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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第2章 地獄篇 ラース領辺境
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21話 悪魔の生活13~戦闘の後~

 夢を見ている。

 俺が光になって宇宙に行く夢。

 とても気持ちいい夢だ。

 ずっと見ていたい夢。

 なのに。


 バフン、バフン。


 夢から現実へ強制的に引き戻される不快な衝撃が俺を襲った。


 ・・・


 2度目だ。

 目を開けてみる。

 そして・・・


 「起きた?」


 俺の腹を見てみると、スー君が飛び跳ねていた。

 さながら漁船に引き上げられた魚のように、ビタンビタンと。


 「何してるのさ・・・」


 子供の体重は以外にも結構重い。

 早くどいて欲しいんだけど・・・

 痛いし。


 「どいてくれない?」

 「ええー」


 そう言いながらも、スー君はベットからどいてくれる。

 いい子だ。

 さすがダゴラスさんの子供。

 そう思って体を動かそうとするが、まるっきり力が入らない。


 むむ?

 おかしいな。

 体を起こせない。


 ・・・まあいいだろう。

 まず聞くべきことがあるし。


 「ここは?」

 「僕の部屋だよ」

 「前に寝たベット?」

 「うん」


 俺が起きてから最初に思った疑問。

 なんで俺はここで寝ている?

 俺は目覚めた直後と言えど、しっかり気を失うまでのことを覚えている。

 森で倒れたはずだ。


 あの黒い霧の化物に襲われて。

 左腕を切られて。

 ダゴラスさんを助けようとして。


 ・・・そして俺は倒した。

 あの怪物を倒したはいいが、そこで力尽きたのだ。

 ダゴラスさん共々。

 

 その後のことは分からない。

 気を失ったことは覚えている。

 それだけだ。


 「誰か助けてくれたんだ?俺とダゴラスさんを」

 「僕はよく知らない。ママに聞いて」

 「・・・そっか」


 子供にはショッキングな話だろうから、マリアさんがスー君に隠したのかもしれない。

 教育上、腕が取れた取られたの話なんかしたくないだろう。

 子供に悪影響を与えたくないという親の気持ちは分からないでもない。

 そう、腕が取れたなんて・・・


 ・・・ん?


 「腕?」


 両腕を、毛布の中から取り出してみる。

 そこにはしっかり筋肉質な俺の腕があった。


 両方ある。

 両方?

 両方!?


 「両方!?」


 思わず口に出してしまった。

 それをスー君が聞いたことで、首をかしげてしまう。

 

 「何が?」

 「あっいや・・・何でもないよ」


 何でもあるが、マリアさんの手前あんまりグロイ話はしたくない。

 恩のある悪魔に仇を返してどうするというのか。

 ・・・それにしても腕か。

 切られたはずなのにくっついてる。

 

 いつの間にか着せられていたパジャマの腕を捲くって、上腕部分を見てみる。

 傷口は無く、そもそも怪我なんてしていなかったかのような状態だ。

 元の状態よりもむしろ綺麗なくらい。

 

 はっきり言って異常だ。

 切られた腕が元に戻るなんて。

 こんなことが出来るなんて能力以外ありえない。

 あの超常の力。

 

 「俺がベットで寝てから、どのくらい時間が経ったか分かる?」

 「えっと・・・3日前に僕が帰ってきたらもう寝てたよ」

 「3日!」


 なっが!

 そのくらい寝てたのか!

 いくらなんでも寝すぎだろ。

 人ってそんなに寝れるもんなんだな。


 というか3日も寝ているような人間に対して、スー君はあんなことを俺の腹の上でしてたのか・・・

 まるっきりスー君は俺を心配してなかったってことか?

 少しテンションが落ちる。

 他の奴に心配をかけさせたくないって気持ちの方が強いけど、心配されてなかったらされてなかったで少し悲しい。


 思いながら外を見てみると、前に見た通りの朝焼けみたいな夕焼けみたいな空だった。

 いっつもこの景色じゃあ今の時刻が分かりやしない。

 

 「今何時くらい?」

 「午後2時くらい」

 「そっか」


 と、スー君とやり取りをしていると、ふいに奥の方にあるドアが開いた。

 マリアさんだった。

 俺と目を合わせると、マリアさんはとびっきりの笑顔を見せて、こう言った。

 

