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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第16章 煉獄篇 志紀魁人の記憶
214/244

214話 リターン・メモリー16~代弁者の奪還~

 犯人の乗った車はすぐに見つかった。

 世界に散らばる代弁者の1人・・・イギリスの聖女が千里眼持ちなのだという。

 目の役割を持った少女によると、関東180番19-23-6あたりの幹線道路を西に進んでいるという。

 車のナンバーは△△△ー△△△△。


 指示通りに車で移動すると、すぐに発見。

 黒のワゴン。

 一般道で重火器は使えない。

 大変腹立たしいことではあるが、しばらく追跡するしかないだろう。

 まだ誘拐犯には追跡している車がいることは気付かれていない。

 車で移動する以上、目的地もあるだろう。

 万が一ラッシュに巻き込まれた時の措置として、ヘリを上空に用意していた。

 監視モニター班。

 これで見逃すことはないだろう。


 「・・・で、車のナンバーは割ってるのか?」


 追跡中の車内で運転手に向かって質問する小林。

 その顔は俺と同様焦っているようにも思える。

 代弁者はアモールの心の拠り所だ。

 少なくとも、希望の家出身の暗殺者はみんな彼女に恩を抱いている。

 気が気でない様子。


 「どうやらダミーのようですね」

 「・・・背後関係、それなりだろうな」

 「どうでしょう?単独犯の可能性は捨てきれませんが?」

 「まあ、つけてみれば分かるだろ」


 淡々とした会話。

 その中に恐ろしいまでの執念が混ざっている。


 会話で心の中の状態を把握することはたやすい。

 カウンセラーにも通じることだ。

 俺は特に、人の心理状態を声から判断するのには慣れている。

 外の世界で外交的に一般人と接してきた結果だ。

 そして小林達の感情は、憎しみと怒りが大半を占めていた。


 「・・・小銃を用意しておけ。サブレッサー装着。万が一警察に見られても良いように偽装するように」


 暗殺は殆どの場合密室で行われる。

 法律に触れるようなことは、人の目に触れてはいけない。

 ただ、今回は外だ。

 思うように戦闘手段を講じられない。

 もしかしたら、誘拐犯はそのことを分かっているのか?

