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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第5章 地獄篇 グリード領ウルファンス山脈
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85話 休息と会話

 あれから俺逹は、睡眠を取ることになった。

 猛吹雪の中をダゴラスさんのペースで歩いていたので、体がクタクタだったからだ。

 魔物が元々出るようなルートを通るのだ。

 俺がいたら、さらに魔物が出るだろう。

 なるべく体力は取り戻しておくべきだ。


 ・・・唯一残ったルートの入口。

 魔物がいるその通路の入口には、結界が施されていた。

 結構強い結界で、2段階目のチャントが付加されている。

 設置したのはあの小さな妹さんらしく、サポート系の能力に長けていると、彼女は言っていた。


 俺逹がいるこの空間に魔物が入ってくることもないし、ゆっくり休める。

 それからでも別に遅くないだろうということだった。


 ダゴラスさんを心配する必要はない。

 彼は彼で大丈夫だろう。

 今は自分の心配だ。


 今回通るルートは、一旦洞窟の奥深くへ迂回して、地表へ戻る形らしい。

 洞窟の奥。

 そこに魔物が徘徊する箇所がある。


 地表に出現する魔物は基本、洞窟にいるような魔物よりも弱い。

 そもそも、魔物というのは力のある悪魔以外に姿を見せることは少ない。

 普段は悪魔の目が届かない洞窟などに潜んでいる。

 洞窟の外を徘徊している魔物は、洞窟の力関係に弾かれた個体だ。


 確かに、洞窟に出現した凍りつく器の捕食者(アイスイーター)は強かった。

 それと同等か、さらに上の実力を持った魔物が洞窟にいるらしい。

 ・・・彼女の実力の程は分からないが、少なくとも俺の手には負えそうもない。

 基本、逃げのスタイルになるだろう。


 隠れて潜む。

 それが洞窟での行動の基本。

 こっちには小さな悪魔の子供がいる。

 しかも女の子。

 危険なことは避けるべきだ。

 彼女と意見が速攻で一致して、そこはすぐに決まった。


 隠密行動はラース街での花畑以来だ。

 うまく出来るかはまだ予想が付かない。

 地形にもよるだろう。


 もし俺がミスしてしまったら、魔物と戦うか、逃げるか・・・

 いずれもリスクを負うことになる、危険なルートだ。

 ここのところ、本当にトラブル続きだ。

 今回こそは何も起きないでほしい。


 「なあ」

 「何です?」

 「どうしてこんな所に住んでるんだ?」


 就寝前。

 妹さんが寝静まった頃合いに、少し彼女と話してみたいと思った。


 普通に会話の出来る悪魔というのは貴重だ。

 大概の悪魔は俺の敵という認識だから。

 だからこそ、なんで悪魔達の生活圏を離れて、魔物が出没するような危険地帯に住むのか気になった。

 ・・・普通の疑問だろ?


 「雪山には私達のお母様がいるということは言いましたっけ?」

 「言ってたな」

 「私と妹は、お母様に従ってついてきただけです」


 そうなのか。

 特に深い理由がある訳じゃない・・・のか?


 「じゃあ、なんでその母親はここに住んでるんだよ?」

 「・・・目的があるからです」

 「目的?」

 「・・・悪魔という種族は、みんな長寿なのはご存知ですか?」


 急に話のベクトルが変わったな。

 ・・・別にいいけども。


 「知ってる。人間よりだいぶ長生きなんだろ?」

 「そうです。そしてその長く生きている分だけ、自分の力や知識、能力の技術に磨きをかけられます」


 単純に考えればそうだろうな。

 実際には周りの環境なんかにも影響されそうだけど。


 「ですが、今の世に存命している強大な悪魔と呼ばれる者は、殆どいません。人間の寿命よりもだいぶ長いのに」


 似たような話、聞いたことある気がする。

 誰からだっけ?


