170話 ザ・アンフォアギヴン10~索敵戦~
何度も何度も死について考えてきた。
何にでも死は存在する。
人間、悪魔、天使、動物、魚。
全ての生物達。
それだけじゃない。
草、木、花、種。
石、水、土、雪。
星、世界、宇宙。
そして宇宙のその先でさえも、命が宿る。
星はいつかは死ぬ。
世界も死ぬ。
宇宙も死ぬ。
全て死ぬ。
永遠に残る命は存在しない。
この世界を作った3つの意思も。
その大元である神でさえも。
死ぬのなら、何故生きる?
人が死んでも何かは残せる。
そうやって命は紡いでいける。
けれど、何もかもがいつかは滅ぶ。
何にだって寿命はある。
命は尽きる。
それは・・・きっと遠い遠い未来なんだろうけど、それでもいつかは尽きる。
あるのならなくなる。
当たり前のことだけれども。
でも、みんなそこから目をそらして生きている。
光と同調した俺には分かってた。
光は・・・意思を持ったんだ。
意思を持って、目的を持った。
光は世界の終焉を嫌った。
だから、自身の眷属を生物の浄化の果てに作り出した。
天使は着実に増えていく。
少しずつだが。
天使は完全に近い生き物だ。
どの生物よりも強く、汚れなく、同等の存在で。
だから争いなんて、天国では一切なくて。
不完全な生命体を完全に近い状態まで進化させ、全ての命を天使にすること。
その溜めた膨大な力を使って、光自身が神になること。
神になって、世界を存続させること。
争いのない世界で、後退することもなく。
それこそが、光の意思だった。
全ての魂が汚れを落とすまで、膨大な時間がかかるだろう。
それでも光はやり遂げるのだ。
でも、他に存在する2つの意思も、目的をそれぞれ持っていた。
闇は闇の。
無は無の目的を。
それぞれ行き着こうとする先は違うだろう。
そして、現存する宇宙は1つだけ。
争いはなくならない。
その狭間で生物は翻弄され、運命は終焉を迎える。
だけど、1番分からないことがある。
それは、俺達生物を作った混沌の願いだった。
何故、生き物を作ったのか?
どうして争いの種を作ったのか?
それは・・・混沌しか知らない。
・・・死んだ。
2人とも。
もう2度と元に戻らない。
命は流転する。
別の形へ。
嘆くことはない。
後悔もしない。
絶対にしない。
・・・してたまるか。
「・・・」
バルバトスはそのまま俺に構わず先へ歩いていった。
その場に残ったのは、ポポロだけだ。
「・・・久しぶり」
「ヒサシブリダナ」
変わってない。
空中要塞で別れてから、何をどうしてたかは知らないが・・・
「・・・オレタチハ、オマエニミカタスル」
「プラムに誘われたのか?」
「レデグルグ・・・ソイツトイル」
レデグルグ。
その名前は有名だ。
72柱、位、王の盾の王レデグルグ・パーシナル。
ラスト領で自警団の長を務めていた悪魔だ。
アスモデウスの部下だった男。
「サタンに主人を殺されて、復讐に誘われたか?」
「ジジョウハミナソレゾレ。カノジョガソレヲトウイツシタ」
「・・・お前もか?」
「オンガアル」
「恩?誰に?」
「カイネコノシュジンハ、オレノオンジンダ」
「それって・・・」
言っている途中で、真上の天井が崩れる。
ロンポット達の死体を挟んで向かい合っている俺達は、同時に後ろへ下がる。
ガラガラと岩が崩れ落ちて、死体を埋めていく。
・・・さっきまで生きていた死体を。
「イソゲ。オマエニハオマエノスベキコトガアルハズダ」
ポポロは俺にそう言って、銀騎士を追いかける。
先にはたくさんの意思が向かってきている。
排除する気なんだろう。
彼の姿はあっという間に消えて行った。
「・・・急ごう」
死に悲観している暇はない。
そんなことは死んでから考えればいい。
今は・・・せめて今だけは、目の前のことに集中しなければいけない。
実に厳しいが。
とりあえず、大魔石のある部屋を目指さなくてはいけない。
