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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第13章 父祖の辺獄と地獄篇 ラース街中央執行所
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169話 ザ・アンフォアギヴン9~復讐戦~

 「ヴァアアアアアアァァァァァァ!!!!!!」


 叫び声と戦闘の音が入り混じったこの状況で、俺も戦闘を開始した。

 ロンポットが常人なら振り回すことも叶わない重さであろうハンマーを持って、能力を唱える。


 「制約練成ハンドメイドストーンズ・黒曜岩!!」


 目の前に大きな黒い輝く岩が出現する。

 前に見た。

 あれは・・・砕けるんだ。


 俺は出現した岩を砕かれる前に、素早く闇を覆いかぶせる。

 ハンマーが岩にぶち当たるが、それはノロノロと砕け散る。


 「チッ!!!」


 破片が広がる前に俺はロンポットの傍へ。

 2本の魔剣を使って連撃を浴びせる。

 ハンマーを使って巧みに防いでいくが、武器の数はこちらは2本。

 相手は1本。

 手数ならこっちの方が上だ。


 徐々に俺が押していく。

 防戦一方。

 でも、俺は知っている。

 通常の戦いと能力を使った戦いは違うことを。


 「制約練成ハンドメイドストーンズ・電撃岩!!」


 眼前に青い宝石が生成される。

 これは・・・トルマリン?

