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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第5章 地獄篇 グリード領ウルファンス山脈
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77話 信じたい気持ちと、信じられないこの現実

 生き物は単体では生きてはいけない。


 何故か?

 生きる為には他の生物を食う必要がある。

 生きる為には他の生物を利用する必要がある。

 生きる為には他の生物と支えあう必要がある。


 踏まえてもう1回言おう。

 生物は単体では生きてはいけない。

 だけどもしそれが出来たのなら、その生物は神様と呼ばれてもいいと思う。


 夢を見ている。

 俺が光になって宇宙に行く夢。

 とても気持ちいい夢だ。

 ずっと見ていたい夢。

 なのに。


 バフン、バフン。


 夢から現実へ強制的に引き戻される不快な衝撃が俺を襲った。


 ・・・4回目。

 今まで以上にまぶたが重い。

 ・・・眠りたい。

 今は静かに眠っていたいんだ。


 疲れた。

 そう、疲れた。

 命を保つために、命を奪うことに疲れた。


 現実から離れて、夢に逃げたい。

 あのフワフワとした空間にいつまでも漂っていたい。

 ただそう思った。


 だが、腹に受ける衝撃がそれを邪魔する。

 ・・・誰だ?


 俺はこの衝撃の正体を確認しようと、身を動かす。

 ・・・柔らかい。

 クッションのような感触。

 ・・・ベット?


 俺は目を開ける。

 目の前には・・・


 「起きた?」


 ダゴラスさん達の息子・・・スー君がいた。

 俺の腹に乗っかって、目を覗いている。


 「なんで・・・スー君?」


 少し動揺する。

 もう2度と会えないと思っていた子が、目の前にいたから。

 俺は確か襲撃者と一緒に転移でどこかに連れて行かれて・・・で、目覚めたらスー君がいた。

 困惑しない方がおかしい。


 周りは岩だらけだった。

 ゴツゴツしている。

 ・・・洞窟?

 でも、ちゃんと部屋として成り立っているようで、奥の方にはドアがあった。

 俺が寝ているベットや収納道具、その他もろもろの家具も設置されている。


 「待ってて!すぐにダーを呼んでくるから!」


 そう言って、スー君は部屋から出て行ってしまう。

 ・・・相変わらずせわしない子だった。

 

 「・・・」


 一体俺はどうなったんだ?


 体を見ると、怪我をした部分が回復していた。

 服装も清潔なものに取り替えられていて、気持ちがいい。

 ・・・少なくとも、召喚王に連れ去られてはいないことは分かる。

 召喚王は、あの女襲撃者に追い払われたのを俺は確かに見たし。


 つまり、俺は女襲撃者にここへ連れてこられたことになる。

 俺が眠っている間に、何かまたトラブルが起こっていなければの話だが・・・


 もし、そのまま何事もなく連れてこられたとしたら。

 そして、ここにスー君がいることの意味。


 俺は正直期待していた。

 マリアさんとダゴラスさんが、ここにいる可能性を。

 そして・・・


 「・・・よお」

 「ダゴラスさん・・・」


 俺が1番会いたかった悪魔がそこにいた。

 俺を1番最初に助けてくれた悪魔。

 地獄の知識を教えてくれた悪魔。

 だが、俺を魔王側へ売ったかもしれない悪魔。


 会いたかったとは言え、複雑な気持ちになる。

 何で魔王側へ俺を引き渡した?

 何で俺をこんな目に合わせた?

 そんな疑問が頭をよぎる。


 それでも、こうしてダゴラスさんは目の前にいる。

 信じるべきか、疑うべきか。


 心情的には疑いたくはない。

 悪魔達の中でも、俺が特別恩義を感じている者の1人だ。

 ダゴラスさんや、マリアさんは味方であってほしい。

 そう思う。


 が、それは俺がただ信じたいってだけの話だ。

 ・・・真実はいつだって残酷だ。

 ダゴラスさん達が味方のふりをしているだけかもしれない。

 本当は敵かもしれないのだ。


 マリアさんが転移回廊でララに俺を引き渡した後、これと似たようなことを何回も考えた。

 何も信じられないと。

 マリアさんは俺を裏切ったのかと。


 でも、逆に信じないと考えたくはない。

 だって、この先俺はどうすればいいんだ?

