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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第15章 父祖の辺獄と地獄篇 深淵
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186話 殺す

 ・・・深淵。

 そこには赤い大地が広がっていた。


 太陽の代替えとなる月光が長い期間届かなかった為、植物は一切生えていない。

 岩だらけだ。

 正常な肉体を持った原生種も存在しない。

 食料が一切ないから。

 普通の生物は生き残れない。


 略奪することでしか、生物は生存出来ない。

 人間が生活を自然という存在に支えられていることと同じだ。

 資源は全て、自然環境が作り出した産物だからだ。

 自然を大切にしようという勘違いを起こした人間や、自然が恐ろしいと思っている人間にはとても適応出来ない環境。

 そこを邪悪種がウロウロしている。


 生物としての建前を捨てた、動物的欲求の塊。

 汚いし、醜い。

 獣として完璧な本性。

 でも、形は人間と同じ。

 ・・・皮肉だ。


 俺達はそれらを上から見下ろす。

 見下すと言ってもいい。

 そして、俺達も同じになる。

 いつか、生物の存在が消滅するその時まで。


 邪悪種は星門に近付けなかった。

 業火が邪魔しているからだ。

 丁度輪っかの形をした炎の壁が、星門を囲んでいる。

 その中に、奴らがいた。

 ・・・世界を滅ぼさんとする悪魔達が。


 72柱や、騎士団などの勢力。

 守護団や狩猟団も当然混じっている。

 総勢戦闘態勢。

 俺の強化された目がその姿を捉える。


 星門の目の前には魔王とランティス、その他に見慣れない小さな女の子の悪魔が1人いた。

 異様な気配を身に纏っている。

 ・・・運命干渉系能力者だろう。

 諸共に殺してやる。


 「・・・行こう」


 俺はそう答えた。

 いつも通り。

 そして・・・俺達の乗る巨大な空中要塞は、月の照らす不毛の大地へと落下した。


 落下ポイントは星門。

 そこに群がる数々の悪魔ども。

 巨大な門が壊われるくらい、巨大な質量を誇る空中要塞を落とす。


 これで死んでくれれば最善だ。

 だが、簡単に敵もやられてはくれない。

 集団の前から歩む者が1人いた。

 ・・・クルブラドだ。


 強力な魔剣であろうプレート状の大剣を持って、下段に構える。

 極限まで研ぎ澄まされた俺の聴覚は、彼の大声を聞き逃さない。


 「斬鉄剣!!!」


 下から上へ。

 天を斬るように剣閃が半月を描く。

 振った剣が空間を切り裂く。

 その距離は異常に伸びた。

 歪みが一瞬で空中要塞へと到達する。

 そして・・・要塞は縦に両断された。


 ゴゴゴゴと音を立てて、かつて魔王の所有物だった建物が崩れていく。

 室内に風が侵入する。

 深淵の腐った臭いが鼻をつく。

 視界がクリアに風景を捉える。


 「行くぞぉぉ!!!!!」


 俺達は散らばった。

 俺はプラムと共に。

 72柱は方々に散る。

 遥か高度から獲物を狩る鷹を連想させるように。


 空気が体にビシビシと容赦なく当たる。

 空気抵抗を極力受けないように、身を小さくする。


 他の奴もバラバラにそうした。

 でも、みんな門を目指している。

 魔王側と俺達側。

 それぞれ目が合った。


 「来るわ!!!」


 肩に乗ったプラムが警告する。

 直後、地上から大量の太矢が俺達を射抜こうと、ある一点のポイントから襲ってくる。

 72柱・・・クルトだ。

 複数に分かれた俺達に合わせて、乱雑に矢の雨を放ってきた。


 「レデグルグ!!!」

 「霊性なる守りの壁よオセル・スピーリトゥス!!」


 俺の合図と同時に、彼が巨大な結界を空中で張る。

 膜の姿をした壁だ。

 それは矢を次々と遮断していく。


 次はヴァネールの炎がやってきた。