 ロンポットのハンマーはいつの間にか燃えていた。

 ヴァネールに比べれば大したことはない。

 ただのたき火程度だ。

 だが・・・脅威を感じた。


 「ぐっ!!!」


 後ろに引いてる時間はない。

 勘に従って闇を盾状に展開する。

 ハンマーは青い宝石を1発で粉々にする。

 そして、バチバチと電撃が襲ってきた。


 闇が真正面から来た攻撃を吸収して沈静化する。

 が、闇の横からすり抜けて電撃が俺を襲ってきた。

 流石にこれは避けられず、体に接触した。


 「ぐううぅぅぅ!!??」


 痺れ、視界が一瞬真っ暗になる。

 能力の維持が出来なくなり、卒倒しかける。


 「シッカリ!!!」

 「分かってる!!!」


 なんとか持ち直す。

 強化された体は、通常の人体なら耐えきれない攻撃の耐性も上げてくれる。

 だが、時間はロスしてしまう。

 すぐさまロンポットがハンマーで連撃を仕掛けてきた。


 2本の魔剣を十字にしてハンマーを真正面から受け止める。

 強烈な打撃が俺を後方へ飛ばす。

 重量のある物体を遠心力を利用して振ったら、その威力は何倍にもなる。

 たかが剣で受け止められるはずがない。


 かなり後方へ吹っ飛ばされて、ゴロゴロと転がる。

 痺れた腕を感覚がないまま動かして何とか立ち上がる。

 もう次の攻撃が迫っていた。


 「制約練成ハンドメイドストーンズ・黒曜岩!!」


 さらに黒い破片の雨。

 闇を展開しようとするが、上手く出来ない。

 体が電気で麻痺しているせいだ。


 廊下いっぱいに鋭い破片が広がる。

 回避は不可能。

 何かで防ぐ手段は・・・ない。


 「サスケ!!」


 黒猫の名を叫んで前へ突っ込む。

 空気抵抗を減らすように体の面積を極限まで小さく丸める。

 そして、破片が俺に当たる直前。

 小さな闇が俺の頭部と胴体を守る。

 サスケの能力だ。


 サスケ自身は闇を自分の体に覆っているからダメージはない。

 だが、その分展開出来る闇の規模に限りがある。

 ・・・急所を守る以外俺には生き残る方法が残されていなかった。

 腕や足に鋭い破片が突き刺さっていく。


 攻撃の性能が良すぎて、破片が俺の手足を貫通する。

 体内に異物が残らないのなら逆に好都合だ。

 痛みさえ耐えれば、攻撃のチャンスは訪れる。

 俺は構わず直進した。


 破片の雨を抜け出る直前。

 ロンポットがハンマーを振りながら出迎える。

 風でハンマーをアシストしてるらしく、ジェットのようにハンマーが振られる。


 受け止められない。

 そう判断して下へ掻い潜る。

 ハンマーを再度降りなおすには時間がかかる。

 重量があるからだ。

 なのに、そのまま打撃属性を帯びた武器の先端が俺を追いすがる。

 ノータイムでハンマーが止まることなく俺を襲う。


 隙が無い。

 回避に専念する。

 重量武器の連続攻撃。

 慣性の法則の一切を無視して変幻自在に武器が振り下ろされる。

 まるでナイフでも扱っているような軽々しさだ。

 ・・・腕力強化を施しているんだろう。

 それも相当な。


 このままでは押されてばかりだ。

 どうしても隙を作る必要がある。

 ・・・地獄以外の常識が必要だった。


 俺はハンドガン用の小さな弾を1個鼻先に投げつける。

 火薬が詰まった科学の結晶・・・その1粒。

 ロンポットは疑問に思うことなく燃えたハンマーを使って弾丸を弾く。

 彼がもし人間なら、攻撃を当てることなく素直に躱すだろう。

 ・・・火薬は火で爆発する。


 「ぐあっ!?」


 予想通り弾丸が爆発した。

 火薬が爆ぜて、極小の破片がロンポットの顔面に直撃する。

 片目に破片が入ったらしく、目から血が流れている。

 ・・・この隙を見逃すことは出来ない。


 逆上した意思を持つ視線が俺を再度捕捉する。

 俺もそれに迎え撃った。


 今度こそ、ロンポットのパーソナルスペースへ足を踏み入れる。

 そして、至近距離から2本の魔剣を振る。

 彼がまた距離を置こうと離れようとするが、テクニカルな足さばきで彼の体の傍に身を置き続ける。

 突き放されればまた能力を発動される。

 それはさせない。


 獣じみた反応速度で俺の剣撃を捌いていく。

 腕力強化に加え、風でハンマーの攻撃方向を修正している。

 多分、これでキチガイじみた武器の扱いを可能にしているんだろう。


 集中する。

 ハンマーの動きを。

 人外の動きを目で追うようなことはしない。

 彼には攻撃の癖がある。

 武器の軌道は読める・・・はず。


 俺はハンマーが振られるであろう軌道上に沿って魔剣を構える。

 そして、来た。

 予見した通りのルートを彼の武器が通っていく。

 脅威なのはハンマーの先端部分だ。

 手で持つ部分には重量がない。

 だからそこに魔剣をフェッシングのように突く。


 針に糸を通すみたいな作業。

 猫の目だから出来たことだ。

 カウンターの形で俺は腕を振り上げる。

 ロンポットの片腕が斬り落とされた。


 「っ!!!!!」


 痛がるそぶりを見せることなく、残った腕で落としそうになったハンマーを掴み取る。

 大した精神力だ。

 怒りが痛みを忘れさせているのかもしれない。


 カウンターを決めた腕を引っ込めて俺は後ろへ下がる。

 片腕を貰ったのだ。

 脅威は半減。

 だが、油断はしない。


 作った時間を利用してバックパックから魔石を取り出す。

 エネルギーを魔剣に装填して、準備を完了させた。


 「制約練成ハンドメイドストーンズ・輝安鉱!!」


 金属的な輝きを持つ鉱石が廊下一杯に広がる。

 それは無数の太い針の形で俺を襲う。


 魔剣で叩き壊しはしない。

 これは毒だ。

 触れないほうがいい。


 身を捻って伸びて迫る鉱石を躱す。

 思惑が外れたのか、表情が醜く歪む。

 ロンポットが白兵戦を嫌い、後方へ逃げていく。


 「はぁ・・・はぁ・・・」


 完全に後ろを向いて走っている。

 白旗のつもりか?