 門を探せばいい。

 それは分かる。

 だが、どこを探せばいい?


 しかも、俺は悪魔を大量に殺した罪人だ。

 魔王が俺を許さない。

 当然、魔王側の悪魔達も俺を許さないだろう。

 地獄で会う悪魔は、もう殆どが俺の敵だと思った方がいい。

 現世で言う、指名手配犯みたいなものだ。


 ポイントオブノーリターン。

 俺は引き返せないところまで来てしまった。

 引くに引けないこの状況。


 この先はいばらの道だろう。

 傷つきながら進む過酷な道。

 誰かに頼れるなら、もう頼るしかない。


 俺1人では無理だ。

 もう無理なんだよ・・・


 「もう何も信じられないか?」

 「・・・」

 「もうお前さん以外の悪魔は、殆どが敵だと思うか?」


 ダゴラスさんは、俺の心を読んだかのように質問してくる。

 ・・・実際に心を読んでいるのかもしれない。


 きっと、俺はこの地獄で安全な場所を見つけた途端、そこから動けなくなると思う。

 敵がウヨウヨいるかもしれない外へ行くのは、リスクが高い。

 精神的疲労が蓄積されていく。


 もう疲れるのは嫌だ。

 ここから出たくない。

 もういいじゃないか。


 ここにいても、ダメなことくらいは俺でも分かる。

 動き続けることこそが、俺の生存出来る唯一の道だと言うことも分かる。

 だが、分かってはいても、分かりたくない。

 きっと俺は、弱いからこんなことを思うのだ。


 精神的に弱い。

 肉体的にも弱い。

 このままでは生きてはいけない・・・


 「俺は・・・殺されるんですか?」


 きっとそうだ。

 俺は何回も殺されかけた。


 「俺はこの世界の邪魔者ですか?」


 これも散々言われてきたことだ。

 害獣と同じ扱い・・・いや、それよりもタチが悪い。

 俺は何人もの悪魔を殺してしまったのだから。


 そう。

 殺した。


 「俺は・・・空中要塞で何人も悪魔を殺しました。何人も何人も何人も・・・」


 正当防衛なんて言い訳はしない。

 俺は、俺の意思で悪魔を殺したんだ。


 「俺は殺されて当然のことをしたんです俺は・・・!!」

 「もういい」


 ダゴラスさんが俺を手で制した。


 「もう言わなくてもいい」

 「・・・でも」

 「いいんだよ」


 慈悲、優しさ、愛情。

 それらを思わせる表情を、ダゴラスさんはしていた。


 こんな顔、しばらくの間見ていなかった。

 誰も俺にそんな顔をしてくれる者はいなかった。

 なんでそんな顔をするんだよ・・・


 「お前さんは頑張った。今まで大変だったろ?」

 「・・・」

 「何でもいいから、生き残ることをお前さんは優先した。だから今、ここにいる。違うか?」

 「・・・違い・・ません」


 でも、でも・・・


 「きっと沢山死にかけたんだろう。きっと沢山責められたんだろう」

 「・・・はい」

 「だから、きっと沢山の悪魔を殺したんだろう」


 そうです。

 殺したんです。

 いっぱい命を摘みました。

 この手で。

 魔剣を使って。


 「いいんだ」


 何が?

 何が良いのか?


