表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第11章 父祖の辺獄と地獄篇 エンヴィー領エンヴィー街
147/244

147話 ドマーク洞窟

 クルトとクルド。

 悪魔の兄弟で、そういう名前の奴らがいる。

 このエンヴィー領を統治している魔王、レヴィアタンの狩猟団の団長を任されている2人の悪魔。

 いつもツーマンセルで動き、獲物を仕留める悪魔だそうだ。


 72柱、15位クルト・エヴァンス。

 72柱、16位クルド・エヴァンス。


 1文字しか名前が違わないので、どっちがどっちだか分からなくなるが、それは彼らの名前がついている道の名前で判別すればいい。

 クルト古道は、古い道だから兄のクルト。

 クルド街道は、古道より後に出来たから弟のクルド。


 彼らは現役でレヴィアタンに仕えている。

 今もなお。

 単独で邪悪種や幻想種を倒した経験があるらしく、まともな戦闘ではまず敵わないだろう。

 挑む気も起きない。


 不意打ちならどうだろう?とか考えてみる訳だが、いずれにせよ俺単独では難しい。

 実力がまだ足りない。

 今回の場合、里の長からバックアップしてもらえる猫や、他種族の援助も難しい。

 俺とプラム。

 1人と1匹でやるしかないのだ。


 「・・・よっと」


 俺は今、洞窟の中にいた。

 幻惑の森を抜けて、山3つを超えた場所。

 銀の月の村から、遠く遠くの領土。

 エンヴィー領だ。


 エンヴィー領は険しい山々に囲まれていて、地理的にかなり独立している領土になる。

 その分転移の陣が有効活用されていて、ラース領と同等の量を保持している。

 険しい山々には魔物が棲み着き、高度が高ければ高い程強い魔物が生息している。


 また、鳥型の魔物も多く生息していて、空からの視線にも注意しなくてはいけない。

 空と陸、両方危ない土地だ。

 そんな魔物達が住み着く土地に、直接陸路で行く方法はかなり限定されている。


 1つ目は、ドマーク洞窟と呼ばれる洞窟を使う経路。

 道は狭く、当然光が届かない場所が多い。

 光が届かない場所は、魔物が生息する場合が非常に多い。

 タフで、強い魔物が。


 だから、この場所は普段は使われない。

 その代わり、魔物がその洞窟を使って他の領土を行き来しているのだ。

 それを阻止するため、洞窟の入り口には監視役の悪魔達が常駐している。

 俺達にとっては、魔物と悪魔の両方を相手にしなくちゃいけない修羅場みたいな場所だ。

 そこを使ってエンヴィー領に行くのは、かなり難しい。


 2つ目は、クルト古道。

 ここは、クルド街道が作られる前に作られた、兄弟通路だ。

 今の古道は街道が出来てからあまり手が入っていない。

 従って、道は荒れているし一般の悪魔はまずそこを使わない。


 使うのは、エンヴィー領の魔物を討伐する狩猟団や、他領土から来た悪魔。

 その他フリーの狩人達だ。

 クルト古道には、弱い部類の魔物や原生種が存在しているから、そこで稼いだりするのだ。


 そこはある程度実力がある悪魔が通ることが多いので、あまり選択肢としては選びたくない場所だ。

 もちろん身を隠せば見つからないだろうし、戦っても勝率はこっちの方が高い。

 けど、そこで相手を処理する前に、テレパシーなどで街の方の悪魔に俺の存在がばれるのはあまりよろしくない。


 そして、最後の3つ目はクルド街道だ。

 この道は比較的新しい頃に出来たもので、魔物は出ない。

 強力な結界に阻まれているからだ。


 クルド街道に繋がるのは、俺達が潜入したあのプライド領。

 そこから来る守護団が、エンヴィー領土の支援にやってくるのだ。

 守護団お得意の結界能力を使って街道を守ったり、ドマーク洞窟へ行って共同で魔物をしたりする。

 1番安全な道なので、対して実力もない一般の悪魔もそこを通ったりする。


 ちなみに、クルト古道に繋がっているのもエンヴィー領だ。

 エンヴィーとプライド。

 2つの領土は、他の領土よりも親密に繋がっていると言える。


 だが、ここも俺達がエンヴィー領へ行く道としては適さない。

 結界が外から張られているし、何より1番悪魔の目が多い場所だ。

 プラムが気配断ちの結界が作用するのは、嗅覚、聴覚、触覚までだ。

 視覚までは誤魔化せない。

 悪魔の目が多い場所で、この能力は使えない。

 自殺行為だ。


 空から侵入する手段は取れない。

 街の上空には大魔石による大結界が張ってあるからだ。

 それに、下手に空を飛ぶと目立つ。

 場合によっては、陸路よりも悪魔に見つかるリスクがある。

 街まで一直線で飛べるのはいいが、その間に鳥型の魔物に襲われる可能性もある。

 飛行は無理がある。


 じゃあ、どうするか?

