167話 ザ・アンフォアギヴン7~現実の話~
「・・・きた」
幼女は爆発音を聞いてそう言った。
前もって知っていたような口ぶりだ。
実際知ってたんだろう。
予言者として。
「うんめいにしばられぬものよ。なまえのありかをさがすものよ。うんめいをきめるときがきた」
「俺の運命?それとも敵の運命?」
「・・・みんなのうんめい」
悲しみと決意を、両方宿した双眼で俺の瞳を覗く。
それは老人が若者を試すような目で・・・
「こんな時に聞いて悪いけど、お前何年生きたんだよ?」
爆発音が外から何発も聞こえてくる。
普通の爆発じゃない。
恐らく、高ランクの攻撃。
「・・・すうひゃくねんぶん。でも、からだはそんなにとしとってないよ」
・・・だろうな。
コイツ、外と中身が全く違うんじゃない。
生き物としての精神性が進化してるんだ。
年は時間を止めるかして体を若く維持しているんだろう。
だけど、精神的な加齢は止められない。
違和感の正体はこれだ。
だが、この能力は命を使う。
肉体的な寿命は延命されても、命は減り続けている。
それじゃあまるで意味がない。
「・・・にんげんさんってかしこいね」
「何か、他にやってることがあるのか?」
「このせかい、とめてるの」
「世界を?」
「つきがうごかないりゆうをしってる?」
「いや・・・」
「わたしがつきのじかんをこていしてるの。だから、じごくもまわらない」
・・・その事実をどれだけの悪魔が知っているのだろう?
俺は知らなかった。
何故、月が動かないのか?
それはそういうものだと思い込んでいたからだ。
だが、そうじゃなかった。
ちゃんと理由があったのだ。
俺の・・・固定概念だ。
思い込みだ。
「つきみちてそはかげとなる。じゃあくなものはせかいにたくさんいたの。いまよりも、もっとつよいつよいじゃあくなものが」
「・・・邪悪種か」
「それらはあくまのはんえいをさまたげた。だからいばしょをつくったの。このせかいのうらがわに」
それを俺は知っている。
深淵。
月が照らしている世界の部分は光に覆われている。
だから魔物や邪悪種は少ない。
魔物は光を嫌うからだ。
それは、直接闇という概念種から作り出された肉体だからかもしれない。
ただ言えることは、そのおかげで悪魔達は犠牲を出さずにすんでいるということだけだ。
しかし、深淵はその逆。
光が届かない、真っ暗な世界の表情。
邪悪種が蔓延り、魔物が闊歩する土地。
光がないから、悪魔と同様にそこに栄えたのだ。
凶悪な土地だ。
「お前が・・・深淵を作ったのか」
「そうせざる負えなかったから。いかりのまおうのせんだいにたのまれたの。せかいにあくまをはんえいさせてくれって。そしてわたしはつきをとめた。こていしたの」
戦闘音がどんどん近くなっていく。
そろそろ・・・中央執行所にも攻撃が届きそうな感じがする。
「だからまおうはわたしをここにとじこめるの。しんえんからじゃあくなるものたちをゆうへいしておけるように。せかいをわたるもん・・・せいもんへのみちをかくほできるように」
「お前は、その言いなりになりたくないんだろ?」
「したがったら、せかいがほろんじゃう」
「なら、俺達と一緒に来ないとな」
「ううん。わたしはいかない。あしでまといになっちゃうから」
「・・・そっか」
否定はしない。
自分で足手まといという自覚があるのだ。
俺の運動能力にはついていけないと思ったんだろう。
今回、魔王の元へ接近するにあたって、全力が出せる状態にしておきたい。
それに、下手にここを動いたら俺はまだしも、預言者・・・ランティスが危ない。
見たところ、戦闘力は皆無。
戦えはしないだろう。
なら、ここにいた方がいいのかもしれない。
魔王ならランティスを守ろうと悪魔を送るだろう。
逆に俺らがここにいたらマズイことになる。
ここで悠長に考えている暇は本来ならなかったんだ。
「・・・そろそろ行かないとマズイな」