意思が凝縮している通路を通るのは避けよう。
先には大事な戦闘が控えている。
この状況から考えるに、72柱の殆どはラース街に集結している気がする。
敵も味方も。
さらに言うと、現時点で1番強いのはまず間違いなくクルブラドだ。
直接はまだ会ったことがないが、その強さは格別だとプラムから聞いている。
72柱の中でも、6位からが飛び抜けて強い。
・・・既存の生物では超えられない壁が、そこにはあるらしい。
今のところはクルブラドが出てくる気配はない。
恐らく今も大魔石の守護にあたっているんだろう。
・・・今のところは。
現状はヴァネールや他の敵側についた72柱、その他大勢の悪魔は外にいる味方の72柱に任せておけばいい。
俺の相手はクルブラドってことになるだろう。
「・・・でも、どこ進んでも戦闘になりそうだな」
「ソウダネ」
先には廊下の分岐点がある。
全部で3つだ。
バルバトス達がその先に突っ込んだから、それ以外に行けばいい。
だが、どの他のルートも先から強い意思を感じる。
これは絶対に強いって思わせる力量。
「この先、いるよな」
「引き返すカイ?」
「・・・無理だろ」
2つの内1つのルートからは、能力を発動していると思われる奇妙な音が聞こえている。
きっと、戦闘中だ。
残った1つからは粘つくような思念が、明らかに俺に向かって注がれていた。
仮にここで引き返したとして、必ずコイツは俺を追うだろう。
そうなったが最後、いつまでも等速で追尾される。
そう判断した。
「一旦姿をくらましたい。もう俺の位置を捕捉出来てるコイツは邪魔だ」
「イイヨ。僕も出来るだけサポートスル」
決めて、俺は不快感のある思念が渦巻く廊下へ進む。
慎重に歩いて行くと、途中廊下に異変があった。
植物が群生していたのだ。
天井、壁、地面が全て緑で覆われている。
壁は石か何かで構成されているはずなのに、根深く植物が廊下に寄生していた。
「随分とまたオーガニックな有様になったな」
考えなくても、これが能力による影響だということは分かる。
しかも、毒性の強い植物ばかりだ。
中には、簡単に魔物を殺せるようなものまで・・・
「この固有能力、誰のか分かるか?」
「植物関係の固有能力を扱える悪魔はそうはイナイヨ」
「・・・誰なんだ?」
「ソウダネ・・・1番可能性が高いのはレイディじゃナイカナ」
・・・レイディ?
誰だっけ?
ソイツ。
「騎士団の隊長だよ。第4隊長でララの次に強い悪魔って呼ばれテタ」
「72柱の陰に隠れて覚えられないんだよな・・・他の悪魔って」
「でも、十分強いヨ」
だろうな。
ロンポット相手にダメージを俺は負っているのだ。
彼よりも強いなら、苦戦は必至。
最悪の事態も想定しておかなくちゃいけないかもしれない。
「何にだって勝つつもりでいかなくちゃな」
「蛮勇って言葉知ってるカイ?」
「今は知らない」
「・・・人間さんの選択肢は1つナンダネ。迷いがナイ」
「迷ってたら、多分死ぬ。俺は死にたくないからそんなこと思わない」
普通の人間が聞いたら無茶苦茶だって言われそうだな。
けど、これは俺が強者と戦う上で大事だと思ったことの1つだ。
俺みたいな立場にいると、どうしても各上との戦いが避けられない時が来る。
俺が今まで生きていられているのは、そう思っているからだという確信があるのだ。
「・・・」
部屋の出口が見えた。
猫の目で先を見通す。
そこには、2人の悪魔がいた。
「・・・こんな罠臭い室内に来てもらえて嬉しいです」
全身が植物に覆われた悪魔はそう言った。
一見すれば他種族と間違えかねないその奇妙な風貌の悪魔は、室内の中央に立っている。
あの大剣を持った悪魔と共に。
これで3度目だ。
さっきから俺のことを執拗に狙ってきている気がする。
「私、レイディと申します」
「俺の挨拶は不要だな」
「ええ。有名な人間さんですもんね?」
挑発が見え見えだ。
俺を舐めてるのか?
