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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第2章 地獄篇 ラース領辺境
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22話 悪魔の生活14~ベットの上の昼食~

 ダゴラスさんが退室してから1時間後。

 目の前にはテーブルが。

 テーブルの上には食事が。

 食事の隣にはマリアさんが座っていた。

 

 ダゴラスさんもスー君も、この場にはいない。

 スー君はまだ遊びに行ったきり帰って来ていないし、ダゴラスさんは寝室で安静にしている。


 ダゴラスさん・・・この部屋に来て俺に謝ろうとしたのはいいが、だいぶ無理をしていたらしい。

 本来なら立って歩くのもまだ困難だと言うことだった。

 ・・・無理をしていたとは気付かなかった。

 自分の仕事に自信を持っていたのだろうから、悔しい気持ちでいっぱいだったろう。

 ダゴラスさんの方が傷は深いのだから、ゆっくり安静にして欲しい。


 俺は俺でベットから動くことを禁じられ、ここで食事を取ることになった。

 動くと言ったらトイレに行く時ぐらいか。

 さすがにシモの方まで世話になる気は毛頭ない。

 そんなことになったら俺は今度こそ死ねるぞ。

 まあ、もう死んでいるんだけど。


 「これ、うまいですね」


 ベットに腰掛けながら料理を食べているのだが、相変わらずおいしい。

 舌がとろけそうなんて馬鹿な表現だなと思っていたが、撤回しよう。

 舌がとろけそうだ。


 「でしょ?自信作なのよ」

 「なんて料理なんですか、これ」

 「スカランジボのスープとフルナ漬けの肉よ」

 「・・・」


 そうだった。

 名前がまず分からない。

 訳の分からない料理の名前が、前の朝食の時にも出てきてたな。

 聞いたって分からないだろうに、何で聞いてしまったのか。


 「って言ったって分からないでしょうね」

 「・・・すいません」

 「謝ることじゃないのよ。これから覚えればいいんだし」

 「覚えれますかね」

 「覚えるべきなんじゃないかしら。地獄で生きていくのなら」


 地獄で生きていく。

 俺は天国に行かなきゃならんみたいだから、地獄に定住することはないだろう。

 今の状況だって一時的なものだ。

 いつかは出て行かなきゃいけない。

 そう考えると、こんな細かいことを覚えなくても別にいいのかもしれない。


 けど、何が起こるか分からないのが世の中だ。

 森の中でも、ダゴラスさんの予想に反して死にかけた。

 どんなくだらない知識でも、役立つ時はきっとどこかで来るはずだ。

 だからこれは覚える必要が無い、だなんて俺は言わない。

 ・・・別に料理がくだらないって言ってる訳じゃないからな。


 「スープの方は1回朝食で食べたでしょ?これは地獄で取れる野菜を使ってて、お肉の方はあなたとダゴラスが狩ってきた二尾サルの肉なのよ」

 「これが二尾サルの肉?」


 おお・・・

 まさかの狩りで仕留めた生き物だったとは。

 そう思うと何だか嬉しくなる。

 現世じゃあどこで取れたかろくに分からない肉が、加工された状態で世に出回るからあんまり生き物の肉という感じはしない。


 生き物は生き物で、肉は肉だと思っている節が現世の人間にはある。

 だが、そんな認識も自分が目にした生き物の肉ということであれば、一気に吹っ飛ぶものだ。

 そんな人間には味わえない貴重な思いを、俺は今実感しているのだった。

 まあ、普通の人間だったら忌避感を覚えそうなものだが。


 「そうだ!言うことがあったんだったわ」

 

 マリアさんは、閃いたかのように俺に言う。

 何だろうか?


