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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第11章 父祖の辺獄と地獄篇 エンヴィー領エンヴィー街
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148話 誘引

 眩しい。

 光だ。

 月の光が見える。


 暗闇で光を極限まで集めようとした猫の目が、許容範囲を遥かに超えて俺の目に入ってくる。

 だから何も見えない。

 真っ白だ。


 「ぐっのっ!!」


 無理矢理同調を解除する。

 同時に、俺の目が本来の性能に戻っていく。

 真っ白から薄っすらと景色が見えてくる。

 目の端に、張られたテントが映るのを俺は見逃さなかった。


 「うおっ!!」


 テントの中にスライディングしながら突っ込む。

 車並みのスピードでだ。

 テントの中に積んであった木の箱に俺は無様な格好で激突した。


 ガシャンと木の箱が崩れる音が響く。

 それはそれはでかい音だった。

 なのに、それを軽くかき消す地響きがテントの向こう側から聞こえていた。


 ・・・魔物だ。

 魔物の集団が、俺を目指して洞窟から出てきたのだ。

 嫌いなはずの日の光を肉体に浴びながら。


 「ヴァアアアアアアアアアア!!!!!!」


 およそ生物が出すとは思えない鳴き声が周囲に木霊する。

 テントの向こうから、魔物の群れと思われる黒い影の波が見えた。

 ・・・このテントに入ってくる気配はない。


 「結界を張ったわ」


 プラムの一言で安心する。

 俺がテントに突っ込んだところは、直前で魔物に見えなかったみたいだった。


 「魔物だ!?」

 「やっ止めろ!!!」

 「怯むな!戦闘態勢を取れ!!」

 「ひぃ!?」

 「戦える者は前に出ろ!!」

 「老練なる火よ(ケン・マトラス)!!」

 「ぎゃあああああ!!!!」


 様々な悪魔の声が聞こえてくる。

 混乱、怯え、恐怖、闘志。

 色々な声と意思が混ざり合って、この場が混沌に支配される。


 「・・・うまくいってるな」

 「油断はしないで」

 「分かってる」


 テントの向こうからは、悲鳴の声や魔物が悪魔の体を蹂躙する音の方が多くなっていく。

 当然だ。

 イーター種は普通の悪魔にどうこう出来るレベルの魔物じゃない。

 討伐の難易度が高いのだ。


 テントの隙間から、向こうの惨状を覗いてみる。

 魔物の死体が目の前に転がってくる。

 それに一瞬だけビビるが、怯まず前を向く。


 「うわ・・・これは酷いな」


 魔物の死体より、悪魔の死体の方が多かった。

 獣の形をした死体より、人の形をした死体の方が嫌悪感を抱くのはなんでだろう?

