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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第3章 地獄篇 ラース領ラース街
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45話 騎士と秘書

 〜ララ視点〜


 ・・・ルフェシヲラの戦闘方法を、私は知っている。

 彼女は転移の能力に、結界の能力を組み合わせて使う固有能力・・・限定瞬間移動(テレポート・リミット)を戦闘に使用するのだ。


 まず、転移の陣を自身の体にセットしておく。

 そして、攻撃を反射する壁面を内側に置き換えて結界を作る。

 彼女の準備はそれだけだ。

 たったそれだけだが、他の悪魔には真似の出来ない能力をそこで初めて発揮出来るようになる。

 その環境を使ってどう戦闘するのかと言うと、結界内で短距離の転移を行い、相手の隙を伺いつつ攻撃するというものだ。


 だが、この方法は普通なら実行は出来ない。

 まず1つ。

 それは、出口側の転移の陣をセットする場所が無いということだ。

 自身が持っている携帯出来る規模の転移の陣を使って、転移をするのだが、その時点では出口側の陣を設けていないために、ランダムで転移の射出先が決められてしまう。


 そうすると、どこか一箇所に出口となる転移の陣を設置しなければならないのだが、戦闘中にそんな余裕は無いし、そもそもどこから転移で現れるのかを相手に知られてしまったら、設置した出口側の転移の陣で待ち構えられて、一方的に負けてしまう。


 そして2つ。

 転移中は誰でも意識を失ってしまうので、転移が終わった後の意識の回復には、時間が少々かかってしまうというものだ。

 戦闘中は一瞬の隙が命取りになる。

 そんな中で、1回1回意識を失って戦うことは、普通に考えて出来ないだろう。


 以上の理由で、転移の能力は、基本的に戦闘へ流用出来ない。

 第2、第3チャントを付加した転移の能力である、召喚はまた別だが。


 転移の能力を、テレポートにまで昇華させたのは、純粋な意味で地獄には1人しかいない。

 転移の能力に精通した召喚王ですらが、テレポートまでは習得出来なかったのだ。

 しかし、ルフェシヲラは平然とテレポートを使用する。

 何故かと言うと、彼女の使っている能力は限定的なテレポートだからだ。


 そもそも、テレポートは固有能力の類には含まれず、転移のチャント第4段階で初めて実現する純粋な能力だ。

 対して彼女の扱える転移の付加は、たった1段階まで。

 何故そんな状態でテレポートが使えるのかと言うと、それは結界が能力や直接攻撃を弾く性質を持っていることを利用して、転移で光に運ばれている状態の自分を弾いているからだ。

 熟練した者が使用する上級の結界は、光をも阻む。

 

