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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第14.5章 父祖の辺獄と地獄篇 ラース領ラース街廃墟
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183話 変わった世界

 選択とは、切り捨てる行為である。

 無数に広がる可能性の別れ道。

 2本の時もあれば、1000本の時もある。

 だけど、選択者の肉体は1つ。

 1つを選べば、他に存在した全ての道を切り捨てることになる。


 人生とは、そういった決断を全ての者が選び取って、紡がれていく犠牲の道だ。

 全て、放棄されるかどうか選ばれて、たまたまここにいる。

 みんなそうして生き残った可能性だ。

 また、それらが全て滅ぶ可能性もある。


 枝分かれした道の先は見通せない。

 自分で判断するしかない。

 みんな不安だ。

 けど、生きている。

 死という現象が傍に佇みながらも。


 俺は、通常の人間なら選べない道を選択出来る。

 力があるからだ。

 俺もまた、全ての人間と同じで、選ばれたから。


 ・・・目覚めたのはベットの上だった。

 静かな空間の中で、俺は上半身を起こす。


 「・・・」


 小さな部屋だった。

 ベット以外には、小さな円形のテーブルとイスしか置かれていない。

 病室。

 そういう表現がピッタリの場所だった。


 「起きたのね」


 聞きなれた声が聞こえる。

 テーブルの上にちょこんと座って、俺を見る猫。


 ボンヤリとした感覚はない。

 意識は鮮明だ。

 俺の視界に入る物全てに命が宿っているのが見える。

 ごく少量。

 でも確かに俺は見えているし、感じている。


 俺が生物としての高みを上ったことを強く自覚する。

 世界に色がついて見えた。

 尊い。

 汚くても、そこには命があった。


 「また見守っててくれたんだろうな」

 「今度は72柱総出でね」


 そうだった。

 俺が大魔石と同調した時、彼らが周りにいたのだ。


 「まだここにいるのか」

 「いるわ。ここで3年間、貴方をずっと待ってた」

 「・・・ありがたいな。俺なんかの為に」

 「別の理由ももちろんあるわよ」

 「何だよ?」


 プラムが俺の傍までやってきて、カーテンのかけられた窓を肉球で指す。


 「そこから見えるわ」

 「何がだよ?」

 「惨状が」

 「・・・」


 嫌な予感がした。

 俺が大魔石に入る前、直前で何を見た?

