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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第13章 父祖の辺獄と地獄篇 ラース街中央執行所
161/244

161話 ザ・アンフォアギヴン1~2度目の牢屋~

 「・・・」


 目が覚めた。

 光から解放された直後は体の感覚が狂ってる。

 体がなくなったのに、体が元に戻ったからだ。


 宇宙に行って、無重力に慣れた状態と同じ。

 宇宙では重力がないから、筋肉を使う必要がない。

 だから感覚が切り替わる。

 俺のもそんな感じだ。


 「・・・で、ここはどこだ?」


 薄暗かった。

 陰湿な空気で、重々しい。

 そして、目の前には鉄格子がある。

 それはガッチリと閉められていた。


 「ははん」


 要するに、ここは牢屋だった。

 2度目だ。

 空中要塞、アネンヴァングの時と一緒。

 あの時とは違って片腕は失くしてないけど。


 ・・・でもまあそうなるよな。

 大魔石をあんな場所に放置したのだ。

 何かされない方がおかしい。


 相手側も、俺が大魔石と同調出来ることは知っていたみたいだった。

 だって、大魔石を牢屋にぶち込んでおくなんて普通はない。

 生物じゃなくて、物なのだから。

 でも、俺はここで目が覚めた。

 ってことは、そういうことだ。


 その証拠に、すぐ傍にはエネルギーが枯れて輝きを失った大魔石が転がっていた。

 見る影もなくショボくなっていた。

 あの神々しいエネルギーが、全部俺の中に入っているのだ。

 にわかには信じがたい。

 けど、事実だ。


 これで俺は大魔石を3つ手に入れたことになる。

 後4つ。

 半分も入手していない。

 ・・・先は長いなぁ。


 「ん~どうするか・・・」


 移動が出来ない。

 魔剣やバックパックの装備はエンヴィー領にいた時のまま残っているけど、この鉄格子は壊せそうにない。

 多分、これ魔具だ。


 強いエネルギーを感じる。

 感じからして結界だろう。

 マグナス級ぐらいはありそうだ。

 素の魔剣を振るったところで出られはしまい。


 ま、あらかじめこういう事態は想像出来ていた。

 だから、プラム達に助けを求めたのだ。


 プラムなら大魔石の行方は追跡出来てるはず。

 でも俺がここにいるってことは、まだ助ける段階に入っていないってことか?

 もしくは・・・トラブルにあっているか。


 最悪の事態もあるかもしれない。

 ・・・死ぬとか。


 そうは考えたくない。

 でも、助けられることを待つだけじゃあダメだろう。

 俺もここから抜け出る方法を考えなくちゃいけない。


 周囲を見ると、鉄の壁に囲まれている。

 窓すらない。

 地下の可能性もある。


 空中要塞の時みたいにエンジン音?みたいな音は聞こえてこないから、どこかを移動している訳じゃなさそうだ。

 ううむ。

 どこにいるか見当もつかない。

 もしかしたらエンヴィー領じゃないかもしれない。


 だって、確実にベルゼブブに会ってから数年は経っているだろうから。

 時間が経てば、状況が変わる。

 どこかに長距離移動させられたりもするだろう。


 「・・・考えても仕方ないな」


 俺は魔剣を構える。

 魔石はないから、そのままの状態で。


 「ハアッ!!」


 鉄の壁に剣を当てる。

 キンと高い音を発して、俺の剣は弾かれた。

 ・・・鉄の出す音じゃない。

 結界の音だ。


 「四方全部張ってんな?」


 鉄格子だけじゃないのか。

 随分厳重だ。

 俺の指名手配度がここ数年で素晴らしく高くなっていたらしい。

 空中要塞の時とは対応が大違いだ。


 「ふぅ・・・」


 牢屋の中心にドカッと座る。

 これは脱出の仕様がない。

 魔石があれば話は別だが、それもない。

 エネルギーがなきゃどうしようもないのだ。


 なんで大魔石のエネルギーを吸い取ってるはずなのに、そのエネルギーが使えない?

