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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第11章 父祖の辺獄と地獄篇 エンヴィー領エンヴィー街
155/244

155話 矢の雨の中で

 結界の向こうに強大な気配を感じた。


 獲物を狙う眼光。

 刺さったみたいな鋭利な視線が感じられる。

 その力は余りに大きすぎた。


 「伏せろ!!」

 「え?」


 魔王を無理矢理下に押し倒す。

 彼は何が何だか分かっていないようだった。

 直後、パリンと結界の1部が割れて、何かが俺達の頭スレスレを通り抜ける。


 「・・・敵だ」

 「72柱ね」


 プラムが口を開く。

 その名を聞いて、魔王がゾッとする。


 俺は攻撃が来た方向とは反対側を見る。

 反対側の結界も割られていた。

 小さな円形状に。


 ・・・弓だ。

 放ったとしたら、狩人に間違いない。

 だけど、この結界は見ただけでも強力だというのが分かる。

 それを遠距離から貫ける実力者・・・クルトしかいない。


 「もう1人は魔物の討伐に向かったのか」

 「1人は大樹に残って、1人が魔物の討伐か」


 本来クルトは兄のクルドと2人1組で戦う。

 2人を相手にするよりはまだマシだが、72柱となんて1人でも戦いたくない。

 こっちが死ぬ確率の方が高い。

 ハイリスクすぎる。


 「次、来るぞ」


 次は横方向からではなく、縦方向から矢が降ってきた。

 100本じゃきかない数の矢が。

 ありえない曲線を描いて、尚且つ普通の狩人が出せる矢のスピードを遥かに超えていた。


 上に向いて放たれた矢が、いきなり下にガクンと方向を転換させていく。

 物理的に怪しい軌道。

 能力が加わっていることは間違いなかった。

 ・・・当たったら即死。

 プラムの結界でも逸らしきれない。


 転移魔石からエネルギーを抽出して剣に宿らせる。

 闇がスルスルと出始めた。

 瞬間、豪雨の如き矢の攻撃が結界をたやすく貫いた。


 「間に合え!!」


 闇が傘の形になって、俺達の5メートル上で展開する。

 黒い霧が矢の雨に接触して、動きが強制的に遅くなる。

 闇に守られた以外の場所が、ガガガガとガラスに突き刺さる。

 既に死んでいたエンヴィーの魔王と思われる死体に当たる。

 矢に触れた個所から肉が刺さるのではなく爆ぜた。


 「これ、そんなには持たないぞ」

 「大魔石ならあるじゃないか。また転移魔石にエネルギーを満たして、その黒い能力が出てる内に逃げればいい」


 魔王がそう言ってくる。

 けど、ダメだった。


 「無理なんだ」

 「どうして!」

 「闇を使ってる内は転移が出来ない」


 これは以前に試したことがある。

 闇と光はうまく調和出来ない。

 別々に存在しているからこそ、世界の基盤としてそこに成り立っている。

 明暗を分けるという言葉がある。

 混ざってはいけないし、混ざらないようにするべき概念なのだろう。

 