 1番リスクがなさそうなのは、クルト古道だが、今は狩人が大量に害獣を狩る季節らしく、昼も夜も悪魔だらけだ。

 狩人のくせに、集団で襲うもんだから存在感を消すどころの話じゃない。

 ・・・向こうも、こっちも。


 そこで、俺は考えた。

 作戦だ。

 それをプラムに話すと彼女は渋い顔をしたが、最終的には了承してくれた。

 今は、その下準備中。

 準備と言っても、そんなにやることはないけど。


 「だいぶ奥まで来たよな」

 「そうね」


 ドマーク洞窟の奥。

 悪魔も近付かない場所まで、俺達はやってきた。

 この場所がこの地域で最も魔物の全体数が多い場所。


 ここまで来るのには、あまり苦労はしなかった。

 プラムの能力がやはり優秀だったからだ。

 この洞窟は障害物が多くて、身を隠しやすい。


 ここは、崖に穴が開いたみたいな、見た目はただの洞窟だった。

 だが、中に巣食う魔物の数が多いせいで、気配が尋常じゃないことになっていた。

 巣食うもの次第で、その場所は性格を変える。

 この洞窟の性格は狂暴・・・その一言に尽きる。

 前の俺だったら、あっという間に殺されてたんだろうなと思うくらい。


 俺が数年前に行ったウルファンス山脈の氷の洞窟はかなり危なっかしかったが、ここはそれよりももっと危ない。

 ここは氷の洞窟と違って真っ暗だし、所々に小さな底なしの崖があるのだ。

 地形で死ぬこともあるだろう。

 むしろ、割合的にはそっちの死亡数が多い気がする。

 油断が出来ない場所だ。


 それにしても、あの時はスフィーとソフィーがいたんだっけ。

 懐かしい。

 彼女達が生きていたら、今頃どうなっていたんだろうな?


 ・・・あまり考えないようにしよう。


 「ここらでいいか?」

 「奥へ行き過ぎて自滅なんて御免だわ。ここらがベストポジションでしょうね」

 「よし」


 俺達がやろうとしていることは、普通の悪魔から見たら自殺行為だろう。

 けど、やるしかない。

 かなり危なっかしいけど、俺ならやれると思う。

 俺の同調の力があれば。


 俺は真っ暗な中で、バックパックから食料を取り出す。

 本来ならこんな暗闇で何にも見えないんだが、プラムと同調しているおかげで、火を点火することなく普通に周囲が見えている。

 猫の目って素晴らしい。

 どんな些細な光でも拾ってくれるし。


 何より、火を使うとどうしても周囲の魔物が寄ってくる。

 こればかりは隠しようがない。

 だから、この状況では猫の目はかなり重宝するのだった。

 タペタムが人間にもあれば、どんなに便利か・・・


 そんなどうでもいいことを思いながら、食料を全部周囲に投げ捨てた。

 干し肉に限らず、すぐそこで捕ってきた魔物や原生種の生肉とか、異臭を放つ多肉植物とか。

 保存なんてきかなくてもいい。

 この場合臭いが重要なのだ、臭いが。


 「もったいないよなぁ・・・」

 「食料の調達なら、もう慣れたものでしょう?」

 「そうなんだけどさ、一応俺、食糧調達の度に命を懸けてるじゃん。その回数は出来るだけ少ない方がいいだろ?」

 「命を懸ける程、貴方が魔物や原生種に劣っているとは思えないわね」

 「でも、油断したらすぐに致命傷の攻撃が来るだろ?」

 「油断したことなんてあるのかしら?」

 「ないけどさ・・・」

 「なら、大丈夫よ」


 軽くはぐらかされた気がする。

 別にいいけども。


 本当なら少し休憩したいとこだが、今の時間帯は丁度悪魔達がドマーク洞窟のエンヴィー領側入り口にいる頃だ。

 今がベストタイム。

 ということで、休んでいる暇はないのだった。


 「うし、やるか!」

 「ええ」


 俺は魔具を1つ取り出す。

 それは、球体の形をした卵の形をした鉄だった。

 味気ない鉄の卵。

 それと同時に、プラムが気配断ちの結界を解除した。

 閉じ込められていた食料の臭いが、全体に放出される。


 「風よ(ラド)


