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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第13章 父祖の辺獄と地獄篇 ラース街中央執行所
168/244

168話 ザ・アンフォアギヴン8~急襲戦~

 戦争。

 読んで字の如く、戦って争うこと。


 世界はこれの繰り返しだった。

 自身の欲望を叶えんとする者は大勢いる。

 謙虚に生きていこうなどと思うのはごく僅か。

 欲望は持っても、実際にそれを叶える力がないと理解したら、普通はそこで“普通”の生活を送ることになる。


 けれど・・・何の手違いか、それを叶えられる力を持った個体が生まれることがある。

 弱者の中から生まれた強者だ。

 そして、力なき者はその者に羨望し、付き従う。

 そうして個々に散らばっていた個体が集まって、集団が生まれる。


 集団は個人よりも強い。

 集まれば集まるほどその力を増す。

 そんな集団が各地でいくつか発生した。


 村、町、街。

 規模は次第に肥大化する。

 そして最終的には国が出来た。

 意思はバラバラだが、強者の法によって繋がれた意識集合体と呼べるもの。


 だが、それ以上は大きくならない。

 国と国がぶつかったからだ。

 強者の法と、他に存在する強者の法は相いれない。

 さりとて欲望は収まらず、やがて国同士で食い合いが始まった。

 戦って、争ったのだ。


 負ける国と勝つ国が現れた。

 国は国を侵略し、1つにしようと息巻いた。

 だが、大きく発達した意識集合体の前に、法の力では制御出来なくなっていく。

 そして違う法を取り込んだ国は、ついに意思の力に耐えきれなくなり自壊した。

 最初の欲望諸共に。


 大きくなった国はまた分裂した。

 そして、再度アメーバのように集まり、また国を成す。

 次の新しい力を持った者の欲望を叶えるために。


 欲とは強者がいる限り叶えられようとする1つの運動要素だ。

 これがあるから世界は上手く混ざっていく。

 それを何度も繰り返してきた。

 混沌が作り出した生命の螺旋状で。


 繰り返す。

 何度でも。

 終着点などそこにはない。

 願望がなくならない限り争いは絶えず起こる。


 それを何とかして止めたいと、誰かが言っていた気がする。

 それは俺の大切な人で・・・


 そんなことを、不意に思い出した。


 「前カラ2体!!!」


 騎士と狩人が2人俺の目の前に立ちはだかる。

 さっきから連戦続きだ。

 休む暇がない。

 既に俺の位置は魔王側の悪魔にモロバレみたいだった。

 正確に俺の位置を捕捉し、戦闘を仕掛けてくる。


 まだ俺のレベルでは手に負えない悪魔は出てきていない。

 きっと、外で強者が戦闘中だからだ。

 俺を野放しにしても困る。

 だが、外の72柱をほったらかしても困る。

 そういうことだろうな。


 狩人が矢を放つ。

 俺は高速で迫る矢を上手く横からキャッチして、それをそのまま投げ返す。

 弓を使うよりは速度が落ちるが、相手を殺すには十分な威力。

 それは遠距離で油断していた狩人の額を刺した。

 貫くには至らない。

 それでも、確実に死亡した。


 「くっ!!!」


 騎士悪魔が片手に剣を、もう片手に氷を発生させた。

 手首から先は凍り付き、大きな氷柱が即座に出来上がる。


 俺は1本だけ剣を抜く。

 黒猫はそれに合わせて刀身に闇を少量纏わせた。


 相手の2メートル手前でスピードを緩め、一気に加速する。

 いきなり緩急をつけた移動に相手は慌てて剣を守備的に持ち直す。

