149話 正門の争い
「ここか」
俺達が魔物の進行を追っていった結果、作戦を行う前に予想していた展開になっていた。
今いるのは、エンヴィー街正門。
高すぎる防壁の、唯一開く箇所だ。
クルト古道、クルド街道、ドマーク洞窟。
3つの道は全てこの正門に繋がっている。
だから、4箇所を結ぶ丁度中間地点は十字架みたいな形になっていて、クロスロードと呼ばれている。
そのクロスロード・・・洞窟じゃない道からも、魔物が少数ながらも誘引されていた。
そして行き着く先はみんな同じだ。
・・・エンヴィー街正門前には、50頭以上の魔物と、50人以上の悪魔が集まっていた。
「キィアアアアイイイイ!!!!」
魔物達の声が四方八方から連呼される。
それに負けず、悪魔達の必死の声も合間合間に聞こえる。
「助けて・・・助けてくれ」
「ケガ人の手当てをしろ!!」
「ダメです!死んでいます!!」
「やあああ!!!」
「ゔっ・・・ごふっ」
「次、次弾装填!!」
「大いなる炎よ!!!」
「うおおおおお!!!」
もう戦争状態だった。
悪魔側も必死だ。
正門の中に魔物を入れまいと、命懸けで戦っている。
結局、72柱は来ていない。
自分達が出る幕もないと思ったのか?
いずれにせよ都合がいい。
「で、どうする?魔物の数、ちょっとずつだけど減ってきてるぞ」
「貴方見える?壁の上辺りに小さな窓があるのを」
「見えるよ」
悪魔が顔を覗かせるためのものだろうか?
俺達が入るには小さすぎる窓があった。
・・・鉄っぽい金属の柵付きで。
窓から入るのは難しそうだ。
だが、よく見るとさらに上の方に柵付きの窓がある。
高さ2メートルぐらいの間隔で。
それが高い防壁のてっぺん辺りまで続いていた。
「あそこを足場にして乗れるでしょ?」
「マジっすか」
「このまま待っていても、いずれは魔物は全滅よ?」
「・・・分かった、やるよ」
やるしかないのだ。
今の所、俺に後退の2文字は許されない。
悪魔の目は襲いかかってくる魔物に集中している。
窓へ飛ぶには、魔物と悪魔の闘争をすり抜けなきゃならない。
身を隠せる遮蔽物は何もない。
じゃあ、どうするか?
「魔剣しかないな」
俺は腰にぶら下げていた魔剣、闇夜黒剣と 黒錠剣を両手に持つ。
魔石2つを使ってエネルギーを注入・・・刀身に闇を纏わせる。
エネルギーが莫大に消費されていく。
2本の闇の剣を高く掲げて、強く刀身を打ち付けた。
カァンと金属音が響く。
そして、闇が広範囲に反響した。
闇が波紋を作って、広がる。
それは一瞬で正門前方付近を包み込む。
そこで争っていた魔物と悪魔の動きがかなり鈍る。
でも、完全には止まらない。
しかも、コイツらの動きが沈静化される時間は短い。
何せ能力を放出した範囲がでかいのだ。
沈静化の影響時間は、闇の範囲や密度によって上下する。
効果はもって、ほんの数秒だろう。
「もう一工夫か」
余った空気中の闇を俺にまとわりつかせて、全身を黒くする。
黒い霧状の物質が俺の姿にボヤをかける。
傍目には黒い2足歩行の生物に見えるはずだ。
銀の月の村にいた、邪悪種みたいに。
「どうか無事に通り抜けられますように!!」
どこの誰にお願いしたのか自分でも分からないけど、とりあえずそう言っておく。
木々の密集した場所から、一気に飛び出す。
目指すは正門の上にある窓だ。
瞬時に俺が通り抜けられるスペースを見極めて、悪魔と魔物の間をジグザグに避けていく。
闇で沈静化してると言っても、本人達の意思を直接シャットアウトしてる訳じゃない。
動きをノロノロと遅くしているだけなのだ。
しっかり相手方は俺達を認識している。
ただ、正体は分からないと思う。
闇で俺の全身をカバーしてるから。
4、5秒で正門前まで辿り着く。
両足に力を込めて、助走をつけながら俺はジャンプした。
壁のちょっとした凹みに足をうまく乗せて、つま先に出来るだけ重心を乗せる。
で、壁を走るが如く登る。
両手は2本の魔剣を持ったままだ。
プラムと同調すれば、壁走りもそんなに難しいものじゃない。
登っていく途中で、正門前に拡散させた闇が解除されたのを感じた。
2本の魔剣を使っても、これが限界だ。
闇の能力の使い手だった吸血王は、どうやってコストのかかりすぎる闇の能力を使っていたんだろうか?