 いや、でもそのエネルギーは世界を渡る門に使う分なんだっけ。

 いやいや、ちょっとぐらいなら・・・

 つっても、どっちみち使えないから意味ないけど。


 見たところ、ここには最低限の簡易便所ぐらいしか置いてあるものがない。

 その便所だって、便器1つあるだけの壁なしトイレだ。

 羞恥心全開で排便しなくちゃいかん。

 まさに牢屋だ。

 どこからでも監視してやるっていう気概が感じられた。

 迷惑な話だ。


 ついでに、ここにはベットもない。

 テーブルもない。

 ないないない。

 ないものはない。

 けど、これはあんまりだ。


 俺に人権はないらしい。

 ・・・この世界に権利という概念が存在するかどうかも微妙だけど。


 「寝よ」


 俺に出来ることはそれだけだ。

 なら、体力を満タンにしておくべきだ。

 いつ何があってもいいように。

 そうして俺は、あっさりと眠りについた。



 ---



 「起きろ!」

 「・・・んん」

 「起きろ!!!」

 「んお・・・」


 暗黒を演出するカーテン代わりのまぶたを重く開く。

 結構熟睡していたみたいだ。

 その熟睡を邪魔したのは、聞いたことのある粗暴な声だ。

 俺は声のした方を見る。

 そこには、複数の悪魔達が俺をこれでもかと睨んでいた。


 「・・・久しぶりだな」


 全員が顔見知りだったので、そう言っておく。

 俺から見て右から、ロンポット、エイシャ、ヴァネール・・・そして、魔王のサタン。

 計4人の悪魔がいたのだった。

 さっき俺を怒鳴り声で起こしたのはロンポットだ。

 空中要塞で話していたあの頃とは対応が違う。

 憎しみに満ちた視線をこっちに寄こしてくる。


 「・・・貴様に処遇を言い渡す」


 ヴァネールが前へ出て、俺に言った。


 「結界魔具、守閣牢での拘束を維持。その後、深淵へと移送。貴様には贄となってもらう」

 「・・・聞いていいか?」

 「以上」


 俺の話を聞かないで、そのまま下がるヴァネール。

 そうかいそうかい。

 俺は悪魔側にとっては悪魔みたいな存在だからな。

 仕方ない。


 「・・・それだけでいいんですか、隊長」


 待ったの声をかける者1人。

 ロンポットだ。

 憎しみの声を出して、熱く視線を俺に注ぐもの。

 不快感が俺の周囲に取り巻く。


 「仲間を大勢殺したクソ野郎ですよ!?拷問して痛めつけましょう!俺なら爪を全て剥ぎ取って・・・」

 「黙れ」


 断罪者の睨みが脅しの意味を含めて彼の元へ帰ってくる。

 ロンポットも実力者のはずだ。

 なのに、冷や汗をかいていた。

 憎い俺を目の前にしても、それを一瞬だけ忘れているように、俺じゃなくヴァネールを見る。


 「憎いのはみな同じこと。だが、魔王様の指示もなしに提案をするのはワシが許さん」

 「・・・申し訳ありません」


 絶対的な上下関係。

 それは力の関係だった。

 明確な基準だ。

 強ければいい。

 弱ければ下へ就く。

 それが騎士団なんだろう。


 「ここは押さえておきなよ。気持ちは痛いほど理解してるからさ」

 「でも・・・でも・・・」


 重力の能力を使うエイシャがロンポットをなだめる。

 前もコンビを組んでたな。

 コイツらは仲良しなんだろうか?


