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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第13章 父祖の辺獄と地獄篇 ラース街中央執行所
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166話 ザ・アンフォアギヴン6~未来の話~

 世界の話。


 個人でどうこう出来るような規模じゃない。

 絶対的な力を持ったとしても・・・それは抗いがたいことのような気がする。


 万物を創造したのは3つの意思だ。

 けど、生命を誕生させたのは4つ目の意思。

 かつて4つ目の意思が誕生させた最初の生命・・・偽神は光に滅ぼされてしまった。

 その光ですら死に追いやられるような出来事。

 俺に止められるのか?


 俺はちっぽけな存在だ。

 この宇宙から見れば、塵以下の存在。

 いや、それ以下かもしれない。

 それでも、そんな存在でも変えられるのか?

 世界の未来を。


 世界は汚い。

 争い、傷つき、舐め合い、死ぬ。

 唯一尊いと思えるのは、生命誕生の瞬間くらいだ。

 その新しく誕生した命だって、後世に影響されて育っていく。

 子は親を見て育つものだ。

 似ない方がおかしい。


 俺が幼女の頼みを聞いたとして。

 そしてそれを完遂したとして、メリットはあるのか?


 俺を含めた全ての命を救うとしても、俺にとって生命とは忌避すべき存在だ。

 嫌いなんだ。

 救うような価値なんかないような奴らばっかりだ。

 いい奴より悪い奴の方が断然多い。


 知能のある生き物だけじゃない。

 野生の生物だってそうだ。

 生物は生物を食うことでしか存続出来ない。

 命を代償に命を育むこと。

 それはあまりにも罪深い。


 でも・・・それでも、滅びの未来を変えられるのなら。

 俺はそれを見てみたいと思ったのだ。


 何故か、高揚とする。

 どうしてだろう?

 俺が生命体を救いたくないという感情は確かにある。

 けども、俺の根本というのか・・・そんな場所から、聞こえてくる。


 優しい約束が。


 「・・・いいよ」


 幼女の頼みに、俺はそう答えた。

 心の中では、このまま全部滅んでしまえばいいという感情が渦巻いているのに。


 「ほんとう!」

 「本当カイ!?」


 黒猫とその主人が嬉しそうに俺を見る。

 こんな頼み事、あっさりと引き受けないとでも思ったんだろうか?


