるまでにかかった時間。

 それを何の言葉で判断した?


 目覚めた俺が、「俺、どのくらい眠ってたんだ?」と質問。

 その問いに対して、「えーと、大きな崖崩れの音が聞こえたのが今から4時間前ですから、その崖崩れで貴方が落ちたのだったらそのぐらいの時間ですね」と答えた。


 その崖崩れで貴方が落ちたのだったら・・・か。

 俺を見つけたのが、ソフィーだと言ってたな。

 その時点では俺は意識がなかった。

 だからスフィーの言った俺が落ちた時間というのは、あくまで推測でしかない。


 ・・・なるほど。

 そこで齟齬を生んでたのか。


 「正解は何です?」

 「3日後よ」


 3日後か。

 俺がセーフハウスを出て行ってからここまでの期間。

 それは置換すると、俺が洞窟で気絶していた時間でもある。

 目覚めた時、気絶している時間が短いなと思ったのは、そういうことだった・・・のか?

 普通、気絶から立ち直る時間というのはどのくらいなのだろう?

 よく分からない。


 とにかく。

 俺がクレバスから落ちて、スフィー達と出会うまでに3日間かかっている訳だ。


 「当然気付かないってことは、マリアさんは俺が気絶してたことも知っていた?」

 「ええ、そうね」

 「で、助けなかった」

 「その場にはいなかったからね。それにスフィーちゃん達が助けてくれたじゃない」

 「いや、そうですけど・・・じゃあ誰から聞いたんですか」

 「みんなよ。直接聞いた訳じゃないけど」

 「みんな?」


 みんなって・・・みんなか?


 「前に教えたでしょ?悪魔は心を読めるって。特に私の場合は能力のレベルが違うから、みんなの見聞きしたことの情報を読み取るなんて、朝飯前よ」


 ・・・心を読んだのか。

 ああ、それなら理解出来る。

 なにせカウンセラーだった悪魔だもんな。

 しかも魔王専属の。


 「理解が早くていい感じね、この子」

 「でしょう?」


 雪女のような悪魔、ウルファンスが何か俺を褒めてくる。

 ・・・この女悪魔、さっきからこうやって親しげに話しかけてくるが、俺をどうにかしたいとは思わないのだろうか?


 72柱。

 強大な悪魔の1人。

 力が強すぎるってことは、そこまでに至る強い動機があったってことだ。

 強い願い。

 それが、ウルファンスのウルファンスたる強さに繋がっている。

 もはや72柱の立場からして安心出来ない。

 いくらマリアさんが味方って言ったって、本当に信用出来るんだろうか?


 「でも、あんたって本当に・・・」


 流れるようにして話していたウルファンスが突如、口を閉ざした。

 会話の途中でズンッ、と巨大な氷の塊から音が聞こえたからだ。

 厳密には氷の下から。

 その反響音は、違和感がありすぎた。

 まさかとは思うが・・・


 ・・・そのまさかだった。


 「ヴァアアアアアアアアアアッッ!!!!」


 透明で質の高い氷塊の形が不規則に変化する。

 割れはしない。

 その恐ろしい雄叫びは、邪悪種がまだ健在であることを示していた。


 「もう起き上がるの?何か異常に早くない?」


 俺を見るウルファンスの目が、すぐ近くにあった。

 少しの間、その綺麗な瞳孔に目を取られる。

 ・・・これも俺のせいなのだろうか?

 これは異常事態?


 「私はもう助けに入らないわよ。人間と娘の安全を確保出来ればそれで十分だし」


 横でウルファンスがそう言うと、片腕に自分の娘2人を抱き寄せて。

 もう一方の片腕に俺を抱きながら、無言で能力を発動した。


 地面から分厚い氷の壁が、通路の端から端まで分断するように出現する。

 俺、スフィー、ソフィー、ウルファンスが出口に繋がる向こう側へ。

 反対側にはマリアさんが取り残された。

 透明すぎる氷壁越しの彼女は、ちっとも動揺していなかった。


 「分かってると思うけど、一応安全確保の為だからね」

 「心を読むまでもなく分かってるから、大丈夫よ。賢い貴方は逃げたりなんかしないでしょう?」

 「・・・ええ」


 隠れた威圧感が両者間を行き交う。

 味方・・・の筈だよな?

