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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第12章 父祖の辺獄と地獄篇 とある雪山の山頂
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157話 白銀の山頂

 人の幸せって何だろうか?

 それは人それぞれだから、答えなんてないのは分かる。

 けど、納得なんてしない。


 全ての人に共通して幸せなことってあるんじゃないのか?

 だって、俺ら人間は1つの種族なのだから。

 種の幸せって奴があるはずだ。


 でも、それは多分誰にも分からない。

 あったとして、証明も出来ない。

 証明出来ない理由として、そんな幸せは存在しないから、と言う奴もいるだろう。

 けど、俺はまだ納得出来ない。


 どこかにあるはずだ。

 その幸せって奴が。


 争いを世界から恒久的に失くすことだろうか?

 でも、最初から本能に動かされて殺人を犯してしまう人間がいる。

 そいつにとっては、殺人することが幸せなことだ。

 だから、これは違う。


 人類全員お金持ちはどうだろうか?

 でも、貧乏が好きな人間もいる。

 金を持ち、充実していたとしても、それに不満を持つ奴もいる。

 不満というのは、現状に対して否定の意見を持っているってことだ。

 まだ追及するべき世界があると。

 だから、これも違う。


 みんな孤独じゃなくなればいいのか?

 家族を持つこと。

 子供を作って。

 でも、孤独が好きな奴もいる。

 孤独を否定された瞬間、ソイツは幸せじゃなくなるのだ。

 1人がいい。

 その気持ちは個人的によく分かる。

 だから、これは強く俺も否定する。


 ああ・・・幸せって何だろうか?

 やっぱり、人それぞれなんだろうか?

 答えはないんだろうか?

 でも、俺は納得しない。


 探すのだ。

 探せ。

 どこだ?

 どこにある。


 茂みか?

 俺はゴソゴソと雑草を引っこ抜いて探す。

 だが、土ばかりが出てくる。


 空か?

 俺は上を見上げる。

 けど、見れるだけで手が届かない。

 というか青いだけだ。


 ゴミ箱の中か?

 俺は蓋を開ける。

 ・・・臭かった。

 生ごみが入っている。

 もしかして、この中に幸せが?


 食べてみた。

 酸っぱくて、腹を壊した。

 そして、出るものが出ていく。

 ああ・・・幸せが逃げていく。

 胃液で汚くなって。


 こんなに汚くては、幸せではない。

 どこだ?

 どこにあるんだ?


 俺はとことん探していった。


 生前と同じく、変わらずに。


 ・・・夢を見ている。

 俺が光になって宇宙に行く夢。

 とても気持ちいい夢だ。

 ずっと見ていたい夢。

 なのに。


 ゴォォォォォォォォ!!


 夢から現実へ強制的に引き戻される不快な寒さが俺を襲った。


 ・・・7回目。


 目の前が真っ白だった。

 何にも見えない。

 ウルファンス山脈の再来だ。


 俺は防寒具を着ていない。

 エンヴィー領にいた時の服装そのまま。

 従って、寒かった。

 寒すぎる。


 ここはどこだ?

 もしかして、ウルファンス山脈に戻ったのか?

 それとも別の場所?

 クソ・・・視界が悪すぎるせいで、ここがどこか分からない。

 何でこんな場所で目覚めるんだよ・・・


 「お目覚めですか?」


 声が聞こえた。

 綺麗な響き。

 その音色で一瞬だけ心が澄んだ気がした。

 ・・・すぐに寒さで消し飛んだが。


 天使のスティーラがそこにいた。

 雪で視界が悪いのに、彼女の周りだけ避けているみたいにハッキリ見える。

 こんな真っ白い景色でも、後光は見えるんだな。


 「ここ、どこだ?」

 「雪山ですよ」

 「山か」

 「とある雪山の山頂・・・人生のターニングポイントですね」


 ターニングポイント?

 何で転換点?


 「ここに俺がいるってことは、前世でここに来たことがあるんだな?」

 「そうですね」

 「でも、吹雪いてるんだけど」

 「晴らせばいいじゃないですか」

 「・・・天候も自由自在か、ここは」

 「とりあえずやってみてください」


 実践主義。

 彼女のヘイロウの上にそんな言葉が見えた。


 「・・・」


 彼女に何を言っても綺麗に返されることは分かってる。

 無駄に反抗しないで、さっさと頭の中で晴れをイメージした。


 この吹雪が晴れたら、何が見えるか。

 俺はその景色を知っている。

 思い出せないだけで。

 そうだった。


 「・・・太陽が輝いてたんだっけ」


 そんなイメージが頭の中を占領した。

 強烈な思い出が頭に巡る神経の1つ1つに染み付いていたのだ。

 そして、吹雪きが突然止んだ。


 「・・・2度目ですね」

 「不思議だよ。覚えてるのに、覚えてないなんて」


 太陽が輝いている。

 地獄の世界では見えない星。

 生命を導く光を発する星。

 近寄りがたい、劫火の星。


 丁度日の出だった。

 丸い太陽が目を潰しそうなぐらい光を俺の目に入れてくる。

 不快には思わない。

 でも、悲しかった。

 自然と涙が両目から溢れてくる。


 「ぅぅっ・・・」


 止まらない。

 何で?

