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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第16章 煉獄篇 志紀魁人の記憶
215/244

215話 リターン・メモリー17~離反の時~

 射撃、A+。

 それが俺達の訓練における射撃成績の結果。

 D、C、B、Aとランクが上がっていき、最上がA。

 俺と小林は最高得点にボーナス付き。


 撃ち抜ける対象は空き缶から上下左右立体的に動くサルまで、幅広い。

 殆ど外すことなく命中させる自信がある。

 が、目の前の誘拐犯に向けて何度撃っても当たらない。

 まるで魔法のように。


 ・・・弾の軌道を読まれている。

 火線を見切り、巧みに木々を使い身を隠し、迅速に俺達へ接近してくる。

 凄腕だ。

 数秒もしないうちに肉迫された。


 2人とも大型ナイフを取り出す。

 こちらからは攻めない。


 テクニカルな手さばきで敵を翻弄する流れ。

 2対1だ。

 慌てないでいい。

 そう判断した小林は甘かった。


 相手の背中には・・・真剣が背負われていた。

 太刀だ。

 大よそ現代の闘争には似つかわしくない昔の得物。

 銃に刀が勝てる道理はない。

 ただし、使い手によるが。


 敵はいつ刀を抜いたかも分からない速度で抜刀した。

 刀が消えたように振られる。

 小林の銃が人差し指ごと切断された。

 一瞬の出来事。

 俺の目にはハッキリ映っていた。

 一切無駄のない動作で刀が扱われる過程を。


 「なっ!?」


 痛みがやってくるであろう時の前に小林の腹が掌打で埋まる。

 粘性の液体を口からこぼしながら小林は木に叩き付けられた。

 ・・・意識消失。

 戦闘不能。

 殺気が俺に向けられる。


 バックステップはしない。

 相手の方が少しだけ速いからだ。

 距離を詰める。


 刀は長い。

 いつだか教官殿から教わったことを思い出す。

 脚力さえ見合っていれば、リーチの長い得物を持った敵の懐は1番の安全地帯となる。

 恐れず迷わず教官殿を信じた。


 迫る刃に返す刃も避ける。

 頬が銀線に接触し血が流れる。

 切断の恐怖。

 銃を突きつけられるよりも刀やナイフをあてられる方が心理的恐怖は大きい。

 それだけ刃物は日常的に使われ、危険度が理解されている武器だからだ。

 こういう恐怖は慣れで克服するしかない。

 俺はその条件をクリアしていた。


 反射神経と強化された動体視力を駆使して敵の傍まで接近する。

 俺はナイフで喉を水平に切り付けようとする。

 刀が進行方向に表れてそれを邪魔した。

 ・・・受け止められる。


 そう俺は予想したが、実際は違った。

 ナイフの刃が刀に両断された。


 「っ!?」


 ありえない・・・とまでは言えなかった。

 刀ならば、あるいは可能なのかもしれない。

 何か特殊な塗料が塗られている?

 それとも奴の実力?


 様々な思考がスローモーション化された時の中でグルグル回る。

 だが敵は待ってくれなかった。

 刀の乱れ斬り。

 だいぶ深く踏み込んだお陰で、敵は刀を振りにくそうにしている。

 この優位性を崩すのはナンセンスと言える。

 考えるのは後にしてナイフを捨てた。


 通常なら出番のない体術を、まさに今使う時だった。

 猛打。

 それに近い表現が出来る拳を突き出していく。

 でも、敵の体には当たらない。

 手数ではこっちの方が多いはずだが、それでも刀によるけん制の為か本来より狙える箇所が少ない。

 たちまち攻防はひっくり返った。


 刀が俺の頭を縦に割ろうと襲い掛かる。

 死ぬ気で横に逃れた。

 せっかく詰めた距離が開く。


 敵は刀の使い方が上手い。

 熟知している。

 だから至近からの正攻法は自殺行為だと判断した。


 転がった際に拾った拳大の石を投げつける。

 刀で真っ二つにされた。

 敵の視界が一瞬だけ塞がる。

 ここで俺は仕掛けた。


 腰に差してあった2丁目の拳銃を構える。

 セーフティーを外してトリガーを引いた。

 障害物は近くに存在しない。

 避けられるタイミングでもない。

 動かない的を撃って当てる。

 それぐらい簡単な流れ作業。


 「・・・」


 敵がニヤッと不敵に笑った気がした。

 充足感が満ちているような表情。

 まるで江藤さんと戦っている時みたいに、敵の体がブレる。

 刀が音を置き去りにして縦に振られた。


 キィンと鉄の弾ける音が遅れて聞こえた。

 跳弾に似た音。

 ・・・弾が切られた?