 「クソ・・・」


 で、ようやく俺を諦めてくれたようだ。

 少し興奮具合が軽くなる。


 「・・・伝えることは最早ない。行くぞ」


 魔王がそう言った。

 冷たい。

 完全に敵だと思われてるし。


 「・・・そういえば、ルフェシヲラはどうなったんだよ?」


 彼女がいないので聞いてみる。

 でも、何も反応は返ってこなかった。

 そのまま4人の悪魔は鉄格子から見える範囲の外へ行ってしまう。

 カツンカツンという音が廊下に響き渡った。


 「・・・ハァ」


 溜息。

 疲れた。

 他者から責められるのは辛い。

 それがあらかじめ分かっていたことだとしても。

 だから、殺すのはある種楽な作業だった。

 殺せば何の文句も言わないから。


 以前にも思ったことだが、死者は黙して語らない。

 話さないから、楽なのだ。

 殺すなら速攻で殺す。

 何にも聞きたくないから。

 恨み言なんてまっぴらだ。

 そういうこともあって、さっきの場面は実は辛かった。

 ・・・色々考えてしまうじゃないか。


 「・・・ハァ」


 だめだだめだ。

 元々ネガティブな性格なのに、もっと憂鬱になってしまう。

 精神が弱ると肉体も弱る。

 心と体は密接に繋がっているのだ。

 心のコンディションを整えなくちゃ・・・


 「スゥ・・・ハァ・・・スゥ・・・ハァ」


 深呼吸。

 吸って、吐く。

 これが大事。

 くだらなく見えるが、これが案外いいのだ。

 リラックス出来る。


 しばらく深呼吸して、心を落ち着かせる。

 そして考える。

 そう。

 ヴァネールは言った。

 深淵へ俺を連れていくと。


 深淵という言葉は聞いたことがある。

 もう数年前になるが、ウルファンス城で耳にした。


 邪悪種がたくさん生息していて、とても危険な場所。

 72柱の1人が行ったが、生きては戻らなかったという。

 その場所のどこかには世界を渡るための門がある。

 正確な位置までは分からない。

 マリアさん達に聞く前に死んでしまったからだ。


 「連れてかれるのか・・・」


 それまではここに拘束。

 そっか。

 ダメだな、こりゃあ。

 このままでは流されるがままになってしまう。

 けど、抵抗出来る気がしない。


 相手はヴァネールを連れている。

 72柱だ。

 確実に殺されるだろう・・・か?


 「そうだったな・・・」


 大魔石と同調したんだっけか。

 大魔石に触れた後、俺は強くなる。

 原理は分からないが、確かに実力は上がっているのだ。


 「・・・やれるか?」


 いや、でもまだ敵わない。

 俺がどの程度の実力になったのか試す機会がないし、そもそも試せない。

 それでも72柱を倒せるほどの実力はないと思える。


 魔王達は俺をここから出す気はないらしい。

 俺が武器を持っているのを恐れているのだ。

 場合によっては、死傷者が出ることを考えているのだろうか?

 ・・・ロンポットクラスの隊長では、殺されることを想定に入れていた?


 ・・・全部憶測の範囲を出ない。

 ああ・・・早く助け出してくれないかな。

 そう思って、俺はまた目を閉じた。



 ---



 ギィと金属と金属が触れ合う音がした。

 黒板を爪で引っ掻くみたいで、あまり耳に入れたい音ではない。

 それに少しむず痒さを覚えながら、牢屋への来訪者を見る。


 「・・・む」


 意外な奴が1人で来ていた。

 魔王だ。

 ちびっ子でカリスマ性の轟く魔王。


 「王が直々に?」

 「悪いか?」


 幼女の声のくせに、威厳のある言い方をするから戸惑う。

 ギャップがあるって困惑するよな。

 でも、そんな彼女には要件があるっぽい。

 だって、1人でここまで来ているのだから。


 何か伝えたいことがあるなら手下を使えばいい。

 けど、そうはしていない。

 俺に襲われる可能性は度外視したって、誰か1人警護はつけてそうなものじゃないか?


 「聞きたいことがある。時間がないから手短に」

 「・・・なんだよ」


 俺が聞くと、時間がないと言ったくせに少し躊躇うように口を開くことを躊躇した。

 ・・・個人的なことか。

 そう俺は予想した。


 「マリアを知っているな?」

 「・・・知ってる」


 俺の命を救ってくれた悪魔だ。

 忘れるわけがない。

 俺が信頼した数少ない悪魔の1人なのだから。


 「マリアは・・・死んだのか?」

 「は?」

 「死んでないよな?あのマリアだぞ?生きているに決まっている」


 何を言ってる?

 コイツ・・・


 「死んだ」

 「・・・違う」

 「俺は・・・直接見ていないけど、マリアさんは死んだと聞いた」

 「証拠は?」


 証拠だと?