 「良かった!起きたのね!」

 「・・・おかげさまで」

 「なかなか起きないから心配したのよ!」

 

 マリアさんは俺のことを心配していてくれたようだった。

 これはこれで心配をかけさせて申し訳ない気持ちになる。


 「それじゃあ今、ダゴラスを呼ぶわね」

 「えっ、いるんですか」

 「そりゃあいるわよ。この家の主よ、一応」

 「いや・・・」


 そういうことを言いたいのではないのですが・・・

 まあ、会えるというなら今すぐ会いたい。

 あんな戦いの後だからな。


 「本人が会いたがってたから、とりあえず呼んでくるわね」


 そう言って、マリアさんはスタスタとドアの向こうに消えていった。


 「ずっとママ心配してたんだよ。」

 「だろうね。迷惑かけちゃったなあ。」

 「ママも同じこと言ってたけどね。」

 

 そうなのか。

 マリアさんも優しいからなぁ。


 「スー君は心配してくれた?」

 「うん」

 「その割にはかなり俺の上で好き勝手やってたみたいだけど」

 「毎日こうしたら起きるかなって。・・・ママとダーには怒られたけど」


 毎日やってたのかよ。

 人が意識無いのをいいことに・・・

 でもいいさ。

 無関心よりはだいぶマシだ。

 どこかの誰かも言っていた。

 愛の反対は憎しみではなく、無関心なのですってな。

 構ってもらえるだけ、幸せと思わなくちゃいけない。


 そう思った直後、ダゴラスさんとマリアさんが部屋に一緒に入ってきた。

 

 「よお、起きたか」

 「ええ、ダゴラスさん」


 ダゴラスさんの顔を見てみると、かなり苦々しげな顔をしていた。

 ・・・この顔をする理由に心当たりはある。

 だけど、まず相手がどう切り出してくるかだよな。

 

 「まず言っておきたいことがある」

 「・・・はい」

 「俺が付いていたにも関わらず、お前さんに大変な思いをさせたことを謝らせて欲しい」


 やっぱりか。

 普段自分に自信を持っていて、それでいて快活な人は、自分が失敗した時2つのタイプに沿って行動が分かれる。

 1つは自分の犯した失敗をひたすらに隠すタイプ。

 もう1つは真摯に自分の失敗を受け入れて、その後の状況の修繕に全力を尽くすタイプ。

 どちらもプライドが高いが故の行動。

 もちろん全ての奴がこれに当てはまる訳では無いが。


 この例で言えば、ダゴラスさんは明らかに後者だと思う。

 だって悪魔の社会は嘘や欺瞞が通じないんだろ。

 普通の人間の考え方とは明らかに一線を画している部分があるのに、生活を見るに実に人間的な感触を感じる。

 だったら後者だと俺は思う。


 「何を謝るって言うんですか」

 「もちろん森での出来事だ。危険な目に遭わない、安全な森と言っておきながら、お前さんに危険を犯させてしまった」

 「でも無事じゃないですか」

 「そうだ。だからこそ面と向かって謝らなければいけない」


 そうだよな・・・

 だから俺は言う。

 普通の人間には多分言わないであろう言葉を。


 「謝らなくて大丈夫です」


 ダゴラスさんは、渋そうな顔を作る。

 予想通りの顔ですよ。

 今だけは、俺の方が顔で心を読むのが上手いようだ。

 

 「だが・・・」

 「いいんです。だってダゴラスさん達は、最初に俺を助けてくれたんですよ?」

 「むう・・・」


 俺はずっとダゴラスさん達に助けられたことに対して頭の中で考えていた。

 正直言って、プレッシャーだ。

 重荷なんだ。

 だからこれはいい機会だと思う。


 「これで貸し借り無しにしませんか?俺を最初に助けてくれたでしょう?」


 恐らくダゴラスさんは他にも言いたいことがかなりあるんだろう。

 でもそれらを話す前に、俺とこの家族の立場を本当の意味で対等にしたい。

 そんな気持ちから出た言葉だった。

 生意気でもいいさ。

 

 「これが済んだらお互い後悔は残らないでしょうから」

 「・・・」


 静寂がこの場を包み込む。

 ダゴラスさんは、これを受け入れていいかどうか悩んでいるようだ。

 後ひと押しか。

 そう思った次の場面。


 そんな彼を見かねたのか、マリアさんが口を開いた。

 一言だけ。


 「あなた・・・」


 マリアさんの顔はダゴラスさんに対して穏やかだ。

 夫婦は言葉を語らずとも目で語り合う。

 悪魔ならなおさらだ。


 そうして数秒。

 何かを感じ取ったんだろう。

 ダゴラスさんは、こう言った。

 