 そんな馬鹿な。


 2度3度とトリガーを引く。

 刀が指の動きと同時に動き出し、振られた直後に鉄の弾ける音が響く。

 やばい。

 コイツはやばい。

 直感的にそう思った。


 今度こそ近付いたら殺される。

 そんな確信がある。

 絶対的上位者。

 それは社会的にも野性的にも存在する。

 敵は明らかに俺より戦闘に特化した人間だった。


 こういう格上と戦うには犠牲が必要になる。

 それを俺は訓練の中で学んだ

 もう知っている。

 俺はここで何かを失わなければいけない。


 本能が叫ぶ。

 自己保身の為に。

 だが、理性でそれを押さえつける。

 理性が恐怖を凌駕した。


 敵へ特攻を仕掛けるようにダッシュした。

 潔い行動に感心したのか、より不気味に敵は笑う。


 異常者。

 社会的に満足のいく充足を得られない化け物。

 そういうものが殺しの世界に入ってくることはままある。

 コイツはその類だ。

 そういう奴に限って恐怖がない。

 逆に楽しむ。

 そんな奴とは戦いたくないが、何せアリアの為だ。

 ・・・腕の1本ぐらい捨ててやる。


 俺は左腕を刀を防ぐようにあげる。

 敵の手腕なら、刀で左腕ごと俺の命を持っていくだろう。

 予期した未来が実現に向けて、加速する。

 刀が予想通り、左腕に向かって振り下ろされた。


 長袖から表皮を切り裂き、肉へと刀身が侵入する。

 危険信号を発し、俺の血は空気に触れる。

 正直激痛がする。

 痛い。

 だが、それでも確信があった。

 俺の腕は斬られない。


 「むぅ!!??」


 刀が左腕の中間部分から止まっていた。

 反対の手には光る石が握られている。

 俺の両腕は、強い自身の願いに準じて鉄のような硬さを得ていた。

 何とか切断までとは至らなかったようで、少し安心する。


 刀による痛みとは別の激痛が俺の両腕に走る。

 通常じゃ考えられない肉体の変化。

 それはついに肉体に悲鳴をあげさせる程度には到達したみたいだった。


 痛みを堪えて左腕を振るう。

 合わせて刀が横へ飛んでいった。

 今度こそ敵から余裕の笑みが消える。


 俺は渾身の力で殴打を繰り出す。

 必死の形相で敵は拳をガードしていく。


 強化された俺の両腕は全力の殴打でも脱臼すらしない頑強さを得ていた。

 硬い拳で殴られた敵の腕は内出血を起こす。

 たまらず敵は後退した。


 バックしながら、捨てられたワゴンで身に着けたであろう自動拳銃を引き抜く。

 そして撃った。

 しかし腕のダメージが残っていたのか、衝撃で軌道がズレる。

 最初の1発目は俺の右耳を貫通した。

 痛みを無視して敵を追う。

 銃弾が飛ぶが移動しながらの俺には当たらない。

 が、俺は見落としていた。

 敵のすぐ後ろには落ちた刀が地面に突き刺さっていることを。


 敵は素早くそれを拾い、構える。

 俺の直進は慣性の法則に従い止まらない。

 止めきれない。

 ・・・真正面から殺りあうしかない。

 危険な賭けだった。


 お互いに構える。

 敵はもう俺の両腕を無効化しようとは思わないだろう。

 両腕以外の部位で、切断による致死性を発揮する箇所。

 ・・・分からない。


 ああ、俺は死んでしまうのだろうか?

