158話 転生の話
「以前あの湖で私が、三神世界について教えたことは覚えてますか?」
「覚えてるよ。人間が誕生したところから教えてくれたな」
輝く星々を映した綺麗な湖。
とても綺麗な場所だった。
見たら、2度と忘れられない景色だろう。
現世での湖のことは、全く思い出せない俺が言うことじゃないけども・・・
それはともかくとして、あそこで説明してくれたことはしっかりと頭の中に残っている。
何せ、プラネタリウムみたいな魔法でババンと実況説明してくれちゃったのだから。
太陽が作られていく過程なんか、圧巻だったな。
「宇宙の誕生から始まって、4つ目の意思と3つの意思が争ってた。で、争いの末に4つ目の意思が勝手に誕生させた生物達が死んじゃって、3つの意思が汚れた。それを綺麗にするために作業をしていって、最後に人間の始祖が生まれたって話だろ」
「おまとめ、ご苦労様です」
「いやぁ、それほどでも」
俺はしっかり覚えてるぞアピールは伝わったようだ。
彼女がちょっとあきれ顔をしているのがいい証拠。
「で、次は何を教えてくれるんだ?」
「今回も、世界の話ですよ」
「おお・・・」
その言葉を聞いて、期待する俺。
あの大迫力のプラネタリウムをまた清聴出来るのだ。
そりゃあ俺の中にいつまでも残っている子供心をウズウズさせても、仕方ない部分はあるだろう。
「では・・・」
彼女が恒例の指パッチンをする。
すると、雪塵が舞い上がりある形に凝縮されていく。
それは、いつものイスとテーブルだった。
山頂の、それも日の出の時間にこうして優雅にイスに座れる日が来るとは・・・
山の斜面を見てみると、軽く雲がかかっていた。
相当高度が高い場所だというのが分かる。
本来なら、ここは並大抵の苦労じゃたどり着けない場所なんじゃなかろうか?
「イス、冷たいんじゃないか?」
「冷たいと思えば冷たいでしょうね」
禅問答みたいなことを言いながら、彼女は座る。
体温で解けそうな感じがするが、騙されたと思って座ってみた。
「・・・冷たくない」
「魔法ですから」
「すげぇな、魔法って」
天使の魔法は万能。
でも、万能であるがゆえにそれ相応のリスクは存在するんじゃないだろうか?
「お前、魔法なんて使って大丈夫なのか?」
「平気です。悪魔とは違いますから」
不完全な生き物とは違いますから。
そういう意味を含んでいた。
悪魔の考え方と同じだ。
汚くて小さい人間とは違うから。
ダゴラスさんは言っていた。
人間の心ってのはどんなものよりも汚れてるからな・・・と。
きっとそれと同じ。
「どうぞ、リンゴジュースです」
これまたいつもどおり?に甘い飲み物が出された。
地獄に行ってから、甘い食べ物にはあまりありつけていない。
ゆっくり味わいながら飲んでいく。
「飲みながらでいいので、聞いてください」
「ん・・・」
スティーラが指を太陽に向ける。
すると、その太陽から高速で飛来してくる物が見えた。
それは球体上の光る物質で、俺が見慣れている物・・・
「魔石だ」
「太陽の分体。星々に散らばる光の作りたもうた息子達。そう表現すればいいでしょうか」
「光が太陽を作ったんだっけ?」
「ええ、偽神を滅ぼす為に。そして砕け、宇宙全体まで広がり、星に漂着しました。こうして魔石が輝いているのは、魔石の性質に乗っ取って、星に滞留していたアニマを吸い取ったからです」
光は物体を運ぶ性質がある。
物体を運ぶ過程で、光は対象の体をエネルギーみたいに変質させて吸収する。
そんな光が作った太陽の欠片だ。
魔石にエネルギーを吸収する性質があっても、何にも不思議じゃない。
「地獄で魔石が発見される時、最初から輝いてるのはそういう理由もあるんかね」
「その場合が多いようですね」
地獄マメ知識だな。
こういうのは聞いてて楽しい。
何か得した気分になる。
・・・でも待てよ。
太陽が1番近いのは俺の知っている世界じゃあ地球だろ?
魔石は地球にも転がってるんじゃないのか?
と言うか、太陽はまだ現存してるじゃんか。
何で、ここに気が付かなかった?
「じゃあさ、いまここにある太陽はどうなんだ?偽神と光の戦いで太陽は砕けたんだろ?」
「貴方が言っているのは、地球の近くにある太陽のことですか?」
「そうそう」
「それも厳密に言えば、太陽の欠片ですよ」
「あんなにでっかいのが?」
太陽・・・地球を含む太陽系の物理的中心にある星。
地球の何倍もある質量を持ってる巨大な星。
あれが、欠片?