 俺が・・・泣いている?

 地獄では1回しか泣かなかったのに。

 疑問が浮かんでも涙は滝のように流れてくる。

 切なさが胸を突く。


 「・・・」


 彼女は黙ったまま、俺を見ていた。

 見ているだけで、何もしない。

 けど、理解出来た。

 彼女も悲しんでいる。

 俺とは違って、涙を流さないけど。

 これじゃあまるで俺が女みたいじゃないか。


 俺は数分間涙が止まらず、泣き続けた。



 ---



 「・・・何で泣いたんだろ」


 泣き止んだ。

 スッパリと。

 感情の切り替えだ。


 悲しい気分のままでは、話すことも話せない。

 今は無理矢理悲観的な気持ちを、心の中に押し込めている。


 それは・・・死の気持ちだった。

 自殺しそう。

 死にたい気持ち。


 現世では、自殺する生物は1種類だけということが分かっている。

 ・・・人間だ。

 多種多様な生物達の中で、霊長種・・・地球の支配者である人間だけが、自身で命を絶つのだ。


 知能の高さが災いしたのか?

 進化の終着点がそこだったのか?


 人間の生きる理由の1つに、知的欲求を満たすことが含まれている。

 人間は、未知を探し、それを自身の力とした。

 けど、それがもし知り尽くされたら?

 知的欲求を満たせなくなったら?

 ・・・それは、人間の存在意義の1つを奪われたことと同義じゃないだろうか?


 「前に1度泣いたんですよ?貴方」

 「ここで?」

 「ええ、前にここでね」

 「・・・泣きたくなるようなことがここであったのか?」

 「貴方が泣く時は、いつだって誰かの為に戦った後なんですよ?」


 そんな大層に言われても、ちょっと困る。

 泣きたい時は泣く。

 ただそれだけだ。


 泣くと言うのは、ストレスの発散行為だと俺は思ってる。

 物に当たったり、人を傷つけたり。

 そんなことをしても、心の負担が軽くならない時がある。

 或いは、人を傷つけたりしたくないか。

 まあ過程がどうあれ、人は必ず疲弊する。

 心も体も。

 そして、それに耐えられなくなった時に人は泣く。


 泣いて、思うのだ。

 自分はこんなにもちっぽけだと。

 世界の広さを再確認しながら。

 そこから絶望するか、希望を持つかは周りの環境と自分次第だ。

 俺は・・・どっちだったっけ?


 「俺、現世で何のためにこんな山頂まで来たんだろうな?」

 「・・・人の為ですよ」

 「俺が?」

 「貴方が、です」


 うーん。

 どうやら俺は生きてる間はいい奴だったらしい。

 天使が言うのだから、何故か説得力があるように思える。

 それを1番最初に対面した時に言っていれば、俺はまるまる素直に信じたんだろうな。


 「いい奴だったのに、死んだら大量殺人鬼か」


 いや、それを言うなら大量殺魔鬼か?


 「まだ、自分の本質を思い出しませんか?」

 「・・・感覚的に思い出してるって言ったらいいんかな・・・実際の記憶としては全然思い出せないけど」


 言葉での表現が難しいな。

 なんて言ったらいいんだろう?

 突然俺の記憶から懐かしい景色や知識がフラッシュバックするみたいな・・・そんな感じ。


 「・・・なるほど」


 と、彼女が言った。

 何か理解したらしい。

 何かは知らない。

 彼女の考えていることは表情や気配から全く察せない。

 こういう技能は地獄で熟練してきたと思ったのに。


 「1つ言っておきますが、貴方はたくさん人を殺してきてますよ?」

 「・・・はい?」


 おいおい。

 さっき俺のこと人の為に戦う奴だって言ってたじゃないっすか。

 それともあれか?

 前言撤回か?

