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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第13章 父祖の辺獄と地獄篇 ラース街中央執行所
171/244

171話 ザ・アンフォアギヴン11~包囲戦~

 「緑多き我が領土(プラントコントロール)!!」


 レイディの叫びで植物が共鳴する。

 搾取されるのが運命のその身から降り絞るように。


 食物連鎖に入るのは動物だけじゃない。

 狩り、狩られるのは植物も同じだ。

 食肉植物は虫を誘引し、その肉を食らう。


 だが、そうした特殊な機能を備えていない限り、別生物に対して植物は無力だ。

 移動の出来ない、単体の生物としては出来損ないの類。

 生態系を根本から支える弱者。

 人類はそういう認識をしていたはずだ。

 中には、生物ではないと思っている馬鹿な輩もいる。


 それ程までに、植物とは意思の疎通がしがたい。

 本能的な欲求がどの既存の生物よりも純粋だからだ。

 栄養を吸収し、次代へ繋ぐこと。

 ただそれだけを願って、植物は移動するという機能を破棄した。


 はっきり言って、搾取されることが分かっているのに移動する手段を取らないのは、生物的な見解から言って常軌を逸している。

 他の本能を伏せ持つ俺ら動く生物は、とにかく移動しないと話にならない。

 殺し、殺され。

 その行動の基本にあるのは移動だ。


 仮に動物が移動出来ない状況に陥ったとしよう。

 それはとても苦痛なはずだ。

 十分に罰として機能する行為。

 だから現世には刑務所があって、独房が存在する。


 自由を奪われたという心境が苦痛を発生させてるんじゃない。

 ただ、動物は動くことこそが自然的なことなのだ。

 そうしないと、本来生きてはいけないから。


 今度は植物が我慢の限度を超えたのだろうか?

