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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第13章 父祖の辺獄と地獄篇 ラース街中央執行所
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172話 ザ・アンフォアギヴン12~力の本質~

 心に問いかける。

 同調とはなにか?


 天使の力。

 天使は万能。

 万能の力の一旦。


 意思と意思を繋ぐ力。

 だが、それこそがこの同調という力の一端の気がしてならない。


 もっとうまく使えるはず。

 応用出来るはず、という意味ではない。

 もっと、根源からの理解が必要だ。


 同調を行うと、力が溢れてくる。

 生物の命と力を提供してもらっているからだ。

 共有している訳じゃない。

 だって、プラムやサスケに同調による恩恵はあったか?


 それはない。

 断言出来る。


 力を使ってメリットがあるのは俺だけだ。

 俺だけの力なのだから。

 言い方を変えると、相手の力を借りているとも言える。

 或いは奪う、か。


 天使によると、同調の対象範囲は広いらしい。

 悪魔、動物などの有機的存在。

 石、水、土などの無機的存在。

 なんでもありだ。


 何故なら、物の全てに意思は宿っているから。

 意思は命。

 ランティスはそう言った。


 プラムと同調した場合は、身体能力だけが向上した。

 魔剣とは違い、猫的な動作と特徴も含めて。

 体が明らかに変質しているのだ。

 同調に慣れない初期の頃は、性格すらも豹変していた。


 闇の世界・・・地獄では、みんな肉体を持って転生している。

 なら、俺の場合は?

 俺は人間の形を保ってここにいる。

 じゃあ、俺も同じように肉体を持っているのか?

 ・・・俺にはそうとは思えない。


 だって、同調を行うと人間の体では再現出来ない特徴が生まれるのだから。

 猫の眼然り、筋力然り。


 俺は魂だけの存在なんだと思う。

 もちろん血は流れるし、内臓だってある。

 けれど、それは魂がそういう風に形を整えているだけじゃないのか?

 それらしいことを、天使のスティーラは言っていた気がする。



 魂の形は現世での肉体の形と同じです。

 死んだ直前の体を魂は再現しているんです。

 再現・・・そしたら心臓だけじゃなくて、脳も胃袋も全部俺の体の中にあるのか。

 その通りです。そして魂が再現するのは形だけじゃありません。

 体の機能ごと再現しているんです。


 つまり、そういうことだ。

 同調は意思を借りたり出来る力だ。

 だから、魂自体で動いている俺の体は、そのまま相手の魂と混ざって、著しい強化を果たすんじゃないのか?

 人間の体で再現出来る力を超えること。

 体の作りが書き換えられるのなら、それは当然だとも言える。

 だって、魂は変質するのだから。


 形がない。

 肉体と違って。

 これは偽りの・・・けど、本当の体だ。

 本質を俺は既に体現しているんだ。


 もっと同調を深くしたなら、どうなるのだろう?

 完全に相手の特徴を受け継ぐ?

 そうしたら性格は?

 ・・・余分なものまでこっちの魂に引っ張られそうだな。

 命の危機を感じて行った同調は、その余分な要素である性格まで上書きしたんだと思う。


 魔剣にも意思がある。

 上下関係がある。

 だから、同調の対象によって強弱が出るのは当たり前のことだ。

 上手く使えば、性格などの余計な要素は極力控えて同調出来る。

 

 便利な力だ。

 努力などせずとも、他者の力を借りることが出来る。

 夢のようだ。

 普通の人間が何年もかけて体得する技術を、俺は一瞬で再現出来る。


 努力という言葉が濁る。

 尊い行為なのに。

 結果が全てを物語っているような気がして。


 しかし、そんな力を使わなくては、この世界では生き残れない。

 人間という種は、余りに非力な生物だ。

 動物としてのランクは下の下。


 だが、狩猟を行う者としては最上。

 人間には誰も敵わない。

 そういう力が人間にはある。

 知恵という力が。


 でも、俺は悪魔という人間に似た種族を相手にしなければいけない。

 魔物相手なら知恵で何とかなりもするだろう。

 だが、悪魔と魔物では性質が違う。

 悪魔は考え、動き、実行する。

 その点は非常に人間の狩りとよく似ている。


 人間はどうしたら悪魔に勝てるだろうか?