 俺の得意分野はアタッカー。

 敵には攻撃を守らせた方がやりやすい。


 剣と剣がぶつかる。

 音は響かなかった。

 闇が全てを吸収する。

 敵の持っている剣が遅くなる。


 「っぐ!!!」


 剣がもう使い物にならないのを悟ったのか、敢えて前に出て氷柱を俺に突き出す。

 それを見切って、敵の前腕を空いた手で弾く。

 氷柱の進行方向がずれ、俺の顔スレスレを通過する。

 片手で相手の髪を思いっきり掴んで首を魔剣で斬る。

 完全に切断とはいかなかったが、敵の喉あたりで剣は止まる。

 抜くと、動脈から滝みたいに鮮血が噴出した。


 「横ダヨ!!」

 「むっ!!」


 横には爆発で大きく穴が開いていた。

 向こうは外だ。

 その先から、複数の矢が飛んでくる。

 たった今殺した騎士悪魔の死体を盾代わりにして矢を全本凌ぐ。

 その隙に俺は先へダッシュする。


 「・・・戦闘が多すぎる」


 今まで隠密に行動していたせいか、連続の戦闘にちょっと疲れる。

 体力や精神的には問題ない。

 まだやれる。


 複雑な構造をした廊下は天井が崩れて瓦礫まみれになっていた。

 そこかしこでは悪魔達が動いている。

 あちこちから戦闘音が聞こえて、それに伴い死体もそこかしこに散乱していた。


 死体が滅茶苦茶に爆ぜていれば72柱の仕業。

 普通の傷が致命傷になっているのなら、別の者の仕業だ。


 廊下の向こうで金属音が聞こえる。

 白い煙の騎士達が、悪魔の騎士達と戦っていた。

 3対3だ。

 剣を打ち合い、1人の煙の騎士が相打ち覚悟で悪魔の懐へ突っ込む。

 当然刺されてしまったが、お返しとばかりに胸に煙で出来た剣が刺さる。

 白い騎士は全身が崩れて、霧散してしまう。

 悪魔はバタリと後ろに倒れた。


 他の2人も同じように同士討ちを狙って殺していく。

 結果、全員死んだ。


 「ロノウェの能力か?」

 「あれは・・・白き分身(ホワイトスモーク)ダネ。彼女の固有能力の1種ダ」


 塵と狼煙の王ロノウェ。

 煙で何でも出来る悪魔だとは聞いていたが・・・


 「煙の軍隊って感じカナ」


 壁に所々ある窓から戦況が見える。

 まばらに散った悪魔の相手をしているのは煙の騎士だ。

 さっき見たように、1人1殺の戦闘スタイルで相手を殺しにかかっている。

 でも、時々失敗するようで返り討ちに合っている煙の騎士もいた。

 強さは・・・普通か。

 雑魚相手ならまあまあの戦闘を行えるみたいだ。


 「いいかく乱になるな」

 「それが狙いデショ。本丸はどっちも人間さんダヨ」


 その本丸が好き勝手動いてられるのも今の内だ。

 やることをやらなければいけない。


 「ん!!」


 上から殺気を感じて、後方へ移動する。

 俺のいた場所に天井が崩れる。

 瓦礫の煙が舞う中で、1人の図体のデカイデブ騎士悪魔が大剣を持って豪快に降り立った。

 でかい目玉で俺を睨み付ける。

 身の丈以上の大きさを誇る大剣は全体が風を帯びていて、魔剣であることを伺わせる。

 ・・・ちょっと強いな。


 「・・・」


 デブが無言で剣を横に振る。

 猫のように四足で身を屈め、それを躱す。

 頭上に鋭利な脅威が通過する。

 大剣を振った軌道上にある壁が全部横に斬れていた。


 切れ味は申し分なし。

 リーチは約10メートル。

 中距離戦に特化した悪魔のようだ。

 こういう相手は、接近戦で対応した方がいい。


 四足で身を屈めたまま、足をバネにして前へ特攻する。

 人間の構造上四足は戦闘において不利にしかならない。

 けれど、黒猫と同調した俺は違う。

 通常のダッシュよりもむしろ早くなる。

 

