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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第4章 地獄篇 空中要塞アネンヴァング
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71話 殺戮の夜6~操縦室での戦い~

 銀色の殺戮者は液体を周りに展開していく。


 ガラスから差す炎の色で、美しくも冷ややかにその液体金属は輝きだす。

 液体金属が自由自在に変形し、移動するせいでその光加減が余計に綺麗に見える。


 その液体の発生源は、銀騎士の甲冑の中だ。

 甲冑の隙間から際限なく漏れ出ている。

 何をどういう手順で液体を作り出しているかは分からない。

 だが、あれがとても危険なものだと言うのは、見ただけでも理解出来る。


 相対する空駆ける聖馬(ユニコーン)も、戦いの準備は整ったようだ。

 聖馬の周りには、不可視の何かが渦巻いているのが感じられる。

 見えないが、感じることは出来る。

 銀騎士の場合と真逆だ。

 銀騎士は見えるが感じることが出来ない。

 ・・・印象が全く逆だった。

 

 「・・・来る!」


 液体金属が突然急激に4本の剣になった。

 突然の変化。

 その剣が魔王へ向かって投げられた。


 だが、それは届くことはなかった。

 不可視の何かがその攻撃を遮ったのだ。

 ユニコーンが多分、その攻撃を遮ったんだと思う。


 ユニコーンはその場から1歩も動いていない。

 その姿からは余裕を感じられる。


 バチンと銀騎士の周りを漂う突然液体金属が弾けた。

 いきなりだ。

 ・・・何が起こった?


 液体金属は、その後も連続して弾けていく。

 遠距離で何かに攻撃をされているかのようだ。

 銀騎士自体に変化はなく、傷も負っていない。


 銀騎士も液体金属を使ってユニコーンに攻撃を仕掛けるが、それも全て弾けてしまう。

 ・・・あの魔物?の能力だろうか。

 何かは分からない。

 銀騎士の能力同様、とてもやばそうな代物だろうが。


 「ヴッ・・・ヴァアアアアアアアアア!!!!」


 唐突に銀騎士が唸り出す。

 ポポロの叫びと同じ、狂気的な声だ。


 ユニコーンに向かって、一気に接近する。

 ララに匹敵する速さだ。

 よく見ると、液体が背中から微量に噴出されて、加速しているように見える。

 だが、その突進すらも当たる直前で、不可視の力によって弾かれてしまった。


 後方に弾き飛ばされるが、液体を固体にして床に突き刺し、吹っ飛ばされる力を無理矢理押さえ込む。

 しかし、不可視の力は支えにしている金属すらも切断する。

 容赦なく弾かれる銀騎士だが、液体をクッションのように設置して、衝撃を和らげる。


 いつの間にか、空駆ける聖馬(ユニコーン)の四方が無数の金属の剣によって囲まれていた。

 際限なく増殖を続ける液体金属が、背後に溜まっていたのだ。

 気配が感じ取れないので、不意打ちとなるとその脅威は数倍に跳ね上がる。

 無数の剣が分裂して襲い掛かる・・・が、それでも全て弾かれて霧散してしまう。


 ・・・どうやら、不可視の力をバリアのように展開しているみたいだ。

 見たところ結界ではない。

 結界があんな反撃をしているのを見たことがない。

 目を凝らすと、弾かれた直後の液体には無数の斬られたような断面が見られた。

 液体はすぐに他の形状に変化するため、結果として弾かれたように見える。

 液体金属は弾かれたと言うより、斬り飛ばされたと言った方がいいな。

 どっちも手数が多すぎて、目で追うのが精一杯だ。


 銀騎士はユニコーンの上空に、銀のツララをこれでもかと発生させる。

 鋭利で凶悪な刃物の数々。

 それらが雨のように降って襲い掛かる。


 不可視の力はそれを弾く弾く弾く。

 弾きまくっていく。

 弾かれてしまった液体金属は、また周囲に剣を作っていく。

 その間も液体は増殖を続けていた。


 銀の雨が降り注ぐ中、銀騎士は両手を床にバンと乱暴に添える。

 すると、素早く床に液体が広がっていく。

 それは魔王とユニコーン、そしてルフェシヲラの元までやってきて・・・


 突如、ジャキンと床に無数の棘が発生した。

 あまりに速く、そして数が多すぎて一瞬でガラス張りの部屋が銀色に輝く鍾乳洞と化してしまう。

 丸い岩などありはしない。

 そこには鋭い岩以外の岩が存在しなかった。


 「っ・・・」


 俺は守られていた。

 周囲の銀の棘は俺だけを綺麗に避けて生えていた。

 俺に配慮してだろうか。

 銀騎士が暴走していたとしたら、俺は死んでたところだ・・・


 一方の魔王とユニコーンは、空を飛んでいた。

 ルフェシヲラは自身の結界を空中に張って、棘から身を守っている。

 あんな一瞬の攻撃に対処するとは・・・


 俺が呆けている間にも、攻撃は続けられていた。

 鍾乳洞がウネウネと動き出す。

 それは波のようにうねっている。

 棘が1本1本伸びて、全方位から攻撃が魔王の元へと迫る。


 それは、銀の雨を弾いた時と同じように全てが弾かれる。

 だが、棘は根元を中心にして再生速度を急激に上げていた。

 不可視の力は金属を切り裂いて弾いていくが、それに耐える何本かの棘が魔王に迫る。

 

