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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第13章 父祖の辺獄と地獄篇 ラース街中央執行所
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170話 ザ・アンフォアギヴン10~索敵戦~

 何度も何度も死について考えてきた。

 何にでも死は存在する。

 人間、悪魔、天使、動物、魚。

 全ての生物達。


 それだけじゃない。

 草、木、花、種。

 石、水、土、雪。

 星、世界、宇宙。

 そして宇宙のその先でさえも、命が宿る。


 星はいつかは死ぬ。

 世界も死ぬ。

 宇宙も死ぬ。

 全て死ぬ。


 永遠に残る命は存在しない。

 この世界を作った3つの意思も。

 その大元である神でさえも。


 死ぬのなら、何故生きる?

 人が死んでも何かは残せる。

 そうやって命は紡いでいける。


 けれど、何もかもがいつかは滅ぶ。

 何にだって寿命はある。

 命は尽きる。

 それは・・・きっと遠い遠い未来なんだろうけど、それでもいつかは尽きる。


 あるのならなくなる。

 当たり前のことだけれども。

 でも、みんなそこから目をそらして生きている。

 光と同調した俺には分かってた。


 光は・・・意思を持ったんだ。

 意思を持って、目的を持った。


 光は世界の終焉を嫌った。

 だから、自身の眷属を生物の浄化の果てに作り出した。

 天使は着実に増えていく。

 少しずつだが。


 天使は完全に近い生き物だ。

 どの生物よりも強く、汚れなく、同等の存在で。

 だから争いなんて、天国では一切なくて。


 不完全な生命体を完全に近い状態まで進化させ、全ての命を天使にすること。

 その溜めた膨大な力を使って、光自身が神になること。

 神になって、世界を存続させること。

 争いのない世界で、後退することもなく。

 それこそが、光の意思だった。


 全ての魂が汚れを落とすまで、膨大な時間がかかるだろう。

 それでも光はやり遂げるのだ。


 でも、他に存在する2つの意思も、目的をそれぞれ持っていた。

 闇は闇の。

 無は無の目的を。


 それぞれ行き着こうとする先は違うだろう。

 そして、現存する宇宙は1つだけ。


 争いはなくならない。

 その狭間で生物は翻弄され、運命は終焉を迎える。


 だけど、1番分からないことがある。

 それは、俺達生物を作った混沌の願いだった。


 何故、生き物を作ったのか?

 どうして争いの種を作ったのか?