 「やってやる。世界を救ってやるよ」


 どんな風に救うかも分からないのに、口がそう動く。

 とりあえず言うだけ言うのだ。

 そうしよう。


 「まず、決めておこう」

 「というト?」

 「報酬の話だ」


 無責任に言った訳じゃない。

 ちゃんと、仕事として成立させる。

 俺をサポートしてくれた他種族の奴らとだって、そういう関係でやってきた。

 俺の心が読めないことを知ると、奴らはギブアンドテイクの関係を俺に求めてきた。

 物を受け渡しすることで、相手を信用するのだ。

 これは本来心の読めない人間がやることだ。

 だから・・・今回もそれに従ってもらう。


 「・・・さすがうんめいにしばられぬおひと。よげんでもこれはよめないよ」

 「お前みたいに未来を読むなんて反則技を使う奴に、取引なんて言うかよ。俺の未来が読めないらしいからこう言ってるんだろ?」

 「確カニ」

 「じゃあ、なにがほしいの?」


 俺の欲しいもの。

 それは・・・


 「俺がこの仕事を完遂したら、その運命干渉系能力を俺だけのために・・・1回だけ使ってくれ」

 「・・・なにをしたいの?」

 「過去に飛びたいんだ」


 予言者。

 その呼び名からは未来を司る者というイメージが付きまとう。

 けど、俺は目にした。

 グリードの砂漠の光景を。

 あれは、確かに過去だった。


 「お前、過去に飛べるだろ」

 「・・・うん」

 「俺が世界を救ったら、過去に飛ばしてくれ」

 「なんでかこ?」

 「行きたい理由をお前に話す必要が?」

 「ないよね」

 「だろ?俺は別にお前に危害を加える気はない。悪魔達に対して積極的に攻撃をする訳でもない。そこは分かってくれ」

 「それはしってる。にんげんさんはそんなひとじゃないもん」


 らしい。

 俺のどこを見てそう言っているのかは分からないが。


 「・・・なあ?」

 「なに、にんげんさん?」

 「世界を救うってのは全力でやるけどさ、どうやってやる気だ?」


 話を聞く限りでは、世界の滅びは魔王が現世へ行くことに原因がある。

 それを止めれば・・・と思うのだが・・・


 「まおうを・・・さたんをとめるの」

 「どうやって?」

 「・・・わかんない」


 そこまでは考えていないのか・・・


 「まおうをとめられるのはにんげんさんだけなの」

 「どうして」

 「どこにも・・・このじごくのどこにもそんなみらいをつくれるいきものはいないの。ぜんぶしゅうえんをよぶ、ほろびのししゃにしかならない」

 「・・・全部、見たのか?」


 悪魔の未来を。

 他種族の未来を。

 この世界に住む生き物達の未来を。


 「にんげんさんがこのせかいにくるまえに、ぜんぶみおわったんだ。けど、みらいがなかったの。みんな、いのちのさきがなかった。ついでいくたましいのうつわはこのせかいのみらいにそんざいしなかった」

 「・・・」


 どのくらいかかったのだろう?

 その未来を全部、把握するために。

 誰に助けを求めれば、この滅びの運命は変えられるか?


 未来は多分、枝分かれしてるんだと思う。

 無数の可能性。


 誰しもが人生の分かれ道を選択して歩いている。

 導きはなく、先は真っ暗だ。

 未来が見えないから、道の先も見えない。

 けれど、この幼女は道を照らす明かりを持っていたんだ。

 ・・・道を照らす篝火を。


 先を見通し、進むことが出来る。

 けれど、その先には道なんかなかった。

 断崖だ。

 じゃあ、どうする?

 ・・・分かれている道を1本1本探していくしかない。

 当たりの道を見つけるまで。


 孤独な道のりだ。

 さぞ、さびしかっただろう。

 世界が滅びる運命を、ただ1人が知っている。

 そんなものを1人の生命体が背負うには、いささか重すぎるように思える。


 俺と同じなんだ。

 たった1人で戦っている。

 この世界に蔓延る理不尽と。

 戦い方も分からず、ただもがいて、苦しんで。

 本当に、俺と同じだ。


 「・・・とにかく、魔王を殺せばいいのか?」

 「わからない。ただ、にんげんさんのうんめいだけがみえなかったから・・・かのうせいがそれしかなかったから、ここによんだの。さすけをつかって」

 「そういうことだったのか」


 俺が世界を救う運命を持っているってことじゃない。

 俺の運命が分からないから、ここに呼ばれたんだ。

 不確かな可能性を持つ者として。


 「人間さんは姿をよく消すから見つけるのに苦労したんダヨ。人間さんに予言は通じないから、その周囲にいるだろう悪魔の未来を読んで、やっとグリードで見つけタンダ」

 「そこからずっと俺のことを見てたんだな」

 「ソウダネ」


 コイツが数年間、こんな根気のいるようなことをやってのけた理由が、今分かった。

 世界を救うというこの幼女の手助けをしたかったからだ。

 詳しい理由は知らない。

 けども、この幼女をサポートするってことは、覚悟がないと出来ないことだ。

 それこそ、命を懸けないと世界なんて救えない。

 リスクを犯してまで、牢に閉じ込められていた俺を救った理由がよく分かった。


 「・・・聞きたい事がまた出てきた」

 「なんでもきいていいよ?」

 「お前自身が今みたいに時を止めて、魔王を暗殺出来ないのか?」

 「それが出来たら苦労はシナイネ」


 黒猫が俺の破ろうとした扉を手で指す。


 「時間を止めている間は、物体や生物に干渉出来ナイ。そういうルールナンダ」

 「なら、時間を止めたら魔王の所まで行って、能力を解除した瞬間に殺せばいいんじゃないのか?」

 「それも無理なんダヨ」

 「何故?」

 「そんなことじゃあラースの魔王は死なないからサ」

 「・・・亡者(アンデッド)かなんかだって言うのかよ」


 死体の脳に、治療の能力を付加させると、その部分が活性化する。

 神経細胞に電気信号が伝わって、体が動くようになる。

 けど、意思はない。

 脳の本能に従って行動する。

 それが亡者(アンデッド)という魔物。

 生前に取得した能力を操れるから、これがまた強い個体は強いんだ。


 「違う。というかそもそも、その魔物は既に死んでるジャナイカ」

 「だって、死なない奴と言ったらそのくらいしか・・・」


 まてよ?

