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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第5章 地獄篇 グリード領ウルファンス山脈
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80話 現状説明3

 未来に待ち受ける道のりは真っ暗だ。


 よく見えなくて、何があるのかもよく分からない。

 そこは坂道だったり、下り道だったりするかもしれない。

 水たまりがあるかもしれないし、崖になっているかもしれない。


 暗いのではなく、逆に明るく感じることもあるだろう。

 ただ、それがずっと続くことはない。


 その道のりの状況は、いつだって変化する。

 それが自分にとって都合よくなるかどうかは運次第。

 ・・・結局は運なのだ。


 不運なことが唐突にやってくるかもしれない。

 理不尽に襲ってくるかもしれない。

 だから、その時まで自分自身を高めなくてはいけない。

 辛い時。

 厳しい時、耐えられるように。


 そして、自分の足元を目を凝らして注意深く見ていく。

 不運に出会わないようにする為に。

 不運に出会わないなら、出会わない方が良いのだ。

 賢い生物は、そうして生を歩んでいく。


 ただ・・・

 俺の道のりは崖だらけだった。

 一歩間違えたら即死。

 何とか危険地帯は乗り越えたが・・・


 さて、この先はどうだろう?

 俺は行けるのか?

 その先へ。


 ・・・道は相変わらず闇に包まれている。

 それでも、行こうとしなければ行けない。

 その態度を貫かなくてはいけない。

 ・・・停滞してはいけない。

 止まったら、そこで死んだも同然だから。


 ・・・俺は停滞しないで進めているだろうか?


 今こそ、前へ動き出す時だった。

 状況から逃げる時間は終わった。

 俺自身が、俺自身の道を歩かなくてはいけない。


 そのためには、道標が必要だった。

 この暗い道を進むために。


 「君は言ったわね、自分の願いを。ダゴラスに」

 「はい・・・俺は、俺を知っている人達の元へ帰りたいです」

 「君は自分の目的をハッキリさせた。私はそれを全力でサポートするわ。もちろんダゴラスも」


 そう言ってくれるのは心強い。

 だが・・・何で俺を助けるのかは不明瞭だった。

 ダゴラスさんにその疑問をぶつけた答えは、俺を立ち直らせてくれた。


 けど、本当にそれだけが理由なのだろうか?

 正直な話、俺を助けることによって得られるメリットなんてないのだ。

 デメリットなら沢山ある。

 それも、殆どの悪魔を敵にまわすと言う、最悪のデメリットが。


 マリアさんとダゴラスさんにはスー君がいる。

 スー君はまだ子供だ。

 こんな危険なことには本来巻き込まないはずなのだ。

 親なのだから。


 ダゴラスさんの家で、スー君が大切に育てられていることは知っている。

 そんなスー君を危険に晒してまで、俺を助ける理由。

 その回答が、俺が困っているからというのはどうなのだろうか?

 本当にそれだけか?


 だが、その疑問は結局口には出さなかった。

 ・・・出せなかった。

 やっぱり俺は卑怯で臆病だ。


 「君がやるべきこと。それはまだ分からないのよね?」

 「そうですね。魔王は結局詳しいことは話しませんでしたから」


 そこで魔王があっさり話したら、マリアさんの暗躍が全部無駄になってしまうことにもなるが・・・


 「何か分かりました?」

 「ええ。君が命懸けで戦って逃げ続けたことを、無駄になんか絶対にしないわ」


 そう言ってくれるのはありがたい。

 これで何も収穫がなかったら、俺はただ逃げる為に悪魔達を皆殺しにしたことになる。

 そこに意味を持たせられることは、俺にとってものすごく大きいことだった。


 「君は門に行きたいと言ってたわね」

 「俺を地獄に送った天使がそこに行け、と言っただけなんですけどね」


 天国に行ったからって何があるのかは分からない。

 だが、このまま地獄にいる訳にもいかないだろう。

 逃亡生活にもいつかは限界が来る。

 限界を迎える前に、悪魔の目の届かない場所・・・別の世界へ行く必要があった。


 「天使の言うとおり、君はやっぱり門に行かなくちゃならないわ」

 「門・・・」


 やっぱり存在するのか。

 魔王によると、天使は信用しない方がいいらしい。

 世界の僕だからとか言って。


 天使は嘘を吐いてはいなかったのだろうか?