 「君が言ってた門について、魔王に詳しく聞きたいって頼みがあったわよね」

 

 前の朝食の時に言っていたことだな。

 それは覚えてる。

 自分の目的を忘れるほど俺は馬鹿じゃない。

 ・・・馬鹿でないと思いたい。


 「今日の朝、OKもらったのよ」

 「もらえたんですか!」

 「ええ、丁度一週間後に空きがあるから、その日に来いですって」


 一週間後といえば・・・


 「ジャストタイミングで俺が家を出れる日ですね」

 「そうよ、よかったじゃない」

 「本当にありがたいです」

 「いえいえ、これも怪我させたお詫びだと思って頂戴」

 「マリアさんもそれ、言っちゃいますか」

 「そんな大仰なものじゃないからいいでしょ?元々魔王様の件は頼むってことだったし」


 まあ、素直にそう受け取っておこう。


 「これで先の道がまた見えてきた気がします」

 「君の今後の予定も決まったんだし、早く食事食べちゃいなさい。私もここで見てるから」

 「ダゴラスさんの方はいいんですか?行かなくて」

 「ダゴラスは多分ずっと寝てると思うわ。明日の朝まで目が覚めないんじゃないかしら」

 「・・・余程疲れてたんですかね?」

 「能力の使いすぎが大きいわね。調子に乗って即興で書いた陣を使うから・・・まあ、同じく一週間もすれば元通りだろうけど。君が気にすることは無いわよ」


 気にもしますよ。

 出会ってから全然時間が立っていないとはいえ、一緒に死線を乗り越えたんだから。

 そんなことを考えながら、スープを口に運ぶ。

 うまいね。


 食事をしながらの会話は行儀が悪いが、このまま無言なのもアレなので聞きたいことを聞いてしまうか。

 この家の大黒柱であるダゴラスさんが、あれだけ口の中のものをまき散らしながら話していたのだ。

 この家はそういった行為に寛大なんだろう。

 そう考えて口を開く。


 「マリアさんは能力を使って、疲れたりとかしなかったんですか?」


 マリアさんも、ダゴラスさんと俺の治療に能力を使ったはずだ。

 それなりに疲弊していると思うのが当然だろう。

 ましてや、腕や足をくっつけたり生やしたりしたのだ。

 尋常じゃない疲労が蓄積しているのでなかろうか?


 「私って意外と凄い悪魔なのよ?時間こそそれなりにかかるけど、そんなに疲れないわ。ただ、二人共ほっといたら死んじゃうぐらい弱ってたから、物凄く早く処置したけどね」

 「てことは、マリアさんは俺の命の恩人ってことでいいんですかね?」

 「元々君の命を危険に晒したのはこっちなんだからいいのよ。むしろ処置するのが当然なんだから」

 

 ありがたいことだ。

 名前通りの性格してるよな。

 マリアさん・・・


 今更なんだが、悪魔なのに聖母の名前を取るのは違和感があるなと一瞬思ってしまう。

 いや、中身が慈愛に溢れているんだからいいだろう。

 何事も中身さ、中身。

 能力も治療系を使うみたいだし。


 「ダゴラスの方の傷は比較的大丈夫だったけど、君は重傷だったからそれは急いだわよ」

 「そっか。ダゴラスさんの足の出血が無かったのはそういうことだったんですね・・・」

 

 森の中で木に頭をぶつけて気絶したダゴラスさん。

 頭部と足からの出血。


 「悪魔の体って本当に頑丈ですね」

 「逆に現世の生き物が脆いんだって悪魔側は考えてるわよ。これも育った環境の違いかしらね」

 

