172話 ザ・アンフォアギヴン12~力の本質~
心に問いかける。
同調とはなにか?
天使の力。
天使は万能。
万能の力の一旦。
意思と意思を繋ぐ力。
だが、それこそがこの同調という力の一端の気がしてならない。
もっとうまく使えるはず。
応用出来るはず、という意味ではない。
もっと、根源からの理解が必要だ。
同調を行うと、力が溢れてくる。
生物の命と力を提供してもらっているからだ。
共有している訳じゃない。
だって、プラムやサスケに同調による恩恵はあったか?
それはない。
断言出来る。
力を使ってメリットがあるのは俺だけだ。
俺だけの力なのだから。
言い方を変えると、相手の力を借りているとも言える。
或いは奪う、か。
天使によると、同調の対象範囲は広いらしい。
悪魔、動物などの有機的存在。
石、水、土などの無機的存在。
なんでもありだ。
何故なら、物の全てに意思は宿っているから。
意思は命。
ランティスはそう言った。
プラムと同調した場合は、身体能力だけが向上した。
魔剣とは違い、猫的な動作と特徴も含めて。
体が明らかに変質しているのだ。
同調に慣れない初期の頃は、性格すらも豹変していた。
闇の世界・・・地獄では、みんな肉体を持って転生している。
なら、俺の場合は?
俺は人間の形を保ってここにいる。
じゃあ、俺も同じように肉体を持っているのか?
・・・俺にはそうとは思えない。
だって、同調を行うと人間の体では再現出来ない特徴が生まれるのだから。
猫の眼然り、筋力然り。
俺は魂だけの存在なんだと思う。
もちろん血は流れるし、内臓だってある。
けれど、それは魂がそういう風に形を整えているだけじゃないのか?
それらしいことを、天使のスティーラは言っていた気がする。
魂の形は現世での肉体の形と同じです。
死んだ直前の体を魂は再現しているんです。
再現・・・そしたら心臓だけじゃなくて、脳も胃袋も全部俺の体の中にあるのか。
その通りです。そして魂が再現するのは形だけじゃありません。
体の機能ごと再現しているんです。
つまり、そういうことだ。
同調は意思を借りたり出来る力だ。
だから、魂自体で動いている俺の体は、そのまま相手の魂と混ざって、著しい強化を果たすんじゃないのか?
人間の体で再現出来る力を超えること。
体の作りが書き換えられるのなら、それは当然だとも言える。
だって、魂は変質するのだから。
形がない。
肉体と違って。
これは偽りの・・・けど、本当の体だ。
本質を俺は既に体現しているんだ。
もっと同調を深くしたなら、どうなるのだろう?
完全に相手の特徴を受け継ぐ?
そうしたら性格は?
・・・余分なものまでこっちの魂に引っ張られそうだな。
命の危機を感じて行った同調は、その余分な要素である性格まで上書きしたんだと思う。
魔剣にも意思がある。
上下関係がある。
だから、同調の対象によって強弱が出るのは当たり前のことだ。
上手く使えば、性格などの余計な要素は極力控えて同調出来る。
便利な力だ。
努力などせずとも、他者の力を借りることが出来る。
夢のようだ。
普通の人間が何年もかけて体得する技術を、俺は一瞬で再現出来る。
努力という言葉が濁る。
尊い行為なのに。
結果が全てを物語っているような気がして。
しかし、そんな力を使わなくては、この世界では生き残れない。
人間という種は、余りに非力な生物だ。
動物としてのランクは下の下。
だが、狩猟を行う者としては最上。
人間には誰も敵わない。
そういう力が人間にはある。
知恵という力が。
でも、俺は悪魔という人間に似た種族を相手にしなければいけない。
魔物相手なら知恵で何とかなりもするだろう。
だが、悪魔と魔物では性質が違う。
悪魔は考え、動き、実行する。
その点は非常に人間の狩りとよく似ている。
人間はどうしたら悪魔に勝てるだろうか?
この世界でただ1人の人間ごときが。
卑怯な力・・・同調。
俺は全力でこの力を使いこなさなくちゃいけない。
死にたくないのなら。
努力して強くなれたのなら、それはいい。
尊い行為だ。
それは素晴らしいことだろう。
けど、なんの努力もなしに成長すること。
それは誰しもが忌避感を覚える。
努力しないでいいのか?と。
でもだ。
それはある種における道徳的な考え方だ。
その考えは人間社会において称賛されるべきものだが、それはあくまで人間社会での話。
暴力と闘争が渦巻くこの現状においては、それらはむしろ邪魔なものだ。
何故かって?
そんなことを考えていたら殺されるからさ。
死んだら無意味。
いくら尊いものであろうと、無意味。
現実は違うものを要求している。
それは力。
生き残るための力。
時間があれば強くなる努力もするだろう。
けど、俺にはそんなものはない。
時間がない。
資質も才能もない。
だから卑怯な方法で俺は成長する。
避難されてもいい。
自分の力なしで戦えなくてもいい。
今、生き残れるなら。
きっと、この力は俺から何かを奪っている。
タダほど怖いものはない。
等価交換。
きっと俺は同調という力を使うたびに、何かをすり減らしている。
犠牲だ。
世の中はそういう風に出来ている。
犠牲なくして生は有り得ない。
殺すから、生きる。
俺はそれを実行する。
卑怯な方法で悪魔を殺すことに躊躇いを覚えない。
俺は覚悟を決めて、そういう存在になるのだ。
人間を超えて。
さあ、生き残ろう。
自分の力を試そう。
・・・願望を叶えるために。
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目を開けた。
レイディがゆっくりとこっちへ歩いていく。
サスケが必死に俺を起こそうと叫んでいた。
体中が痛いのに、なんだか眠い。
死とは優しいものだと聞く。
誰にでも平等に訪れて、羽毛のように命を包む。
それをされたらどんなに楽だろう?
