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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第2章 地獄篇 ラース領辺境
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9話 悪魔の生活1~目覚め~

 

 夢を見ている。

 俺が光になって宇宙に行く夢。

 とても気持ちいい夢だ。

 ずっと見ていたい夢。

 なのに。


 バフン、バフン。


 夢から現実へ強制的に引き戻される不快な衝撃が俺を襲った。


 ・・・


 おっ重い。


 下腹部に圧迫を感じる。

 なんだこの重みは・・・

 しかも、ただ重いんじゃなく痛い。

 断続的にお腹に衝撃が走り、軽くなったり重くなったりしている。

 バフン、バフン、と布団が衝撃を吸収している音がして、その度に俺のお腹にも衝撃が伝わっていく。

 

 痛いっ!止めてくれ・・・こんな朝っぱらから。

 そう、朝だ。

 目をきつく閉じていても、まぶたの内側から日光がうっすらと差してしまっている。

 どうやらカーテンは開けられてしまったらしい。


 もう起きる時刻だ。

 起きなければいけない・・・

 それは分かる。

 分かるんだが・・・


 眠い。

 重いし痛いが、何より眠い。

 どんな外部からの刺激よりも、睡眠欲を満たそうとする俺の怠惰っぷりの方が勝っていたのだ。


 だから。

 だから俺は眠いので、この衝撃を我慢しながら目を閉じることにした。

 と、いい気になって眠りこけようとしたら、予想外なカウンターを耳元でもらったのであった。


 「お兄ちゃん!!起きろーーー!あっさだぞーー!!」


 ・・・鼓膜が破れるかと思った。


 


---




 本日、悪魔少年であるスー君のクソでかい叫び声で俺は目を覚ました。

 最初に目が覚めたあの子供部屋で。

 ベットが3人分以外この家には無いということで、スー君と添い寝する形で寝たのだ。


 それにしても、子供というのはどうしてこんなに朝から元気なんだろうか・・・

 なんでこんな朝っぱらからはしゃぎ回れるのか分からない。

 眠くないのかよ・・・


 逆に、俺は朝は弱い方だったようだ。

 眠くて眠くてたまらん。

 すっかり熟睡してしまっていたみたいだ。

 夢を見ていた割にはな。


 でも、こんな安心して俺が眠れたのは、ダゴラスさん達に会えたからだろう。

 ダゴラスさん達が、地獄に住む悪魔について教えてくれたからこそ、俺は偏見なく地獄の朝を迎えられたのだ。

 逆にダゴラスさん達に会えていなかったら、ビクビクしながら地獄を彷徨っていたかもしれない。

 本当に会えてよかったよ。


 そんなことを深々と思いながら、昨日夕食を食べながら話をした部屋に行く。

 子供部屋を出て廊下を渡る。

 廊下は冷え切ったように寒かった。

 

 廊下を奥まで行くと、ジュウジュウと音を立てながら魅惑的な匂いを漂わせている1つの部屋を発見。

 匂いにつられるように部屋に入った。

 すると部屋の中で、マリアさんが食事を作っていた。

 フライパンらしき物を持って、料理を炒めている最中だ。

 

 「あら、二人共おはよう!」

 

 マリアさんはスー君に負けず劣らずの快活さで俺達に挨拶してくる。

 息子が元気なら母親も元気だ。


 「おはようございます」

 「おはよーママ!」


 二人同時に挨拶したところで、部屋の中央にある席に着く。

 となりにはスー君が着席。

 ここはキッチンと居間がつながっているタイプの部屋で、料理をしているマリアさんがここからでもよく見える。

 キッチンとは反対側の奥には暖炉があり、廊下から侵入してくる冷気をこれでもかと迎撃している。

 さらに、キッチンからも熱気を発しているためこの部屋はとても暖かかった。


 昨日寝る前に、ダゴラスさん達からこの家間取りについて、説明を俺は受けている。


 聞いた限りじゃあ、一般的な一軒家と変わらないらしい。

 部屋の数は少ないが、1つ1つの部屋の広さを大きくとっているらしいので、のびのびと暮らせるんだそうだ。

 昨日俺は、子供部屋と廊下、そしてこの部屋にしか来ていないから、この家がどんな構造をしているのかよく分かっていない。

 それでも俺はここがとてもいい家だと思う。

 