 同じ地球に住む者たちですら、海を隔たれていただけで異なる文化を築いているからな・・・

 ましてやここは地獄。

 様々な面で違いが出るのは当然と言える。


 それにしても、異なる文化か・・・

 俺はあることを思い出す。


 「そういえば、聞きたいことがあったんでした」

 「何?」

 「いえ、大したことじゃないんですけど、クリスマスツリーがあるじゃないですか・・・この部屋」


 マリアさんの近くには、俺が最初に見た時と同じままのクリスマスツリーが立っている。

 現世のクリスマスで見られるような物だ。


 「地獄でもクリスマスってあるんですか?」


 何気に気になっていたことである。

 最初にこれを見た時は、最初に目が覚めた赤い夜だったな。

 外も寒いし、今の時期は地獄のクリスマスなんだろうか?とか頭の隅に疑問として残っていたことだ。

 だからこの際聞いてしまおうと思った訳だ。


 「ええ、あるわよ」

 「おお・・・やっぱりあるんですね、クリスマス」

 「現世でも、クリスマスってあるでしょ?」

 「ありますね」


 現世にあるからクリスマスを俺は知っている。

 確か現世では、クリスマスはキリストの降誕を祝う行事だったはずだが・・・


 「この行事も地獄から現世に伝えられた事の1つなのよ。悪魔が勝手に悪事を働くために伝えたことなの」

 「ええ!」

 

 かなり衝撃的な事実だった。

 軽く聞いたつもりだったのに。

 クリスマスが元々地獄の行事だって信者のお方が聞いたらどんな反応をするのか・・・

 見てみたい気もする。


 「じゃあキリストって地獄にいたんですか?」

 「いえ、イエス自身はこの世界の住人ではないけど、大昔に一回地獄に来たっていう言い伝えがあるの」

 「キリストも元々は人間だから?」

 「ん・・・どういう意味?」


 あっ、マリアさんは地獄に全員人間が落ちるってことを知らないんだっけ。

 それはダゴラスさんが、今まで地獄で人間を1人しか見ていないって矛盾でよく分かってたことだ。

 ・・・この場合、どういう風に言えばいいんだろうか。


 「何で地獄にキリストが来たんですかね?」


 ちょっと遠まわしに言ってみる。

 

 「私もそれは分からないの。あくまで言い伝えだし」

 「・・・」


 現世でも言い伝えというのは、いい加減な例がかなりある。

 起源がはっきりしないものだったり、そもそもその言い伝えが真っ赤な嘘だったり。

 でも、言い伝えを聞いた一般の人達は、そんなこと気にしない。


 例えば、町で行われる祭りなんかに参加している人達に、この祭りの起源は?と聞かれて分からないと言う人が殆どなのがいい証拠だ。

 そんなことは、主催者や関係者以外どうだっていいのだ。

 結果として主催者は、その時代の風習に合わせた祭りに内容を変えて行ったりして、自分の都合のいいように変えていく。

 大概そこには金が絡んでいるものだ。

 古くからの歴史を重んじて、祭りをそのままの形で残していくなんて希な話だからな。


 時が経ち、言い伝えを勝手に人が改変し、人が起源を忘れ、文献すら残らなかったとしてもその言い伝えは続いていく。

 言い伝えなんて、そんなものだ。

 地獄の祭りに金が絡むのかどうかは分からないけどな。

 まあこれ以上マリアさんに聞いたって、分かるものでもないだろう。


 だが、キリストが一回死んで地獄に落ちたのだとしたら、その後どうしたのだろう。

 現世では、一回キリストは生き返った。

 そして神様になった。

 人は、地獄に落ちたら天国へと続く門に行かなければいけない・・・

 ・・・これって繋がるかもしれない。


 天国に行くってそういうことなのか?

 今のところ想像でしかないが、そうなのかもしれない。

 まあこれだって今考えても仕方ないことなんだけども。

 なんたって俺は、地獄から這い出すための門すら見つけていないのだから。

 

 「あっ、そうだ。もう一つ伝えとくことがあったんだわ」


 唐突にマリアさんは言い出す。


 「他に何かあるんですか?」

 「魔王様のことなんだけどね、魔王様に会う時に条件を出されたのよ」

 「条件・・・ですか」

 

 魔王の話か。

 それも条件とな。

 どういう意図で条件を出したかで、かなり印象が変わるな。

 何の条件かにもよる。

 まあ聞いてからの判断か。


 「まず1つ目、私とダゴラスは魔王様との立会いに同伴しないわ」

 「えっ、むしろ同伴するつもりだったんですか?」


 魔王の下まで案内してもらえたら、その後は1人で何とかするつもりだったんだが。

 ついてきてくれるつもりだったのか・・・


 「あら、ダメだった?」

 「いえ、そう言う訳じゃないですけど・・・」


 あまりにありがたすぎて。

 あまりに優しすぎて、自然と遠慮してしまう。

 魔王を訪ねて家を出た、その後のことも世話になるという前提が俺にはまず無かった。


 「まあなんにせよ、1人で魔王様に会うことになるわね。理由は分からないけど」

 「いつもは違うんですか?」

 「ええ。同伴するのなら好きにしていいのだけれど・・・どういう訳か、今回は1人ね」


 俺が人間だからだろうか?