 「ダメじゃないか!何が助けるだ!!騙したな!!」

 「おい!パニックになるなよ。俺がいなきゃ、お前死んでたんだぞ?」

 「うるさい!黙れ!よくも・・・」

 「黙りなさい?」


 プラムが魔王の瞳を見透かす。

 不意に。

 それだけで、魔王の呼吸が落ち着いてくる。

 不自然なレベルで。


 「今は生きることだけを考えないと、死ぬからな」

 「・・・」


 また悲観の目に戻り始める。

 怒ったり悲しんだりする気持ちはよく分かる。

 だけど、ここで悠長にそんなことをしていると死ぬのだ。

 せっかく友好関係が結べそうな悪魔なのだ。

 死なせたくはない。


 プラムが大魔石からエネルギーを魔石に移す。新たな魔石を手に取って、闇の規模を増幅させる。

 これなら大丈夫。


 けど、矢が完全に停止する訳でもないから、ずっとこのままってのもマズイ。

 どうするかを考えなくてはいけない時らしい。

 それも短時間で。


 「俺、籠城戦はしたくないな」

 「私もよ。時間が経過する度に逃亡の可能性は減っていくわ」

 「どうする?」


 このまま矢を闇で留まらせておくことは出来る。

 けど、もう結界は崩壊したようなものだった。

 魔物はもういない。

 狩猟団達かクルドが片したんだろう。

 いずれは悪魔がここに攻めてくる。

 そうなれば、俺達の負けだ。


 「この滅茶苦茶な攻撃をしてる奴って誰だ?」

 「弓の王、クルド。狙った相手を逃がさないことで有名な悪魔」

 「・・・ますます逃げられないじゃん」

 「物理的な逃走は無駄・・・ね」

 「転移しかないな」

 「安全な場所で行いたいところだけど・・・」


 プラムが俺達の入ってきた入り口を見る。

 そこは道幅が狭いのだ。

 大魔石を持っていける気がしない。


 物理的に逃げられないこの状況。

 転移に頼りたいところだが、闇を使う限りは脱出が出来ない。

 そして、闇がないと矢でみんなジ・エンド。

 この状況を打破するには・・・


 「おい、ベルゼブブ」

 「呼び捨てか・・・俺も落ちたな・・・」

 「くだらないこと言うな、時間がない」


 死んだら自分の立場も何もない。

 そこで終わりだ。

 コイツはまだそんなことも分かってないらしい。


 「神聖種は出せるか?スプリットタイプならこの攻撃を掻い潜って、クルドに攻撃出来るだろ」

 「やれるならとっくにやってる。でも、アレは室内じゃないと能力を出さないんだ」

 「・・・理由は?」

 「アイツの性格さ」


 ・・・神聖種は魔物と違って、頭がいい。

 頭がいいと、個性が生まれる。

 個性は選択意識を芽生えさせる。

 ・・・そういうことだろうか?


 「無理なんだな?」

 「結界が壊れているから、もう能力は使ってくれないと思う」


 そうかい・・・

 神聖種が使えるなら、大分楽なんだけどな。

 でも、そういう制約めいた縛りがないと、好きに神聖種を使って虐殺出来ることになる。


 「僕がここに捕まったのは、わざとさ。こういうやり方でしか、アスモデウスの仇はとれなかっただろうから・・・」

 「・・・復讐か」

 「僕は・・・ラースのサタンから話を持ち掛けられた時にこのことを知ったんだ。だから・・・だから・・・」

 「分かったよ、もういい」


 背景が何となく理解出来た気がする。

 そういうことだったのか。

 復讐。

 俺も持っている感情の1つ。

 ますます親近感を覚えてしまう。


 「・・・しょうがないな」

 「・・・どうする気なんだよ?」


 魔王が不安そうに聞いてくる。

 まるでかつての俺みたいだ。

 地獄に来たばかりで、何もかもが不安だった頃の。


 「こんな悪魔だらけの場所で72柱と戦いたくないし・・・」

 「確実に死ぬわね」


 彼女がはっきりそう言ってくる。

 そういうところが好感もてるんだよなぁ。


 「だったらさ、プラムとお前だけで逃げるのがいいと思うんだよな」

 「・・・死ぬ気?」

 「いや、全然」


 死ぬ気なんてある訳がない。

 生きてやるさ。

 そういうつもりで今までやってきたんだから。


 「俺、大魔石と同調してる時はどっかへ消えちゃってるんだろ?」

 「ええ」

 「なら、同調してればしばらくは俺、殺されないだろ?」

 「それで、終わった後は?」

 「新しい力を手に入れて、みんなドッカーンと無双してく」

 「馬鹿言いなさい」


 ピシャッと言われた。

 ただのおふざけ。

 こんな状況でこんなやりとりが出来る俺達って、やっぱ相性いいんじゃないのか?

