185話 潰せ
殺す。
邪魔者は殺す。
子供も、親も殺す。
72柱やその部下も皆殺しにする。
闇の意思に触れることが出来る運命干渉系能力者も殺す。
生かす者と殺す者の分別。
ゴミの分別。
戦いに、人間の道徳や倫理はいらない。
殺して、生きるだけ。
そこに何かが挟む余地はない。
可哀想だとか、悲しいとか。
憎いだとか、嬉しいだとか、残酷だとか。
そんなのいらない。
不必要だ。
人間の感情は確かに尊い。
後世まで残すべきものだ。
けど、今はいらない。
そんなものは、後の世界に生きる人間や悪魔に任せておけばいい。
異常者は異常者らしく、世界の異常と向き合う。
もう・・・俺は人間をやめた。
通常の人間の思考では、もう追いつかない問題だった。
・・・2つの超大陸から構成されている地獄。
表には通常の生物・・・悪魔やその他の種族が住む豊かな光の届く地。
裏には異形の生物・・・邪悪な種族しか住まない、不毛な大地が広がる暗黒の地。
それらが1つになってしまった。
光と闇が混ざる時、混沌は生まれる。
全も悪もない世界。
そこで人間は生まれた。
だから人間は人間を愛したり、殺したりしたりもする。
正解はない。
どちらも等しく尊い現象。
それこそが混沌だった。
地獄も同じようになる。
人間の世界の延長線上に存在するのが地獄だからだ。
人間の影響を悪魔が受けない訳がない。
能力という神秘で、幾らごまかそうとも。
「・・・覚悟はいいのね?」
猫がみんなに確認を取る。
今まで生きることに命を懸けてきた者達だ。
これの意味することは十分に分かっている。
現在の悪魔や人間は、生きることに命を懸ける者が殆どいない。
命を懸けるという言葉は、精神的な比喩に留まるだけになってしまった。
社会で命を懸ける瞬間は皆無に近い。
社会の外で生きる者だけが、このことを知っていた。
人並み以下の生活。
寝食にも事欠く日常。
今の人間は自然から搾取するだけでは生活するのに資源が足りない。
足りなすぎる。
だから、同じ人間から搾取する。
社会では税などで金を徴収する形で。
社会の外では命を奪って。
やっていることの本質は、先進国でも発展途上国でも変わらない。
全員、同じだ。
悪魔も同じ。
正当化を社会を通して主張するか、しないか。
それだけの違い。
そんな生命は滅ぶべきだ。
俺は今もそう思う。
けど・・・生きる。
全てを踏み台にしても。
殺して、奪って、やがては全ての物が消費されても・・・
その最後の時まで、残酷な略奪者であり続ける。
俺は堂々とそのことを主張する。
世間から理解されない、テロリストと同じように。
これから俺達は沢山の命を救うために、命を殺すのだ。
その行為に尊厳だとか批判だとかは何も求めない。
けど、もし生命がほんのわずかでも結果的に生き残ったのなら、勝手に俺達を評価するのだろう。
・・・実に勝手で、実に傲慢な生命らしい。
「・・・行こう」
俺はそう答えた。
いつも通り。
そして・・・俺達の乗る巨大な空中要塞は、月の照らす不毛の大地へと落下した。




