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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第11章 父祖の辺獄と地獄篇 エンヴィー領エンヴィー街
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154話 異種族との結託

 哀願。

 魔王がやっていることは、それだ。


 王たる者がするべき行為じゃない。

 いや・・・現世の王と、地獄の王の概念はまた違うものなのかもしれない。

 この世界に法律なんてものはない。

 ただ、魔王がバランスを保つための判断がそこにあり、心でみんなそれを確認して、生活してきた。

 疑問の余地なく。


 この世界の王は民を律することなく、ただ守る。

 配下を通じて。

 時には72柱を使って。


 強大な力には誰もが従うしかない。

 命がないから。


 だけど、民も自身の配下も、力の象徴である72柱とも縁が切られた時・・・王たる者が1人になった時、それは果たして王と呼べるのだろうか?

 72柱の中には異名として王という称号を与えられる者もいる。

 王って・・・一体何なんだろうな?


 「助けてくれよぉ・・・」


 ベルゼブブの声が掠れて聞こえる。

 悩んで悩んで出した答えなんだろう。


 例えばの話。

 自分の死とプライドを天秤にかけた時、どっちに傾くだろう?


 普通に考えるなら、命を優先するだろう。

 だけど、全ての者がそれに当てはまるのか?


 世の中には、誇りを選んで死んだ奴がいる。

 案外その数は多い。

 その者達は、死に対する価値観が軽いものだった?


 いいや。

 違う。

 今のベルゼブブのように、苦しんで選んだと思うのだ。

 社会的な自分を壊すこと。

 プライドを捨てることはそれに似ている。


 プライドを持つことは愚かなことじゃない。

 それは、自分を支える柱にも成り得るのだから。


 彼は俺達に近付く。

 俺の足にしがみついて、顔を伏せながら嗚咽を漏らした。


 「ぅっ・・・ぅぅ・・・」


 緑色の瘴気が薄れていく。

 厳密に言えば、饐えた聖礼なる蠅の王(インフェクション)の体に吸収されていく。

 戻っている・・・のか?


 空気が清浄になるまで、数秒もかからなかった。

 完全に浄化されたことを確認してから、俺は闇の能力を解く。

 丁度、魔石のエネルギーが底をついた。


 「うおお・・・危ないなぁ」

 「実は危ない橋を渡っていたのよね」

 「軽く言うなよ」

 「緊張感を持って言って欲しかったのかしら?」


 ・・・違うな。

 そう考えれば、彼女の対応は正しい。


 「・・・」


 ベルゼブブは黙ったまま、俺の足にしがみついている。

 触れているから分かる。

 まだ、悲しみに包まれていた。


 理不尽。

 世の中には、そんな現象がある。


 この現象に遭遇したら、悲しみの道を辿ることになる。

 これに抗えるのは、ほんの1部の者達だけだ。

 理不尽に飲み込まれる奴の中には、自殺の結末で終わってしまう者もいる。


 俺もそんな状況の中にいるから分かる。

 先の見えない道。

 そこに立ち塞がる悪意。

 ・・・絶望。


 心が壊れそうで。

 死にたくて。


 でも、俺の場合は理不尽に対する怒りを誰かにぶつけた。

 自殺する前に。

 そして、救われた。

 今はそれが・・・それこそが糧になっている。

 これは俺が何故生きるのかの理由にはなっていない。

 けど、何故生きているのかの説明にはなる。


 ・・・彼は、どういう結末を辿るのだろう?


 「・・・すまない」


 ベルゼブブがのっそりと立ち上がる。

 顔が涙でぐちょぐちょだった。

 さっきとは別の意味で歪んでいる。

 もったいないなぁ・・・端正な顔をしてるのに。


 「落ち着いたか?」

 「・・・ああ」


 少しはスッキリしたようだった。

 感情的になって、俺達を殺そうとはしない・・・か?


 「・・・俺は・・・助かるんだろうか」

 「助けるよ。俺もお前と似た立場だし」

 「知っているよ・・・この世界に人間はただ1人としていないからな」


 悲観的な目で俺を見てくる。

 先の不安が先行しているようだった。

 この状態を俺はよく知っている。

 正常な判断が出来そうで、出来ない状態。

 まさにそれだ。


 「1人ぼっちは嫌か?」

 「嫌だ・・・怖いさ」

 「なら、ここを脱出してまた作らないとな、仲間」


 憎い悪魔のはずなんだが、なんか優しく出来る。

 同情心があるからなんだろうな・・・


 「・・・どうやって脱出する気だ?」

 「どうもこうも、お前と違って俺達はかなり準備してきたんだぞ?な、プラム?」

 「・・・」


 無視しやがった。

 説得の時は、冷酷な口調で話していたくせに・・・


 「ま、大丈夫さ」


 俺はバックパックからゴソゴソとある物を取り出す。

 それは・・・


 「よっと」

 「・・・魔石?」

 「転移魔石な」


 そう。

 転移魔石。


 魔石に超細かい転移の陣が刻まれた物。

 製作陣職の仕事の中でも、これを作る時に超難易度の高い技量が要求される代物だ。

 これを作れる者はごく限られている。

 俺も1人は心当たりがある。

 ・・・召喚王だ。


 転移のエキスパート。

 憎き相手。

 今は神聖種をぶんどって、力を蓄えている卑怯な悪魔。

 殺せたら殺したい。

 そう思う相手の1人だ。


 「こんな物を持ってるのか・・・」

 「貰い物だけどな」


 銀の月の村の長から提供された、10個の魔石。

 その内の1つに、転移の陣が刻まれていた。

 俺がそれに気付いたのは、だいぶ後になってからだ。


 「で、これを使うのさ」

 「どこに繋がってるんだ?」

 「陽叉の村さ」

 「・・・それは・・・絶滅した陽叉か?」

 「一応絶滅したことにはなってるな」

 「絶滅していないのか?」

 「一応彼女、銀叉だぞ?」


 絶滅したとされる猫に視線を向ける。

 他者からの情報を鵜呑みにすることの影響だな。

 自分の目で見ていないのに、何でそれを常識とする?


