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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第16章 煉獄篇 志紀魁人の記憶
207/244

207話 リターン・メモリー9~彼女の部屋~

 豪邸に住んでいた家族はみんな笑ってた。

 だから笑えないようにした。


 拘束して、拳で喉を思いっきり殴ってやった。

 子供も、大人も。

 一生まともな声は出せないと思う。

 まあ、命を奪わなかっただけでも感謝してほしい。

 俺はいつでも彼らを殺せたのだから。

 ま、平和な国で育った彼らはそれでも俺を恨むのだろうけど。

 恨んだところで、彼らには俺を復讐する力がない癖に・・・警察に安全を任せっきりな軟弱者の癖に・・・

 自分の力で自分の家族を守れない奴が、一丁前に恨む資格なんてないのにな。


 そんなことすら分からない連中が住むのがこの国だ。

 高度に発達した平和な社会は、人間の在り方を歪ませた。

 俺はそんな奴らからお金を奪っても何も心は痛まない。

 だってさ、社会的弱者が強者を一方的にリンチするって何の罪悪感も出てこない。


 暴力に頼る奴は大人じゃない。

 ただの、原始的な子供。

 拘束している間、そんなことを男性達から言われた。

 おっしゃる通りですねと納得し、もう話せないように拳を食らわせる。

 人間の世に通じる善悪の基準はもういらない。

 俺には必要のないことだ。

 だから耳障りなだけ。

 彼らは好きなだけ主張すれば良い。


 奪ったものは現金だけ。

 宝石もあったけど、物を売る時に足がつくのはめんどくさいので放置した。

 それでも現金300万円だ。

 今までで1番の収穫。

 やっぱ、建物の大きさは金の量に比例するな。


 ただし、リスクはそれなりに大きい。

 ああいう豪邸は防犯システムが備え付けられていることが殆どだ。

 それに住人が驕って、油断してるってことでもあるけど。


 さて、目標金額の1千万まで残り600万円。

 豪邸を狙えばあっという間に貯まる金額だけど、流石に疲れる。

 焦らず気長に貯めるべきか。

 時刻は夜の8時。

 後1時間で門限だ。


 「んじゃ、帰りますか」


 俺は全力で夜の住宅街を目立たず駆けた。



 ---



 9時ギリギリに教会まで到着。

 汗だくの状態で門を潜った。

 帰ってから風呂へは行かず、そのままある場所へ向かう。

 教会の敷地内にある、独立したでかい建物。

 豪邸ほどもある4階だての住居には、シスターや関係者以外立ち入ってはいけない規則がある。


 ここの訓練生でも侵入出来ない程厳重で、周りには警備員がいたり、警報装置があったりする。

 しまいには監視カメラが何十台と設置されている。

 こういった監視方法は、とにかく人員が整わないことには成立しない。

 もし、ここのカメラがダミーではないのなら、ここの警備に人件費をどれだけ払っているのだろう?