 「分かったよ。お前さんには謝らない。これで貸し借り無しだ」


 そう。

 この言葉が聞きたかった。


 俺がダゴラスさんに会ってからまだ5分も経ってない。

 が、それ以上に濃密な5分だった。

 長い長い5分だった。


 謝らない。

 円満には程遠い言葉だが、逆に俺達の顔は笑顔だった。




 ---




 「何で俺らを襲ってきたんですかね?あの怪物」

 

 家族2人と、その他一人の説明会が始まっていた。

 スー君は、部屋の外に退場している。

 もちろん教育上の問題があるからだ。

 マリアさんの指示に対してスー君の放った言葉は、友達の家に行ってくるー!、だった。

 相変わらず元気だよな。


 「まずだ、あの生き物が何なのかは分かるか?」

 

 ダゴラスさんは俺に聞いた。

 これも大体検討がついている。

 

 「魔物・・・ですか?」

 「そうだ、魔物なんだよ」

 「でも、魔物なんて出ないって言ってたじゃないですか。あの森」


 森に行く前に、一通り説明をダゴラスさんに受けた。

 森は比較的安全だと。

 魔物は出ないと。

 それが一転して、ダゴラスさんでも倒しきれない魔物が出てきた。

 どういうことなんだろうか?


 「確かにあの森には魔物は出ない・・・が、出てしまった」

 「・・・ダゴラスさんも、理由は分からない?」

 「ああ」

 

 やっぱり分からないのか。

 よくよく思い出してみると、黒い霧の怪物に会った時のダゴラスさんの顔は、衝撃と驚きの顔だったもんな。

 あれはダゴラスさんにとっても予想外な出来事だったのだ。


 「闇の器の捕食者(ブラックイーター)っていう魔物なんだけどな、この地獄でもかなり上位に入る魔物なんだ。辺境の奥にしか現れないような強力な魔物。普通ああいう奴は、こういうところにいないんだ」

 「凄く強かったですね」

 「他の魔物を狩る魔物って言われてるからな。そりゃあ強いさ」

 

 そんなのを俺は倒しちゃったのか。


 「そんな強い魔物が森の中で死んでたんだ。驚いたよ」


 驚くよな、そりゃあ。

 というかダゴラスさん、あの後無事に目を覚ましたのか。

 ・・・けど、俺が倒したってことは多分ダゴラスさんは知らないだろうな。

 話した方がいいんだろうか。


 「その強い魔物が俺に殺されたって聞いたらどうします?」 


 変な聞き方になってしまった・・・

 変に誤解を受けなきゃいいけど。


 「倒したのはやっぱりお前さんか・・・」

 「えっ、知ってたんですか?」

 「だってそうだろ。ブラックイーターを倒しきれるような強い生き物は森に住んでいないし、アイツには俺の魔剣の傷が入ってた。そしてそのそばにはお前さんがいた。後は分かるだろ?」

 

 状況から判断したってか。

 あんな傷を負っててよくそんな考察が出来たな。

 さすが狩りのプロだ。


 「・・・無我夢中になってたら倒してたんです」

 「無我夢中で倒せるほど、魔物を狩るのは甘くないんだけどな」

 「そう言われても俺には分からないです」

 「・・・俺もだ。人間については一通り知識は持っているつもりだったが、こんなのは聞いたことも無い」

 「そうですよね・・・」


 謎の現象だった。

 別の人間が俺の中に入っていたみたいな。

 過激な考え方で、ブッ飛んだ行動をしていたような気がする。

 まるで、あの時俺は殺人鬼みたいなことを考えていたな。


 「お前さんがそんなに強くないことは俺でも分かる。

 

 なにげに酷いことを言うな・・・

 事実ですから気にはしませんが。


 「でも、これがただの偶然じゃないことも分かる」

 「・・・俺ってどうにかなっちゃたんですかね」

 「それは分からん」

 「・・・」


 分からないのでみんな黙り込む。

 状況を直接見てないマリアさんは、何も話せないだろうし。

 お題を切り替えるか。


 「・・・そういえば、どうやって俺達家に帰ったんですか。二人共重傷だったんですけど」


 そう。

 自力では帰れないぐらいの傷だった。

 両者共に。

 あの状態でどうやって帰還を果たしたんだろうか?