 プラムが能力を唱えて、食料から発生した臭いを、俺達の周りにある複数の通路へ流し込む。

 風が効率的に臭いを運ぶおかげで、かなり楽して魔物を呼べる。


 「うお!早速来たな」


 複数の通路、その奥から凄まじい足音が聞こえる。

 多分、魔物だ。

 その中にいくつか原生種も混じってるんだろうが、絶対に魔物もいるはずだ。


 魔物を呼び寄せる要素は2つ。

 臭いと、俺の気配だ。


 俺の気配だけで遠方から遥々やって来る魔物がいるのだ。

 それに加えて、突然魔物の肉の臭いがしたなら、間違いなく気付くだろう。

 んで、我先にと俺の所まで走ってくるってわけだ。

 さながら運動会みたいに。


 俺は徐々に近付いてくる足音を聞きながら、プラムとの同調を可能な限り強くする。

 そして、魔具にエネルギーを注ぎ込んだ。


 その直後、魔具は周囲に拡散した匂いを一点に集め始める。

 この魔具は、太陽の誉れを(シゲル)の能力が付加された代物だ。

 これを使えば、周囲にある自然の要素を集めたりすることが出来る。

 チャントを付加すれば、誘導だって出来る。

 この魔具は第2段階までのチャントが付加されているタイプだった。


 ドドドドドと地鳴りみたいに走っている音がでかくなっていく。

 もうすぐだ。

 俺は出口の方向に向かって、走る態勢を整える。

 そして、その時は数秒後に訪れた。


 「今よ!」


 プラムの合図と同時に、俺は全力で走り出す。

 遠慮なしの全力疾走だ。

 足を崩しやすい地形を猫の柔軟性を利用して、難なく駆け抜ける。

 背後を一瞬見てみると、多種多様な魔物達が俺目掛けて一斉に追いかけてくるのが見えた。


 「ひえぇ!?」


 思わず変な声が出る。

 気持ち悪いのだ、魔物達が。

 長く光に当たっていないせいか、目は退化して肌は白い奴が全体的に多い。

 涎を垂らして、ニヤニヤしている奴らが殆どだ。

 その中には魔物を狩る魔物として有名なのイーター種・・・闇の器の捕食者(ブラックイーター)勁烈なる器の捕食者(ロックイーター)がいた。


 「後ろを見ずに走りなさい!」

 「言われなくても!」


 この魔物の数は流石にマズイ。

 魔物の波に飲み込まれたが最後、俺は体を貪り食われてジ・エンドだろう。

 この感覚は覚えている。

 ラース街で、後ろからヴァネールが襲ってきた感覚だ。

 死が、すぐ後ろから迫っていた。

 黒い波となって。


 「うおおおおお!!!」


 走る。

 全力で。

 この洞窟に来た時は慎重に進んでいたから、奥まで着くのに数時間かかった。

 今は車並みのスピードで出口に一直線だから、もう早いのなんの。

 でも、魔物達も俺とほぼ等速で追いかけてきていた。


 思い出す。

 ブラックイーターがダゴラスさんにピッタリとくっついて走っていたことを。

 魔物は現世のチーター並みに早く走る身体能力がある。

 チーターはあくまで短距離しか最高時速をキープ出来ないが、魔物は違う。

 ずっと最高速度を保つ迷惑な奴らだ。

 無駄に・・・本当に無駄にタフな奴らなのだ。


 岩の細かい突起に注意して、最小の動きでそれらを避けていく。

 無駄に左右にぶれはしない。

 俺が走るルートは真っ直ぐ。

 空気抵抗を最小限にして走る猫をイメージして、どんどん出口へ走っていく。


 「うお!?」


 ブラックイーターが能力を行使して、俺に遠距離攻撃を仕掛けてくる。

 黒い霧で構成された槍を飛ばしてきたのだ。

 それがすぐ横を通過して、俺の頬を掠る。


 「プラム!」

 「大丈夫よ!」


 さらに2撃目が背後からやってくる。

 軌道は俺の背中ピッタシ。

 確実に当たる。


 「守りの壁よ(オセル)!」


 プラムが斜めに結界を張って、黒い槍に衝突させる。

 結界はその一撃で砕けたが、軌道が変わって俺のすぐ横にぶち当たった。

 岩が砕けて破片が散るが、猫の目で見切って避けきる。


 これなら行ける!

 プラムが守り、俺が走る。


 かつて、ダゴラスさんやララがやっていた、おんぶ逃走作戦。

 今度は俺が運ぶ役目だ。

 この調子なら、出口まで持ちこたえられる!


 「こんのおおお!!!」


 後ろから激しい遠距離攻撃が襲う中、俺が進む先に一筋の光が見えた。

 出口だ。

 エンヴィー領へと出る出口。

 あそこには、多くの悪魔達がいる。


 光がどんどん大きくなっていく。

 猫の目では受けきれない月の光。

 そして、出口にたどり着く瞬間。

 俺の視界が真っ白に近い状態になる中。


 俺達は、洞窟を飛び出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