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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第16章 煉獄篇 志紀魁人の記憶
212/244

212話 リターン・メモリー14~目標の達成~

 月明かりが強い夜。

 数十回に及ぶ2年がかりの強盗行為。

 やっと、目標金額まで到達した。


 旅の資金だ。

 パスポートは5年のものを上手く作ってくれているらしい。

 順調だ。

 ああ・・・ここまで長かった。

 これまで教会での生活に耐えてきた俺にご褒美をあげたいくらいだ。


 俺の所属している組織は秘匿性が高い。

 そんな場所の中でさらに隠し事をすると、意外にこういった裏の企みはバレない。

 自身が嘘を吐いていることを自覚し警戒する者は、他者の嘘を意外と意識しない。

 特に代弁者であるアリアと成績トップの俺は、アモールへ嘘を吐くメリットもないと判断されて、ノーマークだ。


 「と、言う訳で貯まったな、お金」

 「総額1千万だね。ウハウハだね」


 アリアが自室でウハウハしていた。

 貯めた金をシャワーのように浴びるごっこをしている。

 こんな様子は珍しい。

 そして俺も気分はウハウハだ。

 大金持ちの気分。

 だけど、本当の大金持ちから言わせてみればこんなのポケットマネーみたいなものなんだろうな。


 ・・・いかんな。

 せっかくの楽しい気分が台無しだ。

 目標を達成した日くらい、何も考えず愚かになっても構わないだろう。

 だって、人間だもの。


 「でもま、数年したら使い切りそうな金額だけどな」

 「きっとどこかで働けるよ」

 「訳アリの人間を雇ってくれる所なんてあるのか?」

 「日本は日雇いとかあるでしょ?海外でもパスポートを見せれば何とか働かしてくれるんじゃないかな?」

 「日本と海外の雇用事情を一緒にするなよ・・・って言っても殆ど同じか?でもいずれにせよ違法なんだろうな」

 「警察に捕まらなければ大丈夫じゃない?」


 どうだろう?

 海外で出自に拘るのは外国人が出入りする空港だけだったりする。

 だから1回降りてしまえば、よほど無茶をしない限りは大丈夫・・・らしい。

 カナダからの旅行客に聞いた話だからなぁ。

 信憑性は薄い。

 本人の顔をうかがう限り嘘は言っていないと確信を持てるけど、その人が嘘を吐いたつもりがないだけかもしれない。


 有用な情報を聞いたとしても、勘違いって結構あるものだ。

 また、人によって印象が違うこともしばしば。

 するとどうだろう?

 人によって言っていることがバラバラだったりするのだ。

 

 と言うか過激な発言をするな、アリアは。

 人を殺してる俺が違法がどうのと言えた立場じゃないが。


 「働くとしても、肉体労働とか誰でも出来るものになっちゃいそうだな」

 「それかいっそのこと、自給自足にしてみる?」

 「自作農園か?」

 「そう、それそれ」

 「定住でもする気か?」

 「お金が足りなくなったら、必然的にそういう生活にならない?」

 「うーん・・・」


 何か、話の方向性を間違えている気がする。

 俺達は海外で生活するために旅に出るのだろうか?