 「お前さんは自分のやるべきことをした。それだけの話だ」

 「やるべき・・・こと?」

 「生き残ることだ。生き残ることこそが、お前さんのやるべきことなんだよ」


 ・・・生き残る。

 確かに俺もそう思ってた。


 「けど、他の命を摘んでまで、俺が生き残る価値はあるんですか?」

 「・・・」

 「俺が殺した悪魔には多分、色々な悪魔がいたでしょう。家族がいた悪魔もいただろうし、たとえ1人でも何かを為すべき悪魔がいたかもしれない」


 そんな悪魔の可能性と未来を、俺は消したんだ。


 「悪魔を殺してまで、俺は生き残るべきなんですか?」


 正直、自殺したい感情が芽生えていた。

 これ以上俺のせいで死ぬ悪魔がいるのなら、自殺した方が良いのではないのだろうかと。


 最初は確かに生き残りたかった。

 けど、殺した悪魔だって同じことを思っただろう。

 ・・・みんな俺と同じだ。

 同じなんだよ。


 「これは価値の問題じゃない」


 唐突にダゴラスさんはそう言った。


 「聞くが・・・価値ってなんだ?」

 「価値・・・」


 言われてみれば、即答出来ない。

 自分で使った言葉なのに。


 「価値ってのはな、曖昧な言葉なんだよ。立場によって、その意味が変わってくる言葉だ」

 「・・・」

 「当然だが、お前さんと俺の価値観は違う。それは他の全ての奴らにも言えることだ」

 「・・・そうですね」


 そのとおりだ。

 反論のしようもない。

 価値観が違っているから、俺と悪魔達は争っていた。


 「悪魔の世界では心を読むことによって、価値観の均一化が自然になされてる・・・が、お前さんが見たとおり例外は存在する。お前さんを助けたララや召喚王がいい例だな」

 「確かに・・・助けてくれました」


 助けてくれなかったら、今頃絶対に死んでいた。

 だからこそ、俺は命懸けでララを助ける気になった。


 「でも俺は・・・そんなララも死にかけさせて・・・」

 「でもでも言うなよ」


 言葉はきつかったが、優しい表情は崩さないダゴラスさん。


 「お前さんを助けたかったから、こうなったんだ。俺の後釜なら、予想ぐらいは出来ていたはずだ。ララも悔いはないだろう」

 「・・・隊長だからですか」

 「そうさ。命を賭すべき対象や、そのタイミングぐらいは知っている。俺がそう教えたんだ」

 「教えた?」

 「ララは俺の元弟子なのさ」


 そうだったのか。

 そういう繋がりがあったのか。

 だからララのことを、分かったように言っていたのか。


 「・・・弟子をこんな目に合わせたのは俺のせいなんですよ?ダゴラスさんは・・・納得出来ているんですか」


 セスタのように、憎みたくはないんですか。

 殺したくはないんですか。


 「出来ている。だからお前さんをここにかくまっているんだろ?」


 きっぱりと、そう言った。

 さも当然のように。


 「俺はお前さんの味方だ」

 「・・・」

 「信じられないか?」


 ・・・そうだ。

 俺の味方なら、そもそも魔王の所なんかに送らなかったはずだ。

 俺の敵なら、こうやってベットに寝かせてはくれていないはずだ。


 2つの主張がせめぎ合う。

 どっちが本当?

 どっちが真実?


 「・・・何を信じていいのか、分からないんです」


 分からない。

 それだけが今、分かることだ。


 ・・・判断出来ない。

 自分の意見もまともに出せない軟弱野郎。

 それは俺のことだ。


 周りに流されっぱなし。

 翻弄されっぱなし。

 だからこんなに苦しむ。

 苦しみから脱出する方法すらも分からない。


 「・・・お前さんは何がしたい?」

 「?」

 「お前さん自身の願いって、何か分かるか?」

 「俺の・・・願い?」


 俺の願い。

 俺の願望。

 それは何だ?


 記憶喪失で、何も覚えていない俺。

 それを理由に、今まで自分のやりたいことを意識しないようにしてきた。

 ・・・結果、ここまで状況に流された。


 今までの俺はただ、自分を攻撃から防衛する目的で逃げていただけだ。

 逃げてただけなんだ。


 俺の明確な目的は門へ行くことだ。

 天国へ行くために。


 その目的は分からない。

 とにかくここから脱出したかっただけだ。

 逃げたかっただけだ。


 ・・・今は違う。

 俺のやりたいことが見えていた。


 俺が悪魔を殺した時。

 俺が1番疲れた時、何を思った?

 何を俺の目的にしたいと思った?