 だが・・・


 小林の指示通り小型ピストルにサブレッサーを装着する。

 元からサブレッサーが一体化されているインテグラルタイプなら楽なんだが、中々日本国内に持ち込めないのが現状だ。

 コピー機で量産する予定ではいるらしいが、今は取り外し可能なマズルタイプの使用が一般的だ。


 まあ、サブレッサー・・・消音装置と言っても、発射音による高音域を減らすことで発射位置を隠蔽したり、銃声ではないと誤認させる程度しか効果は発揮してくれない。

 こんな街中で打ったら、それこそ問題になる。

 もし一般人や警官に目撃されてももみ消しは可能だが、暗殺者としての経歴は傷つくだろう。

 ここの暗殺者はそれを良しとしない。


 「それにしても、どんどん街の中心地から離れていくな」


 俺の疑問が小林の耳に入ったようだ。

 顔をこっちに向けて口を開く。


 「丁度、森がある方角だな」

 「・・・確か深いよな、その森」

 「国有林・・・立ち入り禁止区域だ」


 日本の国土面積の約7割は森林。

 そして、この森林の約3割を占めているのが国有林と呼ばれる森林地帯だ。

 一応、立ち入り禁止の看板が立っている。

 だが、厳重に管理されている訳でもない。

 そこで犯罪を起こそうとする馬鹿はいないからだ。

 せいぜいが投棄に金がかかる物を不法投棄しようとするアホだけだ。


 「・・・県外に逃げるなら別の一般道を使うと思うが・・・」

 「森でかく乱する気か?」

 「あそこは狭い林道が続くんだぞ?俺達が両側から挟んだらいい話じゃないか」

 「それを予想しない奴なのか?護衛を4人も殺害したような手練れなんだぞ?暗殺者なら逃走用の経路を把握しておくのは定石中の定石。何かおかしくないか?」

 「・・・分からん」

 「何か、罠があるのかもしれない。待ち伏せとかもありえるんじゃないのか?」

 「ヘリで確認しようにも木々が邪魔でロストしそうだ」

 「目の聖女は?」

 「力を使うと消耗するんだ。ましてや国外・・・イタリアだぞ?多用は出来ない」


 不安が募る。

 外での暗殺経験は皆無に近い。

 せいぜい遠距離から予定されていたゾーンで対象を打ち抜くぐらいだ。

 だが、今の状況だとそれも無理だ。


 「まさか、女を担いで森で行方をくらますなんてことはありませんよね?」


 冗談っぽく運転手が発言する。

 ・・・やけにそれが真実味を帯びていて、嫌な予感がした。



 ---



 嫌な予感が的中した。

 俺達の予想通り、誘拐犯は国有林地帯へ車を移動。

 当然こちらも追跡した。


 流石にここで車をつけていたらばれるだろう。

 けど、それでもいい。

 林道で挟み撃ちにして、誘拐犯とアリアを確保する手筈だった。

 が、俺達が見たのは乗り捨てられたワゴンだけ。

 ・・・逃げられたのだ。


 誘拐犯は体重40キロの女性1人を抱えて森の中に消えたようだった。

 森の地形は高低差が激しく、登山家や冒険者でも容易には走れない。

 ・・・ここの地形での逃亡を前提としていたとしか考えられない。

 本気で誘拐犯は森で姿をくらます気らしい。


 上空からの監視は役に立たないだろう。

 俺達の視界からワゴンが消えた秒数は15秒。

 その間彼女を背負って目視不可能の距離を走ったと思われる。

 普通なら、考えられない身体能力。

 ・・・同僚かと思わせる手際の良さだった。


 車内には火薬が残されていた。

 どれも猟銃の弾丸ではなく、国内には持ち込めないオートマチック専用の弾丸だった。

 ・・・裏に何らかの組織がいることがこれで濃厚になった。

 そして、誘拐犯は今も武装していることも。


 「追跡したら、死傷者が出るかもな」


 乗り捨てられたワゴンを見て、小林が呟く。

 ここに来た暗殺者はみんな死ぬことを覚悟して集まっている。

 俺達が死んでも問題はないことになってるし。

 ただ、暗殺者が死んで追跡不可能になるのはマズイ。


 「生存者は必ず必要だな」


 俺はそう言って周りに集まっているメンバーを見る。

 俺と小林のアタッカー2人、サポーターの運転手1人、諜報部員2人、計5人。

 運動能力で言えば、確実に俺と小林がダントツだ。


 「追跡は俺と小林の2人、残りは役割に沿って教会と連絡。俺達の報告から判断して各自動いてくれ」

 「はい、了解です」


 俺の言葉に従って、サポーターと諜報部員が各自行動を開始する。

 迅速で優秀な対応だ。

 俺達も動かなければいけない。


 「・・・俺達2人が追跡に失敗したら、確実にアウトだな」

 「絶対桜井さんはそんなこと許さないだろうな」

 「場合によっては殺されるかもしれないぜ?」


 これ、冗談じゃないから嫌だ。

 失敗した暗殺者はトラウマを新しく持ってしまった者が多い。

 代弁者であるアリアの洗礼は1回までだから、精神的な治療を施すことも出来ない。

 もし俺達が正常な精神を保持して帰還したとしても、桜井さんは上記の判断を下すだろう。

 ・・・用済みの道具として。

 彼は粘つくほどのアモール信者だ。

 アモールの精神的支柱が失われることは許されないと思ってる。


 「・・・頑張るだけだ。最善の努力をしてから、最悪の事態を語ろう」


 そう。

 結局のところ、根性論一択。

 世界は厳しいし理不尽だ。

 それに対抗する為には、尋常じゃない精神力が必要になる。

 俺達には、それが求められていた。

 暗殺者になる前も、今この時も。

 虐げられて鍛えられた活力を、この状況で発揮出来ないでどうする?


 俺には似つかわしくないポジティヴな考え方。

 表情にそんな気配を感じ取ったのだろう。

 やれやれと小林が呆れていた。


 「んじゃ、行こうか」

 「おう、志紀に遅れないようせいぜい頑張るよ」


 そして、俺と小林は森の中へ消える。

 一息でトップスピードへ。

 木の根を飛び越え、躓くことなく直進していく。


 誘拐犯の通った道は荒れていた。

 強い脚力を使って駆けたであろう足跡が、不自然に残っている。


 女1人を背負って余裕がないんだろう。

 相手はこっちの立場を知っている。

 ・・・俺達が暗殺者であることを知っているのだ。


 この足跡のフィールドサイン・・・ブラフかもしれない。

 足跡は固い岩の上を選定して走れば消せる。

 走りながらでは困難である場合が多いが、訓練されているならそれも可能。

 わざわざ追跡されるような要素を足跡として純粋に残したりするだろうか?

 その推測を強くするように、周りには岩肌が目立つ。

 どうだろう?


 それとも、余程俺達に追いつかれない自信があるのか?