 ・・・いいや、違う。


 「なあ?」

 「なに?魁人君」

 「お前が旅に出たいのってそういうことだったの?」

 「・・・へ?」

 「いやさ、お前と一緒に人生ドロップアウト的な旅をしに行くのかと思ってたからさ」


 今でも人は嫌いだ。

 外国でもそれは変わらないだろう。

 この日本という環境に嫌気がさしている訳じゃなく、本質的に人間が嫌いだ。

 だから、人の社会に積極的に関わろうとする彼女を見ると、疎外感を感じる。


 ハズレ者。

 そう自分で自己評価を下してしまう。

 それが空しかった。

 ましてや、彼女にそう思わされてしまうと。


 「うん、人生捨てる気満々だよ~」

 「でも、働くんだろ?」

 「・・・ああ、そっか」


 彼女は納得した表情をする。

 ニコッと太陽みたいな笑顔に切り替わった。


 「働こうって言ったのはあくまで移動の為だよ。移動ってお金がかかりそうじゃない?」

 「・・・そういう意味か」

 「そ。別にお金があればなんだっていいんだ。と言うか、旅が出来きるならお金もいらない。君と一緒にいられるだけできっと楽しいよ」

 「・・・破滅的なこと言ってるくせに、すごい明るいよな。でも、すごくいいよ、ソレ」

 「でしょ?」


 普通日本人は安定を求めたがる。

 人生に保険をかけたがるのだ。


 安心感を得たい為。

 老後の為。

 息子娘の為。

 ま、色々だ。

 

 そしてそんな無難な道はきっと、大した充足感を得られない。

 小さな幸せの中で生きていきたい人はそれでも十分なんだろうが、俺は違う。

 閉じた世界に可能性を見いだせない。

 俺は・・・新しい可能性を見たい。


 人類の平和とか戦争とか、善とか悪とか、平穏とか過激とかそんなのは興味がなく。

 別の・・・もっと違った生命の在り方を見つけたい。

 なんで、人は生きているのかを知りたい。

 種としての存在理由を知りたい。

 そう思うからこそ、この世界は陰鬱で閉塞感が漂っていてどうしようもない。


 「逃亡の決行日は?」

 「まだ決まってない。パスポートを手配してくれてる人待ちなのよ」

 「ソイツって一体誰なんだ?」


 ここ2年間の謎。

 あえて聞かなかったが、どうも気になる。


 「実際に会えばきっと分かるよ」

 「会う機会なんてあるのか?」

 「うん。直接取りに来いってさ」

 「どこへ?」

 「アモール日本東京支部へ」


 やっぱアモール関連の知り合いか。

 さらに身分証明書の偽造なんてことが出来る奴・・・は日本国内じゃ多くない。

 だいぶ限られてくるはずだ。

 何らかのコネクションは持っているような気がする。


 「連絡が来るまでちょっと待ってて」

 「別にいいけど・・・準備だけはしておくか」

 「支度品は用意出来ないよね」

 「そんなことしたらバレるな。何か日用品を買いたいなら逃亡先で買うしかないな」


 アリアの場合、色々と入用の物もあるだろう。

 女の子のブルーデイに使うアレとか。

 対して男は楽でいい。

 いつでも身1つで移動が出来る。


 「現金は口座には入れておかないのか?」

 「キャッシュはキャッシュでいいんだよ」

 「クレカにしておいたらいちいち現地の金に替えなくて便利じゃないか?」

 「両替出来る先進的な都市には出来るだけ行かないつもりだよ。人が少ない場所の方がいいもん。それは君だって同じでしょ?」


 ・・・その通りだった。

 そもそも、住所不定者がどうやってクレカの審査に通るんだ?

 さらに言うと、口座だって作れやしない。

 俺達には不便が多すぎる。 


 社会は色々と便利に作られているが、それを享受する人間は実は選ばれている。

 ゴミのような路上生活をしている人間は、十分な福祉や仕事を得られない。

 サポートもしてもらえない。

 自業自得だと思う人もいるだろう。

 そこから同情心に駆られる者もいる。

 だが実は、そのどれもが路上生活者にとってはどうでもいいことだ。


 人生の価値あることを知っている人は、現在不幸な境遇だと思える状況真っ只中の人間だけだ。

 過去に失敗や挫折をして後に成功した人間は、いずれ失敗した出来事自体を忘れずとも、失敗の本質は忘れてしまう。

 忘却の彼方だ。

 そして、その記憶はまた人生のどん底に突き落とされるまで蘇りはしない。

 そういう状態が人間にとって毒であること。

 それを恐れて普通の安定した生活を望むこと。

 路上生活者や社会地位を捨てた者は、それが愚かなことを知っている。


 社会的に便利じゃない境遇でしか気付けないこともある。

 一般人には理解されにくい考え方だ。

 ただ、俺は偏った正義感や合理的思考には容易く感染されたくはない。

 もちろん、犯罪者の言い分にも。

 と言うか、人の考え方はどれもこれもが愚かしい。


 正義?