 死体を目にした2、3秒、そんなことを思った。


 「戦闘はだいぶ奥の方でやってるな」


 大規模であろう戦闘音が、洞窟とは反対方向から聞こえてくる。


 「手前に転がってるのは弱い狩人ね」

 「だろうな」


 その証拠に、狩人の死体に転がっている魔物の残骸は、俺の知る限り弱い種類の魔物達だけだ。

 強者同士が向こうで戦っているんだろう。

 弱者は弱者で相打ちと。


 「同調し直すぞ」


 プラムとの意思をパソコンのプラグを繋ぐように接続する。

 もう何回も彼女とやってきたことだ。

 こんな状況でも、お手の物だった。


 俺は魔具を出す。

 そのまま俺は外を出た。

 テントの傍で、姿勢を低くしながら争いの音が聞こえる場所を見る。


 ・・・圧倒的に魔物が優勢だった。

 駐留していた悪魔の数は、それほどではないだろう。

 数も、戦闘力も魔物には敵わない。

 今も洞窟から魔物がちょびちょび出てきてるくらいだし


 「臭いな」

 「好都合じゃない」

 「まあね」


 テントで身を隠しながら、魔具にエネルギーを注ぎ込む。

 自然の要素に干渉する能力が、俺の前方へと広がる。

 それを操作して、死体から発せられる臭いを一点に集めた。


 「やるぞ」

 「ええ」


 さらに一点に集めた臭いを前方・・・ずっとずっと真っ直ぐまで伸ばす。

 臭いの経路を作るのだ。


 臭いと言うのは、基本的に周囲へ不定形に広がろうとする。

 そこに風なんかの不確定要素が重なって、予期せぬ場所に飛んでいくわけだ。

 どこにいくかも分からない、鉄の味がする不快臭。

 その臭いに、ちゃんとした道を作ってやる。

 ちょっとやそっとじゃ外れない道を。


 死体からの臭いは激臭だ。

 しかも、大量にある。

 この臭いの進行方向を操作するだけで、後は魔物の後をこっそりと付いていくだけでいい。

 臭いを追って、真っ直ぐ魔物達は猛進するだろう。

 俺達の障害となる悪魔達を蹴散らして。


 ドマーク洞窟は危険な場所で、悪魔の目も多い。

 でも、ただ魔物が多いってだけじゃあここまで悪魔は集まらない。

 じゃあ、悪魔の数が多いのは何故か?

 それは、ここからそんなに離れていない距離に、エンヴィー領への入り口があるからだ。

 距離にして10キロだろう。


 先を見渡すと、小さいが光り輝く光点があった。

 エンヴィー領の大魔石。

 魔王の住む狩猟長の大木・・・エンヴィーの樹の先端にそれはある。

 俺達が行くべき場所だ。

 そして、血の悪臭の道はそこに設定してある。


 俺達の手前に続く道は整備されていて、幅5メートルはあるレンガで整えられた真っ直ぐの道と、その左右に存在する密集した木々があった。

 俺達の少し先では、まだ戦闘が続いている。

 レンガの道は新しい血で汚れていた。


 洞窟の近くにはテントが多数張られていて、身を隠しやすい。

 ここにいれば、魔物や悪魔に見つかるリスクはないだろう。

 だが、行かなくちゃならない。

 魔物に身を乗じてこそ、今回の作戦は成り立つ。


 「よっと」


 整備された道と木々を隔てる腰ぐらいの高さの柵を乗り越える。

 真っ直ぐ整備された道を進む気はない。

 木々で身を隠しながら行くさ。


 後方の洞窟から未だに出てくる魔物に気を使いながら、蛇行して進んでいく。

 新しく現れた魔物達は、臭いを追いかける奴とその場に残されていた魔物と悪魔の死体を食う奴に分かれてる。

 ハゲワシみたいな真似をする魔物は、まだ十分に力を付けられていない魔物の場合が多い。

 魔物の中に蓄積された力を吸収したければ、生きている肉を食わなければいけない。

 死体を食う奴は、生きた奴を倒せていないから、そんなことをやっている。


 弱いが故に意思なき者・・・死者を貪る行為は、どことなくハイエナを連想させる。

 サバンナの掃除屋。

 もしかしたら、自然環境バランスという意味合いから見れば、死体を食う魔物達もハイエナと同じなのかもしれない。

 食物連鎖のバランスってやつだ。


 数分後、木々の合間を縫って進むと、悪魔と交戦している複数の魔物がいた。

 圧倒的に悪魔が不利だった。

 結界を使って魔物の攻撃を何とか凌いでいるが、防戦一方だからだ。


 魔物が単数だとしても、体力的にもう勝敗はついている。

 魔物は悪魔の体力の比じゃない。

 結界を使って、持久戦に持ち込もうとする選択肢自体が間違っている。

 何かトリッキーな戦法があれば、また話は別だけど。

 例えば、結界自体を投げつけて武器にしていた奴・・・とか。


 「ぎゃあ!!!」


 と思った途端に、悪魔は魔物に喉を食われた。

 そのまま引き裂くのではなく、顎の力を使って首を絞める。

 首から鈍い音が連続で鳴って、悪魔の目は虚ろになった。

 窒息する前に首の骨が砕けたんだと思う。

 動物の狩り、そのまんまだ。


 何度も見てきた光景。

 今更動揺することもない。

 魔物が気を取られている内に、先へ進む。

 