 死ぬ前から死を容認してしまうという異常性。

 俺だけじゃどうしようもない展開。


 敵の殺気に体が触れる。

 勘を頼りに喉を両腕で守るが、全くの見当外れ。

 敵の狙いは俺の胴体だった。


 上半身と下半身を切り離されて、苦悶の表情で失血死する自身の姿がイメージに浮かぶ。

 死の幻想を受け入れようとした・・・その時。


 銃声が鳴り、敵の体勢が崩れる。

 遠方から木の幹に座り込みながら銃を撃つ小林の姿が見えた。

 死の幻視が一気に遠のく。

 敵はわき腹を損傷したようで、攻撃の構えが解かれる。


 「おおおおおおお!!!!!」


 そのまま俺は突っ込んだ。

 ショルダータックルで敵の胸へあてる。

 俺諸共敵は吹っ飛び、それぞれ地面に転がった。


 「ちっ!!!」


 だが敵はまだ活力があるようで、呼吸を乱しながら立ち上がる。

 俺も踏ん張って立ち上がった。


 「・・・やるな。お前のこと、覚えておいてやる」


 捨て台詞を残し、アリアを置いて敵は逃亡を図る。

 追いかけてやりたいが・・・今はすべきことがある。

 アリアと小林だ。

 あの手傷では、もう戻ってはこないだろう。

 2人に意識を向けることに専念する。


 まずはアリアの元へ駆け寄ってズタ袋を脱がす。

 汗ばんだ顔で、口を塞がれた彼女の顔が露わになった。

 口に張られたガムテープをはがし、安否を確認する。


 「・・・大丈夫か?」

 「平気。助けに来てくれてありがと」

 「当たり前だ。旅に出るんだからな。死なれちゃ困る」


 それを聞いてフフフと彼女が笑った。

 どこにも外傷は見当たらない。

 これなら大丈夫だろう。


 「ここで待ってろ。小林を見てくる」


 そう言って立ち上がるとする。

 だが、彼女は座ったまま俺の手を掴んだ。


 「・・・どうした?」

 「行っちゃダメ」

 「どうして?」

 「これは・・・多分、運命だと思うの。神様のお導き」

 「何がだよ」


 疑問。

 彼女は何を言っている?

 少しの間無言が続く。


 「このまま私と・・・逃げて」


 ・・・彼女の言いたいことがそれだけで分かった。


 「アモールから逃げ出せる、千載一遇の好機だって言いたいのか?」

 「うん。私、あのアモールの教会から直接抜け出せる自信、なかったの」

 「・・・」


 確かに。

 あの教会からアリアを連れて逃亡するのは至難の技だ。

 彼女は俺と違って24時間体制で監視されている。

 俺がもし彼女を連れ出そうとするなら、アモールの連中が許さない。

 桜井さんも、江藤さんも、小林も、同期の仲間も。

 心の支えを奪った者として、俺を殺すだろう。

 いくら俺でも江藤さん達を振り切って逃亡することは難しい。


 だが考えてみろ。

 ここには負傷した小林の姿しかない。

 上空にいるヘリからの追跡もこの森林地帯なら逃れられる。

 ・・・偶然にしては出来すぎている。


 「あの人、私が時雨さんにお願いして出てきてもらった人」

 「・・・仲間?」

 「私達の」

 「・・・」


 それが本当だとしたら・・・


 「さっき、お互いに殺す気だったんだけど」

 「佐々木琥太郎さん。君や私と同じ、力の使い手。彼、もっと本気出せたと思う」

 「・・・まじか」


 アリアの顔を見る。

 その表情は真剣だった。

 知ってる。

 こういう時の顔は本当に真面目な会話をしている時だ。


 「・・・決断の時なのよ。私達が自由を手にすることの出来る、最後のチャンス」

 「俺は・・・ここで選ばなきゃいけないのか?」

 「そう」


 言われて戸惑う。

 こんなに急展開な話になるとは。

 アモールは確かに異常ではある。

 だけど、そこにいる人間は本当に悪い奴らじゃないんだ。

 ただ心が弱くて、互いに支えあっているだけ。

 気の良い連中だ。


 今まで俺を指導してくれた江藤さん。

 親友とも呼べる小林。

 俺を外の地獄から連れ出してくれた桜井さん。

 みんなを俺は裏切ることになる。


 前々から覚悟しようと思っていたこと。

 それでも躊躇ってしまう。

 裏切ることにも覚悟がいる。

 裏切ったことに対して責任を持たなければいけない。

 なにせ、みんなの大切な存在を奪うことになるのだから。


 「俺は・・・」

 「選んで。私を取るか、アモールのみんなを取るか」

 「・・・」


 どっちを取っても裏切り。

 人生は過酷だ。

 犠牲を強いる道しか先に用意してくれない。

 だけど・・・その先にこそ可能性がある気がする。


 生命の根幹。

 それは、人生を進むことで見えてくるものなのだろうか?