 悪?

 中立?

 全部、自分の都合だ。

 気持ちが悪い。

 そこには自分の都合しか存在しないのだ。


 そんな社会に関わるなんて、もう耐えられない。

 暗殺者としても、旅人としても。

 俺は出来ることなら、人という立場を捨てたい。

 だが、現実問題人は人以外の何者でもない。

 であれば、せめて俺は・・・


 「まあいいや。じゃあ現金所持でそれ以外は何も持たず逃走。詳しい日程はそのアモールの協力者からの連絡待ちでいいんだな?」

 「うん。信頼出来る人だから安心して」

 「人間の心を読めるお前に、嘘なんか吐ける人間はいないだろ」


 人間の心が読めることも彼女の力だ。

 嘘は吐けない。

 本心からの会話が必要だ。

 打算ありきではこの教会でやっていけない。


 そして、みんなの本心はこうだ。

 みんな、人間なんて死ねばいいのに。

 醜く呻く、憎しみや悲しみの感情。

 そういった方向性が統一されているからこそ、この組織は頑強なのだ。

 俺もその一面は例外なく持っている。

 ・・・黒い感情に感染されてしまいそうだ。

 でも、その嘘を吐けない聖女殿がみんなに嘘を吐いているという事実は大変な皮肉だ。


 「じゃあ、待つしかないか」

 「そうだね。後もう少しのしんぼうだよ」

 「待ってる間、長期の暗殺任務とか入ってこなきゃいいんだけどな」


 たまにではあるが、1か月かけて行う暗殺も存在する。

 十分な下調べや、地形状況の把握、適正な道具の選定、警備の配置の記憶などなど、綿密な計画を行ったうえで臨む任務はある。

 そういう類の殺しはメンドクサイ。

 政治的な理由で殺さなきゃいけないことが殆どだから、偽装工作なんてのも当たり前だ。

 わざと都合の良い感じに証拠を残すこともある。

 ミスのない鮮やかな手順で、それらを全て行うのは大変だ。

 神経をすり減らす。

 だからあんまりやりたくない。

 それが逃亡の日とかぶるならなおさらだ。


 「マーテルの中では、結構大きな動きがあるみたい。地球の救済は近いって」

 「そう代弁者が言ったのか?」

 「らしいね。同じ代弁者から聞いたことだから、間違いないと思う」

 「・・・仕事、入りそうだな」


 憂鬱な気分。

 殺すって本当に疲れる。

 けど殺す者に同情はしない。

 殺されても文句が言えない生活を送っているから。


 人の血税を私欲の為に使う人。

 そういう人って最低だけど、結構多い。

 寄生するが如く、社会に張り付く虫。

 人間の世界では良くあることだ。

 もっとも、証拠がない限りニュースで表に出されることはない。

 それが社会にとって都合の良い報道だからだ。

 メインキャスターが真剣な顔で伝える悪事を働いた政治家や大物は、あくまで生贄にされた人間でしかない。

 それを食卓で見て批判する奴も、生贄にされた奴も、報道する奴も、全て殺したとしても罪悪感は沸かない。

 全部、社会を牛耳っている者達の道具だ。

 道具は壊れても買いなおせばいい。

 そして、それは俺も同じこと。


 ・・・こんなこと思っても、本当は意味ないんだけどな。

 どうしても、思ってしまう。

 止められない。


 こうやって何かを批判することは簡単だ。

 難しいのは、それを変えること。

 社会の・・・世界のシステムを変えること。

 それが出来ないから、俺は逃げるのだ。


 セカイへと。

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