 「・・・」


 俺はそこら辺に転がっていた光る石を拾って、握りしめる。

 石から流れる温かいナニカに押されるように、体の芯が熱くなる。

 今の俺には、広い視認能力と高い身体能力が必要だ。

 心の奥底で理想の自分をイメージする。


 ・・・筋肉の絶対量が増え、夜目が利くようになった。


 溢れ出る力を抑えることなく前へ進む。

 警備員が3人いた。

 俺は転がっていたただの石を拾って、斜め前に投げる。

 俺が気を逸らしたい方向へ。

 コンクリートの敷き詰められた地面にカツンと石がぶつかる。

 音が遅れて反響した。


 予想通り、一瞬3人の警備員が音の出所を確認する。

 その隙に俺は陰に潜みながら警備員の横をすり抜ける。

 気配を消すなんてことは簡単だ。

 ただでさえ、人から忌避されてきた俺がこんなこと難しいと思う訳がない。


 監視カメラの方向に注意しながら、豪邸の傍まで到着する。

 壁にピッタリと張り付いて、人の位置を再確認。

 ここまで来れば、後は流れ作業みたいなものだ。


 教会の敷地内に建てられた豪邸の中にも、プライベートと呼ばれるものは存在する。

 警備員は主に外に向けて警戒意識を向けている。

 監視カメラも同様だ。

 よほど無茶をしない限り大丈夫。


 俺はいつも通り壁を蹴って、3メートル上の屋根に飛び乗る。

 助走なしでもこれくらいは出来る。

 人間の脚力じゃないなと思いながら、さらに上へ。

 目的地は4階だ。

 そこまで窓の取っ手を足場にしながら、よじ登っていく。

 そして・・・


 「・・・やあ」


 ニコニコと笑う。

 窓の傍で退屈そうに外を眺めていた彼女・・・アリアを見つめて。


 「・・・!!」


 俺に気付いたようで、表情を急に明るくさせながらロックを解除して窓を開ける。

 警備員に見つからないうちに、素早く窓を潜った。

 手に持った石を見てみるが、光はもう失われていた。

 力がどんどんしぼんでいくのが分かる。

 少しだけ、温かさを俺の身に残しながら。


 「随分と遅かったから心配したわ」

 「いつもならもうちょっと速く来るんだけど、今日は大物を狙ったからさ・・・」


 そう言ってズボンに挟んでいた有り金を全て床に落とす。

 紙幣の表面が汗でふやけていたのを気にせずに、彼女はお金をつかみ取る。


 「・・・またとても危ないことをしたんでしょ」

 「しなきゃ早くここから出られないぞ」


 ここから早く出たい。

 そう思って、俺達は計画を立てた。

 人の世は金さえあればどうとでもなる腐ったルールで動いている。

 なら、金を集めれば良いだろう。

 逃亡の計画はまあ置いておいて、俺の今の役目は資金調達だ。

 目標金額、およそ1000万円。

 一朝一夕で貯められる金額じゃない。


 不可能なことを可能にするためには、善だけじゃなせない部分がある。

 かつて偉人達や聖人達が人を殺し愚かな行為を積み重ねていき、最終的に人を導き、救ったように。

 善だけで限界は打ち破れない。

 そんなものは理想に過ぎない。

 戯言だ。

 そう思った俺は、盗賊まがいの行為に手を染めた。

 小物は小物らしく、汚く稼ぐ。


 どうやら彼女の知り合いにパスポートを偽造作成してくれる連中がいるらしく、その為に大金が必要とのことだった。

 後は、普通に旅の為に使う純粋な資金等々。

 奪った金は全て安全なここに隠すことになってる。

 ここなら、彼女のプライベート空間ということでアモールの重役以外は誰も入らない。

 それだけ、彼女が特別だってことだった。

 俺なんかとは本来話しちゃいけないような・・・そんな相手。

 劣等感と疎外感を感じながら、友好的な態度で彼女に話しかける。


 「私、君が無茶してくれるせいで心配だわ」

 「心配ご無用。こんな無茶出来るのは本当にお前と旅に行きたいからさ。そうでなきゃ、今頃自殺してた」


 明るく楽しい会話にするつもりはない。

 そんな器用なこと、俺には出来ない。

 俺はいつだって彼女に本心を語る。

 明るく取り繕う日本人のやり方が俺は大嫌いだった。


 「君が死んだら私も死にそうだわ」

 「・・・それは嫌だな」

 「自分は無茶してる癖に、私に死なれたら嫌なの?」

 「だって、アリアの為に俺は・・・」

 「あ~あ、勝手なご意見ね」

 「・・・ごめん」

 「・・・冗談よ冗談」


 笑顔を崩さない彼女にも疲れが見え始めていた。

