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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第13章 父祖の辺獄と地獄篇 ラース街中央執行所
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162話 ザ・アンフォアギヴン2~預言者の飼い猫~

 数日が過ぎた。


 時間の感覚は失われている。

 体内時計も狂いっぱなしだ。

 目覚めた時点で昼か夜かも分からないのだから、これは仕方ない。

 でも、ここで目が覚めてから確実に数日は経っている。


 未だ救援はなし。

 食事は取らせてもらっている。

 申し訳程度の大きさにカットされたパンと水だけだが・・・


 体力的には問題ない。

 過酷な旅は粗食にも適応出来る体に変化させていた。

 今までの旅路は無駄じゃない。

 俺の体は頑強になってる。


 あれから、牢屋に来る悪魔はエイシャだけになった。

 空中要塞でとっていたあの陽気な性格はなく、ただ食事を運んで下げるだけ。

 この数年で本当に俺の見方が変わったのだ。


 食事を持ってきて、わざと俺の分を牢の目の前で食べる時もあった。

 陰湿な嫌がらせだ。

 直接復讐が出来ないから、ジワジワと俺の体を弱らせる。

 でも、俺を死なせるとマズイという判断はなされているのか、最低限の食事はもらえた。


 きっと、大魔石のエネルギーを俺が所持しているからだ。

 このエネルギーは魔王達にとっても必要なもの。

 だから、これが俺にとっての保険になる。

 これがある限り、俺は殺されない。

 それだけで、まだ希望はある。


 そして、また数日が過ぎる。


 食事を取るだけの毎日。

 いい加減飽きてくる。

 前回閉じ込められていた時はまだよかった。

 他者と話が出来たからだ。

 今はそんなことはない。

 牢に来る悪魔はみんな俺のことを化け物みたいな目で見つめ、気味悪がる。

 心の底から嫌悪してるって感じだ。


 コイツらは、俺が悪魔を殺したことだけを知っているんだろう。

 何故、俺がそんなことをしたのかについては考えが回っていない。

 悪いことをしたら悪者。

 そういう思考回路は人間にもある。

 と言うかそれが大多数だ。


 人を殺す。

 そこに善悪を考える余地はない。

 人間は最初から悪だと思っているからだ。

 テレビでニュースを見る時、子供を殺した犯人が捕まったとする。

 そして視聴者はそれでよかったと、とりあえず思っておく。

 賛美する。

 赤の他人だからだ。


 赤の他人がどういう理由でこんなことをしたのかは考えない。

 人間は多数の味方であって、少数の味方じゃない。

 現在の道徳観念に縛られているから。


 現在の先進国は自分の考え方が認められている社会だという。

 だが、その考え方は道徳観念を固定された教育の中で育てられたものに過ぎない。

 人間は、人間に育てられて初めて人間になる。

 固定観念に縛られない考え方を持つ人間は、実はいない。

 考え方に汚染されているから、人間は生きていける。

 そういうどうしようもない生き物が人間だ。

 先進国だろうが、発展途上国だろうが、そういう共通性がある。


 そんな人間という種族に、悪魔が重なって見えた。

 考え方を固定された悪魔。

 俺から見れば、人間も悪魔も大して変わらない。

 そして、そんなことを考えている俺ですらも縛られている。


 共有しなくてはいけない。

 考え方を。

 吸収しなければいけない。

 意思を。

 俺の力は・・・そのためにあるのか?


 悪魔の視線を気にせずに、そんなことばかり考えていた。

 1人の時間が多いと、どうしても自分の心の中が見えてくる。

 自分の本質と向き合わなければいけなくなる。

 心の力が試される。

 感受性が剥き出しになる。


 「・・・」


 また数日が経つ。


 腹が鳴る。

 眠気はやってこない。

 毎日十分に睡眠をとらざる負えないから。


 拷問だ。

 現世には、睡眠をとらせないで苦痛を与える拷問があるという。

 俺のはそれと逆。

 睡眠を取りすぎて辛い。


 頭が痛い。

 不調が出てくる。


 体も洗えていない。

 全身が臭う。

 獣みたいだ。

 イライラする。


 精神的に追い詰められている。

 それは自覚している。

 けど、分かっていても対処出来ない。


 もう最近は横になったまま動いていない。

 運動能力も低下しているんじゃないだろうか?