 「全力で走ればすぐなんだけどな」

 「見つかるリスクを考えれば、仕方ないことだわ」


 走りながら会話する。

 人間が全速力で走る速度を維持しながら。

 このくらいの速度であれば、余力はたっぷりと残る。

 会話をしても、息切れなんか全くしない。

 俺が人間離れしてしまったってことを強く感じる。


 本来ならまだまだペースは上げられるんだが、これ以上は敵に見つかった時に対処出来ない可能性がある。

 背後や前方ならいいんだが、いきなり側面から攻撃されるとちょっと厳しい。


 だが、臭いに誘導されて街の方向へ突き進んでいる魔物達はもっと速い。

 洞窟の悪環境で、あれだけ爆走してたような生物だ。

 舗装された道なら、洞窟内部で見せた速度よりももっと速いはず。

 ああやだやだ。

 こっちに不利な条件ばっかじゃないか。


 「魔物に追いつけるか?」

 「急襲された悪魔側にある程度実力があれば持ちこたえるでしょうけど、ここまで走って魔物の姿がないなら・・・」

 「全滅したか、悪魔?」

 「或いは、撤退したか・・・ね」


 洞窟から出た時に、周囲を確認する余裕がなかったからなぁ。

 どのくらいの数の悪魔が駐留していたかは分からない。

 従って、そこら辺に転がってる死体から、悪魔が全滅したかどうか判別がつかない。

 頼れるのは前方からの音だけだ。

 今は何も聞こえてこないけども。


 「全滅したなら万々歳だな」

 「まあ、妥当に考えて逃げたでしょうね」

 「それでもいい。門の中まで行ければなんとか」

 「出来る?」

 「・・・どうだろ?」


 そもそも、エンヴィー街に入る方法がこのくらいしかなかったからこうしてるだけなのだ。

 これがまともな方法だと最初から思ってないし、街に入れるかどうかも未知数。

 この作戦は大量の魔物が主軸だ。

 魔物達がエンヴィーの門へたどり着く前に死なれてはこっちが困るのだ。


 て言うか72柱のクルトクルド兄弟が迎え撃てば、魔物の群れはあっという間に全滅だ。

 もし、悪魔達が少数でも逃げていて、援軍を呼んだなら・・・

 そしてその中に72柱がいたら・・・

 この作戦は大失敗。


 色々破綻の危険性が付きまとうが、これしか方法が思いつかなかった。

 だから俺達で出来るだけ魔物を誘導しつつ、殺されないように援助しなければいけない。

 ・・・苦肉の策なのだ。


 「ん」


 ドンッと爆発音が前方から聞こえた。


 「新手か?」

 「悪魔の生き残りかもしれないわね」

 「・・・行くしかないよな」


 爆発音がまた連続で聞こえてくる。

 つまり、戦闘を行なってるってことだ。


 「前から来るわ」

 「おう、大丈夫!」


 いきなり脅威が前からやってきた。

 不可視のナニカが、木々の表面を巻き込んで傷つけていた。

 それがこっちまで飛んでくる。


 見えない脅威が迫ったら、大概それは風の能力だ。

 風の能力はリーチが長い。

 それに、攻撃力関係なく、斬るか外すかの結果的性質しか風の攻撃は持ち得ない。


 余分に大きくジャンプして、それを躱す。

 太い木の枝に乗って、余韻を残さない内に次の枝に飛び移る。

 そうして猿のように移動していく。

 下では、風の能力の影響で木の皮がボロボロに刻まれていた。

 ・・・何故か焦げ臭い。


 「・・・攻撃の余波か」


 悪魔が放ったのか、悪魔が放ったのかは分からないけど。


 「・・・いたわね」


 上から見るとすぐに攻撃の主が見つけられた。