 「転移で送ったんだよ。俺達を」

 「あっ」


 そういえば転移の能力があったな。

 俺達自身も送れるとは思わなかったけど。

 本当に能力って便利だな。


 「でも、ちゃんと代償は払うことになるって言ってませんでしたっけ?」

 「言ったな」

 「能力を散々使った後じゃないですか。転移の能力は凄い気力を使うんでしょう?使える感じでは無かったみたいですけど」


 火の玉上位版みたいな能力まで使ってたし、かなりギリギリだったじゃないか。


 「魔剣を使った」

 「は?」

 「だから魔剣を使ったんだよ」


 魔剣を使ったって・・・

 どういうことっすか?

 

 「転移の使用は、能力を繋げることの出来る魔剣でも代用出来るのよ」


 横からマリアさんはそう口をはさんだ。

 代用できるのか、魔剣は。

 

 「じゃあその魔剣は?」

 「森の中に置きっぱなしだ」

 「・・・」


 置いてきちゃったのか。

 確か魔剣って珍しいとか何とか言ってたな・・・


 「壊れたとかそういうことではないんですね」

 「転送で壊れるんなら、他の能力を魔剣に通しても壊れることになるな」

 「・・・そうですか」

 

 良かった。

 貴重な物を失わせたりしたらちょっと気が重くなる。

 原因はどっちにもある訳だけども。

 

 「後々魔剣を取りに行かなきゃならんが・・・まあそれはいい。それよりも調子はどうだ?マリアの治療だから心配はいらないと思うが」

 「そうだ!腕くっついてるんですよ。切れたのに」


 もう一生片腕かと思ったのに。

 覚悟したのに。


 「くっつけたからよ」


 軽く笑顔で言うマリアさん。

 そうですか。

 くっつけたんですか。


 「くっつけたんですか!?」

 「くっつけたのよ」


 ワンテンポ遅れて驚く俺。

 マジですか!

 ・・・いや、よくよく思い出せば、怪我を治療出来る能力もあるって言ってたな。


 「転移する時にお前さんの腕も持っていったんだよ。出血で一刻の猶予も無さそうだったから慌てたんだ」

 「そうよ、本当に危ない状態だったんだから」

 「なんか・・・本当にありがとうございます」

 「お礼なんていいわよ。それに腕をくっつけるのならそんなに難しくないのよ。生やすのは難しいけど」

 「生やすことも出来るんですか・・・」

 

 生やすって・・・

 驚きを通り越して呆れてくるぞ。


 「人知を超えてますね」

 「あら、人じゃないわよ?」

 「まあ、確かに・・・」

 「マリアは治療と暗示のスペシャリストだからな」

 

 自信満々に言ってるけど、貴方の足はどうなんだ?


 「ダゴラスさんの怪我した足は?」

 「生やしてもらったよ、マリアに」

 

 そう言って、ダゴラスさんはズボンの片方をつまんで上げる。

 そこには、従来のダゴラスさんの足に包帯がグルグルと巻かれていた。

 痛々しい。

 けど、ちゃんとその足を使って立っていた。

 自分の力で。


 「この足が治るまでは仕事はお預け。だから魔剣を取りに行くのもしばらくお預けだ」

 「どのくらい治るのに時間がかかるんですか?」

 「多分1ヶ月だな」

 「まあ、命があっただけでも儲けものよ。ね、あなた」

 「そうだな」


 そうだ。

 そう思わなきゃいけないんだ。

 ここで不満を言う奴は、元々生き残れてないだろう。

 

 「君の方はもうだいぶ経過はいいわ。体が全快になるまで少なくとも1週間ぐらいだと思う」

 「結構早いですね」

 「でも、その間は家で休養してもらうわよ。ベットからは直ぐに起き上がれるとは思うけど、外に出られるようになるまではちょっと時間がかかるから」

 

 そうか・・・

 治るまではダゴラスさんと一緒に家で待機か。


 「まっ、ゆっくり家で休んでくれ。これは俺の責任でもあるからな」


 ダゴラスさんは俺に対して、申し訳無さそうにそう言った。


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