 この世界でただ1人の人間ごときが。


 卑怯な力・・・同調。

 俺は全力でこの力を使いこなさなくちゃいけない。

 死にたくないのなら。


 努力して強くなれたのなら、それはいい。

 尊い行為だ。

 それは素晴らしいことだろう。

 けど、なんの努力もなしに成長すること。

 それは誰しもが忌避感を覚える。

 努力しないでいいのか?と。


 でもだ。

 それはある種における道徳的な考え方だ。

 その考えは人間社会において称賛されるべきものだが、それはあくまで人間社会での話。

 暴力と闘争が渦巻くこの現状においては、それらはむしろ邪魔なものだ。


 何故かって?

 そんなことを考えていたら殺されるからさ。


 死んだら無意味。

 いくら尊いものであろうと、無意味。

 現実は違うものを要求している。

 それは力。

 生き残るための力。


 時間があれば強くなる努力もするだろう。

 けど、俺にはそんなものはない。

 時間がない。

 資質も才能もない。

 だから卑怯な方法で俺は成長する。


 避難されてもいい。

 自分の力なしで戦えなくてもいい。

 今、生き残れるなら。


 きっと、この力は俺から何かを奪っている。

 タダほど怖いものはない。

 等価交換。

 きっと俺は同調という力を使うたびに、何かをすり減らしている。


 犠牲だ。

 世の中はそういう風に出来ている。

 犠牲なくして生は有り得ない。

 殺すから、生きる。

 俺はそれを実行する。


 卑怯な方法で悪魔を殺すことに躊躇いを覚えない。

 俺は覚悟を決めて、そういう存在になるのだ。

 人間を超えて。


 さあ、生き残ろう。

 自分の力を試そう。


 ・・・願望を叶えるために。



 ---



 目を開けた。

 レイディがゆっくりとこっちへ歩いていく。

 サスケが必死に俺を起こそうと叫んでいた。


 体中が痛いのに、なんだか眠い。

 死とは優しいものだと聞く。

 誰にでも平等に訪れて、羽毛のように命を包む。

 それをされたらどんなに楽だろう?

 生きることは苦しい。


 けど、死ぬことはいつでも出来る。

 死ぬことはいつだって出来るのだ。

 逃げ道は何時何時も用意されている。

 そう思うだけで、心が軽くなる。


 死ぬのは何時でも出来る。

 じゃあ、心置きなく抵抗してやろうじゃないか。


 俺は同調を開始する。

 体中を蝕むこの毒。

 これをどうにか出来ないだろうか?


 生き残るための模索が始まる。

 毒は無機化合物と有機化合物の2種類が存在する。

 生命由来の毒とそうでないもの。

 俺が今まで行ってきたのは明確な意思を持った物体や生物だけだ。


 未だに石などの無機物から意思を感じ取ることは出来ない。

 けど、やって出来ないことはない。

 俺の力はそういうことが出来るのだから。


 体に存在する毒物の存在を意識する。

 体は拒絶反応を起こす。

 毒は有害だから。

 従って、異物感のある感触を意思を通じて探した。


 ・・・通常時の体とは違うものを感じた。

 意思表示のない意思・・・とでも言えばいいのだろうか?

