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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第3章 地獄篇 ラース領ラース街
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44話 魔王と魔物

 「ガアアアアアァァァァァ!!!!」


 3つの口が私を襲う。

 その動きは隙が無く速い。

 地獄の番犬(ケルベロス)が私の元へ辿り着く前に、私は能力を唱える。


 「簡捷なる俊足を(エオー)


 ルーンを唱えると、足に尋常ならぬ活力が発生した。

 それと引き換えに、心の奥にある何かが削られていく感覚に囚われる。

 能力発動の代償だ。

 

 私は素早く横にステップし、攻撃をかわす。

 だが、隷属の獣犬(ケルベロス)は私とすれ違いになる瞬間、尻尾を横に振ってきた。

 犬の尻尾にしてはだいぶ長く、鞭のように柔軟にしなるその尻尾を。


 ステップの反動を足で吸収し、そのまま下へ屈んで尻尾をかわす。

 屈むのを狙っていたのか、ケルベロスは獣じみたその動きを、巨大な足の筋肉で強制的に中断した。

 ほんの一瞬、巨大な体が止まる。

 そして。


 ドン!!と体ごと、私の方へ体当たりを仕掛けてきた。

 たかが体当たりと舐めてはいけない。

 この巨大な体で、爆発的な瞬発力を持って突っ込まれたら、簡単に死んでしまえる。


 屈んだ状態で、体当たりを横へかわすのは難しい。

 ならば・・・


 私は屈んだ両足に力を入れて、足を蹴った。

 上へ飛んだのだ。

 ケルベロスの体を軽く飛び越す。

 運動エネルギーを足で押さえきれず、その巨大な体は太い木へ衝突した。


 接触した木が折れて吹っ飛ぶ。

 太い木を折った巨大な体の持ち主は、平然と私を見上げていた。


 その鋭い眼光を受け止めながら、重力に身を任せて地面に降り立つ。

 私が地面に着地した、その次の瞬間には3つの頭の内の1つ・・・真ん中の頭の口に、炎が灯っていた。

 

 「ガアアァァァ!!!」


 ケルベロスは叫びと同時に、炎の玉を放つ。

 炎は並みの悪魔が放つ火の能力よりも明らかに大きく、そして速かった。

 単発なら全く問題は無い。

 だが生憎、それは単発ではなかった。


 炎の玉が着弾し、連続で爆発音が響く。

 爆発の衝撃で、当たった地面や木々が粉々になっている。

 あれに当たるわけにはいかない。


 1発目を横にステップしてかわす。

 2発目は下に屈んで回避。

 3発目は体を大きくローリングして、なんとかやり過ごす。

 そして、4発目。


ローリングした先にあった木を盾に、身を隠した。

 流石にこれは、かわしきれるものじゃない。


 そうしてやり過ごしている間にも、ケルベロスは炎の玉を口から放っていた。

 魔物のエネルギーは膨大だ。

 エネルギー切れを期待した戦い方は、魔物相手ではナンセンスだと言える。

 なのに、何故私は攻撃をかわし続けているのか。

 それは私の家族を呼ぶ為だった。

 

 私は神聖種を呼ぶ為の陣が描かれた魔石を、いつも所持している。

 ただ力を込めれば、いつでも召喚転移を使える魔石。

 転移の陣を制御する能力技術を持たない私でも、簡単に召喚と言う高等技術を扱える貴重な召喚用の魔石だ。


 はっきり言って、私の戦闘能力はそんなに高くは無い。

 だから、私には私に代わって攻撃し、守ってくれる味方が必要だった。

 いつでも私を助けてくれる、家族のような存在が。


 だが、家族と言いつつも私の元に呼ぶのは久しぶりだ。

 それこそ呼ぶタイミングを間違えたら、魔物の攻撃が当たってしまいかねない。

 召喚するタイミングは、慎重を期さなければいけなかった。


 私は横に全力で走る。

 相手の隙を伺うのだ。

 ケルベロスは、尚も口から炎の玉を吐き続ける。


 炎の爆発音が激しく響く。

 私に合わせて、炎を射出し続けていた。

 私はそれを振り切る勢いを持って、全速力で走る。

 それに合わせてケルベロスもスピードを上げる。


 ここまではいい。

 問題はこの後だ。


 私は足に全力で力を込めて、静止した。

 足に大きな負担がかかるが、気にしない。


 一方ケルベロスは、その急激な静止に対応しきれず、横の軌道に炎を数発分誤射をした。

 よし!

