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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第12章 父祖の辺獄と地獄篇 とある雪山の山頂
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159話 悲しみの山頂から飛び降りて

 雪山の頂。

 そこに生態系は存在しない。

 来ても鳥類ぐらいだろうか?


 資源も何もない環境。

 捕食出来る生物もいないし、何より水がない。

 どんな生物だって、そんな長い時間滞在したいとは思わないだろう。

 こんなところに来ても、何もメリットはありはしないのだから。


 「でも来ちゃったんだよなぁ、俺は」


 こんな何もない場所に。

 このでかい太陽を見てるとまた涙が込み上げてくる。

 俺の記憶は告げていた。

 ここは悲しい場所だと。


 「どうしてこんな場所に来ちゃったんだろうな?」

 「それは・・・」


 彼女が言い淀む。

 珍しいな。


 「いずれ、思い出します。必ず」

 「・・・そうか」


 言いたくないんだな。

 言えないんじゃなくて。

 俺が自然に思い出すのを待つと。


 ・・・話を変えよう。

 他に聞きたいことが俺にはある。


 「さっきの話を聞いてる限りだとさ、悪魔から転生して天使になるんだろ?」

 「もう少し詳しく言えば、その間に無を挟みますが」

 「だったらさ、スティーラも転生してそうなったんだろ?」


 そのはずだ。

 そうじゃなきゃ、さっきの話と矛盾する。


 「確かに私も転生をした身ですが・・・私は少し例外ですね」

 「例外?」

 「では、質問します。貴方は、天使に願望があると思いますか?」

 「・・・ないと思う」


 願望とは、即ち欲の表れである。

 欲とは要するに穢れだ。

 穢れているってことは、汚れているってこと。

 天使は転生の末に、汚れを払拭した存在だ。

 なら、願望があってはおかしいことになる。


 「当たりです。天使は万能ですから、人間のような願望は持ちません」

 「だろうな」

 「けど、私はあるんですよ、願い事が」

 「・・・それが例外?」

 「だと私は思ってます」


 どうして?と聞いていいのだろうか?

 この話、彼女の個人的なものなような気がする。


 「貴方を助けたいんですよ」

 「どうして俺なんかを・・・」

 「そうしたいと思うことに、理由なんていりますか?」


 いらない。

 俺もそう思う。

 確かにそうだ。

 やりたいからやるのだ。

 理由なんて必要ない。

 そうは思うのだが・・・


 でも、彼女に聞いても言えませんと言われるだけなんだろう。

 だから黙っておく。

 そうした方がいい。


 「ありがとう」


 そう言っておくことにした。

 それを聞いて、彼女は嬉しかったのか笑顔になる。

 映画館の時とは大違いだ。

 あの時とは違って、色々な顔を見せてくれるようになった。


 「1つ、私からも」


 そう言って、俺に向き直る。

 ヘイロウや翼から出てくる光が太陽の光と重なって、幻想的に見える。

 彼女が大きく尊い存在に見えた。

 同時に、優しく慈悲のある印象も感じる。

 正直に言おう。

 とても・・・とても魅力的だった。


 「私の欠片が貴方と共にあるのを感じます。貴方のことが大切で、大切だから巡り合えたんです。あの世界でも」

 「?」

 「大切にしてください、その心を。最初は記憶がないという先入観で貴方を見ましたが、今は違います。記憶がなくても、自分は自分。そう貴方は教えてくれたんですよ?」


 いや?

 俺は1回もスティーラに何かを教えた記憶はないけど?

 言っていることがイマイチ伝わらない。

 でも、何故か心には染み渡る。

 何でだろうね?


 「ここで分かたれた私の心は、今もこうして存在して、そして貴方と出会った。私が求めて、貴方も求めたから」

 「何を・・・求めたんだ?」

 「愛です」


 愛か。

 ・・・気恥ずかしい言葉だな。

 なんかむず痒い。

 けど、聞けてうれしい言葉でもある。

 不思議なものだ。


 「すまないけど、分かるように言ってくれないか?さっきから何を言ってるのか全然・・・」

 「いいんです。今のは自己満足」


 彼女が椅子から立ち上がる。

 それと同時に、周りの景色が雪に包まれていく。


 「立ってください」

 「・・・ああ」


 指示に従う。

 椅子の感触を失った途端、雪の椅子とテーブルが雪塵となって空中に舞った。

 そこからさらに視界が悪くなる。

 ・・・さっきの大荒れとほぼ変わらない。


 「スティーラ、お前が見えないよ」

 「いいんです。これで」

 「もう話はいいのか」

 「ここで伝えるべきことは伝えました」


 声が雪の嵐の中に消えていく。

 彼女の気配も、そのぬくもりも。


 俺は1回こういう体験をしたことがあった。

 それは・・・ここでだ。

 どうしてここで?

 俺は好き好んでここに来たわけではなかった?