生きることは苦しい。
けど、死ぬことはいつでも出来る。
死ぬことはいつだって出来るのだ。
逃げ道は何時何時も用意されている。
そう思うだけで、心が軽くなる。
死ぬのは何時でも出来る。
じゃあ、心置きなく抵抗してやろうじゃないか。
俺は同調を開始する。
体中を蝕むこの毒。
これをどうにか出来ないだろうか?
生き残るための模索が始まる。
毒は無機化合物と有機化合物の2種類が存在する。
生命由来の毒とそうでないもの。
俺が今まで行ってきたのは明確な意思を持った物体や生物だけだ。
未だに石などの無機物から意思を感じ取ることは出来ない。
けど、やって出来ないことはない。
俺の力はそういうことが出来るのだから。
体に存在する毒物の存在を意識する。
体は拒絶反応を起こす。
毒は有害だから。
従って、異物感のある感触を意思を通じて探した。
・・・通常時の体とは違うものを感じた。
意思表示のない意思・・・とでも言えばいいのだろうか?
自身の存在する結果を、そのまま忠実に現実にしようとする働き。
善も悪もない命がそこにはあった。
ただ、そこにあってそうであろうとする意思。
思考はない。
物なのだから。
けど、意思の根源には俺達と同種の温かい命を感じた。
ほんの微量の小さなものだが、確かにそこに存在した。
分かる。
毒の流れが。
生物として自覚出来る。
体を蝕もうとするのは、悪意によるものじゃない。
その毒の存在意義そのものが生物と共有出来ないから、こうなっている。
なら、役割を共有すればいい。
魔剣と同調するように、小さな意思と繋がる。
俺の命の規格と、毒の命の規格は違う。
こちらの方がかなり大きい。
だから端子を合わせる。
相手と交信するために。
イメージするのはプラグだ。
俺のプラグは接続先に合わない。
だから加工する。
プラグは命で作る。
命で加工する。
そうだ。
今分かった。
俺の力。
これ、命を加工する力なんだ。
俺が命に触れて、自由に変質させ、加工する。
それを体で表現する。
そうだった。
そういう力だったじゃないか。
現世でも・・・俺はそうしていた。
理解するのに何年もかかったけど、確かに使いこなしていたんだ。
分かれば話は早い。
毒物を知り、体に馴染ませる。
耐性を作るんじゃない。
始めから受け入れることの出来る体を構成するのだ。
毒の意思を通じて。
「・・・」
俺は立ち上がった。
体から苦痛は消えている。
同調の線は小さく脆い。
気を抜いてはいけない。
でも・・・やれた。
俺は出来た。
「やれば出来るもんだな」
心底そう思った。
「な・・んで?」
疑問でいっぱいのレイディに剣を刺す。
丁度胸の位置。
心臓を貫く。
「油断してるからそうなるんだ」
結界がガラガラと崩れだす。
毒が外へ出ていく。
同時に、植物も枯れていった。
苦戦して殺されかけたのに、呆気ない。
人間はいつもこういう風に雑魚死する。
基本的には殆どの生物は雑魚だ。
雑魚だと自覚するからその領域から逃れようとする。
抗っているだけだ。
抗うことを忘れたり、諦めると簡単に死ぬ。
そういう環境であればあるほど。
「・・・せめて道ずれにしてやる」
彼女を覆う植物から異臭が漂う。
彼女は溶けていた。
全身が爛れて、形が不定形になる。
そして毒を噴出した。
至近距離から俺はそれを浴びる。
けど、何の効果もない。
無意味だ。
俺は強くなったから・・・
「あ・・・あ・・・」
その様子を見て彼女は絶望する。
そんな意思が俺に届く。
・・・殺したことによる後悔は全くない。
好戦的な敵だったから。
これも、身勝手な考え方なんだろうな。
「サスケ、大丈夫か?」
「平気ダヨ」
黒猫はちゃっかり闇で完全武装をしていた。
・・・やるね。
向こう側を見ると、毒の霧が晴れていくのが分かった。
あそこでは、煙の騎士達と大剣を持った悪魔がいたはずだ。
俺の予想が正しければ・・・
「やっぱりか」
植物が枯れた光景の先にいたのは、大剣を持った悪魔だけだった。
騎士は残らず全滅。
でも、意義のある全滅だ。
そのおかげで俺は生き残れたのだから。
「・・・」
無言で男は俺を見続ける。
・・・敵意はある。
なのに、親しみと呼べる感情が俺に伝わる。
親しみ?
なんで?
コイツと俺に接点が?
「・・・おい」
「・・・」
大剣を持った男は後ろへ走り去る。
俺達がこの部屋に入ってきた入口の方向へ。
巨大な物体を持っているとは思えなくらい軽やかに。
「逃がして良かったのカイ?」
「今、ここから移動して身を隠せばいい」
現在位置情報の更新。
それだけでいい。
この混沌とした戦場の中で、俺の位置を捕捉するのは困難だろう。
ついでに言えば、サスケも俺も心は読まれない。
だから、今すぐ身を隠せば大丈夫のはずだ。
「なら、今すぐ移動するべきダネ」
「そうだな」
俺はレイディの無残な死体を一瞥する。
プスプスと泡立って、嘔吐物の臭いを近くで嗅いだ時のような臭いがする。
俺も・・・いつこうなってもおかしくはない。
覚悟を決めよう。
死体を見て、そう思った。