 魔王の言葉の方が信用出来ない?

 ・・・分からない。

 今の時点で判断のしようもないのだから。


 「天使の言う門はね、厳密には君の思っているような門ではないの」

 「門じゃない?」


 だったら何なんだろうか?


 「転移の陣は分かるわね?」

 「・・・何回もお世話になりました」


 あれのおかげで、俺は逃げることが出来た。

 転移さまさまだな。


 「転移はそもそも、光を召喚するための能力よ。遠い場所へ移動するためにね」


 それは俺でも分かる。

 何回か説明を受けたからな。


 「そして、転移のチャントも普通の能力と同様5段階。1段階目は普通の転移。君が何回か体験したやつね」

 「はい」

 「2段階目は召喚転移。それも何回か見たわね」


 多分、転移回廊の時や、召喚王の行った魔物の召喚がそれに当たるだろう。

 転移を使って、逆にこちら側へ魔物なんかを呼び出す技術。

 それが召喚転移。


 「3段階目は大召喚。転移の規模を大きくすることで、建造物なんかの巨大な物体を転移させる段階。これは君も見てない・・・と言うか、中々見れるものじゃないわね。使う機会も限られてくるし、元々ただでさえ莫大なエネルギーを普通の転移でも使うのに、その規模までいったらもう大人数になっちゃうしね」

 「へぇ・・・」


 大召喚か。

 余程凄いに違いない。

 何せ、建造物なんだから。


 「第4段階がテレポート。名前から分かるとおり、そのまんま瞬間移動ね」


 瞬間移動か・・・

 使えたらさぞかし便利だろう。

 現世でも実現出来ていない、夢のような能力。


 「これが使えるのは・・・この地獄には1人しかいないわね」

 「召喚王ですか?」


 普通に考えればそうだろう。

 地獄で1番転移に精通しているんだから。


 「違うわ」


 マリアさんはあっさりと否定した。

 違うのか。


 「アイツは召喚と転移が悪魔の中で1番うまいだけ。テレポートは普通の転移とはまた違うものなのよ」

 「違う?」

 「簡単に言えば、転移は光を呼び出す技術が求められる。対してテレポートは、光自体の扱いがうまくなければ使えない・・・ってとこかしらね」


 むむ。

 まだよく理解出来ない。

 光自体の扱い?


 「まあ、説明が長くなるからそれはまた今度ね」

 「・・・はい」


 まあいいか。

 どうせ俺は転移を扱えない。

 魔剣があれば別だが、それだってもう失われている。

 刀身自体に陣が刻まれたタイプは、貴重だというし・・・


 「で、転移の第5段階目。それが君の目指すべき目的への鍵」

 「5段階目・・・別世界への転移ですか」

 「なんだ、知ってたの」

 「ええ。魔王から門は世界へ渡るための陣が刻まれてるって聞きました」

 「他には何か言ってた?」

 「いえ、なにも」

 「そうよね」


 そうでしょうよ。

 魔王だって、情けでそこまでは教えてくれたのかもしれないが、その場所やら何やらを教える程お人よしではないだろう。


 「別世界への転移・・・その方法は、魔王が言った門を使った転移以外はありえない。まずはそれを頭に入れておいて?」

 「・・・はい」

 「まず、世界という概念について知っておくことが1つ。それは、この地獄が1つの星だということ」

 「ああ・・・」


 名無しの森にて、ダゴラスさんが何気なく漏らした一言。

 地獄は星。

 今までずっと忘れてた。


 「星・・・ということは、宇宙が外にある。それは分かるわね」

 「もちろん。現世でも常識です」

 「常識ね・・・」

 「ええ・・・」


 マリアさんが眉をひそめる。

 なんだなんだ?


 「じゃあ、ここから私も知らなかった新事実」

 「ん・・・」


 マリアさんですらが知らない、魔王が知っていた事実。

 どんな情報だろうか?


 「君の言うところの現世は、その宇宙の何光年も先の星のことなの」


 は?

 ちょっと待て。

 待て待て待て。

 どういうことだ?

