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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第16章 煉獄篇 志紀魁人の記憶
223/244

223話 リターン・メモリー25~荒野の町~

 軍人を殺してから翌日。

 現地時間で午後1時。

 俺達は目指していた荒野の町へ到着した。


 車は町の付近に群生していた茂みの中へ隠し、しばらくは放置する。

 見つかったら即廃棄する方針。

 だから車の中に荷物は残さない。


 俺が予想していた通り、この町はならず者が数多くいた。

 普通に犯罪に手を染める者や、違法越境してきた者。

 そして天涯孤独の子供達。

 比較的小さい町ではあったが、負の要素は溜まりに溜まっていた。


 当然の如く、治安状態の悪い町。

 平穏を願う住人達は、大半がもうこの町から出て行ってしまったと思われる。

 心が粗ぶっている者が殆どの光景を見て、彼女は悲しがっていた。

 諦観を混じえながら。


 この町にいる警官は賄賂さえ渡せば何でも許してくれるらしい。

 日本じゃあり得ないこと。

 あそこでは大きな非難を浴びるような行為だ。

 だが、ここでは当たり前のことだった。


 金がないと生きていけない。

 だから金が手に入るのなら大概のことはする。

 何も知らずにこの土地へ来たバックパッカーや観光客などを襲うなんてこともしょっちゅうだった。

 当然、俺達も襲われた。


 しかし、俺からしてみればただの素人集団も同然。

 返り討ちにすることに何の支障もきたさなかった。


 アリアの力を使い、この町では数少ないまともなモーテルへと宿泊する。

 モーテルには鍛えられた警備員が複数いた。

 銃の所持こそしていないが、あれならならず者がこっちへ来ても大丈夫だろうと判断する。


 窓は鉄格子がついており、外部から襲撃者が来ても侵入も出来ない。

 カギは三重についていて、開閉がいちいち大変だった。


 また、この町では停電なんてこともしばしばあった。

 水道の水は濾過しないと飲めたものではなく、ベットには南京虫がいそうな気配。

 衛生的に十分とは言えず、そこは色々工夫した。


 停電の時にはソーラーバッテリーで。

 ベットは使わず持参のシュラフを使い、一晩二晩と過ごす。


 町には子供達がいて、外でよくゲームをやっていた。

 純粋そうな子供達だ。

 こんな土地でも、逞しく生きている。

 そこに生きるという力強さを感じざるおえない。


 子供達も俺達のことをまともな人間だと思ったのか、ゲームによく誘ってくる。

 こんな土地でも出来るゲームと言えば、サッカーくらいのものだった。

 数年は使ったであろうボロボロのボールを蹴って、外で言葉もなしに遊ぶ。

 そう、ただ遊ぶだけなら言葉なんていらない。

 人間を隔てる言葉の壁は、純粋さの前では無力も同然だった。


 数は少ないが、子供の中には体を売ったり、労働させられたり、家庭内暴力を受けている子もいた。

 家庭内の事情を俺達は正さない。

 それぞれの生きる事情があるからだ。

 違法なことでも、生きる為にはやらなければいけないこともある。

 現代人には理解の出来ないこと。

 現実を直接見て、経験しなければ分からないこと。

 本当の貧困がそこにはあった。


 ただ、飢え死にしそうな子供達には食料をひっそりとあげた。

 1回そんな偽善活動を行うと、後々連鎖してしまうものだ。

 いつの間にか子供達に食料を分配するという習慣がついてしまった。

 慕ってくる子供達。

 それを見て、人を殺すことよりも罪悪感を感じた。


 また、たまにやってくる観光客がいたりもした。

 ソイツらを俺達は助けなかった。

 他所の土地へ足を踏み入れるということは、覚悟を持たなければいけない。

 自然界では、相手のテリトリーに入るということは、死を覚悟することと同じだ。