 それは・・・混沌しか知らない。


 ・・・死んだ。

 2人とも。


 もう2度と元に戻らない。

 命は流転する。

 別の形へ。


 嘆くことはない。

 後悔もしない。

 絶対にしない。

 ・・・してたまるか。


 「・・・」


 バルバトスはそのまま俺に構わず先へ歩いていった。

 その場に残ったのは、ポポロだけだ。


 「・・・久しぶり」

 「ヒサシブリダナ」


 変わってない。

 空中要塞で別れてから、何をどうしてたかは知らないが・・・


 「・・・オレタチハ、オマエニミカタスル」

 「プラムに誘われたのか?」

 「レデグルグ・・・ソイツトイル」


 レデグルグ。

 その名前は有名だ。

 72柱、位、王の盾の王レデグルグ・パーシナル。

 ラスト領で自警団の長を務めていた悪魔だ。

 アスモデウスの部下だった男。


 「サタンに主人を殺されて、復讐に誘われたか?」

 「ジジョウハミナソレゾレ。カノジョガソレヲトウイツシタ」

 「・・・お前もか?」

 「オンガアル」

 「恩?誰に?」

 「カイネコノシュジンハ、オレノオンジンダ」

 「それって・・・」


 言っている途中で、真上の天井が崩れる。

 ロンポット達の死体を挟んで向かい合っている俺達は、同時に後ろへ下がる。

 ガラガラと岩が崩れ落ちて、死体を埋めていく。

 ・・・さっきまで生きていた死体を。


 「イソゲ。オマエニハオマエノスベキコトガアルハズダ」


 ポポロは俺にそう言って、銀騎士を追いかける。

 先にはたくさんの意思が向かってきている。

 排除する気なんだろう。

 彼の姿はあっという間に消えて行った。


 「・・・急ごう」


 死に悲観している暇はない。

 そんなことは死んでから考えればいい。

 今は・・・せめて今だけは、目の前のことに集中しなければいけない。

 実に厳しいが。


 とりあえず、大魔石のある部屋を目指さなくてはいけない。

 意思が凝縮している通路を通るのは避けよう。

 先には大事な戦闘が控えている。


 この状況から考えるに、72柱の殆どはラース街に集結している気がする。

 敵も味方も。

 さらに言うと、現時点で1番強いのはまず間違いなくクルブラドだ。


 直接はまだ会ったことがないが、その強さは格別だとプラムから聞いている。

 72柱の中でも、6位からが飛び抜けて強い。

 ・・・既存の生物では超えられない壁が、そこにはあるらしい。


 今のところはクルブラドが出てくる気配はない。

 恐らく今も大魔石の守護にあたっているんだろう。

 ・・・今のところは。

 現状はヴァネールや他の敵側についた72柱、その他大勢の悪魔は外にいる味方の72柱に任せておけばいい。

 俺の相手はクルブラドってことになるだろう。


 「・・・でも、どこ進んでも戦闘になりそうだな」

 「ソウダネ」


 先には廊下の分岐点がある。

 全部で3つだ。

 バルバトス達がその先に突っ込んだから、それ以外に行けばいい。

 だが、どの他のルートも先から強い意思を感じる。

 これは絶対に強いって思わせる力量。


 「この先、いるよな」

 「引き返すカイ?」

 「・・・無理だろ」


 2つの内1つのルートからは、能力を発動していると思われる奇妙な音が聞こえている。

 きっと、戦闘中だ。


 残った1つからは粘つくような思念が、明らかに俺に向かって注がれていた。

 仮にここで引き返したとして、必ずコイツは俺を追うだろう。

 そうなったが最後、いつまでも等速で追尾される。

 そう判断した。


 「一旦姿をくらましたい。もう俺の位置を捕捉出来てるコイツは邪魔だ」

 「イイヨ。僕も出来るだけサポートスル」


 決めて、俺は不快感のある思念が渦巻く廊下へ進む。

 慎重に歩いて行くと、途中廊下に異変があった。

 植物が群生していたのだ。

 天井、壁、地面が全て緑で覆われている。

 壁は石か何かで構成されているはずなのに、根深く植物が廊下に寄生していた。


 「随分とまたオーガニックな有様になったな」


 考えなくても、これが能力による影響だということは分かる。

 しかも、毒性の強い植物ばかりだ。

 中には、簡単に魔物を殺せるようなものまで・・・


 「この固有能力、誰のか分かるか?」

 「植物関係の固有能力を扱える悪魔はそうはイナイヨ」

 「・・・誰なんだ?」

 「ソウダネ・・・1番可能性が高いのはレイディじゃナイカナ」


 ・・・レイディ?

 誰だっけ?

 ソイツ。


 「騎士団の隊長だよ。第4隊長でララの次に強い悪魔って呼ばれテタ」

 「72柱の陰に隠れて覚えられないんだよな・・・他の悪魔って」

 「でも、十分強いヨ」


 だろうな。

 ロンポット相手にダメージを俺は負っているのだ。

 彼よりも強いなら、苦戦は必至。

 最悪の事態も想定しておかなくちゃいけないかもしれない。


 「何にだって勝つつもりでいかなくちゃな」

 「蛮勇って言葉知ってるカイ?」

 「今は知らない」

 「・・・人間さんの選択肢は1つナンダネ。迷いがナイ」

 「迷ってたら、多分死ぬ。俺は死にたくないからそんなこと思わない」


 普通の人間が聞いたら無茶苦茶だって言われそうだな。

 けど、これは俺が強者と戦う上で大事だと思ったことの1つだ。

 俺みたいな立場にいると、どうしても各上との戦いが避けられない時が来る。

 俺が今まで生きていられているのは、そう思っているからだという確信があるのだ。


 「・・・」


 部屋の出口が見えた。

 猫の目で先を見通す。

 そこには、2人の悪魔がいた。


 「・・・こんな罠臭い室内に来てもらえて嬉しいです」


 全身が植物に覆われた悪魔はそう言った。

 一見すれば他種族と間違えかねないその奇妙な風貌の悪魔は、室内の中央に立っている。

 あの大剣を持った悪魔と共に。

 これで3度目だ。

 さっきから俺のことを執拗に狙ってきている気がする。


 「私、レイディと申します」

 「俺の挨拶は不要だな」

 「ええ。有名な人間さんですもんね?」


 挑発が見え見えだ。

 俺を舐めてるのか?