 ここを狙う!


 「ふっ!!」


 全力を込めて走り出す。

 今度はケルベロスの方向に向かって。

 瞬時に相手の元へ辿り着く。


 ケルベロスの目の前に辿り着くと、相手は炎の玉を口に溜めながら私を待っていた。

 私は恐れずケルベロスの口元までジャンプした。

 ここまで近付ければ、問題は無い。


 眼前には、醜悪な獣の口と、灼熱の炎がある。

 今にも炎はその口から放たれそうだ。


 普通、至近距離で広範囲に爆発するような能力は使わない。

 だが、この魔物は躊躇わずに使うだろう。

 自身が負うダメージよりも、相手が負うダメージの方が多いことを知っているからだ。

 そしてなにより、この魔物には恐怖と言える感情が存在しない。

 召喚王の言いなりなのだからではなく、魔物全般に言える特徴だった。


 ・・・魔物との戦いでは、通常の心理戦は通用しない。

 だから、私はそこを逆手に取ることにした。

 ケルベロスの口の目の前で、私は大声を出した。


 「大いなる守りの壁よ(オセル・マグナス)!」


 灼熱の炎を今にも放とうとしていた口のすぐそばに、透明な壁が作り出される。

 第3段階、マグナス級の結界だ。

 炎の能力でも、簡単に壊されることはないだろう。

 ケルベロスは発射寸前の炎を止めることは出来ず、そのまま吐き出してしまった。


 ボォンと、篭った爆発音が聞こえた。

 結界は至近距離での爆発にギリギリで耐えたが、その後ボロボロと崩れ落ちてしまう。

 まあ、よく耐えた方だろう。


 ケルベロスの方を見る。

 爆発の煙が、森に流れる風で吹き飛ばされる。


 ケルベロスの真ん中の頭は、爆発で吹き飛ばされていた。

 吹き飛ばされた頭は、バラバラに飛び散ったようで、そこら中に頭の肉片が飛び散っていた。

 普通なら、これで死んだと思うところなのだが・・・


 「グルルル・・・」


 唸っていた。

 残った左右の頭の唸り声だ。


 そう。

 奴は3本の頭を破壊しない限り、延々と襲い掛かってくる。

 しかも、相手が強靭な生命力を持っているだけならまだよかった。


 頭が失われた3つの首の1つ。

 そこからジュクジュクと、気持ちの悪い音が聞こえてくる。

 肉と肉がせめぎ合う音。

 その音がどんどん大きくなり、急に肉が盛り上がり始めた。


 再生能力だ。

 ケルベロスの3つの頭は、それぞれ役割を持っている。


 左の頭は守る力、結界の能力。

 真ん中の頭は攻める力、火の能力。

 右の頭は癒す力、治療の能力。


 この魔物は3つの能力を、それぞれ3つの頭で習得している。

 通常の魔物はどんな種でも大概1つしか能力を持ち得ないとされる。

 複数の能力を扱える魔物がいるのなら、それはもう魔物ではなく邪悪種と呼ばれるべきだからだ。


 しかし、今ここにいる魔物は魔物のカテゴリーに入っている。

 何故か?