俺の感覚が複数の意思を捉える。
普通の奴、強い奴、とても強い奴。
計3人、こっちに向かってやってきていた。
この建物内部は複雑な構造をしていた。
内部関係者じゃないと、スムーズにこっちへたどり着けない。
そして今接近している連中は、非常にスムーズな進行だった。
「敵が3人、こっちに来てる。その内の1人は俺でも倒せるか分からない。多分、魔王の側近クラス」
「・・・魔王が戦力として加えた72柱も中央執行所に集められていると聞いてイル」
「じゃあ、何人もそんなレベルの奴がウロウロしてるってことか」
「ソウダネ」
じゃあ、ここに来るまでの道中は非常に危険だったってことだ。
いつ俺が殺されてもおかしくない状況。
いや、死ぬ覚悟はいつでも出来てるんだけどさ。
俺はそんなに甘ちゃんじゃないつもりではいる。
争いが、俺をシビアにさせたんだ。
他人にシビアな奴は、生きる資格がない。
けれど、とりあえず自分は生きていける。
世の中そんな奴ばっかりだ。
「サスケ、お前はどうする?」
黒猫は困ったように俺とランティスを交互に見た。
「いっていいよ。にんげんさんのたすけになってあげて」
「・・・ハイ」
黒猫が俺の肩に飛び乗る。
それと同時に、建物が少しだけ揺れた。
ここまで味方?がやってきたようだ。
「時間がない。とりあえず移動するぞ」
俺は黒猫と同調する。
四肢に力が漲り、どんなことだって出来る気がしてくる。
さあ、まずは逃げよう。
全てはそこからだ。
「にんげんさん」
「ん?」
ランティスが走り出そうとする俺に一言。
「まりあのためにも・・・いきてね」
「・・・ああ。了解だ!!」
そう言って、俺は扉を開け放った。
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一直線の廊下を走る。
これじゃあマズイ。
絶対に3人の悪魔と接触する。
今の俺に敵う相手なのか、それはまだ判断しずらい。
実力を十分に試せていないから。
大魔石に触れて、明らかに力は上がったが、どの程度なのかが分からない。
こういうのは実戦を通して肌で感じるべきだ。
けど、それで死んだんじゃあ元もこうもない。
「・・・来るヨ」
「どっちにしたって戦うしかないんだけどさ、俺、勝てるかな?」
「それは神のみぞ知る、ダネ」
つまり分からないっすか。
俺自身も分からないから、当然なんだけども。
「ん!」
脅威が目の前からやって来た。
炎の玉のみだれ打ちだ。
10発を超える弾数。
それが廊下の向こうから、こちらまで走る。
「さっそくってことだな」
魔剣を2本抜く。
能力はギリギリまで使わない。
天井までジャンプして、炎の玉を躱す。
さらに天井から足を蹴って、地面に着地。
タイムラグを一切発生させないで、また走り出す。
「・・・いた」
予想通り、3人の悪魔がこっちに迫っていた。
その内2人は大したことがなさそうな騎士の悪魔だ。
せいぜい中級騎士と言ったところだろう。
問題なのは1番奥にいる悪魔。
黒いマントを着ている。
フードを深めに被っていて、顔は見えない。
でも、明らかに強い。
得物は3人とも剣。
それに加えて1番強そうな悪魔は、両手に1本の大きな大剣を持っていた。
ダゴラスさんの使っていたあの巨大な魔剣に瓜二つだ。
見た目からして魔剣なんだろうな。
メンドクサイ戦いにならないことを祈るばかりだ。
「少しエネルギー借りる!」
「イイヨ!」
許可を貰って、黒猫からエネルギーを受け取る。
魔剣に素早く通して、闇を放出させる。
「チョッ!!!エネルギーごりごり取られるんダケド!!」
「気にするな!」
先頭の強い雰囲気を纏った悪魔が、異変に気付いてバックステップする。
が、2人の騎士は急には止まれず、闇に触れる。
「まずは2人っ!!」
魔剣で2人を同時に喉をスッパリと斬る。
血しぶきが落ちるよりも早く俺は前へ進む。
後は・・・1人!!