 俺はバックパックから銃を取り出す。

 ・・・デザートイーグル。


 狙い方や打ち方は知っている。

 あらかじめ1発だけ装てんしておいた、銃に弾倉を差しこむ。

 そして、連続で打った。


 人以上の目と腕。

 人間が再現出来る狙撃性能を遥かに上回っている。

 外すような真似はしない。

 3発撃って2発当たる。

 1発は頭部に向けて撃ったものだが、それはハンマーで振り向きざまに弾かれる。

 銃の弾道を読まれたんだろう。

 だが、残りの2発は全弾胸に命中。

 恐らく、肺の位置だと思う。

 ・・・致命傷だ。


 ドサリとロンポットは倒れた。


 「ロンポット!!!!」


 エイシャが悲鳴のような声を上げる。

 そして、無理矢理戦闘を放棄して彼の元へ走る。


 「ヴァアアアアアアアアアア!!!!!!」


 バルバトスの能力。

 死の金属アバーズ・マーキュリーが針となってエイシャの全身を貫いた。

 ロンポットに被さるようにして倒れる。


 「・・・」


 戦闘中だった大剣を持った悪魔がその光景を見て、ポポロから離れる。

 クズ魔石を割って、目くらましにする。

 目が慣れた頃には、もうその悪魔はいなくなっていた。


 ・・・逃げられたのだ。

 激化した戦闘が一気に静まる。

 聞こえてくるのは外から響く戦闘の音だけだ。


 その中で、小さく囁くような音が耳に入ってきた。


 「・・・私達、終わりね」


 掠れ声でエイシャが言う。

 喉に穴が開いているせいで、うまく話せていない。


 「・・・ごめん。俺のせいだ」


 ロンポットも重傷で、同じく掠れ声。

 命の雫が零れ落ちていた。

 それでも、精一杯すくい上げて声を振り絞っている。

 俺達は、それを黙って見ている。


 「あ~あ。結局戦いで死んじゃうのね。あなたも私も」

 「だからごめんって言ってるだろ・・・」

 「別にいいんだけどさ・・・」


 何かから解放された風に、彼らは見つめ合った。


 「人間は殺したかったな・・・未だに恨めしい」

 「もういいじゃない。死ぬ時ぐらい、そんなこと忘れなさいよ」

 「・・・そうだよな。そうだよなぁ・・・」


 彼の目から涙が零れる。

 ああ・・・だからこういうのは嫌なんだ。


 「いつも支えてくれてて・・・ありがとう。今更だが・・・好きだった・・・」

 「知ってるわよ・・・なんのためにあなたの傍にずっといたか知ってるの?」

 「・・・」

 「・・・ロンポット?」

 「・・・」

 「そっか、行っちゃったんだ・・・」


 ロンポットはもう死んでいた。

 もう起き上がらない。

 俺が殺したんだ。

 牢で1回でも親しく話したことがある関係だった。

 ・・・辛かった。

 これだけ悪魔を殺してきてるっていうのに。


 「人間、あなた・・・いるの?」


 呼んでいる。

 果たして行っていいのだろうか?

 俺は・・・

 少し迷って俺は倒れ伏している彼女の元へ行く。


 「いるよ」

 「・・・よかった。私のことなんか・・・無視して行っちゃってるかと・・思ってたのに」

 「・・・それについては俺もそうしようかと思ったんだけどな」

 「ふふ・・・無理だった?」


 ・・・何も言えない。


 「今まで・・・悪かったわね」

 「・・・どうして謝る?」

 「なんでかな?多分・・・立場上あなたを殺すしかなかったからじゃないの?」

 「仕方ないって・・・言いたいのか?」


 都合がいい。

 そう思ったが・・・


 「だから、ごめん。謝っても無理だろうけど、ごめんね」


 なんで・・・今になって。

 後悔したくないのに。

 頼むから、敵のままでいてくれよ。

 俺の決意が・・・揺らぐ。


 グラグラと、価値観が揺らぐ。

 上下する。

 俺の心は優柔不断だった。


 「本当に、ごめん」

 「・・・嫌だ。そんなのは認めない」

 「はは・・・でしょうね」


 笑う。

 命の灯が尽きかけているのに。

 それでも精一杯俺に笑顔を見せる。


 やめろ。

 後悔しそうになる。

 さっきまで殺しあってた奴なのに。

 殺しが間違っている気がしてくる。


 俺は悪くない。

 俺はそうせざる負えなかった。

 そう思いたい。

 けど、違うのか?

 違う?

 俺のやっていたことは間違い?


 ・・・そんな筈はない。

 俺が悪魔を殺していなければ、逆に俺が殺されていた。

 そうだよ。

 自身の生命を守ることに間違いはない。


 そもそも、俺に倫理観はいらない。

 かなぐり捨てろ。

 他の悪魔を殺す時は何も思わなかったじゃないか。

 何を今になって・・・こんな・・・


 「・・・なんかね、死ぬ直前になって、解放されたっていうか・・・そんな気がするのよ」

 「・・・」


 死ぬ時、魂は解放される。

 純度が上がって。

 そうだ。

 彼女は言ってたじゃないか。

 魂は浄化されると。


 でも。

 でもさ・・・


 「死ぬのは・・・怖いか?」

 「怖い。けど、解放された気もするの」


 死に対して肯定的?

 死は救い?

 生きることに意義は?

 死ぬことに解放感が伴うのは・・・この世界がやはり汚いからなんだ。


 生きるのが苦しい。

 人間なら誰だって思う時が来る。

 じゃあ、悪魔は?

 ・・・本当は、悪魔の心は押し込められているのかもしれない。

 本人でも自覚しないままに。

 悪魔が察知出来ない心の奥底に、本当の心を閉じ込めて。


 「今なら・・・素直になれる。本当に・・・ごめん・・・ね」

 「・・・冥土の土産に、1ついいこと教えてやろうか?」


 死に行く彼女に、俺は言う。

 世界の真実の断片を。

 慈悲的な心がそうさせたのかもしれない。

 哀れに思った心がそうさせたのかもしれない。


 何にせよ、俺は敵にこう言ったんだ。


 「死んでも・・・まだ先はあるんだよ」

 「ふぅん・・・だったら、また同じことを・・・繰り返すのかな・・・」

 「・・・分からない」


 正直な回答だった。

 嘘偽りない、純粋な言葉。

 彼女が最後にロンポットを見て・・・


 「ありがとう」


 そう言って、彼女は事切れた。

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