 魔王は剣を抜いていた。

 その剣は能力を打ち消す音を出しながら、迫った銀の棘を無に帰していく。

 あれは・・・魔剣だ。

 しかも、あの形状は見たことがある。


 ・・・縛牢残滅だった。

 液体金属の強力な攻撃を、ドレインの力で吸い取っていく。


 あそこにあったのか!

 まさか魔王が持っているなんて。

 クソ・・・盲点だった。


 魔王は魔剣を使って、不可視の力が打ち損じた銀の攻撃を消滅させていた。

 魔王は魔剣を振りながらも能力を唱える。

 

 「火よ(ケン)火よ(ケン)火よ(ケン)ッッ!!」


 魔王の片手から連続で、比較的小規模の火の玉が弾丸のように発射される。

 それらはあっけなく、液体金属によって阻まれてしまう。

 だが、その動きのせいかは分からないが、魔王に迫る銀の針が数本動きが鈍る。


 「ヒイイィィィィン!!」


 そこを聖馬は狙った。

 不可視の力がその額の美しい角に集中して、大きな歪みを作る。

 今度は肉眼でハッキリ見えた。

 ・・・風の能力だ。


 普通、風で何か物を切ることは出来ない。

 自然界に物を切れる程の旋風は、物理的にも発生しないからだ。

 風の能力は無理矢理それを可能にする。

 その極地を俺は垣間見た。


 聖馬の角の周囲だけ、空気が異常に綺麗に見えた。

 何も不純物の混ざっていない空間。

 ・・・真空だ。


 間髪入れず、空駆ける聖馬(ユニコーン)は銀騎士の方向に首を大振りした。

 それを見て、銀騎士は聖馬と自分の間に分厚い液体の大盾を作り出す。

 素早くそれはパキパキと固まっていく。


 金属を斬る気持ちのいい音が部屋中に響いた。

 風は起きなかった。

 静かに、ただひたすら静かに角を振った方向全てにあった液体金属が真っ二つに斬れていた。

 ・・・その先にいた銀騎士にも、その攻撃は届いていた。


 銀騎士の右腕がポトリと落ちていた。

 空中に張った大盾も意味を成さないのを悟った銀騎士は横へかわそうとしたが、それも間に合わなかったのだ。


 「カッ・・カカ」


 銀騎士が自分の斬れた腕を見て、嫌な音を発する。

 ・・・喜んでいるのか?