 分からない。


 「・・・魔王はどこにいるんですか?」

 「普段は街の中央にある建物にいるのよ。中央執行所って言うんだけど」


 執行所か・・・

 何を執行するんだろうな。

 

 「街はかなり広いから、私が魔王様の所まで案内するわ、って言いたいところなんだけど・・・」

 「・・・案内無しですか?」


 別に俺はそれでもいいが、街でかなり時間を食いそうだな。

 オロオロ迷って悪魔に道を尋ねる俺が想像できる。

 かなり情けない姿だ。


 「それが、街へ行く時は転移を使えということなの」


 ああ・・・そういうことね。


 「それなら迷わず一直線ですもんね」

 「普通はこんなこと無いんだけど・・・まあ私も行けるとこまで付いていくわ」

 

 マリアさんはそう言った。

 何だろう。

 魔王の意図がよく分からない。

 何がしたいんだろうか?一体。


 「まあ、魔王の考えなんて悪魔の能力でも読めるものじゃないから。それに、魔王様も悪い悪魔ではないから大丈夫よ!」

 「マリアさんがそう言うんだったらそうなんでしょうね」


 魔王のカウンセラーやってたみたいだし、魔王についての誤解はあんまり無いと信じたい。

 それにしても、専属のカウンセラーにすら考えを読ませないとか凄いな。


 と、ここで料理を入れた皿からカラン、と音が聞こえた。

 料理を全て食べ終えたのだ。

 話をしながら食べると言っても、そんなに時間はかからない。

 料理の量が少なめだからだ。

 ベットから動けもしないのに、バクバク食ってもアレだからな。

 これはマリアさんの配慮だろう。


 「ごちそうさまでした。」

 「お粗末さまでした!」

 「全部きれいに食べたわね。スーとは大違い」

 「そりゃあ全部おいしいですから。逆に残したくなんかないですよ」


 スー君はいつもは料理を残すのか。

 俺といる時はそんなこと無かったんだが・・・

 と言うか、スー君とは大違いって、俺が何歳だと思ってるんですか。

 多分成人超えてますよ、俺。

 詳しい年齢は思い出せないけど。


 「それじゃあ私は食器洗ったり、家事したりするから。用がある時は呼んでね」

 「ええ、分かりました」


 そう言うと、マリアさんは満足そうな顔をして子供部屋から出て行った。

 俺の食べ終えた食器を持って。


 ドアが閉じる音が聞こえる。

 目の前を見てみると、相変わらず暖炉の中から火が燃えていて、部屋の中を暖かくしている。

 ほっこり至福の一時を堪能する。

 こういう静かな感じって地獄に来てからあんまり無かったからな。

 やっと落ち着けるって感じがする。


 部屋の奥からは、食器を洗う音が聞こえてくる。

 マリアさんの歌声もだ。

 相変わらず綺麗な声を出している。


 音を聞く以外にすることが何も無い。

 暇だ。

 でも、こんなのも悪くない。


 心地いいね。

 血みどろの戦いを見た後だと、この時間がいかに幸せなものなのかがよく分かる。

 静かに過ごせる時間があるのなら、出来るだけその時間を受け入れたほうがいいのだ。

 生き物としての自然体を引き出せるのは、静かな空間だけなのだから。

 静かな空間でしか、真に癒されることは無いのだから。

 

 だから、マリアさんの歌声を気持ちよく清聴しながら、俺は怠惰にも眠りに入ることにした。



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