「ッツ!!」
相手も魔剣を構えてくる。
・・・どうやら、固有能力は使わないらしい。
大剣を軽々と持って、剣撃を仕掛けてくる。
殆ど隙のない姿勢から、片手で剣を突いてくる。
俺はそれを剣で押さえて、もう片方の剣で攻撃。
さらにそれに反応した悪魔が瞬時に結界をノータイムで発動して、剣を受け止める。
・・・結界が壊れない。
それなりに強化しているらしい。
だが・・・
「つあらぁ!!」
刀身に闇をコーティングして、結界を壊す。
そのまま相手の喉を切り裂こうと振ったが、それはギリギリのところで後ろに下がられ躱された。
いい判断だ。
俺の剣をもし防いだら、それが俺の攻撃の起点になっていただろう。
闇の特性を理解している。
「・・・厄介な」
「そう思うんだったら、能力使ったらいいじゃないかよ」
俺の剣速に反応出来るレベルの悪魔だ。
固有能力を持っていてもおかしくない。
それに、相手が持ってるのは魔剣だ。
何で、魔剣の能力を使わない?
「・・・」
悪魔はジリジリと後ろに下がっていく。
能力を十全に発揮出来ないのか?
エネルギーが枯渇したとか。
それとも・・・
俺がコンマ数秒考えている、その時。
「ぐっ!!」
俺から見て横の壁が爆発を起こし、黒煙が上がる。
衝撃と壁の破片の中で見たのは、俺と対峙していた悪魔が逃げていくところだった。
「・・・結局逃げられたな」
相手は本気を出していなかった。
でも、それ以上に気になることある。
アイツは・・・
「来てる来てるヨ!!!」
「んお!!」
側面の壁には穴が開いていた。
そこから見える光景。
それは、街が燃えていて、中央執行所の近くに設置されている砦付近で悪魔達が争っているところだった。
構図は多数対少数。
多数は魔王側の悪魔だろう。
大半が標準的な騎士の装備をしている。
対して少数派。
それらは悪魔達だった。
それも、とびっきり強い悪魔。
ある者は武器らしい太い鉄扇を2本両手に持って煙を放出し、相手を攪乱させてから攻撃している。
またある者はそのまんまダゴラスさん以上の大きい魔具・・・3メートルはあるだろう超デカイ大斧で、雷を出しながら無双プレイをしている。
さらにある者は、銀色の液体金属を操って、獣のような叫びを上げながら戦っている。
・・・あれはバルバトスだ。
かつて空中要塞で俺の味方だった、72柱。
ここに来ていたのか。
多分、今言った悪魔は全員72柱クラスだ。
バキバキと数百を超える悪魔達を一掃していた。
まさに掃除だ。
ゴミを見るかのような目で悪魔を倒し、蹂躙し、怪我一つ負うこともない。
完全に魔王側が押されていた。
「・・・味方か?」
「うん、ソウダネ。ランティスの言っていた、人間さんを助ける悪魔達ダヨ」
「まさか、72柱が来るなんてな」
強大な悪魔は自身の願いに沿って行動を起こす。
その目的が見事に合致しなければ、こんなことにはならないだろう。
「これってチャンスだよな」
魔王の悪魔達がそっちに気を取られているのはもう目で見て分かる。
なら、この間に大魔石を強奪すればいいじゃないか。
今戦っているのは間違いなく72柱だ。
今言った3人だけじゃなく、少し遠くからも強大な意思を数か所から感じる。
味方は大勢なんだ。
「・・・来たな」
突然炎が辺り一帯を埋め尽くす。
通常の能力では作り出せない、紅蓮の炎。
何もかも燃やす劫火。
赤色の炎の海が、津波の如く砦周辺に襲い掛かる。
