198話 別れ
「・・・お別れね」
尊い言葉が聞こえた。
「まあ、元の場所に戻るだけなのだけれど」
光の中に、金眼の猫の姿が見えた。
既知の猫だ。
知ってる。
その猫が誰なのかを。
前はどのような形の器だったのかを。
「私が一緒にいてあげられるのも、ここまでね」
悲しいことを言う。
辛いな。
お前の口からそんな言葉を聞きたくない。
「でも、ダメなの。お別れしなきゃね」
なんで?
ずっと、傍にいてくれよ。
「私は本来、猫じゃない。あるべきところに還るの。それが自然なこと」
自然じゃなくてもいい。
倫理に反しててもいい。
そういう生き方を一緒にしてきたじゃないか。
「・・・嬉しいわ。そんなに私を引き留めてくれて」
当たり前だ。
だって、信頼しているのだから。
俺が1人ぼっちになってしまった時、声をかけてくれたのだから。
愛おしくない訳がない。
「愛おしい?愛・・・なのかしら?」
そうだ。
俺は愛している。
お前を。
「ああ、昔にもそう言ってくれたわよね。私が死ぬ前の・・・世界の中で」
魂が教えてくれる。
彼女が・・・彼女であることを。
そうだったんだ。
ずっと、守ってくれていたんだ。
「じゃあ、私も言わなくちゃね」
表情なんてない筈なのに、笑顔だと分かった。
以前の彼女と、今の彼女の表情が重なる。
懐かしい面影があった。
涙が出てもおかしくないが、出ない。
体がないから。
俺は・・・光だ。
光なんだ。
「愛してる。ずっと、ずっと。生きている間も、死んだ後も、忘れずに愛してる」
その言葉には温かさがあった。
寒く辛い星や宇宙の環境で、俺達が生きていけるのは温かさがあるからだ。
恋や愛、友情。
そんな陳腐な現象が、俺達を温めていた。
くだらないと思ってたことなのに。
こんなに大切だったということを、思い出す。
彼女のおかげで俺は、それを知ることが出来たのだ。
俺という冷たい個体に、熱が宿ったんだ。
本質や体現すべきことが孤独だからこそ、愛に飢える。
俺は飢えてた。
満たされたかった。
でも、行ってしまうんだろ?
還ってしまうんだろ?
「貴方の為に。全部、貴方の為に」
猫の姿が消えていく。
還元されているのだ。
あるべき場所に分離した魂が帰っていく。
分離した彼女とは、これで2度と会えない。
さびしいことだ。
もう一生会えないなんて。
悲しい。
愛おしいから、悲しい。
「泣かないで」
優しく、慰めてくれる。
余計に寂しくなる。
俺から熱が逃げていく。
「また、会えるから」
・・・そうだった。
俺の恋は、こうして終わったんだもんな。
「・・・」
もう、何も聞こえてこない。
光しかない。
消えたのだ。
きっと、俺ももうじきだ。
どこへ行くのだろう?
この先はどこへ繋がっているのだろう?
よく分からず、飛び込んでしまった。
熱情が俺を押したのだ。
それもまた、友情という陳腐な感情によって。
ああ、そうだな・・・
俺が今まで感じてきた気持ち。
感じた感触。
経験の全て。
苦しいこと、辛いこと、楽しいこと、喜ばしかったこと。
全部、全部一言で言い表せる。
多分、それを心と言うのだろう。
そう悟った俺は、猫を追うようにして光に消えた。