 筋肉は使わないと落ちるからなぁ・・・


 筋肉は維持するだけでカロリーを消費する。

 今は食事が殆どないから、カロリーは貴重だ。

 でも、動かない。

 筋肉を使わない。

 だから、体が必要ないと判断して筋肉を衰えさせる。


 ・・・全部、分かっていて悪魔側もやってるんだ。


 俺の命さえ繋げば、後はどうでもいい。

 そういうスタンスなんだ。

 俺の体がどうなろうと・・・関係ない。

 赤の他人だから。

 悪魔の社会に必要ないから。

 むしろ害悪。

 害獣の類だから。


 「・・・世知辛いよ」


 厳しい。

 世の中が厳しいんじゃない。

 生物は基本的に別の生物に対して厳しい。

 相互理解を深めるという本能が生物には備わっていないから。


 お互いを理解するなら、それは理性を必要とする。

 そして、知性でその情報を蓄える。

 知性の履歴を参照しながら失敗を減らしていく。

 でも、大抵の場合ずっと四苦八苦が続く。

 生物の行動の基本は本能。

 それは絶対に変わらない。


 人間がここまで発達出来たのは、知性のおかげ。

 その知性を育むまでに、人類はどれほどの時間と犠牲があったのだろう?

 そんな積み重ねがありながらも、人間同士の相互理解は難しい。

 お互いに分かり合えない。


 俺は貴方じゃないから。

 貴方は俺じゃないから。

 意思が別々だから。

 俺は俺。

 貴方は貴方。


 本質的に、人間は分かり合えない。

 悪魔はお互いに心を読める。

 人間の大きな欠点を1つ克服してきたからこそ、悪魔同士の争いは落ち着いた。


 けども、そのせいで新しい弊害も生まれる。

 欠点は改善されてもなくならない。

 それを埋めるように生物は進化していく。

 でも、分かっていた。

 進化の先にあるもの。

 それは自滅だって。


 満たせば消える。

 消えたら生まれる。

 本当に何で、俺達は生きているんだろうね?


 「人間さん、辛気臭い顔してルネ」

 「・・・誰だよ」


 牢の中から声が聞こえた。

 可愛げのある声色。

 音の発生源に顔を向ける。


 そこには、真っ黒い猫がいた。

 漆黒。

 闇に紛れたら、絶対に見つけられない自信がある。

 大きさは普通の猫程度。

 プラムのように輝く金眼を有していて、それだけがその存在を主張している。


 「・・・これまたかっこいい猫が来たな」

 「かっこいいなんて、照レルネ」


 愛嬌がある。

 プラムとはまた違う感じの猫だった。


 「どうやって入ったんだよ?」

 「こんなのすぐにスルスルリ、ダヨ」

 「へぇ、実力はあるんだ」

 「何回もこういうことしてるからネェ」


 ・・・楽しい。

 誰かと会話出来るってやっぱりいいな。

 安心する。

 相互理解は出来なくても、少し位なら歩み寄れる。

 心の距離を狭められる。

 そんな気にさせてくれる。


 「おい、黒猫」

 「サスケでイイヨ」

 「じゃあサスケ」

 「ナニ?」

 「お前、何しにここに来たの?」


 どうしてわざわざこんなところまで来たのか?

 助けに来てくれた?

 それとも、殺しに?

 プラムの仲間?