 それって・・・


 「悪魔って・・・地球外生命体?」

 「君ら現世・・・地球に住む人間種族の立場から言えばそうね」

 「えええ・・・」


 そうだったのか・・・

 つまりだ。

 大雑把に言えば、悪魔は宇宙人だったってことだ。

 悪魔から見れば、人間の方が宇宙人ってことになるが・・・


 じゃあ、悪魔は地球人が探して止まなかった地球外に住む、知的生命体?

 ・・・とんでもなく新鮮な気分だ。

 世界の秘密。

 そんなものを俺は知ってしまった気分。


 「・・・地球からの観測では、知的生命体が住める星は地球の近くにはないらしいです・・・ってことは、だいぶ遠くってことですよね?」

 「ええ。それも、地球から観測出来ない程遠い場所にね」


 一気にスケールが宇宙にまで発展してしまった。

 地獄だけでも広大なのに・・・

 いや、地獄の全貌はよく知らないけれども。


 「そんな宇宙空間を、長距離単身で渡れる悪魔はいないし、人間だってそうでしょ?」

 

 マリアさんの言うとおりだ。

 人間の象徴・・・知恵の結晶である、宇宙船でもそんな場所にまで行けない。

 ・・・技術的に不可能だ。


 「でも、その暗くて広い宇宙を渡れる者は存在するわ」

 「・・・それが光ですか」

 「大体予想はついたでしょ?」

 「だから転移を使うしかない・・・と」

 「ね?」


 別世界ってそんな意味で使ってたのか。

 天使の発言から、ここは死後に訪れる世界かと思ってたのに・・・

 今の話じゃあ、それは違うじゃないか。


 結局俺は死んでなかったってことになる。

 ちゃんと生きてるんだ、俺。


 「その転移を実現する魔具・・・それが世界を繋ぐ門なのよ」

 「魔具だったんですか」

 「君の持ってた魔剣とかと同じ、能力が付加された物体。門も同じものだったのよ」


 魔具・・・ね。

 ・・・魔具?


 嫌な予感が頭をよぎる。

 まさか・・・


 もし・・・もしだぞ?

 その起動にもエネルギーが必要だったとしたら?

 悪魔しか扱えないとしたら?

 ・・・人間は使えないとしたら?

 俺は帰れないってことになる。


 「その門、俺でも起動出来るんですか?」


 出来なかったらどうしよう。

 不安が押し寄せてくる。


 「出来ないことはないわ・・・魔石を使えばね」


 魔石。

 詳しく説明されたことがないから、本来はどんな風に使うかは分からない。

 が、それのおかげで俺は転移を成功させることが出来た。

 きっとそれと同じ要領だ。


 「ただ・・・1つ問題があるのよ」

 「問題?」

 「普通の魔石程度じゃ足りないの」

 「・・・何がですか?」

 「エネルギーが」


 足りないのか。

 じゃあ・・・


 「沢山かき集めればいいんじゃないんですか?その魔石を」

 「・・・それでも足りないの」

 「じゃあ、地獄中の魔石を集めれば・・・」


 言ってて気付く。

 単純でアホな提案だったと。

 実現不可能な案だったと。

 でも、マリアさんは極めて真剣な顔で・・・


 「それでも足りない」


 と言った。

 ・・・嘘だろ。

 地獄中の魔石を集めてもまだ足りないのか。

 どれだけエネルギーが必要なんだよ。


 魔石1個で転移が出来る。

 転移は莫大なエネルギーを消費する。

 つまり、魔石1個分でも相当なエネルギー量があるってことだ。


 ラース街の中央市場で見た魔石倉庫。

 その中は大量の魔石でいっぱいだった。

 この地獄にも、それなりに魔石は存在しているのが分かる。


 なのに、それでも足りない。

 そんなに遠いのか・・・

 でもそうだよなぁ。

 星と星を移動するのだ。

 地獄という世界の中を転移するのとは訳が違う。

 規模が桁違い過ぎるのだ。


 「じゃあ俺、帰れないじゃないですか」

 「大丈夫。そこは何とかなるのよ」

 「何とかなる?」


 どう何とかなるんだ?