 そうなると、ちょっと俺悲しいぞ。


 「現世でも俺、人を殺してたのか?」

 「たくさん・・・本当にたくさんね」

 「・・・俺、まるっきり悪人じゃん」

 「私の目から見ると、全然違いますけどね」

 「ごめん。言ってること全然理解出来てない、俺」


 人を殺してるって言ってんのに、悪くないとか宗教観が狂ったことを言うなよ。

 でもまあ、宗教なんて勝手に人間が作った考え方なんて彼女は言いそうだから、実際には言わないけど。

 ・・・何か、プラムと同じ対応しちゃってるなぁ。


 「じゃあさ・・・何人俺、人を殺してきたんだよ」


 恐る恐る聞いてみる。

 人を殺したことを覚えていない。

 それがどれほどのことか、俺は分かっているつもりだ。

 なんせ、地獄でも悪魔を大量に殺してきているのだ。

 俺は、一生自分が殺してきた悪魔達のことを忘れないだろう。

 だから余計に、自分が殺してきたという人間達のことが気になった。


 「数え切れない程」

 「・・・数百?」

 「もっと」

 「数千?」

 「もっとです」

 「数万?」

 「・・・そんなに、貴方は人間を地獄に送った数を知りたいのですか?」

 「当たり前だろ。俺は記憶を取り戻せるってことを教えてくれたのは、他でもないスティーラじゃないか」


 記憶の記憶。

 俺の精神的世界において、彼女は確かに言ったのだ。


 「そうですね」


 否定をしなかった。

 綺麗にそう受け止めたのだ。

 てっきり言い返されるかと思ったのに。


 「数億。貴方の奪った命の数です」

 「・・・」


 思わず黙る。

 数億。

 途方もない数は、俺に実感を与えてくれない。

 人間がそんなに生命体を殺せるとは思えないからだ。

 常識の範疇外。

 映画館に来た頃の俺ならそう思っていた。

 けど、今は違う。

 イレギュラーな力の法則をこの身で体感しているから。

 ・・・同調。


 「俺って極悪人じゃんか」


 軽く言う。

 話の内容が重いから。


 「そちらの世界ではそうですね。間違いなく悪の基準を限界突破しています」

 「・・・お前の世界では、悪とか善とかないのか?」

 「善と悪は人間の考え方ですよ?」

 「・・・少し気が軽くなったよ」


 悪いこと。

 悪いことをしたら、お仕置きを受けなければいけない。

 罪には罰を。

 だから、無知な人間は罪を負うことを恐れる。

 その先に待つ罰が怖いから。


 なんて・・・なんて矮小な生物なんだろうと、心の底から思う。

 本当は、この世に法律なんて必要ないのにと。

 そんな小さい種族の、小さい俺。

 ・・・自分が哀れだ。

 眩しくて雄大な太陽を見ながら話していると、余計にそう思える。


 「ですが、敵と味方という考え方は、未だに天使の中でも残っていますよ?」

 「何が敵だよ?」


 味方が同種族の天使だってのは分かる。

 でも、味方は?


 「貴方です」

 「・・・」

 「驚きました?」

 「いや・・・敵とこんな悠長に喋ってて平気なのかなって思って」


 彼女に殺されても、俺は何も文句は言わない。

 地獄で彼女に会えるということを、支えにしていた部分はどっかかしらにあったからだ。

 信用しているんだ、彼女を。

 彼女が俺を敵だと言って殺しても、俺はそれを受け入れる。

 そういうことだ。

 彼女は俺とまっすぐ視線を合わせる。


 「俺はスティーラに敵って言われて殺されても、恨まないよ」


 純粋に心からの言葉が口から出てくる。

 少し、恥ずかしいセリフだったな。

 まるでアニメのキャラクターみたいな。


 「ああ・・・だから貴方はこんなにも愛おしいんです」


 スティーラが俺に近付いてくる。

 そして・・・キスをしてきた。


 甘く、濃厚な接吻。

 女性特有の甘い匂いがして、抵抗したくなくなる。

 その唇は柔らかくて、官能的な感触だ。

 鼻息が顔に当たっても、何にも不快じゃない。

 むしろ、もっと続けたいと男の本能が叫ぶ。


 「んんっ!?」


 彼女が舌を入れてきて、ようやく俺の意識覚醒。

 慌てて口を離す。

 唾液が糸をひいた。


 「・・・嫌でした?」

 「・・・いや」


 ただ単純に、恥ずかしかっただけっす。

 だって、地獄では戦って、旅してばっかりだったから。

 相棒はいたが、プラムは猫だし・・・

 ということで、こういうことには全く不慣れなのだ・・・と言い訳したい。

 決してスティーラが嫌いなのではないのだ。


 「表情で察してくれよ」


 これが精いっぱいの言葉だった。


 「相変わらずかわいいですね」

 「・・・そんな言葉、言われたことないよ」

 「フフフ、貴方は人付き合いが不器用だから、良い印象を受けにくいんですよ」

 「現世でもか」

 「どこに行ったって貴方は貴方です。記憶がなくなろうと、アニマだけの存在になろうと」

 「記憶は・・・その人自身でもあるんじゃないのか?」

 「そうですね。けども、性格や行動が変わっても、その根底にあるのはやはり、貴方という存在です」


 ・・・うむ。

 よく分からぬ。

 俺がそういう表情をしたのを彼女は見て、笑う。


 「今は・・・理解出来なくても大丈夫。私が付いてますから」


 彼女はそう言って、真っ直ぐ太陽の方を見たのだった。

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