魔石すらすぐにカラになる、この燃費の悪い能力を。
窓に足をかけて登る。
その際に真下を見るが、殆どの悪魔や魔物は俺のことを見ていなかった。
あの連中は自分のことで精一杯だ。
殺し、殺されることに。
「ん」
防壁の1番てっぺんに着く。
大結界の根元だ。
これがある限り、俺はここへ入れない。
魔物も同様にだ。
結界部分に闇を当てる。
結界の境目が、そこだけ揺らいだ。
闇の効果の1つだ。
実際にある物質を沈静化させる以外に、能力で作り出した固有物質をある程度打ち消すこと。
俺は闇の穿った先の空間へ飛んで突っ込む。
そこには3人の悪魔達が待ち構えていた。
全員武器を既に抜いている。
・・・後手だ。
多分、下から駆け上がる俺を見ていたんだろう。
相手3人はそれぞれ狩人らしく、大型の弓を持っていた。
狩りの基本は遠くから攻撃を当てることにある。
狩猟団と呼ばれる悪魔達なら、こういう戦闘スタイルでもおかしくない。
魔石を素早く抜き取って、魔剣2本に闇を通す。
その様子を黙って相手達が見ているわけもなく、一斉に矢をこっちに飛ばしてきた。
細い矢が豪速で至近距離から俺を襲う。
「ほっ」
闇を小規模に拡散させて、俺と矢の間に設置する。
闇の沈静化を受けて、3本の矢が急激に速度を落とした。
それを俺はスルリと躱す。
「馬鹿な!?」
「遅い!」
驚く悪魔の1人に接近して、首を撥ねる。
即席の死体を盾にして、後から来た追撃の矢を2本の凌いだ。
首から溢れ出る血は、闇である程度押さえておく。
「エンディー!!」
「おのれがぁ!!」
そのまま継続して、体を盾にする。
盾にした体が続々と矢まみれになるが、一向に相手から近付いてくる気配がない。
俺の予想だが、こりゃあ遠距離か、超至近距離の2択しか相手は攻撃手段を持っていないと思う。
弓かナイフか。
能力は俺が後手に回っても、闇で簡単に対処出来る。
そもそも、火の能力で死体を燃やさない時点で大した能力は持っていないだろう。
「なら・・・」
死体を背に、魔剣から黒い霧を右側に向けて出す。
それにワンテンポ遅れて、俺は左側へ飛び出す。
先に出た霧に反応した悪魔2人は、矢を霧の方へ放つ。
反射的な判断だ。
体が勝手に反応することはよくある。
・・・今みたいに。
相手は瞬時に照準をこっちに向け直すが、既に俺は残った闇を刀身に集中させて、攻撃のリーチ内に敵を収めていた。
矢を至近距離で撃ってくるが、剣を盾にして避けるまでもなく対処する。
そして、首めがけて剣を振った。
「大いなる守りの壁よ!!」
強化された結界が、剣の進行方向上に出現する。
でも、無駄だ。
俺はそのまま力一杯剣を振るう。
闇は結界を弱体化させ、容易に障害物を打ち破る補助を成した。
結界は崩壊し、敵の首が剣でぶっ飛ばされた。
「クソクソクソッツ!!!!」
残った悪魔は、弓の戦闘では殺されると思ったんだろう。
腰についていた大型ナイフを取り出して、その刀身を燃やした。
元々火の魔剣か、能力を魔剣に通して使っているのか、どっちかは分からない。
が、そんなことは関係ない。
対処法は全く変わらないから。
悪魔がディフェンドゥーと似た近接戦闘の構えで、俺の剣を受け止める。
訓練された兵みたいな動きだ。
剣に纏った闇がナイフに侵食して、極端に脆くする。
継続して、俺は力の限り押し込む。
そして、ナイフは砕け散った。
「ひいぃぃぃ!!??」
相手が後ろに逃げ出す。
恐怖に支配されて。
相手の心のバランスが崩壊したのだ。
・・・俺の勝ちだ。
逃げる背中へ追いつき、剣を振る。
悪魔の首は上へ飛んだ。
断末魔の悲鳴をあげながら。
悪魔の意思は、またどこかへかき消える。
行ったのだろうか?
