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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第13章 父祖の辺獄と地獄篇 ラース街中央執行所
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164話 ザ・アンフォアギヴン4~預言者~

 扉の先は小さな部屋だった。

 隅っこのほうに子供用と思われるおもちゃが転がっている。

 多分、子供部屋。

 他に扉はない。


 「ねぇ?あなたはだぁれ?」


 小さな部屋にいる幼女はそう言った。

 小さな角が2本生えていて、背は幼稚園児並みに小さい。

 その子の両目に当たる部分には黒い布が巻かれていた。


 ・・・子供の悪魔。

 それはかつて俺が見た子供の悪魔であるスー君やソフィーを連想させる。

 でも、雰囲気は違う。

 老人の出す独特の近寄りがたさ・・・年を経た者の意思を感じた。


 似た悪魔は見たことがある。

 ラースの魔王だ。

 けど、ただ似ているだけ。

 似ているけど、全くの別物。


 サタンは幼い外見に凄まじいカリスマと王たる風格を備えていたが、この幼女は違う。

 表面と裏面が全く別だ。

 他の悪魔の皮をそのままかぶっているみたいな・・・

 サタンみたいに精神と肉体のギャップが激しいとかならまだ分かる。

 でも、コイツは全く違うんだ。

 外と中が。


 「さすけ?」

 「そうだよ、ランティス。人間さんを連れてきたヨ」

 「あはは、かえってきたかえってきた!」


 体をゆらゆら動かして、彼女は笑う。

 笑っているのに・・・怖かった。

 何でだ?

 本質的な恐怖を揺さぶられる。

 何だよ、この子は。


 「紹介するヨ。あそこにいる女の子が僕のご主人様・・・ランティス」

 「こんな・・・幼いって聞いてないぞ」

 「ン?分からナイ?見た目で騙される人間さんじゃないデショ?」


 違和感は感じてる。

 けど、不思議なのだ。

 あの子の・・・ランティスの意思が捻じ曲がっている。

 意思を感知した悪魔の数は決して多くない。

 だが、そんな乏しい経験でも俺には分かる。

 ランティスは絶対に異常だ。

 こんな意思が生物に宿るものなのか?


 「にんげんさん、はじめまして。らんてぃすです」

 「・・・はじめまして」


 名前が思い出せないから、あいさつだけで済ました。

 どうせ俺の事情は知ってるクチなんだろ?


 「うんめいにそくばくされないものよ。なまえのありかをさがすものよ。あえてうれしいです」

 「・・・猫かぶってんのか、お前?」

 「失礼だね、人間さんハ」


 失礼だろうがなんだろうがどうだっていい。

 何で、こんなにこの子のことが怖い?


 「それじゃあまず、おはなしのばをつくりましょう」


 ランティスがうふふと笑う。

 やばい・・・なにか来る。

 絶対に何かやる気だ。

 俺は条件反射的に身構える。


 「そんなに警戒しなくて大丈夫ダヨ。危害は加えないカラ」

 「どうだかな」

 「どっちにしろ抵抗は出来ないし、どっちでもいいんだけどネ」

 「・・・ああ」


 牢を出る時に決めたことを思い出す。

 甘んじて受け入れようじゃないか。

 その様子を見ていた幼女が、手のひらを上へ翳す。

 そして言った。


 「果てを渡れ(レ・ル・ム)


 カチッと機械が動くような音がした。

 一瞬だけ、俺の意識がぼやける。


 「・・・何をした?」

 「じかんをとめたの。だいじなおはなしだから、りょうどぜんたいに」

 「・・・ラース領?」

 「そうだよ」


 ・・・マジか?