 「長い時を生きても、力の向上が見られない悪魔が急増しています。何故だか分かりますか?」

 「・・・この世界に争いがないから?」

 「その通りです」


 敵の力が自分より大きい場合、それを埋めるのは努力か才能に他ならない。

 競わなければいけないなら、越えようとするのが生物の性だ。


 この地獄で戦う機会があるのは精々が魔物とか、害獣くらいだ。

 そもそもそういう戦う機会というのは本来地獄では少ない。

 当然、実力者だって少なくなってくる。


 「別に戦わなくてもいいんです。能力というのは、他にも使い道が山ほどありますから」

 「だよな」


 それどころか、能力は悪魔の社会の基盤だ。

 地獄で生きていく上で、なくてはならない技能なのだ。


 「けど、それでも上を目指そうという意識は一般の悪魔逹には芽生えません。目的意識をしっかり持ってないと、力は向上しないんです」


 ああ・・・

 それなら人間だって同じだ。

 目的がないと、向上させたくても向上出来ない。

 それは全ての人間に言えることだ。


 「聞いた話だと、今の時点で悪魔社会って完成してるっぽいからなぁ。これ以上技術を習得したいっと言ったら、よっぽど強い目的を持ってないと・・・」

 「その強い目的を持っているのが、私達のお母様です」


 妹さんの頭を撫でながら、そう話す彼女。

 ムニャムニャと顔を歪ませて、小さなデビルキッズは気持ちよさそうに寝ている。

 まだ小さいのに、こんなゴツゴツした場所で寝れるって・・・結構逞しいな。

 いや、お姉さんがついているからか、それともこの子が悪魔だからか・・・


 「じゃあ、その母親は強かったりするのか?」

 「ええ、私達姉妹が魔物の潜む厳しい環境に住めるのも、お母様のおかげですから」

 「へえ」


 彼女のお母様とやらは凄いらしい。

 一体どんな悪魔なのかは気になるが・・・


 「そんなに凄いなら、それに見合ったでかい目的なんだろうな」

 「・・・どうなんでしょうね?」

 「ん、知らないのか?」

 「残念ながら・・・」


 親子の関係とは、必然的に複雑なものだ。

 悪魔の間ではないだろうが、人間は隠し事だってする。

 血が繋がっているからといって、信頼関係が築かれているとは限らない。

 むしろ切れない関係性だからこそ険悪になることもある。


 悪魔も色々なタイプがいるとことは俺も知っている。

 下手に踏み込めるような領域ではないだろう。

 ・・・質問を変えよう。


 「それにしても、よくこんな寒い山で過ごせるよな。凍えないか?」

 「私の家族は、みんな氷の能力を扱います。その系統の能力を使っていると、徐々にですが耐性がついてくるんですよ」

 「・・・だから寒さに強い?」

 「ええ」


 そうなのか。

 だったら、炎を扱っていたヴァネールなんかも火に対する耐性があったのかもしれない。

 全然火傷とかしてる感じじゃなかったし。


 「寒さはよくても、ここに住んでる魔物はどうしてるんだよ?」

 「雪山で契約をした魔物を使って、護衛をさせているんです」

 「契約?」


 なんだそりゃ?

 魔物と契約の言葉がセットで聞けるとは思わなかった。

 かなりミスマッチな言葉の組み合わせだな・・・


 「・・・召喚転移は知っていますか?」

 「えっと、それなら知ってる」

 「召喚転移を知っていて、契約を知らないのですか?」


 んなこと言ったってな・・・

 知らないものは知らないんだ。

 地獄で契約なんて言葉、初めて聞いたし。


 「召喚転移は転移を使ってエネルギーの媒体主側へ物体や生物を呼ぶことを言うでしょう?」

 「ああ」

 「では、召喚で呼ぶものが魔物であった場合、呼び出した瞬間に問題が起きます。それは何でしょうか?」


 むむ。

 なんか問題を出題するが如く聞いてきた。


 召喚転移か。

 呼び出した瞬間に起こる問題。

 すぐに検討がついた。


 召喚自体は何回か見ている。

 召喚王が空中要塞で大量に魔物を召喚したあの時。

 魔物が空中要塞内部をかなりの数、押し寄せてきていた。


 あれは元々、俺を助けるために召喚された魔物だ。

 なのに、その張本人に向かって攻撃を仕掛けてきた。

 ・・・矛盾だ。

 助ける為に呼んだ魔物が、何故俺を襲う?