 1人はいるか。

 死にはするけど、この世界で1番死ににくい悪魔が。

 でも、ソイツは強いからそうでいられる。

 魔王は違う。

 じゃあ、どういうことだ?


 「・・・まおうはわたしのかごをうけてるの」

 「加護?」

 「そう。しんでもしんだことをなかったことにする、じかんのまきもどし。まおうとわたしだけのひみつ」


 秘密だと?

 幼女が悪魔に対して秘密を保てるのは分かる。

 意思が捻じれてよく見通せないからだ。

 こういう奴は、悪魔もうまく心が読めない。

 でもだ、魔王は違うだろ。

 心は読める・・・んだったっけ?


 あれ?

 おかしい。

 俺、魔王と牢で会った時、意思を読んだか?


 ・・・何故か魔王の意思がまったくと言っていいほど俺に伝わってこないし。

 俺はそう思ったはずだ。


 「もしかして、魔王の意思を読めないのって、それが原因か?」

 「それはちがうよ。まおうもせかいのこえをきけるものの1りだから、それがかんけいしてるんだよ」

 「そっか。魔王も運命干渉系能力者だったな」


 道理で意思が伝わってこなかったのか。


 「わたしのかごはまぐとしてまおうとともにある。それがあるかぎり、まおうはころせないの」

 「殺しても、時間が巻き戻る?」

 「うん」


 時間が巻き戻る、か。

 どんな感じなんだろう?

 今は時間が止まっているらしいが、目に見える形でそれは実感出来ない。

 唯一、扉が全く傷つかないことがその証拠だ。


 「その魔具は魔王が持ってるんだな」

 「そうだよ」

 「なら、奪えばいいじゃないか」

 「奪えるの?まおうのからだのなかにそれはあるけど」

 「・・・はい?」


 体の中だと?