 試しに出口の扉を開けようとする。

 だが、扉は溶接したみたいに動かない。


 「・・・」

 「信用しないネェ」


 黒猫の呆れ声を無視して魔剣を1本抜く。

 暗夜黒剣を。

 使い慣れた剣を、使い慣れた動作で扉に斬り付ける。

 が、ビクともしないで簡単に弾かれた。

 ・・・結界じゃない。

 しかし、開かない。


 「あはは、ばかだばかだ!」

 「凄いな、お前」

 「わたしがすごいんじゃなくて、のうりょくがすごいとおもってるんでしょ?」


 当たり。

 大人顔負けの読みだった。


 「・・・外の悪魔は?」

 「止まったよ、全員ネ」


 領土全体・・・にか。


 「・・・能力の発動にコストはかかるんだろ?」

 「うんめいをかえるには、えねるぎーのかわりにいのちがひつようなの」


 エネルギーの代わりに命を使う方法。

 詳しくは分からないが・・・


 「いのちはせかいととけあうの。だからね、せかいはあたしのおねがいごとをきいてくれる」

 「それがお前の能力か」

 「運命干渉系能力ダネ」


 あっけなく能力を出されたから、これが世界に3人しか使えない能力だとは思いにくい。

 けども、後ろの扉は・・・


 「命を使ってるのか?」

 「そうだよ、にんげんさんのためだよ」

 「・・・どの程度命を使ってるのかは知らないけど、そんなリスクを冒してなんで俺と話したいんだよ?」

 「うんめいをかえられるのが、にんげんさんしかいないから」


 運命だと?


 「預言者って呼ばれてたな、お前」

 「うん、みんなそうよんでるね」

 「未来が見えるのか?」

 「みえないけど、よげんはできるよ」


 見えないのに予言は出来る?

 矛盾は・・・していないのか。


 「にんげんさんがとじこめられるのもよげんできてたんだよ?それをかんじとってたすけにくるものたちも」

 「助けに・・・誰か来るのか」

 「にんげんさんのよくしってるねこちゃんだよ?それととってもこわいあくまさんたち」


 その猫ちゃんと怖い悪魔さん達に心当たりがある。

 ・・・恐らく、プラム達だ。


 「でもね、それはまだだよ?」

 「どうして?」

 「みちびかれたものたちがたすけにくるかどうかは、にんげんさんのこれからのおこないしだいだから」

 「つまり、今言ったのも全部予知か」

 「厳密に言うなら、予言、ダケドネ」


 現世で予言と言ったら、大概は宗教関係か占いの範疇に入る。

 でも、この子の予言は全くの別物なんだろうな。


 「にんげんさんのうんめいはうまくよげんできないの。すぐにはずれちゃう。だからね、ずぅっとさすけをとおしてみてたんだよ」 

 「この黒猫がかよ」

 「人間さんがグリード街の大魔石を手に入れた辺りからネ」

 「監視してたのか」

 「ご主人様のお願いデネ」


 驚いた。

 俺に気配を辿らせないなんて、気配断ちの結界を使っても難しいのに・・・

 いや、でもサスケには闇の能力が使えたな。


 あの能力はコストが馬鹿でかいけど、うまく使えば気配断ちの結界よりも精度が高い隠密向けの能力として使用出来る。

 俺の意思探知は第六感として作用するから、大概自身を隠す能力を使用されても看破出来る。

 けど、闇は最大付加した気配断ちと同等の効果を持つ。

 サスケ程度の闇の出力でも、自身の姿を包むくらい訳ないはずだ。

 そこまでのレベルになると、俺でも気付けなくなる。


 けどなぁ・・・

 まさか尾行されてたなんて・・・


 「数年間ずっとか?」

 「ウン。片時も離れずネ」

 「随分と根気があるんだな」

 「でも、そのおかげでご主人様はラースの魔王に見つかったケドネ」

 「ん・・・だからこんな場所にいるのか?」

 「ソウ。それが人間さんがここに来た理由の1ツ」

 「助けてもらいたいと?」

 「ちがうよ。たすけなくちゃいけないの。そうしなきゃにんげんさんもわたしもいいことがおきないんだよ?」


 双方にメリットが?