スティーラの言っていた、あの世界へ。
俺が死んだ時も・・・行くのかね?
世界を渡って。
「ふぅ・・・」
「他に悪魔はいないみたいね」
一応周囲を確認する。
防壁のてっぺんにいたのは、どうやら3人だけみたいだった。
他には誰もいない。
てっぺんに繋がる階段から、また悪魔が来るかもしれないけど。
「・・・気配断ちの結界を張り直すわ」
「壊れたのか?」
「魔剣の能力を見に纏ったからよ」
「ああ・・・ごめん」
闇に触れて弱体化したのか。
それは悪いことをしたな。
悪いって言うか、自分にも関わることだけども。
「後は門を開けるだけ、と」
俺は戦闘が行われている方向へと歩く。
絶壁だということが実感出来る、落下ギリギリの端に、魔石があった。
魔石は小さく、台座の上に置かれている。
多分、これが仕掛けだ。
近寄って、魔石に触れる。
何回も使われた形跡が読み取れる。
使い古された魔石は、意思もそれに比例して深みが出る。
そんな魔石に俺はエネルギーを送った。
ゴンッと鈍く重い音がする。
続いて、ゴゴゴゴと城壁全体が揺れる。
・・・門だ。
正門がゆっくりとだが、開いているのだ。
真下を見てみると、門が開いたのを見て悪魔達の様子が乱れる。
そりゃそうだ。
門を必死に守ってるのに、それが突然開いたら戦闘意欲も低下するに決まっている。
戦闘のモチベーションはいつだって、守るべきものと共にあるのだから。
操作した門を開閉する魔石は、魔剣で砕く。
門を閉じられてもいいんだが、継続して臭いは魔物を誘引する。
いずれなんらかの方法で門は塞がるんだろうが、ちょっとした時間稼ぎにはなるはずだ。
「後は・・・魔物次第か」
「タイミングを見てからよ」
「大丈夫」
そこから一気に魔物の猛攻が始まった。
魔物達が悪魔を食い殺していく。
空いた穴は塞がらず、そこから破れた網のように魔物がなだれ込む。
もう修正は効くまい。
ここからは一気に流れに乗るだけだ。
1番目に門の向こう側へ侵入したのは、巨大な人型の魔物達だった。
体高は2、3メートル。
裸でデブ。
頭には1本の角がある。
巨鬼と呼ばれる魔物だ。
図体がでかいだけじゃなく、すばしっこさもある。
それが集団で攻撃してくるのだ。
理性無き攻撃性を持って。
だから魔物は怖いのだ。
悪魔達はもう盾役としての役割を放棄して、無数に散って逃げていく。
指示を受けたか、恐怖に駆られたか・・・
背中からオーガに殴られて、内臓を口から吐く悪魔が数人いた。
後は・・・逃げおおせたか。
街に次々と侵入する魔物達。
それを迎え撃つための狩猟団達が、街に広がる建物の上に集結しつつあった。
「あちらさんも準備、整ってるみたいだな」
遥か高みから、エンヴィー街を見下ろす。
その殆どは住宅街だ。
自然と共存を目指そうという思考が見て取れるぐらい、家々の間に 大きい木が植えられていた。
ある家は気に殆ど寄生されていたりする。
木の家だ。
そこら辺、流石狩猟団を保有する街だなと思う。
「心の準備は?」
「バッチシだよ」
「なら、いいわね?」
「んじゃ、俺達も街へ降りよう」
街へ侵攻しつつある魔物達。
それを迎え撃とうとする悪魔達。
両者が睨み合うその場所へ、姿を見られないように俺は飛び立った。