 剣を持った悪魔1人と魔物数頭がいる。

 風は悪魔を中心に展開しているから、悪魔の攻撃だったんだろう。


 悪魔の方は・・・ある程度強いな。

 隙のない構えで剣を持っている。

 剣から強い意思を感じるから、あれは魔剣だろう。

 悪魔の周囲を確認すると、首のない魔物の死体が4、5頭這いつくばっている。

 死体からは出血がない。

 首を見ると、焼けたみたいな跡が切断面に見られた。


 「固有能力?」

 「・・・風と火ね」

 「なるほど」


 切断して、焼いたのか。

 道理で焦げ臭い訳だ。

 きっと、斬られた木の表面も焦げてるんだろう。


 固有能力を使うんなら、それなりに戦闘経験を積んでいるんだろうな。

 風の切断が鋭利なのに、火の能力が弱めなのはまだ固有能力を使いこなせていない証だ。

 なのに、複数の魔物相手に引け目を取っていない。


 「・・・多分魔物、このままだと殺されるな」

 「どうする?」

 「殺ろう」


 迷わず決めた。

 魔物の数を減らされるのは得策じゃない。

 洞窟から新たらしく来た魔物も戦力の内だ。

 ここで奴を殺しておいた方がいい。

 でも、タイムロスもしたくない。

 走りながら、一撃で仕留めたいところだ。


 「ほっ!」


 枝を飛び移りながらバックパックに手を回す。

 中から投げナイフを1本取り出す。

 風の能力の特徴は攻撃範囲の広さだ。

 縦にも横にも広い。

 時には全身を風で包むなんてことも出来る悪魔がいたりする。


 けど、それは能力を直接本人が出している場合だ。

 魔剣に元々付加して使ってる場合は、風の範囲が狭まる。

 即ち、魔剣の周囲と攻撃の軌道先だけが風を出せるラインだ。

 こういう時は、素直に後頭部を狙った方がいい。


 飛びながら照準を合わせる。

 そして、投げた。


 「風よ(ラド)


 プラムがナイフに風を纏わせて、推進力を強くするように働きかける。

 ナイスアシストだ。


 「むっ!!」


 悪魔が後頭部へ迫るナイフに、直前で気付く。

 反応が速い。

 俺とほぼ同等。

 あの悪魔の力量・・・多分、俺と同じくらいだと思う。


 結果的にナイフは剣で弾かれた。

 が、それでいい。


 「ガアアアアアァァァ!!!!」


 ナイフを弾いて一瞬の隙を見たのか、魔物達が一斉に悪魔へ襲っていく。

 1頭目、2頭目の体当たりはなんとか剣で凌ぐが、3頭目の巨大な口が悪魔の胴体を深いとこまで挟む。


 「ぐああああ!!??」


 優劣の関係が崩れ去った。

 魔物が遠慮することなく悪魔の全身に食らいついていく。

 両腕、両足、首、頭。

 全身が見えなくなるまで魔物達が覆いかぶさる。

 モゾモゾ少し痙攣した後、固有能力を使っ ていた悪魔は死んだ。


 「悪魔って不意打ちに慣れてないよな」

 「複数戦なんて、少し昔まで想定されていなかったもの。そんな中で、気配を殺した遠距離攻撃に対応出来るはずもないわ」


 そう。

 悪魔は魔物と戦う機会があまりないのだ。

 戦ったとしても、悪魔側が優位な状態でだ。

 複数戦なんて、不利なことはわざわざしないだろう。

 戦闘経験のなさがあんな死に方を招いたんだ。


 生き残った魔物達が、また前方へ走り出す。

 本能の赴くままに。

 知性などかなぐり捨てて。


 俺達も、出来るだけ離されないようにそれに続いた。

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