 ・・・真上で動く月。

 止まった時間が動き出した世界。


 俺はカーテンを横に引っ張る。

 カラカラと音がなる。

 透明なガラスの向こう側に移った景色。

 それは、倒壊したラース街だった。


 「・・・俺が目覚めた後は、ろくなことになってないことが大半だよ」

 「文句は言わないで。みんな必死なのよ」


 分かってる。

 痛い程理解してる。


 「住人はいないんだろ?」

 「魔王と一緒に深淵へ行ったわ」


 魔石は大量にサタンの元へ集められていた。

 あの量なら、街の悪魔全体を転移させることも難しくない。

 それにこの街には転移回廊があるのだ。

 緊急時にも脱出出来る場所はいくつも存在している。


 「じゃあ、この街には俺達だけがいるのか」

 「理性ある者以外なら、うじゃうじゃいるわ」

 「俺らよりもよっぽど生物らしい生物だけどな」


 崩壊した街を徘徊する巨大な影が、幾つも見えた。

 黒い巨人や、全身に剛毛を生やした巨人。

 氷の巨人、植物の巨人、炎の巨人。

 それらがドスドスと地響きを鳴らしながら歩き回っていた。


 おぞましい怪物の集団。

 俺はあれを見たことがある。

 命が凝縮した闇の器。

 闇が創出しただけに、器は柔軟に広がって変形し、適応していく

 取り込んだ命の規模に肉体を合わせて。

 怪物達が魂を乱雑に取り込んだせいで、汚染が進んでいるのがよく分かる。


 「・・・邪悪種か」

 「それも、育ちに育ってるわよ」


 当然だ。

 邪悪種が深淵から解き放たれて2年。

 強大な邪悪種に対して、通常の魔物は歯が立たない。

 一方的に蹂躙されるだろう。


 メダカの大群が住んでいる小さな池の中に、サメを置くようなものだ。

 生態系の頂点がいきなり現れるのだ。

 成す術もないだろう。

 それは悪魔や他種族でも同じで・・・


 「他種族はどうなった?」

 「・・・分からないわ。けど、予想は出来る」

 「全滅、か」

 「今や邪悪種は地獄全域にまで広がったわ。生物を食らい尽して、ここにも出現している」

 「それでも、俺達は無事だったんだもんな」


 そう。

 ここ、中央執行所だけは無傷だった。

 紫色の毒霧が中央執行所と外を遮断しているからだ。

 邪悪な巨人達は、その霧に触れようともしない。


 「ベルゼブブか」

 「後、オセ・アムもよ。毒を使う神聖種を持っているから」

 「ああ・・・貶たりし驕傲の聖鳥獣(グリフォン)」だっけか」

 「ベルゼブブの饐えた聖礼なる蠅の王(インフェクション)には劣るけど、外と内を隔てる立派な防壁として機能してるわ」


 あのレベルの生物は、普通に結界を張ってたんじゃ間に合わない。

 簡単に破られるからだ。

 多分、ここには強力な結界の使い手であるレデグルグがいるんだろうが、それでも不十分だ。

 邪悪種相手にスピーリトス級は有効ではあるが、この数じゃあとても足りない。

 だから、毒という属性は非常に有効なのだ。


 「他に変わったことは?」

 「特にないわ。後は、地獄の生物が滅びかけていることくらいかしら?」


 厳密な意味で、生物が滅ぶことはないだろう。

 必ず1頭は邪悪種が生き残るから。

 自身以外の命を全て食らい尽して、孤高の生物が吠える姿が想像出来る。


 「お前の世界なのに、よくそんなに落ち着いて話せるよな」

 「踏ん切りは2年前にみんなで済ませたわ」

 「そっか・・・」


 自分の種族が滅んだら、俺はどう思うだろう?

 絶望?

 いや、種族の滅びなんて想像は出来ない。

 人の視野はもっと狭い。

 人が悲しむとするならば・・・自身の周りにいる人間が消えていくことに悲しむのだろう。

 住処を追われ、知っている仲間が死ぬということに。


 所詮、人間は目の前のことしか考えられない生き物だ。

 先の未来について考えることは出来るのか?

 自身が死んだ先のことを考えられるのか?

 先の未来に、命を懸けられるのか?

 無理だ。

 そんなこと、選ばれた人間にしか出来ないことだ。


 頭では考えていても、行動は出来ない。

 人間は合理的で、効率的だから。

 そんな生物に、自身の命は懸けられない。

 未来は不確定だからだ。

 人間は保険を作りたがる。

 そんな人間に、生物の滅びは理解出来ない。


 人生における覚悟の違い。

 俺の覚悟は、プラムや72柱と同等だろうか?

 俺は守られるに値する存在なのだろうか?

