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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第15章 父祖の辺獄と地獄篇 深淵
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189話 怨め

 運命。

 それは生物の意思や想いを超えて、ただそこにある法則。

 生物ごときが干渉して良い領域じゃない。

 沢山の悪魔を殺している俺が言えたことでもないが・・・

 自分が自分でなくなっていく中で、俺はそう悟る。


 今なら分かる。

 様々なことが。

 生命の秘儀に触れて、本来成せないことを成す。

 それも全ては無駄なことだ。

 けど、生命は足掻かなければいけない。

 干渉してはいけない部分を超えてまでも。


 そういう意味で、サタンは正しい。

 愚かで、正しい。

 全て間違っているということはない。


 世界を滅ぼしたければ好きにすればいい。

 そうしたら、俺が好きに止めてやるから。

 それだけだった。

 今まで小難しく考えすぎてたんだ。

 ただ、それだけのことだったのに。


 生命は自身の主張しか出来ない。

 そういう風に作られている。


 共存は毒であり、希望だ。

 希望は絶望でもあるが、確かに人生における暗い道を照らしていた。

 希望という絶望がなければ、生命はこの暗黒世界を歩いてはいけない。

 途中で歩みを止めてしまう。

 それだけは、なんとしても阻止しなくちゃいけない。

 ・・・俺に使命感が芽生えていた。


 「生命は愚かしい。そう思うだろ、人間」


 サタンが死んだ目でそう俺に言った。


 「・・・お前、そんなにマリアさんに会いたかったのか?」

 「会いたい。死んだ者に会いたいと思うのは間違いか?」

 「間違ってない。自然なことだ」

 「なら、それが願いだ」

 「闇の意思に従う形でか?」

 「取引さ。私はマリアと一緒に死ぬ。世界の滅びを迎えながら」


 ・・・だろう。

 そうだろう。


 「なら、俺にも目的がある」

 「殺すのか?」

 「世界が壊れるのは御免だ」

 「何故だ?」


 魔王の顔が歪む。

 俺に対する憎しみじゃない。

 世界に対する憎しみだ。


 「お前だって、世界の理不尽は経験したろう?この世は汚い。悪魔の世界なんて、所詮は偽りの平和だ」

 「・・・やっぱり分かってたんだな」


 悪魔の社会は、確かに平和だった。

 けど、それは酷く人間的で、利己的で。

 種族の中だけで完結した平和なんて、そう長くは続かない。

 人間と同じだ。

 哀れで、弱い。


 「こんな苦しい世界、消してしまえばいいと思わなかったのか?」

 「ある。思ったことは何回もある」

 「なら・・・」

 「でも、断る」

 「・・・」


 魔王だけじゃなく、他の2人も絶句した。


 「まだ、確かめたいことがあるから」

 「・・・こんな世界にか?」

 「可能性、だよ」


 そう。

 それこそが、生命の希望だ。


 この種族が駄目でも。

 この星が駄目でも。

 この世界が駄目でも。

 この宇宙が駄目でも。


 可能性は残されている。

 きっと、外に。

 そんな余地があるのなら、最後まで見てみたい。

 俺が見出した答えだった。


 「生命は害毒でしかない」

 「そうだ」

 「生命の活動は穢れを世界に残すから。それはもう、根本からどうしようもない事実だ」

 「その通りだ」


 魔王の本音。

 多分、俺が出会った時からこうだったに違いない。

 だから差別的にもなれる。

 だから俺を害獣として扱った。


 「生命は略奪しかしない。そうするしか生き残る道がないからだ。それでも最後まで生き残るって言う奴は愚かだ。死んだ方がいい」

 「分かってるじゃないか」


 俺が言い、魔王が答えた。


 「その事実すら知らない奴も多い。呑気に平和で暮らして、青春や恋愛、職業、金銭、仲間、老後・・・そんなことばかりに悩む無知な者達」


 魔王の言いたいことを代弁する。

 それは簡単なことだった。

 だって、半分は俺の本音だったから。


 「でも、生きる。俺は生かすよ。生命が生まれた理由を探して、それで答えが見つかって。それでどうしようもないって分かったら、また外に可能性を求める。多分、それでいいんだと思う」

 「・・・」


 生きることが苦しい。

 それが3人から感じられる。

 実に、人間的な感情だった。


 「生きるべきだ」


 俺は言い切った。

 それはどれほど魔王達を苦しめる言葉だったのだろう?