 植物の根が、蔦が、葉が軟体生物の如く動き出す。

 今まで生物達の土台にされてきたという事実に、怒りを示しているみたいに。

 どいつもこいつもが、危険なシグナルを発している。


 ツタが鞭のように何度も何度も地面を叩いている。

 地面に張られた根はそれによって寸断されるが、すぐに修復されていく。

 狂気がそこにはあった。

 破壊と再生。

 調和することのない性質が、彼女の植物には全て宿っている。


 「さあさあさあ!あれだけ大口を叩いていたんだから、いい勝負をしてくださいよね!!!」


 蔓の鞭が無数に俺を襲う。

 猫の目で躱す順番を判断し、掻い潜っていく。

 躱した蔓が生えていた木を叩き折る。

 ・・・暴力のお手本だ。

 一切の手加減がない。


 1本1本の蔓の攻撃には連携がないに等しい。

 全て、狩猟本能的に個々で攻撃を行っているようだった。

 同時に攻撃が来ることがなければ・・・俺は回避出来る。


 植物には目がない。

 視線で攻撃の方向は推測出来ない。

 撓るその体から想像し、攻撃を避けていく。


 「ハハハ!」


 植物達の攻撃。

 その隙間から彼女が遠距離攻撃を仕掛けてくるのが見えた。

 ミキミキと音を立てて、ニードルの形をした槍を一瞬で生やす。

 命の成長を強引に加速させて。


 緑色のニードルは小さな種からその形状を構築している。

 武器を作るために生み出され、使い捨てられる。

 尊いはずの命の誕生が、何だか色褪せて見えた。


 剣を下段に構えて、投げられた槍を下から斜めに切断する。

 強化された腕力が、分厚い物体の切断を容易にした。

 槍の圧力は殆ど先端部分に集約している。

 それ以外の個所を狙うのは当然のことだ。


 俺を吸収したいという食欲じみた本能が俺の進行を阻む。

 だが、それには隙間がある。

 植物にもちゃんとした領域があるのだ。

 そこへ全力で駆け出す。


 俺がそのポイントへ進行するのが分かっていたようで、タイミングよく彼女は槍をこちらに投げる。

 両サイドには植物が存在し、横に逃げることを許してはくれない。

 槍が投げられると同時に、彼女もこっちへ迫る。

 ・・・槍を防げば隙が出来るな。


 俺は魔石を使って闇を放出する。

 闇はその性質に従って、進行していた槍と両側の蔓の動きを著しく遅くさせる。


 「なっ!?」


 俺が闇の能力を使うことに驚いたみたいで、一瞬動きが鈍る。

 辺りに浮遊している闇の接触を警戒したのか、急激な180度バックステップで後方へ飛びのく。

 その際に黒い種を幾つも蒔いた。

 瞬間、種から棘の生えた茨が続々と生えてくる。

 どうやら、俺の進行を邪魔したいらしい。


 茨が天井部分まで届かない内に、俺は全力で跳躍する。

 1秒も経たない内に天井へ到達。

 さらに天井を蹴って斜め下へ加速する。


 「中々やりますね?」


 グルグル回転運動をしながら下へ落ちる。

 攻撃を行おうとしている俺を見た彼女が、またもや種を周りに落とす。

 成長の過程をすっ飛ばして誕生した植物は、不気味な花だった。

 毒々しい色をしたチューリップ。

 それを人間サイズまででかくした花が、周りに咲き乱れる。

 気色の悪い花畑だった。


 ・・・あの花は危険だ。

 そう本能が囁いている。

 けれど、加速して落下している俺自身は止められない。

 俺は攻撃を中断して、花畑の中に柔らかく衝撃を吸収して着地する。

 四肢に鈍い痛みが走るが、体制は崩さない。

 辺りを警戒する。


 殺気が花と花の間からやってきた。

 気配を殺して植物の隙間から黄色い液体が飛んでくる。

 鼻先を掠めて、液体は花に付着した。


 「・・・酸液?」


 花がジュウジュウと溶けている。

 形が爛れて、やがては全体が枯れていく。

 命が溶けていた。


 酸液の乱れうち。

 液体の発射音を頼りに俺は避けていく。

 そして、見つけた。

 植物の殺意に身を隠す狩人の姿を。


 鋭利に彼女に向かって魔剣を突き出す。

 彼女が反応して、液を飛ばしながら右手にニードルを形成する。

 それは通常の投擲用の槍とは違う。

 凶悪な棘が牙のようにいくつも並び、しまいには高速で回転さえしていた。

 チェーンソーみたいな音が響いてくる。


 俺の魔剣で切られたのを見て、改良したんだろう。

 狩人の目をして、俺を獲物として捕らえる。

 そういう顔をして彼女は俺を襲う。


 闇を2本の魔剣に乗せる。

 分厚く、頑丈に。

 高濃度の闇を纏った魔剣を、さっきの要領で回転しているニードルに対して横に斬りつける。

 接触した瞬間ギャリギャリ闇が霧散していくが、それは長くは続かなかった。

 どんどんスローモーションになっていく。

 片方の負担が軽くなったのを感じて、片方の剣で彼女の胸を狙う。

 ・・・ニヤリと彼女の顔が笑った。


 ゾクリと冷たい感覚が心臓を貫く。

 俺は咄嗟に飛びのく。

 すると直後に、彼女の手からニードルが分離して爆発した。

 持ち主の方向だけに破片が飛ばない。

 バックした俺を狩人は嘲笑っていた。


 「こっの!!」


 この辺に身を隠せそうな障害物は存在しない。

 周りに生えている植物に隠れても意味を成さないだろう。

 破片を見切って、魔剣で斬り防ぐ。

 が、あまりの数に防ぎきれない。


 「ぐっ!!」


 ダメージを覚悟した、その瞬間。

 服の襟が後ろに引っ張られる。

 ・・・煙の騎士が2体、俺の背後に駆けつけていた。

 俺より先頭に立って、攻撃をその身で受け止めていく。

 そして、消えた。


 すまないと、心の中で詫びる。

 煙の騎士の消滅と同時に、周囲の異変に気が付く。

 ・・・周りが結界に囲まれていた。

 花畑の場所だけに。

 そして、花からは緑色の煙が出てきている。


 「毒か?」

 「・・・ダネ」


 ゆっくり毒殺する気か。

 趣味が悪いな。


 魔剣を確認する。

 闇はもう消滅していた。

 ・・・もう魔石もない。


 悪魔は相手の手持ちに魔石が存在するかどうか、大体の感覚で察知することが出来るらしい。

 相手は魔石がないことを知っている。

 ・・・素の俺が能力を発動出来ないことも。


 「・・・お前、さっきから闇を使ってないよな」

 「敵に僕が能力を使われるのを、出来るだけ悟られたくないんダロ?」

 「ナイスだよ」


 本当にナイスプレイだ。


 「闇、頼めるか?」

 「もちろんイイヨ」


 猫と俺の口に、マスクの形をした闇が覆いかぶさる。

 これで、しばらくは持つだろう。


 現世の自然界に毒ガスを噴出する植物は存在しない。

 全部液体という形で人体を蝕むのだ。

 だが、地獄にはそれを霧状にして周囲に散らす植物が存在している。

 そんな植物は大概数秒で悪魔を殺してしまえる。

 この緑色の毒もそうだろう。


 強力な結界で囲ってしまえば、風の能力を持っていてもいずれは室内に毒ガスが充満する。

 結界で自身を覆っても、最終的には酸素欠乏になって死ぬオチが見えている。

 通常の方法で脱出するなら、この花畑を覆っている結界をなんとかするしかないが・・・


 「結界、マグナス級だよな」

 「ただの物理的な攻撃じゃあ割れナイネ」

 「だったら待つしかないか・・・」


 俺は気配を殺す。

 黒猫の闇を出すのに使うコストは実に低い。

 数分間ぐらいは問題ないと思う。

 このまま、結界で俺達がなんの抵抗も出来なく死んだと思わせられれば・・・


 「・・・と、思ってたんだけどなぁ」


 目の前にレイディが現れた。

 結界の外じゃなく、内側に。

 俺は馬鹿だ。

 結界の外でじっくり観察するような油断を、手練れがするだろうか?