 ・・・俺が考えるに、多分あれは魔物を制御出来ていなかったのだ。


 「呼び出した途端に暴走するから」

 「正解です」


 合ってた。

 普通に考えれば分かることではあるが、ちょっと嬉しい。


 「魔物・・・能力を扱う生物のことですが、彼らは例外なく凶暴です。本来家畜化させたり使役させたりすることは出来ません」

 「本来か・・・」


 マリアさんは、あの巨大な黒いドラゴンを自由に動かしていた。

 マリアさんの使う能力は分かってる。

 テレパシーの能力だ。

 その延長線上にある、心を操る能力。

 つまり、本来の中に含まれない方法。


 「ですが、召喚した直後に敵味方区別なく襲うのなら、戦闘には流用出来ません」

 「でも、方法はあるんだろ?」

 「もちろん」


 しっかりと頷く彼女。

 もしかしたら説明好きなのかもしれない。


 「まあ、いくつか方法はあるのですが・・・スタンダードな方法としては、屈服という方法がありますね」

 「屈服?・・・魔物をか?」

 「はい」


 さっきと言ってることが違うじゃないか。

 使役させたり出来ないって言ってたじゃなかったっけ?


 「魔物は厳密に言うと、調教自体は出来ます。けど、それが出来る悪魔というのはそうそういません」

 「やっぱり、魔物を従わせるのは難しいのか」

 「成長しきった魔物を調教するのは無理がありますから、魔物が子供の時に教え込む必要があります」


 それ、すごい手間がかかるな。

 成長しきるまで、きっとすごく長く時間がかかるだろう。

 実用に至るまでどのくらいだ?


 「しかも、育てる側に実力がなければすぐに魔物は主を殺そうとしてきます。魔物には懐くという概念がないんです」

 「だよなぁ・・・あんなに凶暴だもんな」

 「飼育にも手間がかかりますし、完璧に従うような魔物は稀です。魔物をうまく運用出来る場も限られていますし・・・型にはまれば有用ではあるんですけどね」


 話を聞いてると、デメリットしかないような気がする。

 これがスタンダードな方法か・・・


 「使ってる奴はいるんだろ?その方法」

 「当然います。これが、1番安定して魔物を戦闘に流用出来る方法ですから」


 確か、召喚王以外にも魔物を扱ってた奴がいたな。

 ・・・魔王。


 空中要塞で見た時は、空駆ける聖馬(ユニコーン)を従えていた。

 恐らくあれは魔物じゃないが、それでも力は強かった。

 銀騎士バルバトスの攻撃で魔王は気絶したのに、結局ペガサスはそのまま戦っていた。

 つまり、主よりもしもべの方が強かった訳だ。


 それでも、ペガサスは魔王の言うことを聞いていた。

 空中要塞内で暴れていた魔物とは大違い。

 何故、暴走しないのか?