 「ウヌゥ!!!!!」


 簡単に相手の懐まで入る。

 ぶよぶよ脂肪のついた駄肉を突き刺そうとした瞬間。


 「うっ!!!」


 俺は吹き飛ばされた。

 暴風だ。

 剣に纏わりつかせるだけが取り柄の脳筋じゃなかったってことだ。

 10メートル先にあった壁に激突しそうになるが、瞬時に闇を発動させてクッション代わりにする。

 ダメージはなし。

 十分戦闘を続行出来る。


 ガンッガンッガンッガンッと馬鹿でかい足音を立てて、デブが走って大剣を振りぬく。

 縦斬りじゃない。

 当たる確率の高い横斬りだ。

 それも離れた距離から。

 ・・・風で俺を横に裂く気だろう。


 クッション代わりにした闇を前へ持ってきて、結界のように俺を守らせる。

 風が緩やかに包まれて消滅する。

 相殺という形で闇も消えてしまった。


 「ウヌゥア!?」


 相手が少しだけ驚く。

 闇の能力を知らない奴は意外に多い。


 俺はバックパックから投げナイフを3本取り出して、デブの顔面に投げつける。

 同時に前へ駆ける。

 冷静に見極めてそれらを上手く弾くデブ。

 大剣なのに細々とした動きが出来るのは流石だ。

 だが、余程上手く使わなきゃ大剣は自分の視界も塞いでしまう。


 そして、ナイフを弾いている間に再度肉薄。

 それに気付いたデブがまた暴風を発生させようとする。


 「もう食らうか!!」


 強烈な吹き飛ばしは結界のように張った闇で防ぐ。

 闇から抜け出て、1本の剣が勢いよく腹の肉を斬る。


 「ヌゥアアアア!!??」

 「こんの!!」


 もう1本の魔剣も抜いて乱舞する。

 腹を斬って斬って斬りまくる。

 縦に横に斜めに。


 首なんかの即死を狙える箇所を攻撃したいが、体格差が大きい。

 攻撃を行うのに少し時間がかかる。

 その時間差で能力を発動されたらたまらない。


 だから腹を斬り続ける。

 ひたすら。

 相手の命が斬れるまで。


 血が乱れ飛ぶ。

 腸がはみ出る。


 そして相手は倒れた。


 ・・・時間にして1分か。

 少し長い1分だった。


 「・・・強かった」

 「コイツ、グリードで死んだ騎士団隊長の後釜ダヨ」

 「なるほど・・・道理で強かった訳だ」

 「隊長なら魔石を持っている筈ダヨ。いちいち戦闘のたびに僕のエネルギーを使わないで欲しいネ」

 「ごめん。そこは俺の実力不足だ」


 黒猫の言った通り、デブの装備から魔石が見つかった。

 全部で2個。

 大切に使おう。


 「モタモタしてられないな」

 「急ぐべきダヨ」


 戦闘の疲れを無視して走る。

 黒猫の指示通りに。


 流れ弾に当たらないように、戦いで出来た穴には近寄らない。

 スムーズに移動して、敵が来たら即迷わず戦闘。

 確実に殺していく。


 途中では守護団員と思われる結界を使う悪魔や、ラスト領にいるはずの自警団員がいた。

 アスモデウスが死んで、ラースは自警団を取り込んだらしい。

 出来るだけ戦力を増やしたいラース側からしてみれば、無理なく予想出来る行為だ。

 それらを躱しつつ俺は行く。

 しばらく廊下を進んだ後・・・強者が現れた。


 また俺の前に立ちはだかる悪魔。

 今度は3人だ。

 どれも強い。


 1人は重力使いのエイシャ。

 もう1人は鉱石生成能力を持つロンポット。

 そして最後の1人は、最初に俺と戦った大剣使いだった。


 「・・・また会ったな」


 軽く挨拶しておく。

 でも、3人とも無言だ。

 つれない。

 まあ、こんな戦場真っただ中で挨拶する方がクレイジーか。


 「・・・まずいヨ」


 黒猫が小声で言う。

 そんなこと分かってるさ。

 けど、やるしかない。


 逃げれたら逃げたいもんだが、この3人から逃げおおせる自信がない。

 転移でもあったら別なんだが、今はそれもない。

 というか逃げる選択肢はない。

 ここで、決着をつけなくちゃな。


 「空中要塞の時はよくも攻撃してくれたな」

 「・・・お前が逃げ出すからだ」


 意外にも俺の言葉を返したのはロンポットだった。

 1番俺を憎んでいるらしい彼。

 その意思も憎しみに溢れている。


 「いやいや、逃げないと俺がどうにかなってたから」

 「丁重に持て成すと俺らの魔王様が言ってたはずだけどな?」

 「封印のどこが丁重なんだ?この野郎」

 「殺されないだけまだマシだと思わないのか?この害獣が」


 見下した目で俺を見る。

 人間が人間を見下すように。

 嫌悪感に俺は包まれる。

 殺してやりたい気持ちも生まれる。

 けれど、使命感は忘れない。


 むしろ、使命感が建前なのか?

 コイツに対する復讐心がないと言ったら嘘になる。

 本当はコイツら全員を殺したい。


 その機会を得るために俺はランティスの願いを聞く気になったんだろうか?

 俺の内に聞こえてきたあの約束は?

 ・・・分からない。

 知らない。


 どちらにしたって、目の前の障害は排除しなくちゃいけない。

 殺すしかないのだ。

 殺そう。

 その先に願いがある。


 願いは争いの先にしかない。

 争って、勝つしかない。

 戦争はそうやって起こった。


 俺は俺の願いを。

 彼らは彼らの願いを。

 衝突は避けられない。

 現世と同じで。


 お互いに剣を構える。

 戦闘準備。

 殺し合いの開始。

 殺気が最高潮に上がったその時!!


 「ヴァアアアアアアァァァァァァ!!!!!!」


 後ろから叫ぶ声が響く。

 聞いた声だ。


 俺の後ろには、銀騎士とポポロがいた。

 2人は暴走気味に俺を追い抜かし、ロンポットの両側にいたエイシャと大剣持った悪魔と剣を交わらせる。

 ・・・チャンスだった。


 「うおおおおおおお!!!!!」


 激しい戦闘に加わるため、俺もロンポットに突撃した。

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