 お互いにプレッシャーを放っていることは、本人達も分かってる感じではあるが・・・


 「ヴァアアアアアアアアッツ!!!!」


 巨大な氷塊は面積を徐々に減らしていく。

 そうして出来た形は、体を潰される前と寸分たがわない邪悪種の姿だった。


 「マリアさん!!後ろ!!」


 邪悪種が走り出す。

 目標は・・・マリアさんただ1人。


 「ちょっ、助けろよ!お前、強いんだろ!?」

 「そりゃ強いわよ。一桁台の72柱とかには負けるけど」

 「いいから・・・」


 そこで口を手で優しく塞がれる。

 その肌は異様に冷えていた。


 「まあ見てなさいって」


 そうこうしている間にも、事態は進行していく。

 パキパキと怪物の腹から、氷の突起物が出てきていた次の

 それは獣の頭部を模しているようだった。

 氷なのに口を大きく開けながら、その獰猛さを示す凶悪な牙を見せつける。

 獣の頭部はマリアさんをズタズタにしようと、一気に首を伸ばした。


 まさに一瞬。

 邪悪種の動作は、通常の魔物の領域を大幅に超えていた。

 幾分か俺の感覚は強化したはずだ。

 なのに全く姿を捉えられなかった。

 俺が邪悪種を目に入れた次の瞬間には、マリアさんが左右から口を挟まれる寸前。

 もう助けられないと、思わず思ってしまった。


 「マリアさん!!」

 「あの女なら心配ないわよ」


 呑気に隣で呟くウルファンス。

 その言葉にイラッとしたのだが、実際にその通りだった。


 マリアさんは獣を模した腹部に噛まれる寸前、睨みつける。

 特別何をしたわけじゃない。

 そこに突っ立って睨らんだだけだ。

 ただそれだけで。

 それだけで、邪悪種の動きは止まってしまった。


 ソイツだけ時が止まったような。

 そんな様子。

 が、それでも時間が止まっていないことは見て分かる。


 邪悪種はしっかり呼吸しているし、微妙に手を上下に動かしている。

 ただ、マリアさんへの攻撃は完璧にストップしていた。

 これは・・・


 「洗・・・脳?」

 「マリアから聞いてるわよ~。何回も見てるんでしょ?」

 「・・・ああ」


 カウンセラー。

 つまり、心を扱うスペシャリスト。

 邪悪種に心の概念なんてないかと思ってたが・・・


 「ウルファンス。コイツ、また動かないようにしっかり凍らしてちょうだい」


 マリアさんがこちらへ歩いてくる。

 邪悪種は動かない。

 完全に止まってしまった。


 洗脳で攻撃を停止させた?

 けど、そこまで理不尽に相手を操れるのか・・・

 止まった怪物の様子を見て、純粋に恐ろしいと思った。


 「・・・凍らすより、今ここで殺したらいいじゃないか」


 当然の疑問だ。

 何故、今ここで殺せるのに殺さない?

 おかしいじゃないか。


 「殺せたら殺してるわよ」

 「・・・殺せないのか?」

 「基本的に、邪悪種は死なないのよ」

 「生命力が半端ないとか?」

 「そんなことじゃなくて、本当に死なないの」


 嘘だろ?