 楽な道で見えるものだとは思わない。

 ただ、真実を知りたいのであれば、そこは確実な苦の道を進むことになるのだろう。

 闘争でも、犠牲にすることがあったからこそ、俺自身が見えたことがある。


 ・・・今こそ、彼女との責任を・・・約束を取る時だった。


 「行くよ」


 覚悟の言葉。

 俺は選ぶ

 全てを捨てて、次なる新しい可能性を求める旅へ。

 神様が祝福してくれているような、そんな気がした。


 「でも、1つだけ・・・小林の手当てをしたいんだ。いいか?」

 「うん」


 迷うことなくアリアはそう返してくれた。

 俺の何と甘いこと。

 それを彼女は許容してくれる。

 だから、彼女についていく覚悟が一層強くなった。


 俺は小林の元へ歩いていく。

 すぐ近くに意識が朦朧としている彼の姿があった。

 今の会話、聞こえてただろうな。


 「・・・お前」

 「ごめん、お前が聞いてた通りだ。俺、アモールを離れることにするよ」

 「・・・裏切るんだな?」


 心にグサリと言葉の刃が刺さる。

 それはとても鋭利で、痛い。

 これはしばらくの間、抜けそうもない。


 「前々からアリアと決めてたことなんだ」

 「・・・ああ」

 「殺したかったら追ってくるといい。その時は正々堂々相手するよ」

 「・・・」


 何も答えが返ってこない。

 それが俺を著しく不安にさせる。


 「なんで裏切るんだ?」

 「・・・え?」

 「アモールは住みやすかっただろ?外の連中とは違う。俺達はずっとあそこで暮らしてていいんだぞ?なのに、なんでわざわざ離れる必要がある」


 それは・・・


 「人間、だからかな」

 「・・・分かんねえよ」

 「俺もよく分からない。したいからするってんじゃダメか?」

 「勝手すぎだ。そんなに離れたいんだったらアリア様を置いて行けよ」

 「彼女が誘ってきたんだ」


 その言葉を聞いて小林は絶句する。

 信じられないと。


 「・・・だったら、地球の代弁者ってなんだよ。アモールを見捨てるような奴に俺は・・・仕えてたのか?」

 「違う。見捨ててなんかいない」

 「でも逃げるんだろ?見捨てるのと同じじゃんか」

 「・・・俺は命の本来の姿を知りたいんだ。なんで、この世に生命が生まれて人間が生まれたのか。どうして俺達は生き続けるのか」

 「・・・勝手だよ。俺は・・・このままの生活がいい。何も知らなくていいから、お前と仕事して、仲間と語って、それだけでいいんだ。それだけで満足なんだ」

 「本当に、ごめん」


 俺は治療をすべく、小林に近寄る。


 「触るな」


 怒気を込めた拒否だった。


 「・・・親友だったんだ。俺達は。でも、裏切った」

 「言い訳はしない」

 「今だけは・・・見逃す。けど、次は容赦しない。仕事をしっかりとこなす」

 「・・・」


 本当なら、このまま小林を殺すべきなんだろう。

 だけど、それは出来ない。

 俺は結局のところ甘い。

 覚悟が足りていない。


 「分かった」


 俺は立ち上がる。

 もう仲間として小林を見ることはないだろう。

 悲しい。

 が、俺はそれを全て飲み込む。


 小林が発見され次第俺達は狙われる。

 アリアは大丈夫だとしても、俺は確実に・・・


 「・・・親友として一言最後に言っておく」


 小林が掠れ声で俺に言う。

 泣きながら。


 「・・・今までありがとう」


 泣きそうになる。

 決定的な決別。


 人生は残酷だ。

 だけど、まだ生きなくちゃいけない。

 死ぬ訳にはいかない。

 アリアが・・・生きている間は。


 「こちらこそ、今までありがとう」


 俺は背を向ける。

 たった今、俺は家族を裏切ったのだ。


 過酷な道が、目の前に見えた気がした。

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