 光を阻む結界の作成には、第4段階の付加が必要だ。

 物理的には鋼近いと言われる程、破ることが困難な鉄壁。

 死を寄せ付けない守り。

 結界の能力を身に付けた者は数多いが、彼女程結界の能力を極めた悪魔は稀だろう。

 私も結界の使い手だからよく分かる。

 そう・・・彼女は、結界の能力に特化した悪魔だった。


 だが、結界の能力以外には、彼女の特記すべき点はない。

 強いて言えば、結界と相性がいい氷の能力を、第3段階まで強化出来るということくらいか。

 それでも、氷の能力は火の能力に弱い。

 そして、大概の悪魔は火の能力を持っている。

 殆どの者に攻撃を対応されるという理由で、氷の能力は習得を敬遠されがちなのだ。


 だから、彼女は騎士団に入れなかった。

 だが、秘書になれた。

 今は現世へ行ける程に、実力を認められている。


 ・・・私が愛剣を構えると、ルフェシヲラは結界を張った。

 謁見の部屋全体に。


 「・・・貴方と戦うのであれば、私も手加減は出来ません。よろしいですね?」

 「もちろんだ」


 私はその問いに頷く。

 いくら話し合っても、お互いに平行線だというのは分かっている。

 本当なら、そんな問いですらいらない。


 だから、私はルフェシヲラの元へ踏み込んだ。

 彼女に向かって全力で剣を振る。


 ・・・が、剣は空振りに終わった。

 空気を空しく斬るだけに留まる。

 完全にルフェシヲラを捕らえていたはずなのに。

 一瞬にして、その姿を消してしまった。


 「・・・相変わらず速いですね。流石、ダゴラス様の後任を勤めているだけはあります」


 後ろから声がした。

 振り返ると、いつの間にかルフェシヲラが立っていた。


 私は騎士団の中でも、トップクラスの腕力とスピードを持っている。

 それが居合いともなれば、誰よりも速い自信がある。

 その攻撃をかわされると言うこと。

 ・・・これがテレポートか。

 並みの反射速度と身体能力では、まるで攻撃が届かない。


 「では」


 彼女はそう言って、再び姿を消した。

 瞬きをした時には、私の視界から消え失せていた。

 音も無い。

 移動する気配も感じない。

 故に、どこから攻撃がくるかも分からない。


 「っ!!」


 突然背後に気配を感じる。

 私は後ろを振り向かず、そのまま前方へ転がり込んだ。

 ビュッ!と空気が乱れる音が聞こえた。

 恐らく、蹴りの時に出る音だ。

 丁度、私の首があった位置から聞こえた。


 転がり込んだ先から、気配を感じた位置を見てみる。

 だが、そこには誰もいなかった。

 いや・・・いたのだろう。

 また一瞬でテレポートを使用して、移動したと思われる。


 そして、今度は横から気配を感じた。

 すかさずサイドステップでかわす。


 氷が砕ける音がした。

 見てみると、私の立っていた床が凍っていた。

 魔鎧ごしでも冷気を感じる。

 それだけ、その氷が強力な物だということだった。

 だが、そんなことを気にしている暇は無い。


 氷と言うことは、ルフェシヲラは私の動きを止める気でいるらしい。

 それは命までは取らないという意志の表れでもある。

 早く私を無力化して、指揮を取りたいということが伺える。


 今度は真上から気配を感じた。

 次は予め神経を集中していたので、その気配を視認出来る余裕はあった。

 見ると、氷の玉が数発分、私目掛けて降下してきていた。

 その氷よりも奥には、ルフェシヲラがルーンを唱えているのが見える。

 私と目が合うと、また一瞬にして姿を消してしまう。

 姿を消す時、赤い光になって閃光のように消えてしまう姿が確認出来た。


 やはりか・・・

 前へ走って、上から来た氷をかわしていく。


 次は四方から攻撃の気配が感じ取れた。

 またしても氷だった。

 四方から迫る氷を、うまく走って掻い潜る。


 だが、その先からも氷が迫っていた。

 しかも、今度は八方から。

 私は平面でかわすことを諦め、高くジャンプした。


 ジャンプした先にも、あらゆる箇所から氷の玉が襲ってくる。

 上へ上昇しながらも、身をひねってかわしていく。


 攻撃の数は、かわしている間にもどんどん増えていく。

 周囲では、氷の玉を生成する音がいくつも聞こえ始め、室内はギリギリと能力発動音を響かせていた。


 連続で氷の玉が砕けていく。

 攻撃の数は、同時に30発を越えていた。


 一方、私の攻撃出来る機会は限られている。

 相手はテレポートで移動するために、生半可な攻撃速度ではすぐに避けられてしまう。

 テレポートに対応出来る能力を、今すぐ使う必要があった。


 私の着ている魔鎧は、エネルギーを多大に消費する代わりに常時、身体干渉系能力である足と腕の強化の能力を施してくれる魔具だ。

 これのおかげで、ルーンを唱えなくてもエネルギーを込めるだけで、いつでも能力で強化された状態を保てている。

 魔鎧に付加されたチャントは第2段階。

 悪魔の中級騎士レベルだ。

 そんな鎧を着ていても、徐々に氷の数に押され始めてきた。

 やはり、ルフェシヲラが使うこの固有能力は厄介だ。


 転移は莫大なエネルギーを消費するが、それはエネルギーの消費を抑える陣を書き加えることで解決出来る。

 しかし、転移の負担を軽くしようと思えば、転移回廊のような巨大な陣が出来る。

 そこまで大きく書かないと、光の召喚など負担が大きすぎて発動さえしないからだ。

 そう考えることで、行き着く疑問。

 彼女は転移の陣無しで、どうやってその転移に使用する莫大なコストを支払っているのか?


