182話 光の記憶13
こんな話がある。
人生の進路に対して、明確な意志を持っている青年がいた。
・・・俺のことだ。
世界に飛び出したいと、そう思っていた。
理由は何でもいい。
語学を学ぶこと。
異国の文化に触れたいということ。
観光地に行きたいということ。
理由なんて後から決めて構わない。
とにかく、自分の国から逃げ出したい。
そういう願望だ。
自分の住む国に希望がなかった。
やりたい仕事も、好きな人も、今営んでいる生活も、全部好きじゃない。
嫌いだった。
何もやりたくない。
そういう態度は他者から嫌われた。
周りの大人達は言う。
ワガママだと。
甘えていると。
みんな苦しんで生きているんだと。
・・・納得出来なかった。
俺は元々人の倫理観に外れた考えを持っていた。
俺が生きるのは、俺の為。
人の為じゃない。
だって、生物は生物を食うことでしか生きられないのだから。
だから、人が人を殺してはいけないという常識が理解出来なかった。
同族を殺すことはいけない?
何故?
人は様々な生物を殺すことで生きていけるのに。
そういう前提があるのに、まるでそれがなかったことのように振る舞っている大人達が嫌いだった。
社会もそうだ。
人を使うから、人が存続出来る。
人同士で助け合って生きていくのは大いに結構。
正しいことだ。
足りない能力を互いに補い合う関係は、素晴らしい。
けれど、人を食い物にして生きるということも、同じくらい俺にとっては正しかった。
でも、この考えを人に押し付けるつもりはなかった。
人を殺してもいいという考えを持ってはいても、実際には殺さない。
人を殺したら、その者の希望を潰してしまう。
それは人の考え方や生き方を否定してしまうことだ。
俺は人に否定はされたくない。
そう考えて、俺は黙っていた。
でも、あっという間にそれは崩れた。
俺は他者ではない。
思想の自由とは言うが、実際の行動は極端に制限された。
人に迷惑をかけないこと。
その上でお互いに共存していくこと。
そういう生き方に、個人の尊重などありはしなかった。
行動を制限されれば、思想を縛られることと同義だ。
思考は考えるだけでなく、実行に移すことで初めて価値が見出されるのだから。
俺は生きながらも殺されていた。
俺の意志を封じ込めて、改変することによって。
自分の考えを理解されなくてもいい。
だが、否定され、押し込められるのは我慢が出来なかった。
こんな閉塞した世界に、可能性を感じなかったのだ。
ここにいたら、俺は本当に心が死んでしまいそうで。
そういう鬱憤を蓄積させながら、俺は18歳まで変化のないまま生活することになる。
社会で決められた義務で、俺は生かされていた。
でも、時は来る。
自立という呼び名を変えた放置行為。
俺は成長した後、旅に出た。
大人はいつまでも子供の世話をしたりはしない。
当然だ。
自然界でも親離れに例外はない。
むしろ、生みの親を自身が産まれた瞬間から食らう子もいる。
生というのは貪欲だ。
生き延びようとするその執着は、親をも殺す。
でも、俺には親がいない。
分かっていたことだ。
もうこの国に心残りはない。
滅びてもいいくらいだ。
俺はここにいられない。
だから俺は・・・世界に逃げ出した。