それに対抗して、72柱の3人は上空に結界を床のように張って炎を逃れたり、空中にそのまま浮いたりして攻撃を避けていく。
華麗な動きだ。
ヴァネールの攻撃に、恐怖なんかまるで感じていないらしい。
平常心を保った意思が感じられる。
ジュウジュウと地面が炎で焼かれる中、彼が現れた。
老騎士の断罪者、ヴァネール・アウナス・クリセレンプスが。
「ほう。野良の強者が3人もおるわ」
ヴァネールが襲撃者3人を浮かびながら見下ろす。
「72柱、第23位バルバトス・オルムッド。14位煙ロノウェ・エリカナ。第13位雷ダヴェン・シルーダム。揃いも揃って何用だ?」
「殺しと救出よ。このクソジジイ」
鉄扇を持った悪魔がそう答える。
さっき煙の能力を使っていた女悪魔だ。
ロノウェ・エリカナ。
行方不明になっていた、危険指定された悪魔。
ダゴラスさんとマリアさんが親交をもっていたらしい。
ウルファンスの城で、ちょろっと名前が上がっていた悪魔だ。
「炎のじいさん相手じゃあ、ワイも本気出さんといかんなぁ」
そう言うのは、さっき大勢の悪魔相手に大斧で無双をやらかしていた大男の悪魔だ。
コイツも有名どころの悪魔で、魔石の大鉱床であるダヴンデ山脈に住み着いて悪魔達の採掘を邪魔し、危険指定にされた男。
鉱床には昔生存していた72柱の悪魔が複数人やってきたが、ものの見事に返り討ちにし、殺している。
まさに豪傑の悪魔だ。
「今回は連携プレイといきたいが・・・この面子じゃあ無理そうだなぁ」
「ヴァアアアアアアアアァァァァァァアアアア!!!!!!」
で、相変わらず暴走気味なのは銀騎士バルバトス。
俺の記憶が正しければ、アイツはサタンの神聖種に片腕を切り落とされたはずだが、ちゃんと腕は付いていた。
恐らく直したんだろう。
俺と同じ方法で。
「殺しと救出か。救出は分かる。が、殺すとは誰を言っておるのかの」
「だ、か、ら!!!あんたのことでしょうが、この殺戮ジジイ!!!」
「酷い言われようだのう」
「魔王の命令なら誰彼構わず殺しやがって。今丁度いいから仕返ししてやるわ」
「出来るものならやってみるがよい」
ロノウェとヴァネールによる言葉の応酬。
両者は苛立ったのか、武器に能力を通す。
鉄扇には煙を。
剣には劫火を。
それを見て、大斧を持ったダヴェンとバルバトスが身構える。
4人の殺気。
それは凄まじいもので、自己主張の激しい意思が真っすぐ衝突して火花を散らしている。
ここは・・・危ないな。
「そこの人間よ~いぃ!!!」
穴から彼らを覗くのをやめて、先に進もうとした俺に声がかかる。
もちろん、穴の向こうからだ。
ああ・・・やっぱバレてたか。
見ると、ダヴェンがこっちに顔を向けてニッコリと笑顔で口を開けていた。
「依頼主からの伝言だぁ!!!あんたの目指す場所で待ってるってよいぃ!!!」
目指す場所。
そして依頼主。
一瞬でピンと来た。
間違いなく、彼女だ。
「分かった!!ありがとう!!!」
会ったこともない悪魔だが、そう言っておく。
意思から伝わるものに悪意がなかったからだ。
間違いなく俺の味方だ。
・・・ジャミングなんかを使っていない限りは。
「おうよおぉ!!!」
ヴァネールがメチャクチャ不機嫌そうな顔で俺を睨み付けるが、前にいる強者3人がいるせいで、身動きが取れないらしい。
まさに好都合だ。
俺は後ろを気にすることなく走り出す。
ヴァネールは3人に任せておけばいい。
俺は俺のやるべきことをやろう。
・・・世界を救おう。
そして、後ろから凄まじい轟音が大きく響いた。