 自身の存在する結果を、そのまま忠実に現実にしようとする働き。

 善も悪もない命がそこにはあった。


 ただ、そこにあってそうであろうとする意思。

 思考はない。

 物なのだから。

 けど、意思の根源には俺達と同種の温かい命を感じた。

 ほんの微量の小さなものだが、確かにそこに存在した。


 分かる。

 毒の流れが。

 生物として自覚出来る。


 体を蝕もうとするのは、悪意によるものじゃない。

 その毒の存在意義そのものが生物と共有出来ないから、こうなっている。

 なら、役割を共有すればいい。


 魔剣と同調するように、小さな意思と繋がる。

 俺の命の規格と、毒の命の規格は違う。

 こちらの方がかなり大きい。

 だから端子を合わせる。

 相手と交信するために。


 イメージするのはプラグだ。

 俺のプラグは接続先に合わない。

 だから加工する。

 プラグは命で作る。

 命で加工する。


 そうだ。

 今分かった。


 俺の力。

 これ、命を加工する力なんだ。


 俺が命に触れて、自由に変質させ、加工する。

 それを体で表現する。


 そうだった。

 そういう力だったじゃないか。


 現世でも・・・俺はそうしていた。

 理解するのに何年もかかったけど、確かに使いこなしていたんだ。


 分かれば話は早い。

 毒物を知り、体に馴染ませる。

 耐性を作るんじゃない。

 始めから受け入れることの出来る体を構成するのだ。

 毒の意思を通じて。


 「・・・」


 俺は立ち上がった。

 体から苦痛は消えている。

 同調の線は小さく脆い。

 気を抜いてはいけない。

 でも・・・やれた。

 俺は出来た。


 「やれば出来るもんだな」


 心底そう思った。


 「な・・んで?」


 疑問でいっぱいのレイディに剣を刺す。

 丁度胸の位置。

 心臓を貫く。


 「油断してるからそうなるんだ」


 結界がガラガラと崩れだす。

 毒が外へ出ていく。

 同時に、植物も枯れていった。

 苦戦して殺されかけたのに、呆気ない。


 人間はいつもこういう風に雑魚死する。

 基本的には殆どの生物は雑魚だ。

 雑魚だと自覚するからその領域から逃れようとする。

 抗っているだけだ。

 抗うことを忘れたり、諦めると簡単に死ぬ。

 そういう環境であればあるほど。


 「・・・せめて道ずれにしてやる」


 彼女を覆う植物から異臭が漂う。

 彼女は溶けていた。

 全身が爛れて、形が不定形になる。

 そして毒を噴出した。


 至近距離から俺はそれを浴びる。

 けど、何の効果もない。

 無意味だ。

 俺は強くなったから・・・


 「あ・・・あ・・・」


 その様子を見て彼女は絶望する。

 そんな意思が俺に届く。

 ・・・殺したことによる後悔は全くない。

 好戦的な敵だったから。

 これも、身勝手な考え方なんだろうな。


 「サスケ、大丈夫か?」

 「平気ダヨ」


 黒猫はちゃっかり闇で完全武装をしていた。

 ・・・やるね。


 向こう側を見ると、毒の霧が晴れていくのが分かった。

 あそこでは、煙の騎士達と大剣を持った悪魔がいたはずだ。

 俺の予想が正しければ・・・


 「やっぱりか」


 植物が枯れた光景の先にいたのは、大剣を持った悪魔だけだった。

 騎士は残らず全滅。

 でも、意義のある全滅だ。

 そのおかげで俺は生き残れたのだから。


 「・・・」


 無言で男は俺を見続ける。

 ・・・敵意はある。

 なのに、親しみと呼べる感情が俺に伝わる。


 親しみ?

 なんで?

 コイツと俺に接点が?


 「・・・おい」

 「・・・」


 大剣を持った男は後ろへ走り去る。

 俺達がこの部屋に入ってきた入口の方向へ。

 巨大な物体を持っているとは思えなくらい軽やかに。


 「逃がして良かったのカイ?」

 「今、ここから移動して身を隠せばいい」


 現在位置情報の更新。

 それだけでいい。

 この混沌とした戦場の中で、俺の位置を捕捉するのは困難だろう。

 ついでに言えば、サスケも俺も心は読まれない。

 だから、今すぐ身を隠せば大丈夫のはずだ。


 「なら、今すぐ移動するべきダネ」

 「そうだな」


 俺はレイディの無残な死体を一瞥する。

 プスプスと泡立って、嘔吐物の臭いを近くで嗅いだ時のような臭いがする。

 俺も・・・いつこうなってもおかしくはない。

 覚悟を決めよう。


 死体を見て、そう思った。

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