 人間の社会でも、それに似たようなことはあるはずだ。

 だから、若い女性がレイプされても助けなかった。

 全部、自己責任。

 海外ではそうなのだ。

 身を守る力すらないのなら、いっそ自分のテリトリーにいればいい。

 個人の人権など、ここには存在しないのだから。


 身を隠す日々が続く。

 テレビなどの情報では、行方不明となった人民解放軍のメンバーが発見されたことを報道していた。

 みんな、俺が殺したであろう人間だった。

 今現在は調査中だという。


 軍人が殺されることは、テロやゲリラ以外では滅多にない。

 この辺はそんな思想を持った組織はいない。

 武装すらままならない一介の悪者ばかりだ。

 国も本腰を入れて調査するとのことだった。


 近いうち、ここにも調査の手が及ぶだろう。

 そうなったら、ここを逃げなければいけない。

 ・・・助けた子供達のことが心配だった。


 再び罪悪感。

 どうせ、貧困に苦しんでいる子供を10人20人その場しのぎで助けたところで、意味なんてないのに。

 国のシステムが変わり、貧困がなくならない限り、子供達は苦しみ続けるのに。


 そうだ。

 人間は貧困だから、暴力的になる。

 生きようとするからだ。

 この世界では、他の人間を蹴落とさないと、まず自分が死んでしまう。

 数少ない食料は、毎日の奪い合い。

 弱い者はおこぼれにもあずかれない。

 だから、強くあらねばいけない。

 そうして治安は悪くなる。

 当たり前の悪循環。


 今、純粋さを保っている子供達はいずれ犯罪者になるか死ぬかの2択を迫られるだろう。

 或いは他の道へ行く子供もいるかもだが、それは極少数。

 才能を持った1部の子供達だけだった。


 前に5歳にも満たない子供が乱暴されているのを見て、衝動的に助けてしまった。

 それ以来、町の子供達からは英雄のような扱いを受けてしまう。

 そして、噂は広がっていくものだ。


 よそ者が珍しく長期間滞在している。

 その事実は国の耳にも入る。

 こうやって愚かな偽善者は自身の身を危険に晒していくのだろう。


 酒場では町の住人の貧困も他所に、薬物の売買が平然と行われていた。

 法律的には限定的ではあるが、薬物を接種していい国はある。

 ドラッグ類を目にすることは珍しいことじゃない。

 貧富の差は一目瞭然だった。


 でも、1つ許せないことがある。

 子供に薬物を摂取させることだ。

 子供はまだ耐性が出来ていない。

 そんな状態で静脈注射を打つ馬鹿がいた。


 結果、子供は中毒で死亡。

 死にざまは哀れだった。

 失禁し、腕には何十本もの注射跡が残る。

 表情は快楽の極みを思わせる歪んだもの。

 涎まで垂らしている。

 しかも、全裸で。

 下半身は使い古されたおもちゃのように壊されていた。

 グチャグチャに。


 これを悲しいと思うか?

 あってはならないことだと思うか?

 なら、こっちに来てみればいい。

 そんな中途半端な感情を持っている弱い人間から、食い殺される。

 俺は・・・半ば諦めている。

 中途半端な覚悟より、諦めることの方が英断と思われることの方が世の中には多い。

 少なくとも、ここは。


 そうなのだ。

 ここは外国。

 日本とは、違う世界。

 今もきっと笑いながら、俺と同年代の若者達は恋人や職場の仲間と笑いあっているのだろう。

 この世界の事実を理解しないで。


 彼らにとって、ここはテレビの向こう側の世界だ。

 なんの関係もない。

 無力感が全身を支配する。

 今、この時だけは人間という種に対して本気で嫌悪するしかなかった。

 そして、嫌悪するだけで何も出来ない。

 こんな自分も大っ嫌いだった。


 ますます偽善的な活動に身を入れる。

 罪を打ち消したいが為に。

 実際には、罪は二重に増えていた。

 それでも、子供達を助けたいと思う気持ちは強くなる。


 何をあげたら子供達は喜ぶだろう?

 食料?

 娯楽品?

 遊び相手?