 やはり、ここに住んでいる人・・・じゃなかったな、悪魔がとても素晴らしいからだ。

 優しくて美人な奥さんに、逞しい夫のダゴラスさん、そして無邪気で元気なスー君。

 みんないい悪魔達だ。


 良い家には良い住人が住む。

 良い住人がそこをいい家に作り変えるからだ。

 まさにそれを体現してると思う。


 「おはよう!!」

 

 俺が感慨にふけっていると、また声が聞こえてきた。

 大きな声で部屋に入ってきたのはダゴラスさんだ。

 上半身裸で、パンツ一丁の姿。

 上半身の筋肉が凄まじい。

 頭はボサボサで、豪快な寝癖が付いている。

 2本の長い角に髪がくっついて、大層変なことになっていた。

 まるで鬼みたいだ。


 そんな彼が、マリアさんに近づいて挨拶したかと思うといきなりキスをした。

 マリアさんは嫌がる素振りもせず、むしろ嬉しそうにキスを受ける。

 ディープキス。

 そのキスは結構長かった。


 ・・・お熱いね。

 まるでそこらへんにいるような仲のいいカップルみたいだ。

 いや、夫婦ではあるのだが・・・


 二人のキスを見ていると胸が痛い。

 喜ばしいことのはずなのに。

 なぜかそこのシーンだけ距離が段違いに二人と離れてしまった気がする。

 俺だけ遠いところで見ているような。

 

 嫉妬しているわけではない。

 それは決してない。

 断言する。


 でも・・・

 なんだろうか?

 もしかして、俺の生前はこういうことでなにかトラブルがあったりするだろうか?

 ・・・分からん。


 分からなくて当然だった。

 記憶がないのにどうやって分かれと言うのか。


 でもまあ・・・悪魔もああやって愛し合うのか・・・

 口づけをする二人を横目で見ながら思う。

 やっぱり悪魔のアレも人間と同じような感じなんかね。


 ・・・子供の前でゲスイ想像は止めておこう。

 スー君を見て、俺はそう思った。

 

 「お兄ちゃん。これ、フォークとスプーン置いとくよ!」


 見るとスー君は、テーブルに置いてあった食器類を丁寧に並べ終えていた。

 俺の分も合わせて4人分。

 後はマリアさんの料理待ちだった。

 

 「料理が出来るまで暇だねー」とかスー君は言っている。

 同感。

 俺も暇だ。

 何か手伝おうにも、周りを見る限りやることはもう残されていそうにない。

 俺が行っても邪魔なだけだろう。


 テーブルでの待ち時間。

 俺はふと思う。

 朝食を食べた後はどうするんだ?

 もちろんみんな予定があるだろう。

 ・・・聞いてみるか?

 

 「スー君は料理食べ終わったら何するんだ?」

 「僕、すぐに学校に行かなきゃダメなんだよ。遅刻すると先生に注意されるんだ」

 

 ちょっと驚く。

 学校に行っているのか。

 いや、昨日の話を思い出すとそんなに不思議なことではないな。

 それにしても本当にやってることは現世とあんまり変わらないな、ここは。


 「お父さんとお母さんはこのあと何するのか分かるのか?」

 「うーん・・・学校に行ってる時は僕、家にいないから分かんないけど、帰って来る時はママがいるよ!」

 「お父さんは分かるか?」

 「多分ダーはお仕事じゃないの?」


 だよな・・・

 妻は家事で、夫は仕事だよな、普通は。


 それじゃあ・・・

 俺はどうする?

 俺の予定。

 正直なことを言うと、考えてなかった。

 のんきなことに、俺は現状で満足していたのだ。

 このほのぼのとした雰囲気に飲まれて。


 だが、忘れてはいない。

 そう。

 俺はそもそも何をするために地獄に来た?ってことだ。

 

 それはもちろん、この状況から抜け出すためだろう。

 スティーラに教えてもらったことだ。

 それじゃあそのためには何をすればいいか?