 よく分からない。

 だから聞いた。


 「じゃあね、ランティスって知ってる?」

 「・・・知らない」

 「だよね・・・普通は知らないヨネェ」

 「誰だよ、ソイツは」

 「僕のご主人様サ」


 ・・・俺とプラムを想像する。

 けど、主人と僕って感じがしない。

 どちらかというと、パートナーだな。

 それか、俺が僕・・・


 「ご主人様があんたに用があるんだッテサ」

 「俺って大人気なのな」

 「今の地獄は人間を中心に動いてるみたいなもんラシイヨ?」

 「はっきり言って、迷惑だ」

 「僕も人間さんと同じ状況だったら、嫌ダネ」

 「だろ?」


 脇役の気楽な事。

 俺みたいなポジションは、自己顕示欲がある馬鹿に任せておけばいい。

 俺は隅っこで平和に暮らしているさ。

 でも、それは出来ない。

 さっきも思った通り、俺は俺だから。


 「でも、助けてあげるヨ?」

 「・・・ま、俺も困ってたしな」


 ちょっと精神的に参ってた。

 ブツブツ1人で考え事をしていたし。

 周囲から見れば、少し危なげに見えたはず。


 「信用するかどうかは置いておいて、とりあえずお前に従う」

 「いい判断ダネ。偉いヨ」

 「猫に褒められてもねぇ・・・」

 「夜叉に褒められるなんて、滅多にナイヨ?」

 「お前、夜叉なのか。生き残りがいたんだな」

 「僕以外、誰ももういないケドネ」


 夜叉。

 銀叉、陽叉と同じ、猫の形をした種族。

 現世では古代インド神話に登場する鬼神のことだけど、地獄では猫の種族を指す。


 銀叉は銀色に輝く月・・・その象徴である無を体現した能力を扱うことから銀叉。

 陽叉は生物を遍く照らす太陽・・・その象徴である光を体現した能力を扱うことから陽叉。

 夜叉は自然に存在する暗黒・・・その象徴である闇を体現した能力を扱うことから夜叉と呼ばれる。


 知的で危険な創造種として隔離され、殺されてきた猫達。

 銀叉と陽叉はひょっこり秘密裏に生き残っているから、もしかしたらと思っていたが・・・

 プラムは夜叉について、生きているかどうかを知っていなかった。

 銀の月の村の長もだ。

 何故か、探せなかったのだ。

 だから猫界隈でも死亡扱いにされていた。


 彼女達が探せなくても無理はない。

 だって、1匹しかいないのだから。

 ソイツが隠れてコソコソしているのなら、そりゃあ見つけられない。


 「でだ、どうすればいい?サスケ」

 「まずは立って立ッテ」


 言われて横にしていた体を起こす。

 気怠いが、それを気力でカバーする。

 根性だ。

 今こそ、動くべき時が来た。


 「で、動いて動イテ」

 「どこにだよ?」

 「もちろん出口の方ダヨ」

 「出られないぞ?」

 「出られるようにしてあげるヨ」


 結界の傍まで近付くと、ピリピリとした存在感に晒される。

 強力な結界にこういうことはありがちだ。

 今の俺では破れない。


 「準備はイイカイ?」

 「いつでもどうぞ」

 「迷いがナイネ。強い証拠ダ」


 猫のその身から、闇が生まれる。

 薄っすらと出てきたそれは、結界に触れて弱体化させる。

 そして闇が静かに結界を貫いた。

 結界は壊れることなくその形を維持している。

 闇が輪っかになって広がり、小さなトンネルを出現させた。


 「・・・闇、使えるんだな」

 「逆にそれしか使えないケドネ。闇は使えるくせに、その元になる能力はうまく使えないンダ」

 「へぇ」

 「けど、人間さんの魔剣よりは上手く小規模のコストで発動出来ルヨ」


 ・・・一長一短だな。

 闇は他の攻撃と併用するから効果的なのだ。

 相手の動きをノロノロと遅くするだけなら、あまり意味がない。

 闘争じゃなく、逃走になら持って来いの能力だな。


 「狭いぞ」

 「我慢しテヨ」


 トンネルが狭くて、ケツがつっかえる。

 人間サイズの穴にして欲しかった。


 「もっとでかく出来ないのか?」

 「無理ダヨ。これで限度一杯なんダカラ」

 「使えるのは小規模の闇だけってことね・・・」

 「ソウダヨ」


 ますます戦闘向きの猫じゃない。

 プラムみたいに共闘は無理か?