 「その黒猫が夜叉の一族だってことぐらい知ってますよ?」

 「・・・バレてたんだ」

 「いやぁ、浅はかですね」

 

 確かに。

 否定するつもりはない。

 俺は間を置かないで、すぐに彼女に攻撃を仕掛ける。

 ・・・時間がない。

 闇が尽きる前に、コイツを殺さないと。


 「ハハハハ!!!」


 命が凝縮された黒い種を周囲にばら撒く。

 地面から出てきたのは、ウツボカズラを巨大化した植物だった。

 本来は虫を捕らえる袋が、俺に覆いかぶさろうと茎の部分が伸びてくる。


 「もうなんでもありだな」


 こんな風に動く植物がいるだなんて驚きだ。

 俺は袋の範囲から一気に加速して脱出する。

 遅れてウツボカズラが俺のいた場所に覆いかぶさる。

 ・・・動きは単調だ。

 これなら、対処も簡単だ。

 ウツボカズラを躱しながら、彼女に迫る。


 彼女は両手を巨人と見紛うほど大きくしていた。

 植物を絡めさせて、大きく見せているのだ。

 5本の指の先端には鋭い棘が爪みたいに存在している。

 ポタリポタリと毒液がそこから落ちていた。


 俺は彼女に両方の剣で縦斬りをかます。

 だが、片腕を盾代わりにして受け止められる。

 いとも簡単に。

 剣は植物に食い込んでいるが、切断に全く至らない。

 ・・・分厚すぎるんだ。


 「っつ!!!」


 片方の手が俺を襲う。

 至近距離からの攻撃をバックして躱したいが、背後にはウツボカズラがいる。

 下手に後退出来ない。

 何とか懐で躱そうとするが、爪の先端に俺の腕が掠ってしまう。

 血が薄っすらと流れ出す。

 その間にも巨大な腕の攻撃は止まない。


 植物の肉に食い込んだ剣を抜いて、両方の剣でガードしていく。

 重量が植物によって増していて、一撃一撃が重い。

 堪らず横にローリングして距離を取る。


 「うっぐ・・・!?」


 急に吐き気がした。

 両足が震えて、目が霞む。

 ・・・毒だ。

 腕から毒が入ったんだ。


 「人間サン!!!」


 黒猫の声すら耳鳴りでかき消されていく。

 毒の巡りが速すぎる。


 「あ~あ。時間制限に気を取られるからですよ?せっかくいい勝負をしてたのに」

 「・・・うぅ」

 「苦しいでしょう?この毒を受けるとね、脳みそを酸の海に浸からされている気分になるんですって」


 聞きたくない言葉だけが耳に入る。

 クソ。

 あり得ない痛みが全身を襲う。


 痛みは、脳が神経に警告を促すからそうなる。

 体中が悲鳴を上げていた。

 この毒物を何とかしてくれと。


 体がボロボロになっていくのが分かる。

 体と毒は相容れない。


 軽い毒であるならば、体に耐性をつけることも出来るだろう。

 だが、その毒が超強力なものであれば。

 ほんの少しの量で、致死に至るのであれば、話しは別だ。

 こんな強力な毒がないと、魔物は殺せない。

 原生種の二尾サルですらがそうだったのだ。


 体の構造が頑丈なんだ。

 それに対抗するための毒なのに、人間が抗える訳がない。

 ・・・死が俺を誘っている。

 毒を通じて。


 「ごぼぉ!!??」


 吐く。

 胃の中の内容物ごと。

 胃酸が逆流して、息が出来ない。

 口の中が若干溶けている感覚がある。


 涎をタラタラと垂らしているのが屈辱的だ。

 でも、抗えない。

 どうしよう。

 これ、死んじゃうぞ?


 隣を見ると、植物の隙間から大剣を持った悪魔が複数の煙の騎士と戦っていた。

 味方がどんどん消されていく。

 騎士達は殺すというより、俺のために時間稼ぎをしているといった感じだ。

 ・・・助けに来てくれる余裕はなさそうだ。


 「汚い汚い。まさに害獣。床を汚さないでくれますか?」


 俺の中で殺意が増す。

 けど、体が動かない。

 意思と感情が高ぶる。


 「苦しいのにまだ闘志があるんですか。ダゴラス様みたいな害獣ですねぇ。不快です」

 「げほ、げほ!!!」

 「ま、すぐに楽にしてあげます。救援のテレパシーも入ってきてますし」


 外部からの死と、内部からの死が同時に歩いてくる。

 止められない。

 止められるとしたら・・・それは人間以外の力でだろう。


 俺の同調という力。

 生物の意思に干渉して取り込む力。

 今までそんな解釈をしていた。


 けど、違う気がする。

 俺の力の本質。

 まだ、気付けていない部分。


 ・・・どうせ、このままだと死ぬのだ。

 可能性があるのなら、やるべきだ。

 抵抗なく雑魚死するよりは・・・


 死ぬのはいつでも出来る。

 足掻け。

 理不尽を殺せ。


 俺はそう思って、目を閉じた。

 女狩人の足音を聞きながら。

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