 なら、どうして俺はここに・・・


 「うっ・・・」


 頭が痛くなる。

 大魔石に近付いた時と同じだ。

 頭の欠けた部分が、無理矢理埋まっていくような・・・

 俺という存在が補完されていってるみたいに。


 「貴方の罪は人間という種の中で長い時を渡り伝えられていくでしょう。だから、業は消えない。でもね、消せない罪なんかないんだよ?」


 優しい声が聞こえる。

 俺が足りないものが。


 「貴方は1度、世界を滅ぼそうとしたけれど、それでも私は貴方を愛しています」

 「スティーラ・・・」

 「また、会えるのを楽しみにしてるから」


 そして、彼女の気配が消えた。

 吹雪が再び薄れていく。

 景色が俺の目に映るが、彼女の姿はどこにもなかった。


 「結局何が言いたかったんだよ」


 その一言に尽きる。

 スティーラの意図が理解しかねる。

 それでも、俺が信じていいことが1つある。

 スティーラは俺の味方。

 そう信じていいのだ。

 俺はまた1つ、希望を手に入れた。

 きっとそうだろう。


 目の前には、相変わらず自己主張の激しすぎる赤い星が輝いている。

 寒さをあまり感じないのは、この日光が熱を俺に与えているからだ。


 本来日光とは人類に害を与える存在である。

 被爆するからだ。


 太陽から発せられる光は紫外線を含んでいる。

 紫外線は基本的に人体を蝕むよう働きかけ、やがて人を殺す。

 光はかつて現世を滅ぼそうとした。

 多分その名残だろう。

 だから、太陽は人類・・・そして地球の生物達の死神と言ってもいい。


 けど、実際には人類は生き続けている。

 地球の恩恵があるからだ。

 オゾン層という放射線に対する防護膜があり、それは地上に存在している全ての生物の盾となっている。

 生物を守らんとする地球の仕組み。


 かつて、混沌は生物を生み出した。

 だから、守りたかったのかもしれない。

 自身が生み出したものを。

 3つの意思から。


 スティーラがいなければ、こんな考え方も出来なかった。

 そもそも、星と世界なんてスケールが大きすぎて考えもしなかっただろうと思う。

 自分の世界しか知らない者は、上を見ることをしない。

 真っすぐか、下ばかりだ。

 青空に輝く太陽は目に毒だと本能で分かっているから。

 それを直視しようなんて馬鹿はどこにもいない。

 それと同じことだった。


 「またな」


 もう消えた相手に言って、俺は前へ進む。

 少し先に断崖があった。

 斜面は90度。

 直角だ。

 下は雲に隠れて見えない。

 落ちて地面に叩きつけられたら確実に死ぬだろう。

 血まみれになって。


 崖へ歩き出す。

 怖くはない。

 ここは俺の世界だし。

 俺が死なないと思えば、ここでは絶対に死なない。


 逆に俺が死んでしまうと思ったら、どうなるかは分からない。

 死ぬかもしれない。

 それか、どこかに移動してしまうかもしれない。

 けど、そんなことどうだっていい。

 だって、俺は死なないんだから。


 俺は軽くジャンプして、崖から飛び降りた。


 「・・・流石に冷たいな」


 冷気を帯びた風がビシビシ肌に当たってくる。

 冷たいを通り越して痛い。

 けど、それは俺が確かに生きている証みたいなものだ。


 「よし、頑張ろう!!」


 彼女に会って、元気を貰った。

 現状が絶望でも、見守ってくれる奴がいるのなら、俺は頑張れる。

 希望を捨てずにいれる。

 それがたまらなく嬉しい。


 孤独じゃないからだ。

 俺には仲間がいる。

 それだけで俺は何でも出来る。

 そんな気がするのだ。


 雲の層を突き抜けて、下の景色が見えてきた。

 川だ。

 綺麗な青色の川が見える。

 こんな所にも水が流れる場所があったんだな。

 あそこにダイブしたら、相当冷たいに違いない。

 その前に、俺は目を閉じる。


 そして想像した。

 あの扉を。

 世界へ帰るための通路を。


 俺の要求にこの世界が答える。

 この世に存在するあらゆる法則を無視し、或いは捻じ曲げて物質を無から生成する。

 これこそ、想像の力だ。


 人類が想像出来ることは、現実にも起こり得る可能性を秘めている。

 ないなんてことはない。

 きっと、不可能なことを不可能と断言する奴は、それが実現可能だと知らないだけなのだ。

 知らなければ、知ればいい。

 だから行くのだ。

 地獄へ。


 目を開ける。

 俺の落下先に、開いたドアが待ち受けていた。

 俺と平行に並んで、その入り口から光を大いに漏らしている。


 「ハハハハハハハハ!!!!」


 また彼女に会えるのが楽しみだ。

 この先に苦痛が待ち受けていようと、それだけは本当。

 ネガティブな俺がこんなに笑えているんだから、間違いない。


 絶賛笑顔中。

 ポジティブに気分は上昇中。

 体は落下中だけど。


 扉に一気に接近する。

 距離が狭まると、光が俺に絡みついて、体を分解していく。

 サラサラの粒子になって、また波みたいに漂うのだ。


 俺はあの感覚が嫌いじゃない。

 大いなる存在に守られている感じがするから。

 人間が死んで、魂が光に運ばれる時もそうなのだろうか?


 人は死ぬ時に見る光景が光なのだという。

 もしかしたら、それなのかもしれない。


 俺も1度は体験したはずなのに、それを覚えていないなんて。

 でも、本来なら記憶だけじゃなくて体も全て失って転生するのだ。

 魂以外の全てを捨てて、別の世界に旅をする。

 目的を理解することなく、ただ流されて。

 実に人間らしい。

 人類は未だ自身が生きている理由すら知らないのだから。


 俺も、その一部。

 だから、知りたい。

 スティーラなら、教えてくれるかもしれない。

 俺が生きる意味。

 俺が生きていた意味。

 だから、もう1回彼女に会いに行こう。


 そうして俺は、自分で作った扉の中に消えていった。

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