 炎で出来た龍の頭が何十本も出現して、結界へ食らいつこうと空へ昇ってくる。


 「主の水よ(ラグ・ドミナス)!!!」


 エマが今度は向かい合う形で、水の龍の頭を同じ数だけ出現させた。

 透明で純粋な体色をした水の龍は、真正面から炎の龍とぶつかって食い合う。

 伸びた首に噛みつき、炎と水をお互いに消滅させあう。

 水蒸気が大量に発生する。

 雲みたいな霧は、俺達の体をあっという間に包み込む。

 そこが狙い目だった。


 「転移、行くぞ!!!」


 バティが叫ぶ。

 彼の体が光を放つ。

 その手にはありったけの魔石が握られていた。

 光が俺達に触れた途端、連動してそれぞれの体が光りだす。


 最初にフォワードであるエマ、ロノウェ、グシャラボラス、バルバトス、ポポロが光となって消えた。

 その次にフォワードの後方支援、バティ、ベルゼブブ、オセ、カイムが。

 その後に俺達とレデグルグが光に飲まれた。


 意識が消える。

 だが、それはすぐに終わった。

 距離が短いからだ。


 通常の転移とは違い、意識を保つことに成功する。

 バティの能力の恩恵だった。


 瞬間移動。

 転移系4段階目の能力。

 それは陣を使うことなく発動することが出来る。

 転移のように長距離は移動出来ないが、短距離で確実に戦闘に流用出来る能力だった。


 ルフェシヲラの上位互換バージョンだ。

 移動に隙がなく、意識も保てる。

 頼もしい能力だ。


 光から抜け出す。

 今度は地に足がついていた。


 光で景色がよく見えない。

 視覚以外の感覚で周囲を判別する。

 既に戦闘に入っているようで、凄まじい爆音が周囲から聞こえてくる。

 5秒後、目が慣れる。

 そこは戦場だった。


 赤い土。

 周囲を囲む業火。

 そう。

 瞬間移動でやってきたのだ。

 星門付近まで。


 「行きますよ!!!」

 「っつ!!」


 レデグルグの声に従って、真っすぐ駆け出す。

 目の前には巨大な能力をぶつけ合う72柱達の姿があった。

 空中で凄まじい戦いを見せるエマとヴァネール。

 矢を射るクルトに対して斧で応戦するダウェン。

 風をぶつけ合うグシャラボラスと空駆ける聖馬(ユニコーン)

 他の72柱や大勢の騎士団や守護団と戦うロノウェ、ポポロ、カイム、オセ。

 召喚王が空中に浮いて無数に召喚した魔物を、大規模の毒で殺していくベルゼブブ。

  

 みんな、必死だった。

 血が噴き出し、世界が赤くなる。

 炎の外側でニヤニヤと邪悪種が眺めている。

 ・・・地獄だった。


 殺し合うこと。

 生物の本来行うべき生存行為。

 闘争本能が疼く。

 世界がそれを嘲笑する。


 他人事のように争いを見てしまう。

 1秒経過するごとに、命が散っていく。


 「何をやってるの!?早く走って!!!」

 「!?」


 プラムの叱咤が俺の鼓膜を震わす。

 やばい。

 見とれていた。

 飲み込まれていた。

 ・・・戦争に。


 「右から来るわ!!!」


 俺が戸惑っている間に、敵はすぐそこまで来ていた。

 ロノウェが操る煙の騎士を倒して、俺に向かってきていた。

 距離は1メートル。

 相手は騎士団の悪魔で、得物はロングソードだった。

 あらかじめ抜いていた双剣を十字に持つ。

 至近まで迫っていた攻撃を防ぐ。


 ・・・軽い。

 攻撃の受け値に余裕がある。

 受け止めたロングソードを力ずくで叩き斬る。

 その際に相手の心臓ごと胸を切断した。


 次の攻め手が来る前に俺は走る。

 周囲の状況を気にせずに。

 上から炎が降ってくる。

 ヴァネールの攻撃が水から漏れているのだ。

 火の粉と言ってもいい小さなものだったが、それでも威力は驚異的だった。


 漏れた火に触れた瞬間から、雑魚の悪魔が炎に包まれる。

 土に転がっても、一向に消火されていない。

 ・・・やばいな。


 鋭敏な感覚と強化された肉体を駆使して、激しい闘争の渦を切り抜ける。

 いくら悪魔をすれ違いざまに殺しただろう?

 いくら血を見ただろう?