 「ほけんのためだっていってた」

 「・・・お前がそれをやったのか?」

 「わたしはおどされてまぐをつくっただけ。からだのなかにいれたのはまおうじしん」


 ・・・自分に迫る死のリスクが狭まるなら、そういうこともするか。

 空中要塞の時は、魔石なんかをあっさり俺に奪われちゃってたからな。

 そういう可能性も考えたんだろう。


 「時間を止めている間は何にも干渉出来ない・・・」

 「にんげんさんのまけんとか、えんのふかいものならわたしがうながしてあげられるようにできるけど、あいてのものはむりなの」

 「で、魔王に時間を食ってるとヴァネールがすぐさまやってくると」

 「今、魔王の傍に彼はイルヨ」

 「調べたんだ」

 「随分前からそういう体制にナッテルヨ。余程自分の命が惜しくなったんだロウネ」

 「時期的にはいつ頃さ?」

 「魔王の空中要塞型土の僕(ゴーレム)がスロウス領に墜落した時カナ。その要塞は現地で修理中って話ダネ」


 そんな場所に要塞は落ちてたのか。

 スロウス領は赤い海の傍にある領土で、ベルフェゴール2世が統治していたはずだ。

 ベルフェゴールとサタンの仲は良くもなく悪くもなく。

 未だにベルゼブブみたく断罪者に追われていないってことは、協力者なんだろう。

 つまり、俺の敵。


 「・・・72柱を味方につけたらどうなるんだろうな?」

 「だめ。ころされちゃう」

 「・・・ヴァネールにか」

 「ううん。つみとともにいのちをたつあくまはさいきょうじゃない。もっとつよいあくまもいる」


 ヴァネールの72柱としての階級は10位だったはず。

 それは他に9人のさらに強い悪魔がいることを示している。

 あのヴァネールより強い奴が、9人もいるのだ。

 その中にいる悪魔で、サタンに仕えている悪魔を俺は知っている。


 「72柱、第6位クルブラド・オドロリス」

 「彼はずっとラースの大魔石を守護しているけど、魔王が殺されそうだと分かれば、すぐにやってくるダロウネ」

 「わたしたちのみかたになってくれそうな72はしらはまだいるけど、それでもかれにはかてない」


 勝てそうな悪魔に心当たりがあるが、その悪魔達はもう亡くなっていた。

 ダゴラスさんにマリアさん。

 彼らは・・・この世界では3番目と4番目に強かった。

 けれど、俺のせいで死なせてしまった。

 死の詳細は未だに分からない。

 でも・・・


 「マリアさんは生きてるって言ってたよな」

 「別の形デネ。彼女には頼レナイヨ。もう死んでるカラ」

 「・・・死んでるのか生きてるのかどっちだよ」


 少し苛立つ。

 曖昧な回答はしないでほしい。


 「ごめんなさい。おしえられないの。かのじょがそういってるから」

 「・・・」


 似たような経験がある。

 知っている癖に教えてくれない奴。

 デジャヴだ。

 俺の経験が言っている。

 どうしたところで、幼女はこのことについて教えてくれないと。


 「彼よりも強い悪魔は第5位しかイナイ。吸血王ヴラド」

 「・・・どっちも現世に行ってるじゃないかよ」


 その内ヴラドについては死んでいることが分かっている。

 ある人間に憑りついて、散々人を殺した後処刑されて死んだのだ。

 その時の呼び名が、ヴラド3世。

 通称串刺し公。


 「だから、にんげんさんをよんだのに・・・」


 幼女がショボンとする。

 俺の中で罪悪感が成長を始めた。

 黒い芽がニョキッと生え始める。


 「いや、やれることはやるけどさ、強力な仲間は欲しいじゃん」

 「・・・それならもうすぐくるよ」

 「もうすぐ?」

 「かのじょが、ぐんぜいをつれてくるのがわかるの。にんげんさんのみかただよ」


 ・・・プラムか?


 「それも能力を使って知ったのか」

 「うん。あとすこしで、みんなこのまちにせめはいるとおもう」

 「今日?」


 俺の質問にコクンと幼女が頷く。

 タイミングがよすぎるな。

 ・・・この日に合わせて、俺を牢から出したのか?


 「このせかいのあくまたちは2ぶんしたの。72ほんのはしらのいくつかと、いかりのまおうのぐんぜいに。にんげんさんがねむっているあいだにね」

 「・・・牢屋で眠ってる間に、何かあったんだろうな」

 「でもね、それでもまおうはとまらないの。ころせないの。もう1りのだんざいしゃ・・・くるぶらどがみんなをころしちゃうの」

 「・・・それが今の予言ダヨ」

 「それを俺が止めるのか」

 「あなただけみらいがわからない。せかいがほろぶか、そんぞくするかのみらいがみとおせない。これって、きぼう?」

 「俺にも分からないよ」


 俺自身のことについても殆ど分からないって言うのに・・・


 記憶喪失。

 いつになったら治るんだろうか?

 試練・・・大魔石による失われた魂はちゃんと補完されていっているらしい。

 けど、一向にそれらしい記憶は蘇ってこない。

 たまに断片的に思い出しかけることはあるけど・・・それだけだ。

 後は何もない。


 そもそも記憶喪失は、一生かけても元に戻らない可能性を内包している。

 そうかと思えば、ある日突然ふとした瞬間に戻っていることもある。

 脳の構造や役目はまだ不明な点が数多い。

 地獄での神秘を人間が科学的に証明出来ていない以上、今の科学では脳の解明なんて、夢のまた夢ってところだろう。


 「これって不可能な仕事なんかな・・・」

 「そんなのわからないよ」


 預言者もお手上げか。

 黒猫も、その言葉には黙ったままだった。


 考えても分からないこと。

 そんなことに対して、俺はどうやって乗り越えてきたのだろう?

 それは、理屈じゃあ理解出来ないこと。

 即ち、とりあえず行動、ということだった。


 「・・・とりあえず、状況を直接見てから考える。もし、魔王を殺せなくても、大魔石を奪えばあっちは現世に転移出来ないんだろ?」

 「・・・っつ!!」

 「ランティス!!」


 幼女が苦しそうに胸を抑える。

 黒猫が急いで傍に近寄る。

 まるで俺自身とプラムを見ているような錯覚を覚える。

 やっぱり俺には彼女がいなきゃ駄目らしい。


 「・・・能力を使いすぎダヨ」

 「でも・・・これをやめたら、みんながきちゃう」

 「敵か?」

 「・・・どっちもだよ」


 それを今、止めている?

 外の敵と味方を。


 「・・・ごめんなさい。いっておくことがあるの」

 「何だよ」

 「わたしののうりょくをとめたら、このまちであらそいがはじまっちゃうの。このとき、このしゅんかんがぶんきてんだとわたしはおもう。だから・・・ごめんなさい」


 幼女がフッと力を抜いた。

 その直後。


 「うおっ!?」


 大爆発の衝撃音が、外から聞こえた。

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