 それは、この魔物が複数の能力を高い段階で同時に扱えるくせに、固有能力は扱うことが出来ないからだ。


 その原因は、コイツが他の魔物を食らって能力を獲得したのではなく、肉体を強制的に変化させたことに由来するのだが・・・まあ、ここで話すには長い話だから割愛しよう。


 しかも、それだけじゃない。

 3つの頭はそれぞれ独立した意志を持っているため、それぞれが好きなタイミングで能力を発動させることが出来るのだ。


 普通の悪魔や魔物は、能力の同時展開など出来はしない。

 それだけ高い集中力が必要だと言うことだ。


 だが、それぞれ独立した意思をもつ3つの頭部は、その高等技術を分担作業で難なくやってのけてしまう。

 これが、多頭生物の恐ろしいところだ。

 

 守りながら攻撃は当たり前。

 例え怪我を負っても、自分を守りながら怪我を癒すことが出来る。

 接近して戦おうにも、3つの頭によるそれぞれの攻撃で、手数も威力も申し分ない程に強烈だ。

 さらにエネルギーは莫大で、戦闘中のエネルギー切れは期待出来ない。

 正直に言って、強い魔物だった。


 一方私は、戦闘力に関しては通常の兵士よりはマシと言ったところで、俊敏性を上げる能力と結界の能力、そして転移の能力しか通常の能力は使えない。

 チャントだって1番得意な能力である結界を3段階まで引き上げさせるだけのものだ。

 結界の能力は基本中の基本の能力で、チャントの習得も3段階目までは難易度も高くは無い。


 ・・・それではこの魔物は倒せない。

 だから私は呼んだのだ。

 家族を。

 その名を。


 「空駆ける聖馬(ユニコーン)!!」

 名前を呼んだ瞬間、私が予め持っていた魔石から赤い光が輝きだす。

 第2段階のチャントが付加された転移の能力・・・召喚だ。


 私は、赤く輝く魔石を真上に高く放り投げる。

 魔石はどんどん空高く上っていくが、重力に引かれてスピードを緩めていく。

 そうして空中で丁度静止する、その一瞬。

 赤い光が異常な程輝いて、一箇所に収束し始めた。

 光は徐々に形を作っていき、ある生き物のシルエットを思い浮かばせるものに変化していく。


 馬だ。

 光が馬の形に構成されていく。

 それもただの馬ではない。

 額に角が生えた馬だった。


 私の家族。

 代々我が一族を守護してきた者。

 幻想種に近い神聖種。


 「ヒイィィィン!」


 誇り高い声が頭上から聞こえてきた。

 久しぶりに聞くその声は、最後に出会った時と変わらず美しい声だった。

 私は上を見る。


 白い毛並み。

 逞しい四肢。

 長い額の角。

 これが私の家族だった。


 ユニコーンは空中に浮いている。

 その体に翼は生えていない。

 翼なしで浮いていられるのは、聖馬が所持している能力によるものだ。


 「来てくれ!」


 私が呼ぶと、その長い角が生えた頭をこっちの方へ向けてくる。

 神聖種である穢れのない聖馬は声を上げて、こちらの方へ降下してくる。


 優雅な姿を敵に見せつけながら、地上に降りてきた後、ブフンッと鼻息を1つたて、私の元へ歩いてきた。

 魔物の姿を見ても、怖がりもしない。

 自分がこの獰猛な魔物よりも、格上の存在だと自覚しているからだろう。

 それはそうだ。

 いくら強い魔物と言っても、魔物が神聖種に勝てる道理は無い。


 だが、尚もケルベロスは体の再生を続けていた。

 盛り上がっている肉は、最初は不定形だったが、徐々に形を整えていき、ついには元の頭の形を再現する。


 再生の能力は、他の能力よりも発動時間が極端に長い。

 私が、安全に神聖種を召喚出来た理由の1つ。

 もうこの魔物の隙を伺う必要は無い。

 今度はこちらの攻撃だ。


 私の意志が通じたのか、ユニコーンは魔物の方向へ優雅に歩いていく。

 そして、急に角が輝きだしたかと思うと、周囲に風が舞い始める。

 それは意思が込められた危険な風だった。

 癒しにもなりうるが、苦痛にもなりうる風。

 その相手によって性質を変える柔軟性は、まさに自由で気まぐれな風に相応しい。


 そう。

 聖馬は風の使い手だった。

 神聖種の能力。

 それは固有能力と呼ばれ、3つの能力を掛け合わせて作られる超常の力。

 ・・・幽玄の風(ファントムウィンド)