 それも予言したってのか?


 「仮に助けないとする。そうしたら、どうなるんだ?」

 「たたかいがはじまって、あくまさんたちもにんげんさんたちもしんじゃうの」


 ・・・一応魔王が現世へ戦いを仕掛けることは知ってるのか。

 それでどっちも死ぬと言いたいんだろう。


 「死んだとして、お前に関わりがあるのか?」

 「ないけどあるよ」

 「ないけどあるって?」

 「そうだよ」


 俺は肩に乗っかっている黒猫を見る。

 何を言ってるのか、解説ぐらいしてほしい。


 「そもそも、悪魔達が生身で現世に行った結果に終わったとしたら、人間さんは悪魔側に捕まって大魔石代替えとして利用されたってことなんダヨ?」

 「あっ、そうか」

 「それが予言で知れテルノ。ご主人様を助けなかったら、いずれそうナル」


 そこで黒猫は俺の肩から飛び降りて、部屋の奥へ行く。

 部屋の隅に置いてあった小さな本棚。

 そこにはA4サイズの古い洋紙がたくさん挟まっている。

 黒猫がその中から迷わず1枚抜き取って、俺に差し出す。


 「これ、予言書ダヨ」

 「これが?」

 「読んでみれば分かルヨ」


 紙を受け取って、中身を確認してみる。

 内容は次の通りだった。



 ・袋小路の世界を変えましょう。

 貴方の願いは、前世で分かれた3つの意思に。

 同じ顔はいくつもいらぬ。

 本当の自分に目覚めたら、心は1つと知るでしょう。


 ・死の花を摘みましょう。

 死して横たわるは、鉄の味を知る貴方と彼女。

 看取るべきは世界の異端者。

 叶わぬと分かりきった願い事は、悔いなく潰れるでしょう。

 

 ・愛する者の為に還りましょう。

 過酷な道標の先に立つ、もう1人の貴方。

 全ては収束し、安らかな眠りにつくでしょう。

 魂が境界の彼方へと旅立つことを願って。


 ・不幸にも貴方は仮面を被る。

 二律背反の自身を守り、生きる理由を復讐に求める為に。

 世界が微笑みの天使で満ちる時。

 復讐は思い出と引き換えに、貴方を鼓舞することでしょう。


 ・人という穢れを残し、貴方は眠る。

 銀の獣に願いを託し、真実と共に貴方は眠る。

 頭に全ての命を抱えながら、痛みに耐えて静かに泣いて。

 かつて約束した旅立ちの日まで、愛した彼を見守ることでしょう。




 「何だこれ?」


 そうとしか言いようがなかった。

 もう1回言おう。

 何だこれ?


 「分かルヨ。僕も最初はそう思ったモン」

 「これが予言かよ」

 「ソウダヨ」

 「お前でも分からなかった物を、何で俺に見せる」

 「数年前、グリード領で戦った人間さんの仲間のことを予言した紙だからダヨ」

 「・・・その時すでに予言してたのか」


 なら何で助けなかった?とは言わないでおく。

 サスケにも守るべきものがあったのだろうから。

 ランティスの幼い姿を視界に一瞬だけ納めて、紙に視線を落とす。


 「1番目の予言が人間さんのこと。2番目が吸血鬼のララ・シーメール。3番目が72柱のダゴラス。4番目がダゴラスの息子のスーラン。そして最後ガ・・・」

 「まりあなの」


 悲しそうにランティスが呟く。


 「眠るとか、潰れるっていう記述があるダロ?それはみんな死亡判定なんだ」

 「何で、こんな奇妙な言い回しを?」

 「わたしはせかいがおしえてくれたことをそのままかいただけ」

 「ラシイヨ?」


 と言われてもな・・・

 中々分かりにくい内容だ。

 いくら予言って言っても、内容がしっかり理解出来ないんじゃあ殆ど意味がない。


 「願い事が潰れるっていうのは、願望が叶わなくなるコト。72柱や他の強力な悪魔は生きている限り願望を模索し続ける力が実際にあるから、それが潰れたってことは死んだってコト」