 だんだん腹が立ってくる。

 殺したのは・・・お前側の悪魔達なのに・・・


 「死体はそっちで引き取ったって聞いたけどな」

 「いや・・・私は見てない。見ていないんだよ」

 「・・・お前、おかしいぞ」


 魔王の様子が明らかに変だ。

 目がおかしい。

 何故か魔王の意思がまったくと言っていいほど俺に伝わってこないし。

 大抵の生物ならある程度意思の感知が出来る。

 ヴァネールでも例外じゃない。

 けど、コイツに限ってはそうじゃなかった。

 ・・・何故か読めない。


 それでも、今の魔王が取り乱しているのは分かる。

 正常じゃない。

 異常だ。

 こんな状態で、何故来た?


 「死体がなければ死んでない。そうだろう?」

 「・・・死に方にもよる。魔物に食われれば死体は残らない。骨まで食うから」

 「でも・・・あの場で・・・」


 魔王が言葉を途切れさせる。

 ・・・まともに話が出来るとは思わない。

 ああ・・・これ、他の悪魔に見られたら誤解されるな。

 て言うかコイツの手下は何やってるんだ?

 魔王を1人で放置して。

 普通ならありえない。


 「彼女が死ぬわけないんだ。あんなに強くて、優しい彼女が死ぬわけない。そうだろ?なあ!!」


 鉄格子を乱暴に掴んでくる。

 俺が剣で斬り付けることなんか考えちゃいない。


 「死体がないなら、どこかにいるはず。探さなきゃ、探さなきゃ・・・かわいそうに。今度は私が守らなくちゃいけないのに、どうして見つからない!!何故だ!!??」


 叫ぶ。

 涙を流しながら。

 音が大きくハウンドするが、一向に誰も来る気配がない。


 「・・・知らねえよ。俺だって・・・」


 生きていて欲しかった。

 でも、死んだのだ。

 プラムがそう言った。

 俺は彼女を信用している。

 だから、俺の中ではもう彼女は死んでいることになる。


 死者は蘇らない。

 だから、もう未来に目を向けている。

 彼女が俺を守ってくれた行為を無駄にしないために。

 そのために、俺はまだ生きている。


 「マリアぁ・・・助けてくれよ。お前がいなきゃ、私はもう・・・嫌なんだ。お前が人間に味方したから・・・私は敵になるしかなかったじゃないか・・・許してくれ。許してください・・・」


 泣く。

 悲劇がアイツの中で踊っている。

 歓喜の声で。

 魔王はそれに苦しんで、本音を吐露する。


 「弱いんだよ・・・私は。無理だ。生きていけない。お前がいなきゃ死にたい・・・でも、生きてるもんなぁ・・・探すよ、探すよ、探すよ・・・」


 魔王がフラフラと俺の視界から消えていく。


 「うわあああんん!!!」


 泣く。

 大声で。

 子供みたいに。


 ・・・仮面が取れたんだ。

 悪魔であんなことがあるのか?

 まるで・・・


 俺の心も取り乱す。

 マリアさんを意識してしまったから。


 もう2度と会えないし、話せない。

 もう2度と見れない。


 別れってのは辛い。

 生きている内に遠くへ離れ離れになるだけでも嫌なものがある。

 でも、それはまだマシだ。

 だって、まだ会える可能性は残されているのだから。


 けど、死んだらもう2度と会えない。

 可能性は残されていない。

 火が消えるように、魂も消えていく。

 消えた火はどこへ?

 消えた魂はどこへ?


 どっちにしろ、俺はもうマリアさんという存在とはもう対面することは出来ない。

 マリアさんだけじゃない。

 ダゴラスさんや、ララだってもう会えない。

 俺に味方してくれた悪魔はもういない。


 「ああ・・・」


 涙が出てくる。

 堪え切れない。

 魔王のせいだ。

 思い出があふれてくる。


 辛い時期が多かったけど、仲間の存在は尊かった。

 俺は・・・失ったんだ。

 あの時と同じように。


 彼女と彼のように。


 ・・・そうだ。

 俺は生きている内に、たくさんの死を経験したんだ。

 繰り返している。

 生きていた時も、死んだ後も。


 「うぅ・・・グス・・・」


 しばらく俺は涙を我慢することに力を尽くした。

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