 何となくそんな感じがした。


 「!!!」


 次の瞬間、銀の鍾乳洞が全て液体と化した。

 それは大波となって魔王とユニコーンを取り囲み、あっという間に飲み込んでしまう。

 魔王は魔剣を使って何とか阻止しようとするが、全方位からの攻撃には対処が出来ず、結局取り込まれてしまう。

 その液体は魔王と聖馬を飲み込んだ途端、大きな球状へと変化して、どんどん圧縮していく。


 ・・・潰す気だ。

 部屋の半分ほどの大きさだった球状の液体が、半分・・・そしてさらにその半分と体積を減らしていく。

 能力を打ち消す音が中から聞こえてくるが、それもやがてはなくなっていく。

 中から液体金属を消していっても、外から新しい液体が補充されるからだ。


 とんでもなく理不尽な技だった。

 あんなのかわせっこないに決まってる。

 あれは・・・流石にダメか・・・

 俺がそう思った刹那。


 空中に、いつの間にか召喚用の魔石が放り投げられていた。

 銀の大波が、魔王らを取り囲む前に投げられていたのかは分からない。

 しかし、確かにそこには細かい模様が描かれた魔石があった。

 その魔石は急激に光を放つ。

 赤い光を。


 「魔王!?」


 赤い光から現れたのは魔王とユニコーンだった。

 魔剣を右手に持ち、左手に召喚した魔石とは別の魔石を持っている。


 「魔剣か!」


 多分、あの魔剣で転移をして、空中に放り投げた魔石で戻ったんだ。

 きっと左手にあるのは、エネルギーを使い切った魔石だろう。

 魔王の左手にある魔石は、その美しい輝きを失くしていた。


 「うおおお!!」


 空中から落下する勢いで、魔王とユニコーンは特攻していく。

 それと同時に、銀騎士は自身の周囲にあった少ない液体金属を使って剣を作り、魔王に投げていく。

 魔王らの後ろにある球体状の液体は間に合っていない。

 銀騎士の防備は手薄だ。


 聖馬は分かっていたかのように、次々と来る銀の剣を弾いていく。

 例の不可視の力で。

 だが、聖馬の動きは急激に止まってしまう。


 「なにっ!」


 聖馬の足に、銀の液体が絡み付いていた。

 弾いた剣を融解して足にくっつけたのだ。


 「なら、私が行くまでだ!!」


 魔王は聖馬の背から飛び出して、銀騎士に特攻を仕掛ける。

 銀騎士の手元にある液体金属は2本の剣だけだった。

 元々銀騎士が手元に残していた剣の2本。

 液体の残りは聖馬が全て弾いている。


 「うおおおお!!」


 魔王は叫びながら、剣を大きく振りかぶる。

 銀騎士は1本の剣を魔王にブーメランのように投げつける。

 それを見切って魔王はかわす・・・が、さっきの聖馬と同様に形状が変化して足に絡み付こうとする。


 「無駄だ!」


 魔王はそれを予想していたみたいで、難なく鞭のようにしなった液体をかわす。


 「朽ち果てろ!」


 銀騎士の剣と、魔王の魔剣がぶつかり合った。

 高い音が響き、銀騎士の剣が消滅する。


 「カカカ」


 何回か聞いた嫌な音を出しながら、甲冑の形状を変化させる。

 そうだ。

 甲冑にも液体金属が張り付いていたんだった。

 自身の身を守っていた防具の形状が、急に刺々しい針のようになる。

 そうして作られた針達は、魔王へ閃光のようなスピードで伸びる。


 「っつ!!」


 魔王は魔剣を盾のようにして、針を防いでいく。

 だが、その際に若干だが後方へ突き放されてしまう。

 このタイムロスを作り出した銀騎士は、後ろにあった球状の液体を大波に変化させて、魔王を飲み込もうとする。


 「ヒイイィィィィン!!」


 魔王の元へ、空駆ける聖馬(ユニコーン)が駆けつけていた。

 聖馬は銀の大波を破るべく、角に不可視の力を集中させる。

 しかし、波はすぐそこまで迫っていた。

 間に合わない!


 「大いなる守りの壁よ(オセル・マグナス)!」


 魔王は大波に向かって結界を張る。

 大きな結界だ。

 大波の空間と、魔王達のいる空間を結界を使って分断する。

 部屋が結界によって、2つに分かれる程の大きな結界だった。


 なのに、それすらも銀の大波は突き破った。

 あれは液体でもあり固体でもある。

 あんな質量の金属が一気にのしかかったら、半端な結界じゃあ崩されてしまうだろう。

 転移回廊の時の、突貫者(ビックホーン)みたいにはいかない。

 あれは一瞬の力に耐えられればそれでよかったが、銀の大波は継続して力を加えてくる。

 こっちの方が遥かに威力が高い。


 「ぐっ・・・!!」


 魔王と聖馬が飲み込まれる!


 「霊性なる守りの壁よオセル・スピーリトゥス!!」


 ルフェシヲラが向こう側からそう言った。

 途端、魔王らを囲むように丸い結界が出来上がる。

 美しく、強い結界だ。

 結界が出来上がったその時には、魔王と聖馬は大波の中へ消えていた。


 俺にもその余波が襲いかかろうとするが、そこでも綺麗に攻撃を逸らされる。

 かなり目の前で逸らされるので、かなりビビッてしまう。

 

 「うっ・・・」


 苦しく呻くルフェシヲラの声が聞こえた。

 しかも、ピキピキとひび割れたような音が追加でガラスの向こうから聞こえてくる。

 炎の衝撃から部屋を守っていた結界に、大きな亀裂が入ってきていた。

 ルフェシヲラの苦しみの声と共に、そのひびは大きく広がっていく。


 やばいぞ。

 もしかして、結界を張りすぎてるんじゃないのか?

 もし、魔王のために無理矢理結界を作っているんだとしたら・・・


 この銀の大波だ。

 さっきも思ったとおり、半端な結界は作れない。

 つまり・・・


 足元に見える結界にもひびが入ってきた。

 ここは全面ガラス張りだ。

 大量の液体金属も相当な重さだろう。

 そこに、結界を突き破ってきた炎が今まで戦闘の衝撃を耐えてきたガラスに当たったら?


 ・・・きっと割れる。


 パリンッと、何かが割れたような音が大きく聞こえた。

 結界が連鎖でバリバリと割れて崩れていく。

 炎が侵入してくる。

 そして、炎はあっさりと燃えないはずのガラスを燃やし始める

 ・・・結果。


 部屋中のガラスが一気に割れて、俺を含む部屋にいた者全てが空中に放り出された。



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