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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第15章 父祖の辺獄と地獄篇 深淵
191/244

191話 救い

 俺は漂っていた。

 どこに?

 ・・・知らない場所だ。


 安らぎを覚える場所。

 戦わなくても良い場所。

 そんな風に感じる。


 ここは景色が何もない。

 真っ白い以外何も存在しない。

 そんな中に、誰かが立っていた。

 姿は白い靄に遮られて、よく見えない。

 でも、スティーラではないことは分かる。


 「ここは、かつて前任者の訪れた場所」


 前任者って誰だよ?と聞きたかったが、口がない。

 全身がなくなっていた。

 けど、俺の意識はここにある。

 不思議な感覚だ。


 「キリストや釈迦といった超越者です。かつて、彼らも貴方と同じ、この地に立ちました」


 白い靄に遮られて、彼女に近付けない。

 俺は黙って彼女の言うことを聞いていることしか出来ない。


 「現世で強大で純粋な意思を持つ彼らは、地獄に貴方と同じ形で転生しました。世界を動かしたからです。貴方とは違い、人類に対して諦めは持ちませんでしたが」


 音もなく彼女が近付いていく。

 靄で隠されていたその全身が露わになった。


 その姿は、予想した通り天使だ。

 背中に翼が生えている。

 違うのは顔面だけ。

 清楚そうな整った黒髪の女が俺を見ていた。

 

 「前任者は全員人類に対して希望を見出し、教えを説きました。少しでも穢れた魂を浄化出来るよう、徳を積むことをね。そして私達天使は、彼らをそのままの魂で転生させました」


 何を言っている?

 天使が転生させた?


 「私達は一刻も早く、この世界に浄化された生命が満ちることを望んでいます。ですから、彼らの魂を呼び寄せたのです」


 謎の天使がニヤリと笑う。

 神々しいのに、そこには歪みのような何かを感じた。


 「彼らはやはり、地獄の世界でも教えを説きました。その影響で魂は浄化され、幾人かの天使が生まれた程です。ですが、それでもやはり進行は遅々としたものでした」


 演説を説くように俺にそう言ってくる。

 何が目的で、何がしたいのかもこっちはよく分からないのに。


 「星々を光で移動するにしても、数百年の時が流れてしまいます。このままでは、世界の浄化が一向に完了しません。だからこそ、私達は貴方を呼んだのです・・・大罪人の貴方を」


 俺は・・・人を殺したらしい。

 でも、何でそんな理由で俺を呼ぶ?


 「力のある汚らわしい人間は、力を利用して世界を変える。前任者達は正しい信仰を力に世界を変えていきました。ですが、それらは最終的に世界を浄化する方法にはなりえません。地道すぎるし、なにより信仰が枝分かれしたこと自体が、人間という種族を統一することが難しいと言える、何よりのいい証拠ですから。なら、どうしたらいいのか?」


 世界に変革をもたらす一石。

 それは・・・


 「貴方は世界を破滅に追い込むことで、世界を導こうとしたのです。そしてそれは、多くの犠牲を出しましたが、結果的には人類の方向性を合致させたのです」


 人には様々な考え方がある。

 それらを統一することは不可能だと考えてもいい。

 なら、俺はどうやってそれを?


 「貴方は世界の浄化を加速させる鍵です。そして、先駆者が開くことを拒否した世界への扉を、貴方は今こじ開けようとしています」


 笑顔だった。

 怖い笑顔だ。


 人間は幸せな時、笑う。

 けど、この嬉しいという感情が行き過ぎると、とても怖い笑顔になる。

 執着心が凄まじいからだ。

 執着心は狂気を生む。

 それと同種のものを彼女が笑顔として俺に見せる。

 ・・・生物的な怖さを。


 「ありがとう。今まで、ご苦労様でした」


 お礼を言われるようなことなのだろうか?

 ・・・分からない。

 何か、俺は間違いを犯している気分になる。


 彼女はいないのか?

 スティーラがいないと不安になる。

 俺は彼女の導きにしたがって、こんなことをしたのに。


 「では、世界が幸福に包まれる瞬間を、その功績として目に焼き付けておくように」


 謎の天使がスティーラと同じく指を弾く。

 あれを俺は知ってる。

 魔法だ。

 そして、俺の意識が朧になる。


 そうして俺は、問答無用に霧として拡散させられてしまった。

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