 分からない。

 無我夢中だ。


 目指すは星門ただ1つ。

 そこにいるはずなのだ。

 運命干渉系能力者達が。


 「矢よ!!」

 「!!!」


 プラムに言われて脅威に気付く。

 正面斜め右から驚異的な速度で太い矢が接近していた。

 見ると、ダウェンとの戦闘中に、隙を狙ってクルトが矢を放っていた。

 ただ、依然と比べると速度はさほどでもない。


 それはダウェンと戦っているせいなのか。

 それとも俺が強くなったせいなのか。

 矢を見切って、顔を横にずらす。

 すぐ横を矢が轟音を発しながら通過した。


 恐怖はない。

 当たらないと確信したからだ。


 人間としての正常な判断が最早失われていた。

 反射行為が恐れを含んだ行動じゃなく、もう確実に避ける行動を取っている。

 今なら銃弾も避けられそうだ。


 気にせず直進する。

 前へ、前へ、前へ。


 バルバトスの水銀を飛び越え、ポポロの叫びを聞きながら走る。

 煙の騎士達に守られながら悪魔の集団を突破し、オセとカイドウがコンビを組んで戦っている傍を通り抜ける。

 無数の攻撃は俺に当たらない。

 全て躱した。


 「ん」


 視界が薄暗くなる。

 ・・・影だ。

 上からの物体に月の光が遮られていた。

 上を見る。

 遥か高度から一刀両断された空中要塞が、すぐそこまで落ちてきていた。

 片方は炎の壁の向こう側・・・邪悪種達の集まる場所に。

 もう片方は星門の場所に。


 「・・・」


 でも、それをみんな無視した。

 落ちっこないと分かっていたからだ。

 何故なら・・・


 「斬鉄剣」


 またあの声が聞こえた。

 クルブラド。

 星門の目の前にいたあの男だ。


 俺は走って、向こう側に複数のターゲットを捉えた。

 運命干渉系能力者3人。

 クルブラド、大剣を持った悪魔。

 計5人。


 要人を守る形で、クルブラドがボロボロの大剣を振るう。

 今度は剣閃が連続して空間を切断する。

 その形がそのまま空中要塞に反映され、落下する巨大な質量が分断されていく。


 壊れる建造物。

 1つが2つに。

 2つが4つに。

 4つが8つに。

 8つが16つに。

 数秒経たない内に要塞が細々と両断されていく。

 豆腐を切るみたいに、軽々と。

 ただ鋭利な剣で斬ったと説明するには、あまりにデタラメな荒業だった。


 「ほう、王の盾の王よ。また会ったな」


 斬鉄剣を放つ最中、先行していたレデグルグが盾を持ってクルブラドに接近していた。

 リベンジ戦だ。

 実質、72柱としての順位は7位と6位。

 1位の違いだ。

 なのに、圧倒的に敗北を味わった。

 そこにはとてつもなく高い巨壁が存在している。


 打倒出来るかどうかは分からない。

 けど、やらなくちゃいけない状況だった。

 ・・・命を賭してでも。


 後方から俺が加勢するべく近付いていく。

 だが、それはフードを深く被った例の大剣を持った悪魔に遮られた。

 何度も邪魔してくれた手練れだ。

 1回手合わせしたから分かる。

 中央執行所であのまま戦っていたら、俺は死んでいた。

 確実に。


 「・・・」


 闘争に本来言葉はいらない。

 剣を構える。


 意識を統一する。

 今まで俺が同調してきた、意思の履歴を体から呼び起こす。


 経験とは、本来自らが長い時間を経て蓄積していくものだ。

 そうすることによって、周囲の環境に自分を適応させたり、社会においても闘争においても自分の必要な技術を獲得していく。

 自分で行動して、自分で手に入れるべきものなのだ。


 だけど、俺は違う。

 他の経験を盗んで、数年分・・・いや、数十年分の闘争に必要な力量を手に入れている。

 まごうことなきズルだ。

 反則技だ。

 しかも、1回同調した意思は俺の中に少量眠っている。

 それは俺の体を変化させる劇薬にもなりうるが、力にもなる。

 俺がこの場に必要な闘争力を経た瞬間。


 空中要塞の残骸が天から降り注ぎ、地表を荒らした。

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