 そういう自覚を問われる発言が、彼女の次の言葉から聞こえた。


 「貴方が目覚めたら、みんなを集めて集会を開くことになってるの。今はまだいいけど、後日改めて貴方から話を聞かせてもらうわ」

 「俺から何を聞こうっていうんだ?」

 「天使について」


 彼女は、知るはずもない俺と天使の接触を知っているように、そう言った。



 ---



 翌日。

 真昼頃、中央執行所にある謁見室にて、ここに住んでいる悪魔全てが招集された。


 俺とプラム、サスケ、ポポロ。

 魔王である、オセとベルゼブブ。

 72柱バルバトス、レデグルグ、エマ、バティ、カイム、グラシャラボラス、ロノウェ。

 総勢12名。


 数多くの修羅場を潜ってきた戦闘におけるプロ中のプロ。

 みんな、驚異的な強さを誇る悪魔ばかりだ。


 心の状態は至って平静。

 絶望している様子は全くない。

 外がこんなになっても、心が乱れていたりはしていなかった。


 元々が孤独だった集団だからだ。

 みんな爪弾き者だった。

 それらが一斉に集まるということ。

 それは必然だったのかもしれない。


 知的生物は孤独を何より嫌うのだから。

 人間の心に近いものを有している彼らであれば、それは余計に顕著になる。

 俺らはこれから手を取り合っていかないといけない。

 そうしないと、生きていけないから。


 足りない部分を補い合って、集団や社会は誕生する。

 それは個人の弱さをさらに助長する行為でもある。

 でも・・・確かに俺達は今、手を取り合おうとしていた。


 「聞いたわよ。貴方、天使と接触してるらしいじゃないの」


 72柱の代表であろうオセが単調にそう聞いてきた。

 責めている雰囲気はない。

 それは周りで黙って聞いている面々も同じだ。


 「・・・サスケから聞いたのか?」

 「ええ、籠城している間、情報を共有することに決めたの。ここにいる連中はジャミングの出来る悪魔が少ない。嘘か本当かはみんな分かる」


 こんな閉鎖的な環境で、嘘を吐く奴はいないだろう。

 悪魔は心を読める。

 尚更素直に話した方が自身のためになる。

 そういう暮らしを、2年間ここでしてきたんだろうな。


 「だから、情報を共有しましょ?私達、真実を知りたいの。この世界で何が起こっているのか」

 「・・・俺が知っていることでいいなら、是非」


 秘密にしておく理由もない。

 というか、嘘を吐くとデメリットばかりが残る。

 世界を救う同士・・・とでも言うのだろうか?

 出来るだけ、味方が欲しい。

 地獄の生物が、完全に滅ぶ前に。


 俺はこの世界の仕組みについて話した。

 天使が俺に語ってくれたみたいに。


 世界の仕組み。

 生命の転生。

 魔物の正体。

 俺の力。

 世界の願望。

 魔王の願望。

 そして・・・俺の願望。


 ただ、俺は現世に帰りたいということ。

 このままでは、生命が滅ぶということ。

 運命干渉系能力者3人が、闇の滅びの願望を実行しようとしていること。

 天使がそれを俺に教えてくれたということ。


 全部、全部話した。

 正直に打ち明けることこそが、俺の誠意だ。

 普通に生きていては気付けないこの世界の秘密に、みんな驚いていた。

 死んでも、先はある。

 命がグルグルリサイクルされるように。


 汚れた神の意思。

 それらに闇の器を入れた存在が悪魔だということ。


 俺が嘘を吐いているかどうかは見抜けないだろう。

 俺の中には既に、魔剣とプラム達に同調した意思が微量に混ざっている。

 悪魔に俺の心が読めない原因はこれだと思った。


 意思が混ざると、元の意思が奔雑になる。

 心が怪物に近付く。

 それは元に戻しようがない同調のリスク・・・副作用だ。

 だから、悪魔は俺の真意が読めない。


 けど、悪魔達は俺を疑うことなく話を聞き続けた。

 そして・・・


 「正直、驚いたわ」


 オセがみんなの意見を代表した言葉を発した。

 そりゃそうだ。

 俺だって、天使から説明された時はびっくりした。


 「マ、待ってくレヨ。それじゃあ、ランティスが僕達の敵だって言いたいノカイ?」


 黒猫が悲しい表情をして俺に聞く。

 そうだった。

 ランティスの従者だったな、サスケは。


 「きっと、お前のことをだましてたんだと思う」

 「デモ、世界を救うんだッテ・・・」

 「世界を救うって、どういうことだと思った?ただ単純に、滅びを回避するってことだと思ったのか?」


 黒猫とランティスの認識の違い。

 両者は心が読めない。

 サスケは闇があるから。

 ランティスは運命干渉系能力者だから。

 両者の間に築かれていたのは、実に人間的な関係だ。


 ・・・誤解。

 その一言で片が付く。


 「世界を救うってさ、ランティスにとっては生物を滅ぼすことが救いなんじゃないかな」

 「・・・それで世界の状態は元に戻るからカイ?」

 「そう。生物は根本から汚い。汚いゴミを掃除したいってのと同じだと思う」


 ツライことだが、これが闇の意思だと思う。

 闇と身近に接してきた夜叉の猫なら分かるはずだ。

 闇がどれだけ潔癖症なのかを。


 「光はそのまま魂が汚染されたまま1つの邪悪種になることを望んでない。俺達にとっても、そこから生命の滅びが始まる。もうその滅びは始まっているけど、魔王が現世へ行ったら、それは加速してしまう」