 猛毒がもたらす苦しみの方がまだマシな筈だ。


 自殺する者に生きろと。

 それは苦しいことで、絶対に納得出来ない言葉だ。

 その言葉に反応して、自殺を思いとどまるのはまだ、絶望を真に理解していない者だけだ。

 どうしようもない閉塞感が、彼女らを殺す。


 「生命が無実だとは言わない」


 嘘は吐かない。

 全部、真実を言う。


 「最後までやり遂げるとか、努力すればいいとか、強者の考え方を俺は持ってる訳じゃない」

 「・・・」

 「現状では、どうあっても生命は死ぬべきだと俺は思う」


 自然環境をよくしたいなら、文明を手放すのが最善の策だ。

 文明は自然と場を共有することは出来ない。

 その自然の被害はゆっくりと、着実に進行する。

 それが目に見えないから、本当に・・・人や悪魔は理解しない。

 知ってても、理解しない。

 それどころか、種族同士でも理解が進まない。

 進んだ気になっている奴など論外だ。


 何が交流だ?

 何が文化だ?

 全て、欺瞞だ。


 そうだ。

 俺は人間が嫌いだ。

 人間なんて、どうでもいい。

 死ねばいい。

 本当にそう思う。

 けど・・・まだ、俺の知らない場所がある。


 「なら、楽園を探そうぜ」


 生命を見捨てる前に。

 まだ、探す余地があるならば。


 「・・・そんなものはない。存在しない」

 「それ、絶対に言えるのか?」

 「・・・」


 魔王が黙る。

 そりゃそうだ。

 絶対なんて、この世には存在しないのだから。


 「それじゃあ、駄目か?」


 優しく俺は言った。

 最後の問いだ。

 それが伝わったのか、3人の身は委縮する。

 今は神聖種すらサタンの傍にはいない。

 みんな、手一杯だ。


 空中や周囲では戦闘が続いている。

 生きて、死んで。

 命が明滅していた。

 輝く命。

 旅に出る命。


 みんな、生きようとしている。


 「・・・嫌だ」


 子供のように、そうサタンは言った。

 かつて感じたカリスマ性は、もう微塵も残っていない。

 生命は変わる。

 記憶が積み重なるごとに。

 それを自覚出来るのは、極少数の生命のみだ。


 「分かった」


 歩く。

 剣を抜いて。


 彼女らにも多少の戦闘力はあるだろう。

 けど、問題ない。

 全て対処出来る。

 そういう傲慢が俺の内に潜んでいるからだ。


 自己嫌悪。

 こんな奴に殺されるのは嫌だろうが、我慢してもらうしかない。

 それも、ずっとこの世界で繰り返されてきたことだから。


 数十メートル離れていた魔王に数歩で近付く。

 その間の経過時間は1秒。

 超人的な身体能力。

 でも今は、悪魔を殺すためだけの技能でしかない。


 魔王の首を刎ね落とした。

 ゴトリと無残に首が転がる。

 苦悶の表情を浮かべて、彼女は絶命した。

 ・・・残り2人。


 すぐ傍にいた名も知らぬ運命干渉系能力者の女悪魔の胸を穿つ。

 心臓の位置をグッサリと。

 抵抗の暇もなく、彼女も息絶える。

 ・・・残り1人。


 最後に残ったのはランティスだった。

 でも、まだ彼女は殺さない。

 確認することがある。


 「・・・ころさないの?」

 「お前が世界を滅ぼさないと言うなら」

 「・・・」


 黙りこくる。

 彼女のことだ。

 俺が彼女の意志を知っていることは承知しているはず。


 「ねえ?せかいをしって、しにたいとおもわなかったの?」

 「・・・さっきも言った通りだ。俺はまだ、生きる方を選ぶ」

 「それはいつまで?すうじゅうねん?すうひゃくねん?すうせんねん?」

 「・・・可能性が見つかるまで」

 「それはいつ、みつかるの?」

 「・・・分からない」


 そんなこと、誰にも分らない。


 「わたし、なんひゃくねんもまったの。けど、みんなかわらない。つかれたの」

 「・・・」


 何も言えない。

 俺はそれだけ生きたことがない。

 希望の見えない世界でただひたすら待つことは、どのくらいの辛さなのだろう?