 そう思っていてくれたらありがたいんだが・・・

 希望的観測に過ぎないが、まあ考慮しておこう。


 周りの障害物を俺は流麗にかわしながら進む。

 下を見ながら前を見るという作業は何ら困難ではない。

 それを実現出来る動体視力と認識能力さえ備わっていればいい。

 そのレベルには十分達している。


 ある程度進むと、足跡がなくなっていた。

 完全に。


 「・・・多分、途中から追跡者が現れたことを感知したな」

 「俺はどこから足跡がなくなったのかさえ判然としないよ。志紀、お前の判断に任せる」

 「うーん」


 この森で移動を行うなら必ず痕跡は残るものだ。

 ただ、高速で移動しなければいけない場合、それを見落とすことはある。

 今までは目立つ足跡だったから追跡できたが、これでは徒歩でしか見抜けない。

 ・・・使うしかないか。


 「・・・」


 俺は無言で光る石をポケットから掴み取る。

 非常用だ。

 小林が興味深そうに覗くが、コイツにはただの石ころにしか見えていない筈だ。

 この石が特別だと見抜けるのは全世界でごく少数。

 俺はまた、ズルをしなければいけないようだ。

 今度は、人の理から外れなければいけない程に。


 「・・・どうするんだ?」

 「ちょっと考えてるから待ってくれ」

 「分かった」


 小林の即答。

 それだけ信頼があるってことだ。

 この関係は出来るだけ維持しておきたい。

 期待に応えなくちゃな。


 目を閉じて石を握りこむ。

 石との繋がりを見つける。

 石にはエネルギーめいた暖かいオーロラが流れている。

 それを取り込むことによって、俺は欲しい力を手に出来る。


 感じる。

 俺に異物が流れてくるのが。

 無機なる力は俺の心の奥に繋がって、少しずつ犯していく。

 人間性を奪われていく。


 共有とは名ばかりの、人間性の綱引き。

 俺が俺でなくなる感触は、正直言って気味悪い。

 記憶喪失になっていく過程が自分でも自覚出来たら、最悪だと思うだろ?

 今、そんな気分だ。


 力の吸収が終わる。

 今回は目に力の焦点を充てた。

 なら、さらに物がよく見える筈だ。

 目を開ける。

 そこは別世界だった。


 視覚から伝わる情報がこんなに高密度だったなんてと思い知らされる。

 木の葉一枚からの揺らぎがクッキリと映る。

 脳の処理が追い付かないのか、頭痛がしてくる。

 視界が明瞭すぎるのだ。


 恐ろしいまでの情報は目に毒だ。

 ありとあらゆるものを許容出来る感じ。


 空気は毒だった。

 酸素と呼ばれる気体がそうだ。

 生物は適応して酸素から必要エネルギーを抽出することを体で学んだ。

 空気の揺らぎがそのことを教えてくれる。

 俺は今、毒を吸ってここに立っている。

 石からのエネルギーも似たようなものだった。

 毒を置換して力に変えている。


 「・・・見える」


 大幅に引き上げられた視力は、誘拐犯の痕跡を逃さなかった。

 岩に残る土の汚れ。

 ・・・不自然だ。

 動物のマーキングでもあるまい。

 俺は人間の性質をまた捨ててしまっていた。


 「・・・志紀、大丈夫か?」

 「ああ、平気。足跡が分かったよ。ここから北西に移動してる」

 「・・・山岳地帯だな。硬い土も多い」

 「気付かれずにルートを変更するならうってつけだな」

 「急がないと」

 「行こう」


 また走る。

 力が漲る。

 もっとギアを上げられそうだが、小林はこれで限界だ。

 動物で言えば、中型犬に匹敵する移動速度。

 人間としては非常識な速さだ。

 世界記録も塗り替えられるだろう。


 走りながら痕跡の見落としを防ぐ。

 誘拐犯は相当な腕立ちものらしい。

 未だに前方から気配を感じない。

 ハンディキャップを背負っていながらここまで痕跡を残さず移動出来ることは、それだけで称賛に値する。


 「ん・・・」


 少し進行すると、生き物の気配がした。

 そして嗅ぎ慣れた匂い。

 ・・・いる。

 彼女が。


 「小林、もう少しで接触する。準備しておけ」

 「了解」


 小林は走りながら銃を構える。

 弾丸は装填済み。

 いつでも人間を殺傷出来る。


 「生け捕りの事、忘れるなよ?」

 「言われなくても分かってる」


 ・・・どうだか。

 まあいい。

 まずはやってみてからだ。


 「見えた」


 前方に、ズタ袋を被せられた女性を担いだ成人男性1人を発見した。

 もの凄い隙がなさそうな感じ。

 多分、無傷じゃすまない。

 後方から迫る気配を察知したのか、前方にいる誘拐犯が止まる。


 「・・・」


 男は無言だった。

 狩人の目をギラギラ輝かせて、俺らを見ている。

 ・・・計ってるのか?


 「今すぐ女性を解放して両手をあげろ」


 小林の要求はすぐに飲まれた。

 女性・・・アリアを木の傍に横たわらせて、両手をあげる。

 ・・・それがいけなかった。


 「あぶない!!」


 小林を突き飛ばす。

 男の隠し持っていた銃が、手をあげると同時に火を吹く。

 絶妙な死角に隠された武器。

 見抜けたのは異常な視力を有していたからに過ぎない。


 「・・・テメー」


 男はあれま、と少し驚いたような顔をしていた。

 明らかに自分が格上だと思い込んでいるような顔。

 それが小林に火をつけた。


 「・・・」

 「・・・」


 俺と小林は無言の殺意を男に向ける。

 闘争の渦がその場に巻き始める。


 ・・・敵と味方の銃声が同時に響き渡った。

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