 魔物の放った単純な能力とは、一味も二味も違う強い力。


 ケルベロスはこの異常事態に素早く察知し、口から炎の玉を生成する。

 だが無駄だ。

 もう遅い。

 危険な風は、黒い獣の周りをすでに囲んでいる。


 召喚者でなければ見ることも出来ないその風。

 それは、一瞬でケルベロスの右の頭を切り落としていた。


 ボト、と重いものが土の上に落ちた音が聞こえた。

 あまりに唐突な出来事。

 相手は抵抗も出来ず、普通の生物なら致命傷にもなる一撃を食らわされたのだ。


 空駆ける聖馬(ユニコーン)は魔物からまだ離れた距離にいる。

 それは醜悪な黒い獣に触れる必要も無いのだと、見下しているようにも見える。

 

 頭を切り落とされてから最初に反応したのは、魔物の方だった。

 右の頭を失ったケルベロスは、より一層強い殺気を周囲に放つ。

 別に、痛がっている様子は無い。

 魔物の痛覚は鈍感だ。

 痛みは生きていくために必要不可欠な要素だが、戦うためには邪魔な要素でもある。

 魔物は生きることよりも、戦い、捕食することを優先する生物なのだ。


 そんな戦いに特化した体を持っていても、右の頭を失った。

 圧倒的な初動の差。

 ケルベロスは攻撃するよりも守りに徹することに決めたようで、周囲に結界を張った。

 球体状の結界。

 それを、魔物の体を覆うようにスッポリと入れてしまう。


 恐らく、マグナス級の強度だろう。

 それなりのエネルギーが、その丸い結界から感じ取れる。

 普通の能力では、あれを破壊するのは難しい。

 通常の悪魔が使用する場合、消費エネルギーの問題で、結界を長時間維持するのは難しい。

 だが、魔物のエネルギーは膨大なので、守りに入られたら私では手も足も出せない。

 ・・・私ならばの話だが。


 ユニコーンの角がまた光り輝く。

 それと同時に、結界の周辺から音が聞こえ始めた。

 風の音。

 それも、かまいたちのような鋭い音だ。

 鋭い風が、どんどん強く響いてきたかと思うと・・・


 突如、結界が切り裂かれた。

 地獄の番犬(ケルベロス)の左の頭も、それと同時に切り落とされてしまった。

 結界ごと切られたのだ。

 ボト、と2回目の頭が落ちる音が聞こえた。


 炎の灯っている音が響く。

 ケルベロスは、結界を維持しながらも残った頭で炎の能力を発動していた。


 「ガアアアアアァァァァァ!!!!」


 叫びながら、白馬に向かって炎を放つ。

 しかし、それすらも見えざる能力の前では儚くも消え去ってしまう。

 炎を放ったはいいが、すぐにと空中で鎮火してしまった。


 風は炎を強くする性質がある。

 その性質は、悪魔の扱う固有能力にも応用されている。

 だが、この風は逆に炎を消してしまっていた。


 矛盾。

 その風は、切断音を出しながら、残った最後の頭を斬首した。


 魔物の巨大な体は、斬首に合わせて横へ倒れていく。

 力を失って。

 命を失って。


 魔物の死体を見つめていると、ユニコーンが私のそばに寄ってくる。

 この神聖種・・・本来は非常に獰猛な気質だが、私だけはよく懐く。


 とりあえず、目先の障害は片付けた。

 今すぐにでも、ここを脱出してラース街に向かうべきだろう。


 私は白馬の背に乗る。

 裸馬だが、鞍を付けているよりも乗りやすい。


 白馬は地面を走り出す。

 助走をつけて、徐々に周囲に風を纏っていく。


 軽い衝撃と共に、浮遊感に襲われる。

 空を飛んだのだ。

 空を飛べる程の強い風を起こすには、大量のエネルギーが必要だが、神聖種ならば気にする必要もない。

 これなら、30分もしないうちに壁外に到着するだろう。


 遠くに見える中央執行所の光。

 ここからでも、ギラギラと輝いて見える。


 その輝く光に誘われるかのように、急いで白馬を走らせる。

 だが、その目指すべき街の中心。


 中央執行所から、大きな爆発が丁度見えた。

 

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