「貴方が私の魔法で見た太陽は、地球の太陽より2倍大きいものだったんですよ?あの感覚では分かりにくかったかもしれませんが」
「ホントっすか」
「本当です」
スケールがでかすぎる。
太陽の2倍の大きさって・・・
「太陽はあの後半分に割れます。その半分は地球から見える輝く劫火の星に。もう半分はさらに砕け散って、星々に散ったのです」
「そういうことか・・・」
「割れた太陽は暴走し、長い時をかけて再生。元の円形に戻って、光が生物を導くが如く、生命に温かい光を届けていますね。それが、貴方の知る身近な太陽です」
「じゃあさ、地球にも魔石はあるんだろ?」
「あります」
「でも、ないぞ」
現世の記憶はないが、そういう石は地球に存在していないことは知っている。
「地球の人間達は、見つけられないんですよ」
「・・・あんなに魔石は光ってるのにか?」
「人間の視点では、魔石はただの石か岩に見えているはずです」
「何でさ?」
「貴方は現世にいた頃、魂や霊を信じましたか?」
・・・言われてみれば。
俺が現世でそういう類のことを信じていたかどうかは知らない。
けど、大概の人間は思っているはずだ。
幽霊だとか、魂なんか信じないと。
人間がそれを信じる時は、決まって現実逃避したい時だ。
丁度いい逃げ道を見えない世界に求めて、救われた気になる。
つまり、それが宗教の根底にあったりする。
みんな人間は、救いを求めているから・・・
「魂が見えないのは、アニマが見えないと言うこと。アニマが見えなければ、悪魔の扱うエネルギーを見ることも叶いません。魔石の光が見えなくても当然でしょう?」
「確かに・・・そうだ」
「ですが、例外もいます。稀に極少数の人間はそのエネルギーを可視化したりする力を持って転生してくることもありますから」
・・・霊能力者とかか。
インチキ霊感商法みたいなことをやる霊能力者は数多くいる。
けど、ちゃんと本物は存在してるんだな。
「貴方もその極少数の一部だった人間ですね」
「ん、俺か?」
「その同調の魔法は生前から持っていた力ですから」
「・・・それで俺は人間を殺してまわったのか?」
いや、そうとしか考えられない。
数億も殺せるような要素が現世にあるとしたら、それは戦争だ。
人類史上最大の戦争である、第2次世界大戦すら5000万〜8000万人の犠牲者だ。
それを超える規模で死者数を出すとしたら・・・イレギュラーな要素しか考えられない。
でも、俺個人でそんなに人を殺せるものなのか?
俺の力は、そんなに大層なものなのか?
「教えてくれよ、どうやって俺は数億の人間を殺したんだよ?」
どうしてとは聞かなかった。
・・・怖かったからだ。
そして、聞かなかったんじゃない。
聞けなかったんだ。
「言えません」
一言そう返された。
1番気になるところなのに・・・
「いずれは?」
「話しますよ」
「その前に、俺が思い出すことはあるのかね?」
「それは貴方次第です」
そういうことだった。
「・・・貴方方がそれらアニマを見れない理由は何か分かりますか?」
「・・・心が汚いから?」
冗談半分で言ってみた。
まあ、人間の心が汚いってのは事実なんだけども。
「冴えてますね」
「お、当たってたのか」
「カンで答えるのはよしておいた方がいいですよ」
またも彼女はあきれ顔。
彼女が冴えてますねの辺りでそんな表情をしていたから、当てずっぽうで言っていたのは最初からばれていたみたいだった。
「人間の心が汚いと呼ばれる理由に、現世の世界は混沌の世界だからというのがあげられます」
「そういえば、偽神のアニマも汚れてたんだったな」
「そう。人間も、その他の生物も、3つの者の環境から離れれば、また次第にアニマは穢れていきます」
「離れれば?」
「貴方に映画館で話したこと・・・輪廻転生のことを、話しましたね」
「魂が浄化され、まっさらな状態になり、また現世で新しい生を受けて生きていく・・・地獄から現世へまた魂が戻るんだろ?」
映画館ではそう説明してくれた。
俺が驚いたことでもある。
「そう、現世へ戻ります。無の世界へ行ってからですが」
「・・・そのまま現世へ直行しないのか?」
「誰でも死ぬと地獄へ行くように、光が魂を拾って無の世界へ運びます。人間より前の先住民と同様に」
おい待てよ。
それが本当だとしたら・・・
「無の世界へ行ったら、次はどうなるんだ?」
「前に言ったでしょう?無の星では汚染の元になった負の経験を記憶としてアニマにぶつけ、浄化されるかどうか試練を授けたと」
「・・・そこをクリアしたら、天国へ行ける・・・」
「その通りです」
やっぱりだ。
俺はとんでもない思い違いをしていた。
「何で・・・わざわざ俺は門を潜る必要がある?」
「というと?」
「死ねば、そのまま無の星へ勝手に光が連れていく。なら・・・」
「無理ですよ」
プラムが俺の意見を否定するように、彼女もピシャリと俺の言うことを遮る。
「その方法では、貴方は間違いなく天国へ行けません」
「どうしてだよ」
「貴方の魂が穢れ過ぎているからです」
・・・人を殺したからか。
そうなんだな?