 少なくとも俺はそう思うよ。


 「・・・助けに来るわ」

 「頼むよ」


 言いたいことは伝わったようだった。

 自己犠牲のつもりじゃない。

 これしか大魔石を取る方法がないと思われた。

 それだけの話。


 矢が大量に降り続ける。

 どんだけ矢をストックしてるんだよ、って思う。

 多分、これも能力が関係してるんだろうな。


 「能力で出口まで援護するよ」

 「お願い」

 「おい、これでいいのか、お前」


 魔王が俺に問いかけてくる。

 死んでもいいのか、お前?と聞いてるようなものだった。


 「いいんだよ」

 「生き残れる保証はどこにもないんだぞ?」

 「お前、じゃあ死にたいのか?」


 魔王が黙る。

 言い返せないんだろう。

 それでいい。

 それでいいんだよ。


 「行くわよ」


 プラムが不服ながらも俺の背から降りる。

 魔王の肩には乗らないらしい。

 それを見て、俺はちょっとだけホッとした。

 何でだろうね?


 「風よ(ラド)


 プラムが風の能力で、自分達が進む方向に刺さる邪魔な矢を切断していく。

 そこを俺が闇で覆う。

 即席の安全な道が完成した。


 「プラム」

 「・・・何?」

 「助けてくれよな」

 「当たり前よ。愛しているもの、貴方を」


 言葉に重みがあった。

 だから、本気で言ってるのが分かる。

 それだけ聞ければ十分だ。


 お互い、命を懸けてきた者同士だ。

 こんな最小限の会話でも、意思の疎通は成り立つ。

 プラムが先へ歩いていく。

 魔王を連れて。

 そして、彼女との繋がりはプツンと切れた。


 振り返らず、階段を下っていく。

 姿が見えなくなって数十秒後、赤い光がそこから漏れ出す。

 そして、しばらく経った後、その眩い光は消えた。


 「・・・行ったか」


 寂しくはない・・・と言ったら嘘になる。

 けど、絶望は感じない。

 会える奴がいるからだ。

 いつも追い詰められた後にしか会えない、レアな奴。


 眩しくて、なんかベタベタくっついて来たりする女。

 不思議と嫌になれない。

 なんか、懐かしいのだ。

 それでいて、母性を感じる。

 親しみやすい。

 プラムや、マリアさんがそうだったように。


 陽叉の村にあの転移魔石は直結しているから、ひとまずは安全だろう。

 プラムがいる時点で、何とでもなる。

 問題なのは俺だ。

 さっさとやることやらないとな。


 俺は大魔石に近寄る。

 この物体に善悪の区別はない。

 ただ、力を提供するだけ。


 かつてスティーラは言った。

 これは太陽の欠片だと。

 光が作りたもうた神秘の名残だと。


 神の欠片であるエネルギー・・・アニマを保存するその性質は、光と似通っている。

 光はアニマを保存し、運ぶ。

 創造主の光から作られた太陽の欠片が、その性質を持つのは不思議なことじゃない。

 全ては繋がってる。

 意思もまた然りだ。


 俺と大魔石は繋がる。

 俺はその手段を持っている。


 彼女に会うために。

 この危機から1時的に逃れるために。

 俺は行くのだ。

 あの精神世界へ。


 闇の能力を解除する。

 同時に、矢が俺の真下へ落下する。


 「行くか」


 大魔石に触れる。

 これで、3回目。

 3つの大魔石を手に入れた。


 今度は何年で出られるだろう?

 俺は短時間の感覚だが、こちらでは長期間。

 時間の経ち方がおかしい。

 そこら辺、また覚悟していなきゃいけない。


 俺が同調している間、プラムが死んでしまう可能性があるからだ。

 俺がいない間に仲間が死ぬと、とても悲しい。

 死を実感出来なくて。

 グリード領の時みたいに・・・置いてかれた気がして。


 そんなことを思いながら、俺を貫こうと風を切りながら落ちる矢を見つめる。

 矢が俺の頭に当たる直前。


 俺は光に消えた。

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