 ・・・想像も出来ない。


 「にんげんさんは、それができるの?」

 「しなくちゃならない。その先が真っ暗で、何も分からなくても。生命の滅亡までどう過ごすかじゃない。滅亡するその時まで生命にとっての可能性を探すんだ」

 「むだかもしれないんだよ?」

 「俺は・・・可能性という可能性が現状維持だけだったなら、俺は世界を救わない。このままの現状が続くだけ続くことが分かったら、その時は俺がこの世界にいる生命を1体残らず殺してやる」

 「・・・」


 幼女の目は暗かった。

 先が見えないことの不安。

 そこから派生する世界への絶望と怒り。

 他者には理解出来まい。

 これは個人レベルの怒りじゃなく、世界への怨嗟なのだから。


 慨嘆しかない。

 俺も共感出来る。

 だから、彼女の言うことも予見出来ていた。


 「しぬの。もういや。もう、こんなせかいでいきていたくない」

 「やっぱり、俺と会った時の対応はフェイクか」

 「・・・ほんとうは、どっちでもよかったの。にんげんさんにころされても、このままさたんがせいめいをほろぼしても」

 「自殺の選択肢を残したかったのか」

 「うん」


 ・・・例え話。

 どうしようもない壁にぶつかった時、その者はどうするのか?

 心の強い者は乗り越えるだろう。

 自身を強く、補強して。

 弱ければ、そのままだ。

 そこで留まり、変化のない状況を生きることになる。

 成長はそこで止まるのだ。


 壁を乗り越えた者は乗り越えられなかった者を叱咤する。

 頑張れと、甘えるなと。

 それが認識の違いであり、傲慢さの最たるものだった。


 その現状に生きていたくなる者が出てくる。

 壁は乗り越えられない。

 が、乗り越えられなければこの状況に身を置くしかない。

 だが、逃げ道は1つある。

 ・・・死だ。


 それは弱者にとって、希望に見えるだろう。

 実際に希望なのだ。


 自殺は駄目だとある人は言う。

 自殺は希望だとある人も言う。

 意見は対立する。

 認める者と、認めない者。


 認識の違いが対立を生む。

 人間はみんな無知だった。

 人はそれで言い争うのだ。


 そんな世界で不幸な目にあいながら生きてみろ。

 現実逃避するか、死ぬかしかなくなる。

 今死も意識せず、色々な悩みを持って生きている者達は幸せだ。


 それでも、どういう境遇を得なければこの事実は理解出来ない。

 孤独の道だ。

 けれど、集団と関わるより、孤独でいることの方が世界に埋没されにくい。

 家族や友人、恋人や仲間に囚われないからだ。


 仲間や家庭の関係性を持てば、幸せは手に入る。

 だが、その時点で人は停滞してしまう。

 その関係性に埋没してしまう。

 可能性を探すなら、孤独でなくてはいけない。

 孤独に耐えられないのなら、その時こそ世界に埋没するか・・・自殺するしかない。


 「にんげんさんは、そんなになってまでいきるんだね」


 俺の変わり果てた姿を見て、彼女はそう言った。

 もう人間じゃない、化け物の姿を見て。


 「・・・俺も長い時を過ごしたら、そんな風になっちゃうんだろうな」

 「たぶんね」

 「でも、今は生きるよ」

 「・・・ざんねん。ひとりぼっちでしぬのはこわいのに」


 彼女が泣く。

 残酷だ。

 どうしようもない。


 たまらなく幸せな奴を恨みたい気持ちになる。

 無知な者を殺したくなる。

 全員に彼女の気持ちを知らせたくなる。


 でも、出来ない。

 俺達がこんな思いを味わっていても、世界のどこかでヘラヘラ汚い人間は笑っているのだ。

 とても理不尽だった。

 ・・・悲しかった。


 「分かった」


 容赦なく刃を振り下ろす。

 楽に死ねるように、一瞬で済ませよう。

 確実に意識が残らないように、脳の部分を十字に両断した。

 せめて、死ぬ時ぐらいは苦しまないように。

 残酷な世界で、散々苦しんだのだから。


 慈悲を持って、俺は最後の運命干渉系能力者を殺した。

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