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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第15章 父祖の辺獄と地獄篇 深淵
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197話 往く

 俺はもう振り返らない。

 心も痛まない。

 後ろから響く、悲鳴や絶叫を無視する。


 この世界を去るのだから。

 もう何もかもを捨て去ろう。

 俺はかつてと同じように逃げるのだ。


 心を無にして、ロボットのように振る舞う。

 だから走れた。


 情に振り回されるな。

 悲しみに打ちのめされるな。

 戦うのだ。

 無心で。

 ただひたすら、理不尽と。


 無垢なる天使達が襲ってくる。

 戦って倒すことは無意味だ。

 ひたすらに走る。


 目の前には、大勢の天使が俺を待ち構えている。

 星門に近付けさせない為だろうか?

 それとも、黒髪の天使が殺されたからだろうか?

 どっちにしろ、俺はこれらを突破しなくてはいけない。


 闇を纏う。

 無邪気に天使達が俺の闇を食っていく。

 ムシャムシャと、病的なまでに食らっていく。

 簡単に俺は丸裸になった。

 恐怖を無理矢理抑えて、強引に前へ進み出る。


 ギリギリと天使の歯を噛む音が全方位から聞こえてくる。

 食べようとしているのだろう。


 一時的に赤子の集団から転がりぬける。

 ・・・まだ、天使の集団は降り注いでいた。

 小さなヘイロウが数多く輝き、星門の神々しさを際立たせている。

 生命にとっては、目を潰す程の毒だろう。

 あまりの神聖さに意思の醜さが表出する。


 哀れな虫が青い蛍光灯にぶつかって、死んでいく光景が頭に浮かぶ。

 でも、走る。

 光へ、光へ走っていく。

 虫と同じように。

 

 天使の体当たりを横に躱し、蹴りを食らわせる。

 前から、横から、後ろから無慈悲の敵が複数襲ってくる。

 強引に手を使って前へ切り抜ける。

 代償に指を数本引きちぎられる。


 黒い血が風に流れるのを見て、赤子達が喜ぶ。

 殺意を乗せて、その顔に1発のパンチを食らわせてやる。

 だが、見えざる結界に阻まれたのか直前に俺の拳が遮られる。

 ジュウジュウと俺の拳が焦げた。


 怯まず前だけを見る。

 天使が俺の顔に食いつこうとする姿が見えた。

 直前で回避する。

 その際に、天使の振られた手が目に掠る。

 軽く掠っただけなのに、血飛沫が舞った。

 左目が失明してしまう。

 ・・・どうでもいい。

 構わず前へ進む。


 背中に激しい痛みを感じた。

 天使が背中の肉をほじって食っていた。

 天使を肉ごと引き剥がして投げ捨てる。

 大量に出血しているのを感じる。

 それでも止まらない。


 体がオートで動いていた。

 殺されないために、勝手に動いてくれる。

 体が・・・自分の命を救うことを覚えていた。


 さらに天使の集団が前を阻む。

 後ろにも横にも上にも逃げ道がない。

 覚悟すらも追いつかない判断で前へ突っ込む。


 もう天使しか見えない。

 狂気の笑顔、笑顔、笑顔。

 周囲から喃語が聞こえてくる。

 途端、両耳が千切れ飛んだ。


 頭だけは守ろうと、必死で両腕を使い守る。

 両腕と両肩に天使が纏わりつく。

 俺の腕の筋肉が食べられていく。

 抵抗出来ない。

 腕を動かそうとする。

 もう感覚がなくなっている。

 よく見ると、肩の中間部分から何もなくなっていた。

 飛び出る血だけが確認出来る。


 激しい乱戦から抜け出す。

 視界に星門を入れる。

 すぐそこだ。

 後、数メートル。


 前からもっともっと天使。

 武器も腕もない。

 ないのに敵はたくさん。

 何も考えることが出来ない。

 ただ、走る。


 突然右足に痛みが走り、転んでしまう。

 ・・・なくなっていた。

 膝から先に血が・・・血が・・・

 先端から折れた骨が見える。

 生々しい。

 けど、現実感がない。

 俺の体を動かしているという感覚が・・・喪失している。


 プラムが結界を使って必死に守ろうとする。

 呆気なく守りを突き破り、猫を殺そうと輝く小さな手が猫に伸びる。

 無意識にかばう。

 突然視界が真っ暗になる。

 残った目をやられていた。


 まだ千切れていない片足を、上下左右に好き放題振り回される。

 関節がグニャグニャ曲がり、骨が粉砕される。

 投げられ、体が岩に衝突した。

 背骨に響き、土に露出した肉が付着する。

 苦痛が増した。

 

 転がった先で、痛みに耐える。

 耐えながら体を引きずる。

 休むわけにはいかない。


 上から熱いナニカがのしかかってくる。

 ・・・天使達だ。


 いよいよか。

 そう思った。

 そして・・・天使達の遊戯が始まった。


 わき腹を食われる。

 胸に小さな手が当たる。

 肋骨が片っ端から折れた。

 骨の破片が肺に刺さったのか、呼吸がしずらくなる。


 髪の毛が引き千切られていく。

 耳に指を突っ込まれ、鼓膜を破られる。

 音が聞こえなくなった。


 笑い声がしない。

 途端に怖くなる。

 見えないし、聞こえない。

 怖い。


 でも、まだ感じることが出来る。

 残った感覚を頼りに前進。


 鼻をもがれる。

 口を引っ張られ、頬が裂ける。

 これじゃあまるで口裂け女だ。

 くだらないことを考えていると、頭部に衝撃が走る。


 頭が痛い。

 意識が落ちそうになる。


 ・・・死ぬ?

 死ぬのか?


 感覚が薄くなっていく。

 さっきまで視界が暗黒だったのに、白くなり始める。


 ああ・・・もう、死が近い。

 殺される。


 でも。


 ・・・まだ。

 まだ、行ける。


 俺の肉がなくなっていく。

 俺の体積が減っていく。

 中身がスカスカになっていく。


 限界の淵で、温かい光を感じた。

 すぐ、そこだ。


 心臓の鼓動がやけにでかく感じる。

 外に露出しているのだ。


 首筋に鋭利なものが当たった気がした。

 痛みが何故か・・・やってこない。


 体・・・侵害。

 下半身・・・ない。


 血だけ。

 血、だけ。


 肩を・・・動かす。

 前へ・・・


 感じる・・・先へ・・・



 もっと・・・先へ・・・



 先へ・・・



 そして・・・






 俺は輝く概念に包まれた。

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