 

 門だ。

 俺は門を探さなければいけないのだ。

 昨日の会話では主に悪魔のことについて聞かされた。

 とりあえず、現状は安心だと。


 俺はその次のことをすっかり忘れていたのだ。

 そもそも、この陸地の近くの海に落ちて来た理由は、そういうことだったろうに・・・

 自分のアホっぽさには呆れるばかりだ。

 ただでさえ記憶喪失なのに、そこからさらに忘れてしまうとは・・・

 いくら忘れれば気が済むのだろう・・・


 「おまたせ!今日の朝食はスカランジボのスープに、カロリア肉の炒めもの、それにホロサラダよ」

 

 朝から悲観に暮れていると、料理が運ばれてきた。

 いい匂いだ。

 いい匂いは嫌な気持ちを追い払ってくれる。

 食欲が頭を支配し始めるからだ。

 いいね、美味しそうな料理っていうのは。


 でも、聞きなれない食材の名前が聞こえたのはちょっと気になる。

 スカランジボ?ホロ?なんだそれは。

 地獄特有の食材か?

 悪魔がいるのだから、現世とはまた違った動物がいそうではあるが・・・

 昨日食べた料理も、そんな食材が使われていたのだろうか?

 見た目は普通の肉とかだったが。


 「よし。食うぞ!」

 

 いつの間にかマリアさんと、ダゴラスさんは席についていた。

 みんなダゴラスさんの号令を聞いた後、思い思いに大皿に入った食材を自分の皿に盛って食べている。

 これぞ家族の食事。


 そして思った。

 聞くなら今しかない。

 食べ終えたらみんな用事に取り掛かるだろう。

 だから、みんな揃っているここで話すべきだ。


 「ダゴラスさん」

 「おっ、なんだ?」

 

 ダゴラスさんは、サラダを口に含んだまま喋った。

 咀嚼した食べ物が見えている。

 汚いなあ・・・


 「突然なんですけど・・・聞いていいですか?」

 「ああ、いいぞ」

 

 口から食べ物が若干飛んでくる。

 さらに汚い・・・

 いや、気にはするまい。

 俺は話を続ける。


 「地獄の門って分かりますか?」


 我ながらヘタな質問の仕方だった・・・

 もう少し言い様があったろうに。

 

 「モン?どのモンだ?三つ目兎のモンか?」


 そんなものまでいるのか、この地獄は。

 ややこしくてめんどくさいな。


 「いや、正門だとか、門柱だとかの方の門です」

 「あー!そっちの門か。知ってるぞ!そりゃあ家の玄関にもあるし」

 「その門なんですけど、そうじゃないっていうか・・・なんて言うかな」


 うまい言葉が口から出てこない。

 頭のいい人ならこういう時なんて言うのだろうか。


 「それは家にある門とは違うものなの?」

 

 マリアさんが助け舟を出すかのように口を挟む。

 ありがたいです、マリアさん。


 「そうなんですけど・・・なんていうか、天国に行くための門らしいんです」

 「天国への門?」

 「俺、それを探しに地獄に来たみたいなんです」

 「来たみたいって、誰かにやらされてるみたいじゃない。それじゃあ」

 「そう・・・なんですかね?」

 「?」


 聞いてどうする俺!

 そんなん疑問で返されるに決まってるだろうが、俺!


 「説明が難しいんですけど・・・門に行かなきゃ俺が食べられるって聞いてて、それで食べられないようにするためには、地獄にある門を潜らなきゃならないって言われたんです」

 「お兄ちゃんが食べられるって・・・何に?」

 

 スー君が無邪気な顔で聞いてくる。

 悪いが、俺にもよく分からないんだよ、スー君。


 「とても恐ろしい者って言ってたんだけど・・・知ってますかね?」

 「・・・」

 

 一同沈黙。

 そりゃそうだろ。

 こんな容量負えない質問じゃあ。

 これは俺の話し方がダメだったね。


 「とりあえず、天国に行かなきゃダメなんですけど、それに通じる門が地獄のどこかにあるらしいんです」

 「行くのか?そこに」

 

 ダゴラスさんが聞く。

 