 ・・・いや。


 「この先の敵は?」

 「普通にいるよ」

 「・・・倒すか隠れなきゃだめだな」


 戦闘なら多分、そこら辺の悪魔には負けない。

 能力を使われても俺が勝つ自信がある。

 けど、問題なのはその悪魔を殺すのに失敗して、テレパシーで仲間を呼ばれた時だ。

 隊長格がこぞって俺の元に押し寄せてくるだろう。

 ヴァネールが来るなんて、とんでもない話だ。

 全力でご遠慮願いたい。


 「運の要素が絡んでくるな・・・」

 「ここを突破出来なきゃ、私に会う資格はないってランティスが言ってタヨ」

 「会う必要を感じないんだけどな」

 「別にいいけど、それじゃあ後悔すると思ウナ」

 「なんでさ?」

 「ランティスは未来を読めるカラ」


 ・・・未来?


 「未来予知?」

 「ソウ。運命干渉系能力者・・・3人の内の1人ダヨ」


 運命干渉系能力。

 まだ謎が多い能力。

 サタン以外の奴にも、そういった特殊な能力者がいることは知ってはいたが・・・


 「ソイツが俺に用ね・・・」

 「そう、用ダヨ」

 「何の用?」

 「知らナイ」


 うむ・・・

 俺が素直に来るとでも思ってんのか?その悪魔は。

 ・・・でも、それを見越してのことか?

 未来か・・・


 夜叉であるサスケの意思は上手く読み取れない。

 闇が邪魔するのだ。

 嘘を吐いているかどうかは分からない。

 けど、助けてくれたことは事実。


 「分かった。そのご主人様のところへ行ってやるよ」

 「ウンウン、そうした方が絶対イイヨ」

 「けど、それはお前が俺を牢から出してくれたからだからな?」

 「・・・メンドクサイ言い回しをスルネ?」


 俺としてはこうした方がいい。


 「別にいいヨ。来てくれるのナラネ」


 お互いの意思を確認する。

 次は・・・行動だ。


 「そのランティスって奴はどこに?」

 「この城の中にイルヨ」


 新情報ゲット。

 ここは城らしい。


 「てかここはどこだ?」

 「牢屋ダヨ」

 「じゃなくてさ」

 「アア・・・」


 俺の言ってることを理解してくれたみたいだった。


 「ここはラース領、中央執行所ダヨ」

 「・・・なるほど」


 だから騎士団の連中がいたのか。

 確かに、集めた大魔石はここに集まっていると聞いている。

 俺と同調している大魔石がここに運ばれるのも道理だ。


 「・・・超怖いヴァネールがいる場所を通ってでも、ランティスのいる場所に行く価値はあるのか?」

 「アルヨ」


 一言単純にそう黒猫は述べた。

 そうですか。

 正直、さっさとここから脱出したい気分だが、これはチャンスじゃないのか?

 一気に大魔石を奪取出来るまたとない機会。

 ラース街になんて、滅多に入れるものじゃない。

 逆にチャンスだ、これは。


 どっちみちここには来なくちゃいけないことになっていた。

 プラムがいないのは心細いが、この際仕方ない。

 虎穴に入らずんば虎子を得ず。

 ま、そういうことだろう。


 「ん、利害は一応・・・一致してる気がする」

 「執行所に置いてある大魔石のコト?」

 「・・・察しがいいな」

 「ランティスに会ったんなら、それも含めて案内してあげるよ」

 「本当か!」

 「本当ダヨ」


 いいじゃないか。

 丁度ナビゲートが欲しいと思ったところだ。

 いいね、捨てる神あらば拾う神あり。

 こんなこと、そんなに多くは起こらない。


 「・・・納得したみたいダネ」

 「そうだな」

 「んじゃ、改めてよろしくネ」

 「こっちこそ、よろしく」


 こうして、1人と1匹のニューコンビが一時的に誕生したのだった。

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