 「植物だらけだな」

 「素敵でしょう?」


 女悪魔はウットリと頬を緩ませながらそう言った。

 室内は広い。

 半径50メートルはある。

 全体がドーム状になっていて、ここだけ天井がステンドグラスになっていた。

 でも、本来芸術品であるそのステンドグラスは、殆ど植物の葉に覆われている。


 天井だけじゃない。

 さっきの廊下のように、全てが緑色だ。

 まるで植物園の中にいるみたいだ。

 所々に木まで生えている。

 ここはジャングルかよってくらい。


 「どうしたらそこを通してくれる?」

 「通すわけないじゃないですか。どうせ大魔石狙いでしょう?今、人手も足りないので、外の戦闘を中断して私が来ることになったんですよ」

 「こんな部屋を豪勢にしてか。光栄だね」

 「私が強いのは、環境から自分の優位な要素を作るからなんですよ?悪いですけど、今のあなたに負ける気はしませんね」


 悪いなんて思ってないんだろうな。

 どうでもいいけど。

 交渉の余地はどう見てもなさそうなので、とっとと魔剣を両手に持つ。

 それを見て、正面にいる2人が臨戦態勢に入る。

 その直後・・・


 「・・・あらま」


 女悪魔が上を見上げる。

 同時に、ステンドグラスがバリバリと勢いよく割れていく。

 ・・・侵入者達だ。


 植物を引き裂き、下に降りてくる。

 それは、50体以上の数に及ぶ白い煙の騎士達だった。

 植物の切れ端が落ちる姿を見たレイディの意思が濁りだす。


 俺は一応距離を置いて、騎士達の様子を見守る。

 俺の予想が合ってれば、思わぬ助けってことになるが・・・


 「ロノウェさんの仕業ですか。人間さんを失いたくないのでしょうかね?こんなに煙人形を作っちゃって」


 煙の騎士は、大剣を持った悪魔を取り囲む。

 敵意は俺に向かれていない。

 ・・・これ、サシの状況だ。


 煙の騎士達と、大剣を持っている悪魔。

 レイディと、俺。

 1対1×2。


 「味方でいいんだよな?」

 「ランティスの予言にはロノウェのことも記されテタ。間違いなく味方ダヨ」

 「よし!」


 味方の72柱達は、どうやら俺をバックアップする気でいるらしい。

 頼もしい。

 頼もしくて、活力が沸いてくる。

 レイディとは1対1で殺し合うことになる。

 まだ油断していい状況じゃない。

 けど、希望の兆しは大きく光り輝いている気がする。


 「ああもう。なんでロノウェさんとかはサタン様側につかないのですかね?こっちの方が絶対に楽しいのに」

 「そりゃあロノウェはお前じゃないからだろ。お前みたいに思う強者もいれば、反対のことを思う強者もいる。それだけだ」

 「・・・うるさいですね。そんな正論を言われなくても分かってますよ。この害獣が」


 俺の返答が不快だったのか、さらに彼女の意思が黒くなる。

 本音、言ったな。

 俺のことを害獣扱い。

 差別意識。

 ・・・本来の悪魔の思考。

 彼女はキッと煙の騎士に囲まれている悪魔を睨む。


 「こんな奴らに倒されないでくださいよ?期待の新人さん?」

 「・・・」


 男悪魔は黙ったまま大剣を上段に構える。

 あまりレイディと仲はよろしくないらしい。


 「さて」


 そのまま俺を睨む。

 親の仇を見るように。


 「植物はまた再生出来ますが、斬られると確かに痛いんですよ」

 「・・・で?」

 「痛かった分はあなたの血で清算してくださいね?」

 「どうせ、俺の答えは分かってるんだろ?そんなのノーに決まってる!」

 「ま、どうせあなたは死ぬのだから、どうだっていいですよねえぇ?ハハハ。殺してあげますよぉ?」

 「言ってろ。クソ女」

 「・・・死ね。死ね死ね死ね!その汚い内臓を全部抉り出してやりますよ!!!!」


 彼女の猟奇的な言葉をゴングに、戦いが始まった。

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