 原因と予想されるべき結果。

 それは生命の損得として形を変えて、悪魔達の耳へ届けられる。


 「みんな、利害は一致している。ここにいる奴らは、誰も死にたいとは思わないだろ?」

 「・・・なんか、生き物ってみんな駒みたいな感じなのね」


 ポツリとオセが呟く。


 「結局、光が神様になるための材料だったり、邪魔者扱いなだけじゃない。あたし達」

 「・・・そうだと思う」


 生き物に本来生きる権利はない。

 生物が自然の中から資源を無理矢理分捕って生きてきただけだ。

 権利は、そもそも知的生物の中でしか通じない言葉だ。

 神がなんでそんな下等な生物の権利なんかを考える必要があるのか。

 本当に、生命とは哀れだ。


 「それに魔王を止めなくても、もう既に邪悪種が地上を占領してるのよ?他種族も、悪魔もいずれ滅ぶ。魔物の器が闇から作られて、邪悪種に食われるのがオチじゃない」

 「・・・滅びは止められないかもしれないし、そもそも生命は滅ぶ運命だ。けど、少しでも長く生きたくないのか?」


 弱い心を持つ者ならそう思うかもしれない。

 けど、ここにいる悪魔達は違うはずだ。

 生物は生きなければいけない。

 何故なら、1人1人確かに考える意志があるのだから。

 辛い現実を生きていった結果、意志を獲得したのだから。

 先人の遺志を拾い上げながら。

 その連鎖を果たして簡単に放棄してもいいのか?

 疑問が俺の言葉を紡ぐ。


 「滅びは止められないけど、延命は出来る。なら、やるべきだろ」

 「お兄さんは、悪魔の視点に立ってそう考えるのね」

 「俺も、悪魔に命を救われたからな」

 「・・・でも、結局は滅ぶのよね」

 「結局滅ぶなら、足掻いてみようとは思わないのか?」

 「・・・」


 意味のない行為。

 意味のない延命。

 果たして本当にそう思うのだろうか?

 俺が天使に言われた言葉・・・それはきっと。


 「俺も協力する。悪魔に命を救われたから」


 それだけ言った。

 教えた。

 後は、俺は受け身でいい。

 何か積極的に話すこともない。


 周囲の悪魔は黙っていた。

 悲観、複雑、迷い。

 そんな意思が届いてくる。


 事態は自身の欲望の範疇を超えて、世界の滅びという問題にまで発展した。

 俺がこの世界に来なくても、闇の意思は滅びの意思を実行しただろう。

 でも、俺は悪魔に疎まれながらもここにいる。

 じゃあその意味は?

 俺はこれが偶然じゃないと思ってる。

 何より、天使の導きがあったんだから。


 「多分、魔王はお兄さんが来るのを深淵で待ってるんでしょうね」

 「・・・そうだろうな」

 「魔王をもし止められたとして、地上に撒かれた邪悪種はどうなるのよ?」

 「分からない」

 「深淵から生きて戻れる可能性は?」

 「分からない」

 「・・・分からないことだらけじゃない」


 けど・・・


 「やらなきゃ滅びを食い止められない。もう手遅れかもしれないけど・・・それでも・・・」

 「・・・転移の陣、執行所内部に1つだけ残してあるわ」

 「どこに繋がってるんだ?」

 「・・・ラースの空中要塞よ」


 スロウス領で修理していたって聞いてたな。


 「もし、深淵に行くならその空中要塞で行くしかないわ」

 「じゃあ・・・」

 「でも、行くかどうかはまだ決めかねてる。私達も、黒猫ちゃんも迷ってるし」

 「・・・迷うよな」


 みんな、悪魔達から除外されて生きてきたのだ。

 生命の醜さは知っている。

 命は汚く生きるもの。

 同時に、どうしようもなく生きる価値のないもの。


 十分にみんな分かっている。

 どちらかと言うと、自身の欲望を持っている悪魔は生の執着が強い。

 けど、他の悪魔に対してはどうだろう?

 悪魔全体が滅ぶとして、それを阻止する価値があるのか?

 自身の死後の先まで世界のことを考えられない。

 汚い人間の自己保身。


 どうだろう?

 何が正しくて、何が間違いか。

 自身の築いてきた価値観がグラグラと揺れて崩れる。

 それぞれ俺に対して声をかける。

 それはバラバラな言葉だったが、意味は共通していた。


 みんなが言ったのは、考えさせて、という先延ばしの発言だった。

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