 ずっと考えていたが、まあそういうことだったんだな。


 「じゃあ、他には何があるんだ?」

 「えー・・・結界囲いと呼ばれる方法がありますね。結界って知ってますか?」

 「あそこに張ってある、薄いガラスみたいなやつだろ?」


 俺はすぐ側に張ってある結界を指差す。

 ガラスみたいに透明で薄いくせに、防弾ガラス以上の強度を保てる奇跡の壁を。


 「ええ。その結界を使って、魔物と敵対している対象を一緒に閉じ込めるんです」

 「・・・なるほど」


 それなら敵と魔物だけになる。

 そこで好きなだけ魔物を暴走させてしまえばいい。

 簡単に言えば、即席の決闘場みたいなものだろう。

 ただ・・・


 「欠点もありますけどね」

 「魔物か敵が結界を破っちゃえば、駄目だな」

 「ですね。だから自分の結界を破れる実力以上の力を持った魔物は呼び出せません。敵だって黙ってないでしょうから、結界を破ろうとしてくるでしょう」


 だから格上相手の敵には、まるで使えない戦法だ。

 自分より下か、同等の敵しか有効じゃない。

 しかも、転移はエネルギーを大きく消費する。

 魔石1個分だ。

 ・・・召喚して魔物を結界内で暴れさせるより、もっと有効な戦法がゴロゴロ転がっている。


 「・・・きっと結界囲い、使ってる奴いないんだろうな」

 「・・・使ったとしても、様子見とかですからね」


 だろうな。

 そんなことしてたら、エネルギーの無駄にも程がある。


「前にマリアさんって悪魔がでかいドラゴンを操ってたのを見たけど・・・今話した方法とは違うよな」

「ですね。マリア・ガープと言えば・・・ラースの魔王、その側近の1人だった方ですね」


 だったか・・・

 やっぱ過去形なんだな。


 「マリアさんの方も有名らしいな」

 「知らない方は殆どいらっしゃらないと思いますが・・・」


 そっか。

 魔王のカウンセラーは伊達じゃないな。


 「恐らく、それが今話そうと思っていた3つ目の方法・・・洗脳ですね」


 やっぱり洗脳か。

 大体予想通りだ。

 マリアさんの十八番、心を操る能力。


 召喚王は転移を使って魔物を召喚することに長けている。

 だが、それは呼び出すだけの技能に留まる。

 魔物を操れるかどうかとは、まるっきり話が別だ。


 今言っていた方法で制御してもいいんだろうが、召喚王の戦いのスタイルからして有用とは言えないだろう。

 そんな召喚王にとって、1番手っ取り早い方法。

 それが、魔物の心を直接操る方法だったんだろう。


 自分1人では困難な方法だろうが、なにも1人でやる必要はない。

 役割分担をすればいいのだ。

 知的生物の利点。

 それは高度なコンビネーションが実現出来ること。

 それを生かさない手はない。


 「ただ、洗脳が出来るような悪魔は片手で数えるくらいしかいません。ドラゴンなどの幻想種を洗脳出来るレベルともなれば、彼女くらいのものでしょうね」

 「練習したりして覚えたり出来ないのか?」

 「もちろん練習して習得しますよ。けど、修練を重ねてもチャント付加を成功させることが出来る悪魔はごく稀です」

 「練習しても、無理な奴は無理か・・・」

 「適正と特殊なセンスが求められるんですよ」

 「へえ・・・」


 人間である俺が、テレパシーのチャント習得難度を聞いたところで、実感は沸かない。

 能力を使えない側なのだから、当然と言える。


 「洗脳は魔物を制御する方法としては優秀ですが、扱える悪魔が全然いません。だから選択肢にまず上がらない方法ですね」

 「魔物を扱うって大変そうだな」

 「本来魔物を使った戦闘は、自分の資質をある程度伸ばした後に戦闘手段の幅を広げるような形で習得します。ですから、中々魔物を戦闘の主力にしようとする悪魔はいませんね」

 「せいぜいがサポート?」

 「結局はそうですね」


 そっか。

 空中要塞で、ペガサスやらドラゴンやら大勢の魔物やらを見たから、てっきり悪魔は魔物をよく使うのか?とか思ってたが、そうでもなかったんだな。

 むしろ手段としては扱いにくい部類だ。

 空中要塞の面々は・・・まあ例外だったってことだな。


 「でも、わざわざ大きなエネルギーを消費して魔物を召喚するよか、いつも連れまわしていた方がいいんじゃないのか?」

 「それは調教に成功しているか、洗脳している場合のみですね。洗脳はまず例外として・・・調教されている魔物場合、完璧に制御出来ているという保証はどこにもありません。暴走する可能性は付き物です」


 だから連れまわしたりしないのか。


 「お前の母親は魔物を使ってるって言ってたけど、結局どの方法なんだ?」

 「それは・・・」


 彼女が何かを言いかけた、その時。

 突如、ガンッと音が響いた。


 「ひっ!!」


 彼女の妹が驚いて目を覚ます。

 相当大きな音だったから当然だ。

 彼女の後ろへすぐさまその小さな体を隠す。

 ・・・冷静な判断だ。


 音がしたその先を、俺達は一斉に見る。

 ここから出口に繋がる唯一の通路。

 結界の向こう側。

 そこには・・・


 「・・・魔物」


 白い毛皮に包まれたゴリラのような魔物。

 共鳴する響凍者(アイスシャウト)が結界の壁を叩いていた。

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