 最近お互いに忙しい。

 こうして秘密裏に話す時間も減っていっている。

 また彼女に会えるかどうか保証がどこにもない。

 だから焦る。

 もう彼女に会えないのではないかと。


 「でも、君の力は怖い。何も代償を必要としない力なんて存在しないわ。だから、あまりその力を使うのはやめてね」

 「・・・お金を貯め終わったら、極力使わないようにするよ」


 俺のこの力は異質だ。

 力を使っても、何も副作用がない。

 アリアの力の場合は、著しい体の衰弱化だった。

 時間が経てばある程度回復するが、それでも失われた生命力は元に戻らない。

 医者の診断結果は、体に負荷がかかるせいで寿命が減っているとのことだった。

 それが、彼女の代償。


 俺は・・・分からない。

 力を使って何か不調を感じたことはないし、むしろ力が余計に増していっているばかりだ。

 メリットはあっても、デメリットはない。

 それでも彼女は代償は必ず存在すると言っている。

 ・・・俺の力は、どこから代償を引っ張ってきているのだろうか?


 「お前の力だって使ったらヤバイだろ。心配なのは俺の方だ」

 「私がここに閉じ込められているのは、この力を欲しがっている人が他にもいるから。ここにいる限り力は使わなきゃいけないけど、命の心配はしなくていいじゃない。それに・・・」


 彼女は俺を信頼した風な目で見てくる。


 「君が早くここから出してくれるんでしょ?」

 「・・・でも、俺に無茶はするなと」

 「出来ればね」

 「無茶ぶりだなぁ・・・」


 それでも嬉しい。

 こんな俺の身を案じてくれるのだから。

 俺は彼女以外信用しない。

 これまでもそうだったし、これからもそうする。


 不要な人間関係など切り捨てるべきだ。

 ただ1人、信頼出来る人間がいればいい。

 集団で生きる人間を俺は嫌悪する。

 弱いヒト。

 集まることでしか自分を生かすことの出来ない愚かなヒト。


 「いいよ。お前のオーダーならなんだってこなしてやる」

 「ああ・・・また無茶しそうね」

 「大丈夫。それに、俺達の訓練ぶりはよく見てるんだろ?」


 時々彼女は新しく教会の世話になる障害を持った子供に、洗礼を行う。

 その行き帰りに訓練を少しだけ覘いたりする。


 「そういえば、私が治した小林君といつも一緒にいるね」

 「アイツが1番俺と近い訓練成績だからさ・・・」

 「仲も良さそう」

 「お前程でもないけどな」

 「私はいつも1人だから、そういうのうらやましい」

 「俺も基本は1人だよ」


 元気を出してほしい。

 そう思って俺は慣れないフォローを言う。

 外の人間なら、もうちょっとマシな励まし方をするんだろうけど、生憎俺は不器用だ。

 ・・・話を変えるついでに、あのことも話しておくか。


 「俺ら・・・て言うか教会の訓練生な、実戦が近い日にあるらしい」

 「・・・殺すのね」

 「お遊びの訓練じゃなくて、本当に実地でやるんだと」

 「私、何回か見たわ。毎年必ず実地の暗殺で死んでるの」


 それは俺も知っている。

 アモールは異常だ。

 人命を紙くずとしか考えない。

 人類が生きること自体が大罪なのだと。

 敵も味方も。

 だからこそ、退廃的な雰囲気がここの組織には存在する。

 俺も似たような思考は半分持っているが、それでもまだ踏みとどまれる。


 「生きて帰るよ」

 「君なら・・・大丈夫よね」

 「もちろん。だって、1番成績が良い兵士候補だもん」

 「力を使えばね」

 「それでも俺の実力だ」


 俺の特別な力は、俺が生まれ持ってきた資質みたいなものだ。

 全部俺の力だ。


 「・・・ごめん。大して話してないけど時間だ」


 部屋にあった時計を見ると、もう9時30分を過ぎていた頃だった。

 もう戻らないと同期の訓練生に怪しまれることになる。


 「分かったわ。じゃあ、気を付けてね」

 「お互いにな。無理するなよ」


 無理することを前提にここにいるのに、何て浅はかな言葉なのだろうと思いながら、窓に手をかける。

 後、どのくらいで俺はここを出ることが出来るのだろう?

 ・・・俺達は旅に出ることが出来るのだろう?


 「お願いだから、死なないで」


 悲痛な願いを聞きながら、俺は夜の闇へと姿を投げ出した。

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