 エネルギーの問題。

 単純な問題ではあるが、故に絶対的な障害でもある。


 「世界を渡る転移の陣は、それこそ莫大すぎるエネルギーが必要らしいの」

 「どのくらい必要なんですか?」

 「現世風に言うと・・・1光年分までが魔石1個で賄える運賃だとするでしょ?」


 1光年。

 光が1年かけて移動する距離。

 光は地球を1秒かけて、7周半するらしい。

 とすると、魔石1個でとんでもないところまで行けるんだなってことになる。


 「別の世界へ行くなら、1000光年単位かかる・・・らしいの」

 「遠い・・・」

 「そう、遠い。悪魔の保有している質の高い魔石はそんなに沢山あるわけじゃないわ。仮に全部かき集めたとしても、きっと途中の宇宙空間へ放り投げられてしまうわ」


 宇宙空間ですか。

 それはマズイ。

 確実に死ぬじゃないか。

 真っ暗で何もない闇の中、1人孤独に死ぬのはさすがに御免だ。


 他の悪魔からエネルギーをサポートしてもらうのも難しいだろう。

 俺は殆どの悪魔から追われている身だから。


 俺を殺そうとしている悪魔。

 封印しようとしている悪魔。

 利用しようとしている悪魔。


 それぞれ目的は違うが、1つ共通していることがある。

 それは、俺の逃亡を許さないということだ。

 別世界に行くなんて、もっての他だろう。

 協力は得られない。

 ・・・残念ながら。


 「でも、そんな無茶苦茶なエネルギー量を調達出来る方法が1つだけあるの」

 「・・・それが問題なんですね?」

 「察しがいいわね」


 やっぱりか。

 ああ・・・また面倒なことになりそうな予感がする。


 「君はラース街の、中央執行所のてっぺんを見たことある?」

 「ええと・・・かなり巨大な石がありました。宝石みたいにキラキラ輝いた石が」

 「それが君の集めるべき物なの」

 「あの宝石が?」


 と言うことは・・・


 「あれも魔石?」

 「またまた正解」


 どこか、似ているとは思ったが・・・


 「あの巨大な魔石は、ラース街の象徴みたいなものなのよ」

 「現世で言う、国旗みたいなもの?」

 「それ以上のものね」


 余程重要な代物なんだろう。

 その魔石は。


 「あの魔石はね、街の様々な場所で使われている転移のエネルギー負担とか、テレパシーによる遠距離通信の負担軽減。街周辺の防護に使われている、球状結界の永続的な設置エネルギーの供給。その他色々なエネルギーの源なの」

 「・・・街の象徴どころか、街のライフラインそのまんまじゃないですか」

 「そう。それがなかったらどうなるか、検討は付くんじゃない?」


 大体の想像は出来る。

 街をスッポリと覆っていた、あのドーム状の巨大な結界。

 あれがなかったら、魔物なんかの危険な生物の侵入を許してしまうかもしれない。


 この世界にはドラゴンとか、空を飛ぶ危険な生物がゴロゴロしている。

 現世のように、門を設置するわけにもいかないんだろう。

 だから結界は、街の命だと容易に想像出来る。


 その他にも、物資を円滑に運ぶための転移。

 電話のように、いつでも悪魔同士で意思疎通が出来るテレパシー。

 それらの発動に使用する負担が大きくなったら・・・

 想像以上の混乱が街を包むだろう。


 「それを盗むんですか・・・」

 「それしか君が地獄から脱出する方法がないわ」


 そうか・・・

 だったら、ますます悪魔達の恨みを買う訳か・・・


 街の様子は俺も見ている。

 あの活気溢れる街並み。

 悪魔達の表情。

 何も恐れなんか抱いていなかった。

 あの街で悪魔の世界は完結しているんじゃないかと思うくらい。


 「膨大な転移のエネルギーの代価を用意出来る程のものは、もうそれしかないの」

 「・・・仕方ないんですね」

 「仕方なくなかったら、こんなこと推奨したりはしないわよ」


 だよな。

 こんなのしたくて出来ることじゃない。


 これは極端な話、テロだ。

 テロと何ら変わりない。

 無関係な者を脅かす、脅威の存在が成せることだ。


 地獄に存在するだけで邪魔者扱いされる俺が、そんな行為に手を染める。

 皮肉を感じると共に、何か運命めいたものを感じた。


 「困っている奴を助けるのに、それ以上の困った奴を増やすわけですか・・・」


 思わず言ってしまった。

 押さえ切れなかった。


 犯罪をしろと、いきなり言われたとする。

 どう答えるか?