「植物だらけだな」
「素敵でしょう?」
女悪魔はウットリと頬を緩ませながらそう言った。
室内は広い。
半径50メートルはある。
全体がドーム状になっていて、ここだけ天井がステンドグラスになっていた。
でも、本来芸術品であるそのステンドグラスは、殆ど植物の葉に覆われている。
天井だけじゃない。
さっきの廊下のように、全てが緑色だ。
まるで植物園の中にいるみたいだ。
所々に木まで生えている。
ここはジャングルかよってくらい。
「どうしたらそこを通してくれる?」
「通すわけないじゃないですか。どうせ大魔石狙いでしょう?今、人手も足りないので、外の戦闘を中断して私が来ることになったんですよ」
「こんな部屋を豪勢にしてか。光栄だね」
「私が強いのは、環境から自分の優位な要素を作るからなんですよ?悪いですけど、今のあなたに負ける気はしませんね」
悪いなんて思ってないんだろうな。
どうでもいいけど。
交渉の余地はどう見てもなさそうなので、とっとと魔剣を両手に持つ。
それを見て、正面にいる2人が臨戦態勢に入る。
その直後・・・
「・・・あらま」
女悪魔が上を見上げる。
同時に、ステンドグラスがバリバリと勢いよく割れていく。
・・・侵入者達だ。
植物を引き裂き、下に降りてくる。
それは、50体以上の数に及ぶ白い煙の騎士達だった。
植物の切れ端が落ちる姿を見たレイディの意思が濁りだす。
俺は一応距離を置いて、騎士達の様子を見守る。
俺の予想が合ってれば、思わぬ助けってことになるが・・・
「ロノウェさんの仕業ですか。人間さんを失いたくないのでしょうかね?こんなに煙人形を作っちゃって」
煙の騎士は、大剣を持った悪魔を取り囲む。
敵意は俺に向かれていない。
・・・これ、サシの状況だ。
煙の騎士達と、大剣を持っている悪魔。
レイディと、俺。
1対1×2。
「味方でいいんだよな?」
「ランティスの予言にはロノウェのことも記されテタ。間違いなく味方ダヨ」
「よし!」
味方の72柱達は、どうやら俺をバックアップする気でいるらしい。
頼もしい。
頼もしくて、活力が沸いてくる。
レイディとは1対1で殺し合うことになる。
まだ油断していい状況じゃない。
けど、希望の兆しは大きく光り輝いている気がする。
「ああもう。なんでロノウェさんとかはサタン様側につかないのですかね?こっちの方が絶対に楽しいのに」
「そりゃあロノウェはお前じゃないからだろ。お前みたいに思う強者もいれば、反対のことを思う強者もいる。それだけだ」
「・・・うるさいですね。そんな正論を言われなくても分かってますよ。この害獣が」
俺の返答が不快だったのか、さらに彼女の意思が黒くなる。
本音、言ったな。
俺のことを害獣扱い。
差別意識。
・・・本来の悪魔の思考。
彼女はキッと煙の騎士に囲まれている悪魔を睨む。
「こんな奴らに倒されないでくださいよ?期待の新人さん?」
「・・・」
男悪魔は黙ったまま大剣を上段に構える。
あまりレイディと仲はよろしくないらしい。
「さて」
そのまま俺を睨む。
親の仇を見るように。
「植物はまた再生出来ますが、斬られると確かに痛いんですよ」
「・・・で?」
「痛かった分はあなたの血で清算してくださいね?」
「どうせ、俺の答えは分かってるんだろ?そんなのノーに決まってる!」
「ま、どうせあなたは死ぬのだから、どうだっていいですよねえぇ?ハハハ。殺してあげますよぉ?」
「言ってろ。クソ女」
「・・・死ね。死ね死ね死ね!その汚い内臓を全部抉り出してやりますよ!!!!」
彼女の猟奇的な言葉をゴングに、戦いが始まった。