 答えはもう見えていた。


 「現世に・・・帰りたいです」


 自然と涙が出ていた。

 少量の液体が俺の頬を伝う。

 地獄に来てから、泣くのなんて初めてだ。

 苦しい状況でも泣かなかったのに・・・


 「それがお前さんの願いか?」

 「はい・・・現世に帰って、俺を知っている人に会いたいです・・・記憶も取り戻したいです」

 「そうか・・・」


 理解した。

 俺は現世に帰りたい。

 苦しい状況から逃げ出したいとか、そんなんじゃなく。

 ただ帰りたい。

 俺を認めてくれていただろう存在の住む世界へ・・・帰りたい。


 「お前さんの願いが叶うように、俺が手助けをしてやる」


 ・・・分からない。

 何でダゴラスさんが、俺にそんなことを言うのか。


 俺は悪魔を殺したんだ。

 恨まれてもいい存在なんだ。

 邪魔者なんだ。

 助けていいことなんて1つもないんだ。


 「お前さんはきっと、まだ俺を信じられないだろうけど・・・信じて欲しい」


 俺の目をまっすぐ見つめてくる。

 真摯な目だ。

 自分を信じて欲しいという意思が、直に伝わってくるかのようだ。


 「俺を信じれなかったら・・・それでもいい。だが、それじゃあお前さんは死んじまう」

 「魔物とか・・・悪魔が俺を狙っているからですよね」

 「そうだ。今、地獄中の魔物や強力な力を持った悪魔が動き出してる。ここを1人で出て行ったら、すぐに死んじまう」

 「・・・俺は弱いですからね」


 弱い。

 魔剣がないと何も出来ない。

 ララにおんぶに抱っこだったから。


 助けてもらわないと、何にも出来ないんだ。

 1人じゃ、生き残ることなんて出来ないんだ。


 1人は辛い。

 孤独は苦痛だ。

 ・・・痛いんだ。


 このままいけば、俺はこの地獄で1人ぼっちになる。

 周り全てが敵になる。

 いや、最初からそうでも何にもおかしくはなかった。

 俺は1人ぼっちなことが当然の存在だったんだ。


 人は希望がないと生きてはいけない。

 希望は人生の目標だったり、実際の物だったり、人によって様々だ。

 今の俺には、ダゴラスさんが希望に見えた。


 そして、その先にある道。

 天国への道。

 可能性の道。


 絶望ではない。

 少なくとも、助けてくれると言ってくれている悪魔がいるんだから。

 それが敵だろうと、味方だろうと。


 「もう1度言うぞ」


 まだ優しい表情は崩さない。

 嘘を付いているようにはどうしても思えなかった。


 「お前さんの願いが叶うように、俺が手助けをしてやる。だから・・・俺を信じてくれ」


 本当に優しかった。

 助けてやるなんて、ここまでしつこく言われるのだから。


 信じるべきか、そうじゃないか。

 そんな問題じゃない気がしてきた。

 くだらないような気がしてきた。


 俺は、やっぱりこの悪魔を嫌いになれない。

 なれそうもない。

 ・・・多分、一生忘れられないくらいに、この悪魔のことが頭に刻まれている。


 信じて裏切られても、俺が後悔しなければいい。

 俺がいいならそれでいい。

 そして、俺はこの悪魔を信じられなかったら、後悔してしまうだろう。

 例えその選択が失敗でも。


 この悪魔を信じられないことの方が、俺にとっての不幸。

 多分・・・きっと。

 そう思えた。


 「1つ・・・聞いていいですか?」

 「ああ・・・なんだ?」

 「なんで俺を助けようと思ったんですか?」


 俺が聞きたいこと。

 あの時のセリフ。

 もうこれで判断しよう。

 後悔しないために。


 「・・・それを言ったら話が長くなるから・・・俺の気持ちを素直に言わせてもらおうか」


 コホンと咳払い1つ。

 そして。


 「困ってる者を助けるのは普通だろ?」


 ダゴラスさんの家で聞いた言葉。

 俺が初めて地獄に来た時に、言ってくれた言葉。


 涙が本格的に出てきた。

 目から出てくるものが止まらない。


 俺の存在を肯定してくれる悪魔。

 きっと、そんな存在も無意識の内に求めてたんだ・・・


 そうさ。

 悪魔にも認められたかった。


 悪魔と仲良くしたかった。

 楽しい会話をしてみたかった。

 遊んでみたかった。

 ・・・それは叶わなかった。


 けど、こうやって言ってくれる悪魔もいる。

 ・・・それでいいじゃないか。


 希望はまだある。


 「ありがとう・・・ございます」


 泣きながら俺はそう言った。


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