 俺は皮肉を口にしてしまった。

 他に方法がないと言っているのに。

 ・・・止められなかった。

 なのに、まだマリアさんは言いたいことがあるようだった。


 「それだけじゃないのよ。世界へ渡るためのエネルギー量をまかなうには、その魔石1つだけでは、全然足りない」

 「えっ・・・」


 足りない?

 街の悪魔達の能力使用に耐えられる程のエネルギーを、毎日負担している魔石が?


 「どのくらい・・・必要なんですか」

 「全部で7つ・・・全部必要よ」

 「7つも・・・」


 街1つをパニックに陥らせるだけでも十分悪人のすることなのに、それを後7箇所で行う?

 ・・・俺はどれだけの悪魔に悪事を働かなければいけないのか。

 きっと、数え切れない程の数だろう。


 「ラース領以外の領土でも、君の存在は伝わってる。どこにも逃げ場はないの。街の領域には悪魔が。自然の領域には魔物が、それぞれ襲ってくるわ。きっと、それはずっと続くの」

 「・・・」

 「そこで、君に問うわ」


 その時だけ、同情的な雰囲気がスッパリと消える。

 悪魔らしい・・・と言えば失礼に当たるだろう。

 でも、その時だけ現世に伝わっている悪魔像がピッタリはまる表情をマリアさんはした。


 冷たい。

 冷徹な目。

 無感情で、無寛容な・・・


 「君は、人間の思っているような・・・絶望と恐怖の地獄へ行く覚悟はある?」


 言ってることは分かる。

 ・・・もう後には戻れない。

 引き返せない。

 前に進むしかない。

 だって、俺にはそれしか道がないもの。


 この地獄では、俺はいらない存在だ。

 ゴミのような扱いだ。

 悪い作用がある分、ゴミ以下であるかもしれない。


 死にたい気持ちになるのも当然だ。

 自殺したくなってくるこの状況。


 孤独は死よりも辛い。

 だから、みんな絶望した時は死を選ぶ。


 死が怖くなくなる。

 死に救済を感じる。


 死はいつでも俺を待っている。

 優しく包み込むように待っている。


 俺から死に向かっていくのか、それとも悪魔に突き飛ばされて向かっていくのかは分からない。

 ただ、今は自分から死へ向かっていく気はしなかった。


 死に希望を感じるのは確かだが、それ以外にも希望があるからだ。

 その希望は自分勝手なものであることは確かだ。

 他人を傷つける分、無価値な希望かもしれない。


 俺の希望は反作用が強すぎる。

 他人にとっての不運が、俺の希望だ。

 他人の不運が燃料になると言ってもいいかもしれない。


 現世なら、間違いなく批判される。

 貶される。


 それでも俺は行ってやる。

 その先へ。

 暗く、何も見えない道を進みながら。


 死んだら死んだでそれでいい。

 何もしない内に死ぬのは嫌だ。

 俺は絶対に後悔する。


 ・・・反省しよう。

 内省的にもなろう。

 だが、後悔だけはするまい。


 ・・・過酷な道だ。

 俺以外の殆どが、敵なのだから。


 絶望しそうだ。

 しんどい。

 その先がどうなるか、検討もつかないのにがんばるだなんて。

 そして怖い。

 いつ死ぬかも分からないから。


 それでも、俺の背中を押してくれる存在が1人でもいるのなら。

 俺はソイツを信じて、先に進みたい。

 例え周りを犠牲にしたとしても。


 俺はここで停滞・・・したくない。


 心がそう言った。

 必然、口から答えは自然に出ていた。


 「あります・・・覚悟、あります」


 しっかり目を見てそう言った。

 素直で、ストレートな返答だ。

 疑問の余地もない、単純な答え。


 「・・・分かったわ」


 柔和な空気が一気に蘇った。

 ストレスが水に流されていくようだ。


 「君の覚悟は伝わったわ」

 「・・・はい」

 「別に拒否しても良かったのよ。それならそれで、制限はされるけどかくまってあげられるし」

 「でも、それは根本の解決にならない・・・でしょう?」

 「ええ。君は生きてる間中、ずっと恐怖と戦わなくちゃいけない。それはまさに、地獄に違いないでしょうから・・・」


 ・・・希望があるかも分からない。

 そんな道に進むことを、俺は今決めたのだった。



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