 ・・・どれも違う。


 みんな、本当は飢えていた。

 親の情に。


 俺とアリアも貰えなかったもの。

 無償の奉仕。

 母性。

 父性。

 総じて、愛だった。


 ここの子供達はみんな、親から邪魔者扱いされて生きている。

 愛情が足りていない。

 愛に飢えていた。

 飢餓状態なのだ。


 親は自身が生きる為に精一杯で。

 子供が体を売る世界なのに、親が体を売らない訳がない。

 それでも、報酬は満足のいくものではなく。

 ストレスも溜まるだろう。

 それが原因で、子供達はいくつものアザを作っていた。


 濃密な日常だと思った。

 けど、それはたった2週間の内に起こったことだと知ると、俺は愕然としたのだった。



 ---



 町の住人が噂をしていた。

 ここにたどり着いた流れ者が、軍人殺しをしたのだと。

 町の人間の検討はついていた。


 情報は流出。

 今晩にでも、俺達を確保しようとする連中が来るに違いない。

 アリアも確信を持っていた。


 「・・・ただいま」


 俺は宿に戻る。

 時刻は夕方。


 「車、どうだった?」

 「いじられた形跡はなかった。動物がいたような跡もなし。恐らく誰にも隠した車は見つかってないと思う」


 宿で待っていたアリアにそう答えた。

 俺が行っていた所は装甲車を隠した場所だ。

 この宿は比較的安全だから、短時間彼女を1人にしておける。


 「今晩、出発しよう。町の人間が誰も外をうろついてない。子供もだ。多分、誰かがここに来る」

 「チェックアウトは?」

 「したらダメ。そんなことしたら逃げたってばれるし。夜逃げだな」

 「・・・ここにはお世話になったから、お金ぐらいは置いていきたいな」

 「いいよ。それは俺も考えてた」


 こんな時にもそう思えるのは、日本人の性なのだろうか?

 数少ない美徳だと思った。


 「じゃあ、子供達にお別れはしないのね」

 「しない方がいい。子供にも迷惑かかるだろうから」

 「・・・そうね」


 悲しいことだ。

 だけど、仕方のないことでもある。

 俺達は元々ここの住人じゃない。

 いつかはここを出ていかなければいけない。

 最初から決まっていたことだ。


 「・・・荷物をまとめよう」

 「ここに足のつく物は残せないわね」

 「忘れ物とかするなよ」

 「大丈夫。私だって捕まりたくないから」


 彼女はこれが命懸けだってしっかり受け止めている。

 だからこそ、子供のことを思うと嘆いてしまう。

 そう先日は言っていた。


 「・・・辛いね」

 「そうだな。有意義なことなんて、恵まれてる人しか享受されないものだもんな」

 「でも、物資が豊かな国でも自殺者は多いわ。それこそ、この国の犠牲者とそんなに変わらない数よ」

 「・・・辛いな」


 悲観するしかなかった。

 個人が世の中を変えられることはない。

 昔は違ったかもしれない。

 でも、今は事情が違う。

 複雑な情勢が、人間の生き方を、心情を複雑なものにしてしまった。

 これは個人でどうこう出来る問題じゃない。

 地球に住む、人間の心が根本から変わらなきゃこの時代は変わらない。

 つまり、実質こうした悲しい事態を根絶するのは99.9パーセント不可能ってことだ。

 0に限りなく近いと言っていい。

 ・・・人の心をどうにかしない限りは。


 「ある意味、アモールの教えは正しい気がしたよ」

 「私は・・・最初から間違ってるとは思ってないわ。個人的にはあの考え方に賛同する気はないけど」

 「人間の考えは、全部等しく正しいし、全部等しく間違ってる・・・だったな」


 俺とアリアの意見だ。


 「そもそも、何が間違ってて何が正しいなんてことはこの世に存在しなかったものよ。知性が勝手に区別したんだもの」

 「・・・でも、そうすることでしか生きられない。そうしないとうまく折り合いをつけられないから」

 「だから人間は嫌いよ」

 「俺もだ」


 ・・・人間が嫌いであれば、何故子供を救いたいと思ったのか?

 今はこのことに気付けなかった。


 ・・・もう少しで、俺はそのことを知る出来事に直面することになる。

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