 「そういう解釈の仕方か」

 「メンドクサイデショ?」

 「全くだよ」


 なら、少しは予言書も読めてきそうな気がする。

 もう起きてしまった出来事だけども。

 死んだ者はもう元には戻らない。

 こんな紙きれを見たところで、どうにもならない。


 「こういう形で予言が出来るのは分かった」


 少し不快だったので、この紙を破ろうとする。

 だが、それを黒猫が制止した。


 「ビリビリに破るのはそれ、モッタイナイヨ」

 「もう終わったことだろ、これ」

 「終わってナイヨ。だからこうして残してあるんジャナイカ」


 ・・・は?


 「まだ続いてるってのかよ」

 「そうじゃなきゃここに残しておく意味はナイヨ。それによく見てみなヨ。まだ死亡判定の出ていない予言だってあるんダカラ」

 「・・・」


 無言で紙を見る。

 1番最初の俺の欄は除外だ。

 問題はその下。


 「どれだよ」

 「コレコレ」


 黒猫の指した部分は2つの個所だった。



 ・不幸にも貴方は仮面を被る。

 二律背反の自身を守り、生きる理由を復讐に求める為に。

 世界が微笑みの天使で満ちる時。

 復讐は思い出と引き換えに、貴方を鼓舞することでしょう。


 ・人という穢れを残し、貴方は眠る。

 銀の獣に願いを託し、真実と共に貴方は眠る。

 頭に全ての命を抱えながら、痛みに耐えて静かに泣いて。

 かつて約束した旅立ちの日まで、愛した彼を見守ることでしょう。




 「ここに書かれてある悪魔は全員何らかの形で生きてルヨ」

 「・・・嘘だろ」


 本当か?

 嘘じゃないのか?

 死んでたのでは?


 言葉が頭に浮かんでは沈んでいく。

 心臓が早鐘を打つ。

 これは・・・本当なのか?


 「最初のスーランの部分はもう分かるデショ?死を連想させる暗示が書かれてナイシ」

 「・・・」

 「最後の予言にある眠るって言うのは、死んだと思わせるような解釈しちゃうけど、実は違ウ」

 「眠るってことは・・・次は起きるのか」

 「ソウソウ。これは別に永眠って意味じゃないカラ。眠るの記述で文が途絶えれば永眠の解釈で合ってるけど、その後に記述があればそうじゃナイ。人間さん冴えてルネ」

 「でも・・・」


 死んだはずだ。

 そう聞いたんだ。

 プラムに。


 今まで数年間プラムの言うことを信じてきた。

 けど、それは嘘だったのか?


 あんなに一緒に戦ってきたのに。

 命を懸けて。

 ・・・愛しているとまで言ってくれていたのに。


 「プラムは全員死んだって言ってたのにッテ?」

 「そうさ。彼女とお前達のどちらかを信じろって言われたら、彼女を俺は信じる」

 「・・・にんげんさん。ちょっとかんちがいをしてるとおもうな」


 幼女が俺を見る。

 何もかも見透かされそうな、老いた恐ろしい心の目で。


 「おもいださせてあげる」


 言って、幼女は俺に手を向ける。

 小さな手のひらから、奇妙な歪みを感じ取った。


 「っつ!?」


 咄嗟に横へ移動して躱そうとする・・・のに動かない。

 体が・・・


 「こうでもしないとけいかいしちゃうでしょ?」


 手のひらから、本来不可視であろう歪みの糸がスルスルと伸びてきた。

 それは俺の頭に繋がって・・・


 「ちょっとだけきおくをさかのぼるね」


 俺の意識は俺の自身の脳へと引っ込んだ。

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