 「・・・」


 魔王は興味深そうに彼女を見る。

 彼女は、俺の肩でうざそうに身を丸める。


 「生きていたのか・・・」

 「夜叉は知らないけど、陽叉は生きてるんだな、これが」


 俺達がドマーク洞窟に入る直前に話した種族でもある。

 でも、銀夜叉とは違ってあまり友好的ではない。

 一応エンヴィー街の情報は流してくれたが、それだけだ。

 後は何の世話も受けていない。

 ま、情報をくれただけまだいい。


 「そこに陣の媒体を置いてきた。それで、脱出出来る」

 「・・・逃げられるのか?」

 「もちろん」


 ここは自信満々に言っておく。

 本当はトラブルがあるかもしれない。

 けど、ここで信用させておかないとコイツが怖いのだ。


 もし、神聖種を出されたら俺達にはもう抵抗の手段はない。

 攻撃されて、死ぬだけだ。

 今のコイツの精神は不安定なままだ。

 恐怖に駆られて自己保身のために神聖種は出されたくない。


 心を読めないこと。

 それを前提にした考え方だ。

 普通の悪魔同士なら、こうはいかないだろう。


 「まず、その神聖種をしまってくれないか?契約してるんだろ?」

 「あ、ああ・・・」


 魔王が魔石を取り出して、エネルギーを注ぎ込む。

 きっと、大魔石のエネルギーを介してるんだろう。

 大魔石の発する光量が、若干だが増えた気がする。

 そして、召喚魔石は光りだした。


 饐えた聖礼なる蠅の王(インフェクション)が消えていく。

 毒を出していた醜悪な生物が。


 それにしても、神聖なのにどうしてあんな巨大な蠅の姿なんだろうな?

 なにをどう見ても神聖って感じがしない。

 能力も毒だし。

 でも、それを言ったらルシファーの神聖種だってそうか。


 「さてと、毒が消えて、中に入ってくる悪魔もいるだろうな」

 「・・・もう後に引けない」

 「前に進むためには仕方ないだろ?」

 「・・・僕は正しいのか?」

 「それは自分で判断しろよ」


 悪魔はどうかは知らないが、人間の行動選択基準は色々ある。

 損得、感情、効率、エトセトラ・・・


 その中で、俺が思う基準は後悔するかしないかだ。

 後悔しない道を選ぶこと。

 それは理想に過ぎない。

 けど、それでもそうあるべきだと最近俺は思うようになった。


 「大魔石も一緒にやらないとな」


 転移にかかるエネルギーのコストも問題ないだろう。

 全部、大魔石に負担させればいい。

 出来たら、プライド塔みたいに現場で大魔石と同調出来たらよかったんだが仕方ない。


 大魔石と一旦同調すると、数年は意識が帰ってこない。

 大魔石の意思と俺の意思が釣り合わなすぎだからだ。

 俺の方の意思が遥かにしょぼい。

 だから、殆ど俺にコントロールが効かない。


 魔剣とはまた勝手が違うのだ。

 エネルギーの土台が違いすぎる。


 数年も帰ってこれないなら、ここで待つプラムはどうなるのか?

 ・・・最悪死んでるかもしれない。

 俺自身も、大魔石から帰還した途端に殺されるかもしれない。

 そんな理由があるからこそ、大魔石との同調は安全な場所でやりたい。


 「俺は大魔石に触れられないから、俺の代わりに誰か転移魔石を使ってくれないか?」


 1人と1匹を交互に見る。

 当然1匹の方はそれを拒否する姿勢を示す。

 つまり、寝た。


 「・・・お前が頼む」

 「分かった」


 魔王にポイと魔石を投げる。

 遅れて反応したのか、1回取りこぼしそうになってそれをキャッチした。

 あまり反射神経もよろしくないらしい。


 魔王がそれを使って1人で逃げることは考えない。

 そんな意思は感じられない。

 相手が選択を迫られている時、俺はソイツの心と呼べるものを感知出来る。

 心を読めはしないが、俺にとってこれは大きな武器だった。


 「次は?」

 「そのまま転移さ。出来るだろ?」


 言われて魔王は大魔石に近付く。

 俺もそれを見て、魔王の元へ。


 「これで・・・」

 「・・・待って」


 プラムが制止する。

 俺も素直にその言葉に従った。

 理由が分かるからだ。

 ・・・遠方から違和感を感じた。


 敵意だ。

 何かは分からない。

 だが、そこらの魔物が醸し出すものとは違う、狩る者特有の意識。


 こんなところから?

 確かにここは障害物がない。

 だが・・・こんなところにいる俺達が見えるのか?

 光り輝く大魔石は別として。


 「なんだ?」

 「・・・敵よ!」


 その言葉の後、俺は強大な気配を結界の向こうから感じ取った。

 トラブル発生。

 後1歩のところで、邪魔が入った。


 そして、俺達に脅威が迫ってきた。

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