「・・・何で俺だけ、こんな・・・」
俺はもう思い当っていた。
何で、地獄に人間がいないのか。
人間は死ぬと、地獄へ必ず行く。
なのに、人間の姿は1人も見なかった。
それは・・・やっぱり人間が地獄にいないからだ。
あそこには、元人間しかいない。
即ち人間の魂は、悪魔や他の生物へ転生したのだ。
闇という概念種が作り出した器に、その魂を入れて。
そして、悪魔が誕生する。
きっと、それを何回も繰り返してきたんだ。
闇を経由する度に、どんどん穢れは落ちていく。
世界を渡る度に。
そして、彼女が言ったように最終的には天使へと辿り着く。
そういう世界の仕組みなのだ。
世界はそういう風に魂を循環させている。
・・・世界の真実。
でも、何で俺だけがこの輪から外れた?
そう、俺だけ人間の姿だ。
今の考えが正しければ、俺は悪魔に転生しているはずだ。
なのに・・・なのに、それはなかった。
どうして?
「ここから先は、まだ言えないのです」
「導きの手順ってか」
「使命の為です」
「その使命のせいで、俺はこんなことになってるのか?」
分からない。
分からないよ。
「どうして人をたくさん殺した俺が、使命を?」
「・・・」
「俺はどうして人をたくさん殺したんだよ?」
「・・・」
「何で俺はこんな力を手にしてるんだよ!」
「・・・」
「スティーラの・・・天使の目的は何なんだよ!!」
「・・・言えないんです」
・・・急に怒りが沸いてきて、急に萎む。
勝手なもんだ、人間なんて。
そう自己嫌悪する。
「怒鳴ってごめん」
「いいえ、正常な反応です。気にしないで」
慰めるように俺の頭を撫でてくれる。
白銀の世界の中で、その手が唯一の温もりみたいに感じられる。
「貴方の目的は?」
「家に帰りたい。俺を知ってる人に会いたい」
「・・・私の目的は、貴方を助けたい。ただ、それだけです」
自然にそう言っていた。
・・・そうだ。
俺は会いたいのだ。
俺を知っている誰かに。
大切な人がいたのを俺は知っている。
俺自身のことだから。
何にも代えがたい、俺にとって全てとも言える人。
そんな人が、確かにいたんだ。
そのことだけ俺は覚えてる。
そうか・・・
だから俺は帰りたいんだ、現世へ。
「私は貴方の味方。それだけは信じてください」
彼女が俺を抱きしめる。
・・・懐かしい匂いがする。
「貴方のその目的を邪魔することもありません。こんなに愛おしいのに、どうして貴方の敵になれるというの?」
・・・敬語じゃない。
きっと、それは本心なんだ。
俺は強く抱きしめ返す。
「怖いんだ。何も知らないことが。いつか、裏切られそうで。スティーラに裏切られても俺は恨まない。けど、悲しいよ・・・」
裏切りは、死なれることよりも悲しいことがある。
つらい。
つらくないはずがない。
だって、俺を助けてくれるんだから。
「大丈夫、大丈夫」
背中を撫でられる。
安心出来る。
母親のような母性を感じて・・・
俺に母親はいたのだろうか?
俺がこの世にいるのだから、それはいるんだろうけど、何故かそう思ってしまう。
俺は愛に飢えていた。
亡者が生を求めるように、俺も愛を求めていた。
けど、それは見つからなくて。
どこを探してもなくて。
けど、今は満たされてる気がする。
それが例え疑似的なものであったとしても、俺は忘れない。
こうして彼女が俺を抱いてくれたことを。