 「行きたいんですけど・・・場所が分からないんです」


 そう。

 場所が分からない。

 分からないから聞いたのだ。

 けど・・・これは・・・


 「悪いな。俺達にはよく分からない。その天国への門?ってやつも」


 そうだろうな。

 聞いてる途中で何となく分かった。

 ダゴラスさん達は知らないだろうな、と。


 「天国があるのは分かるんだ。けど、分かるだけで後は何も知らないんだよ」

 「・・・天国ってどんな場所か知っているんですか?」


 一応聞いてみる。

 自分の目的地のことを。


 「天使の世界、隔絶された行き来不可能な場所、とだけは悪魔に伝わってるな。学校でみんな習うことだ。多分だが、他の連中もこのくらいのことしか知らんだろう」

 

 聞いて歩き回るのは絶望的ってことか・・・

 というか行き来不可能って・・・


 「天国には行けないんですか?」

 「いや、そう悪魔に伝えられてるだけだ。本当のことは知らないな」


 希望が見えてきたと思ったらこれか。

 世の中やっぱそうは上手くいかないか・・・

 でもどうする。

 聞くのが無理なら自分の足で探すしかないのか?

 

 俺が空から落ちてくる時に見た、広大な光景を思い出す。

 ・・・いつまでかかるか想像もつかなかった。

 絶望だ。

 どうすりゃいいんだよ。


 ・・・ん?

 ちょっとまてよ。

 映画館では人間は地獄に絶対落ちるとか聞いたな、確か。

 じゃあ他の地獄に落ちた連中はどうしてるんだ?

 んん?

 さらに疑問が浮かぶ。

 ダゴラスさんはここでは、人間は珍しいとか言っていた。

 ・・・これって。


 「人間って地獄では珍しいんですか?」

 「ん?そうだな。殆どいないよ。俺は50年前に1人見たっきりだな」


 ・・・ダゴラスさんってそんなに歳なのか。

 それにしては外見は青年のように若い。

 悪魔の寿命は長いのかもしれない。

 まあ、今はそれは置いておこう。

 それよりも今、ダゴラスさんから気になることを聞けた。


 矛盾だ。

 矛盾しているのだ。

 だって考えてもみろ。

 地獄に全員落ちているなら、もっとダゴラスさんは人間に会っててもいいんじゃないか?

 

 現世じゃあ毎日毎年とんでもない数の人間が世界規模で死んでいる。

 多分億単位で。

 その数だけ地獄に人間が落とされてる。

 なら会わないはずはないのだ。

 地獄がよっぽど広くない限りは。

 

 「地獄ってどのくらいの広さなんですか?」

 「次から次へと質問が変わるなあ。まあいいんだが。えーと、多分だが大雑把に言うなら・・・そうだな。お前さんの世界、現世だが・・・それと規模は変わらないと思うぞ。前に仕事で行った時、そう事前に習わされたからな」


 地球と同じくらいか・・・

 広い。

 広いは広いがそこまでじゃあない。

 だって地球ぐらいの大きさなら、現世の死者数から考えてダゴラスさんの発見者数は異常に少ない。

 矛盾しているのだ。

 

 矛盾の原因はなにか?

 俺の考える限り2つだ。


 ・・・スティーラが嘘を付いているか。

 他にもっと俺の知らない世界の常識、ルールがあるか。

 それ以外に俺は何も思いつかん。


 でもなあ・・・

 どちらにしても、結論は分からないままじゃないかよ・・・

 手詰まりだ。

 どうしようもない。


 ついつい俺はそんなことを思って、自分で自己完結させてしまっていた。

 諦めにも似た感情が俺の心を侵略していく。

 この地獄に元々住んでいた悪魔が門のことを知らないのなら、俺が歩いて探しても絶望的だろうし・・・

 

 「ねえ・・・どうしたのお兄ちゃん」


 考え込んでいる俺を見て心配したようだ。

 子供にも心配されるとは。

 やっぱりネガティブはダメだな。

 せめて態度は明るくしなければ。

 ダゴラスさん達に無用な負担はかけさせたくない。


 「ハハ・・・どうしましょうね?」

 

 これが精一杯だった。

 どうしようね、ホント。

 困ったように、ダゴラスさんの方に顔を向ける。


 そんな俺をダゴラスさんは見ると、考えたように顎に手を当て、こんなことを言い出した。

 意外な言葉。

 進展のきっかけとなる言葉を。

 

 「俺達は分からないが・・・知ってそうな悪魔を紹介することはできるぞ」

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