 氷の能力を使いながら転移をするという行為は、いくらエネルギーが莫大にあっても足りるものではない。

 通常、転移の陣を手元に持てるくらい極端に小さくして光を召喚しようものなら、たった1回で自身のエネルギーが枯渇してしまう。

 大地に固定する陣と携帯する陣では、消費するエネルギーの規模が違うのだ。

 しかし、彼女は瞬間的にそれを何回も行っている。

 一体彼女のエネルギー源はどこから来ているのか?

 私には、そのカラクリがよく分からなかった。


 それともう1つ。

 転移中は誰もが意識を失う。

 それは、私や他の悪魔も周知の事実。

 なのに彼女は、意識を失っている気配がまるで無い。


 意識を失うのなら、こんなに隙無く攻撃は出来ないはずだ。

 意識が回復した瞬間に、状況の把握を行わなければいけないからだ。

 どんな達人でも、それを一瞬の内にこなせるとは思えない。

 ・・・ルフェシヲラの戦闘方法は疑問だらけだ。


 彼女の戦闘方法自体は有名だが、その戦闘の仕組みは誰も理解していなかった。

 第3隊長の私も例外ではない。

 それが分かれば、最初から対処しているのだが・・・


 「くっ・・・」


 室内は既に、氷の世界だった。

 執務室全面が氷に覆われている。

 迫ってくる氷の数は数え切れない程になり、今の私の状態ではかわすことすらも困難になってきている。

 さらに、床は氷が張っていて、いちいち足を取られる。

 ・・・劣勢だった。


 「・・・なるほど」


 ルフェシヲラはテレポートを止めて、私に話しかける。

 戦いの最中に話しかけるとは・・・彼女らしからぬ行為だ。


 「終わりましたね」

 「何がだ?」

 「とぼけてもダメです。剣にエネルギーが溜まってますよ」


 彼女はそう言った。

 私と違って、彼女は私の手の内を知っている。

 そして奥の手も。


 「貴方がが本気を出す前にと頑張っていた訳ですが・・・時間切れみたいですね」


 彼女は静かにそう言った。

 私を拘束したいのなら、始めに第4段階のチャントが付加された結界を私の周りに張って閉じ込めれば良い。

 彼女程の使い手ならば、結界を長時間維持しながら、テレパシーで悪魔達に支持を出すことも可能だったろう。

 だが、そうはしなかった。


 私の本質を知っているから。

 私が希少な結界破りの能力持ち・・・吸血鬼と悪魔のハーフだということを知っているから。

 だから彼女は、私を凍らせることで動きを止めようとした。


 だが、時は熟した。

 私は魔剣にエネルギーを送るのを止めた。

 そう・・・私は彼女と戦闘している間、ずっと魔剣にエネルギーを送っていた。


 私の戦闘スタイルは身体能力を強化して、相手に合わせて5属性の自然干渉系能力を魔剣に付加させて倒す。

 結界も張るし、回復して援護も出来る。

 つまりオールラウンダーだ。

 そこから私の戦闘スタイルを変化させる。

 それが私の本気。

 吸血鬼としての私の本気。


 「すまないな・・・私も急がないといけないみたいだから」

 「・・・貴方を止められそうにないのは残念です」


 私が氷を避けきれなかったら、そのまま負けていただろう。

 テレポートの仕組みが分からないまま。


 だが、私が本気を出せれば話は別だ。

 本気を出した私と、結界のエキスパートである彼女の相性は逆転する。


 「その本質を表せ (ウィン)


 バキバキと、私の体から異質な音が聞こえる。

 体質の変化。

 その影響による音だ。


 私の本質は吸血鬼。

 体の変化は一瞬で終わった。


 「・・・久しぶりにララ様のその姿を目にしました」


 私を見て、ルフェシヲラはそう言った。

 私もこの姿になるのは久しぶりだ。

 彼女がそう言うのも無理は無い。

 さて・・・


 「待ってろ、人間」


 変異した肉体を動かしながら、私はあそう言った。

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