 死なないとか、反則じゃないか。


 「大なり小なり、自然と同化出来るレベルにまで魔物が成長したら、もう半端な方法では殺せない。サタンのガキと、マモン、レヴィアタンが魔物討伐に積極的なのも邪悪種を増やしたくないからよ」

 「誰にも殺せないのか」

 「殺せるけど、それを出来るのは72柱ぐらい。ちなみに私は殺せない。相性の関係でね」


 話しながら、分厚い氷壁の傍へウルファンスは寄っていく。

 そこでピタリと止まって、地面に手を付けた。


 ピキピキと向こうにいる怪物に氷が張り付いていく。

 厳重に、厳重に。

 何層にも折りたたむような要領で纏わりつかせて、透明なはずのその氷の向こう側を不可視にする程高密度に発生させた。

 あっという間に邪悪種は、即席の超高密度の氷へ閉じ込められた。


 「下手な氷で閉じ込めると、コイツに同化されちゃうわよ。無詠唱の適当な氷結能力を使わないで」


 マリアさんの言葉に、はいはいと手を振る。

 そんなこと分かっているといった風に。


 さらに両手を再度、地面に置く。

 深呼吸をした後、静かで綺麗なと言えばいいのだろうか?

 そんな新しい表情で、ウルファンスは言った。


 「主の氷よ(イズ・ドミナス)


 怪物を包んでいた氷に、更なる物体が覆う。

 それはそのまま氷と呼ぶには、あまりに格が違った。

 その物体自体に生気を感じる。

 異質。

 そんな表現が適当だろう。


 見た目自体はそんなに変わらない。

 だが、見た目に反して異質なことは分かる。

 それはヴァネールの炎、その性質に少し似ている気がする。

 まるで生きているかのように、邪悪種を閉じ込めている氷はもう対象の凍結を終えていた。


 ドミナス級チャント。

 最上級の能力付加。

 これが・・・か。


 「はい、終わり」


 呆気なく終わってしまった。

 普通の軽作業を終えたノリで。

 俺が魔物に苦戦していたってのに。


 多分、邪悪種自体はとてつもなく強いと思う。

 コイツがそんなに時間をかけずにこんな有様になったのは、ウルファンスが強すぎるからだ。

 彼女が味方で本当によかった・・・


 「氷、退かしなさいよ」


 マリアさんがコンコンと氷壁を叩く。

 そっか。

 洗脳はあくまで精神を操る能力。

 きっとマリアさんは、それに特化しているのだろう。

 なら恐らく、物理依存の攻撃方法に強力な手段がなくてもおかしくない。

 ・・・てかさっさと出してやれよ。


 「出力制限しても、ドミナス使うと疲れるの!そっちに壁を壊せる奴がいるんだから、任せるか操るかすればいいじゃない」


 壁を壊せる奴?

 っていうと・・・

 向こうにはマリアさんしかいない・・・訳ではなかった。


 いたじゃないか。

 影が3つ。

 後ろに隠れていて姿が見えなかったが、もう1人。

 そう思い出した直後。


 「はあ・・・もう敵はいないから、こっち来てこれ壊してちょうだい」


 仕方なそうに、こっちから見て死角があるスペースに言う。

 そこから出てきたのは、女の悪魔だった。


 肌は白く、マリアさんのように肌が浅黒く無い。

 ピンク色のロングヘアーで、髪はポニーテールで纏めている。

 まだ少女のような面影が残ったような、整った顔だ。


 背もあまり高くなく、人間で言えば中学生みたいな悪魔。

 だが、角はちゃんと2本付いていて、高級感たっぷりの銀色に輝く鎧を着用していた。

 重厚感タップリな鎧なんかを中学生のような体格をした悪魔が着ているものだから、ギャップがとりあえず凄いことになっている。

 見た目から騎士っぽい感じがするが、警備か何かでもやっているのだろうか?

 と、最初見た時は思ってたな。


 「はい」


 女の悪魔は前方へ一瞬でダッシュすると、なんの変哲も無い長剣で、氷壁を十字に斬りつける。


 「ハッ!!」


 気合を入れて蹴りを入れる。

 氷壁はガラガラと崩れ去った。


 「お前」


 俺はここで起きるまでに数日間たっている。

 なら、アイツがここにいても何もおかしくなかった。


 嬉しい。

 純粋に。

 この地獄でうれしい出来事なんて、そんなにない。


 「・・・随分目つきが変わりましたね」


 氷壁の瓦礫を踏み越える者。

 その小さき体。


 ララ・シーメールが、俺を真っすぐに捉えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。