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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第10章 父祖の辺獄と地獄篇 銀の月の村
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144話 カイドウの贈り物

 死とは、意思がなくなることだと思ってた。

 生きている内に、この世に残した足跡しか死んだ者が生きていたという事実を確認出来ないと。

 でも、違った。


 意思は残る。

 関わった者達の中に。


 血の繋がりはその代表例だ。

 自分の意思が血として脈々と受け継がれていく。

 例え、そういう家族の繋がりがなくってもいい。

 記憶に留まり、心に残り、その者の行動・・・運命を変えたなら、それは死んだ者の意思が確かにそこにある証だ。


 カイドウの父親と同調して、離れた時。

 俺はあの風前の灯火だった意思の力をまだ体内に感じている。

 悲哀・・・だが、後悔は最後には残らなかった。

 そんな意思が、精神と融和していた。


 何故か、気持ちが清々しい。

 憎しみに行動を支配されていたはずなのに・・・


 パラメーターが偏っていたのが、調整されたような。

 とにかく、俺はあの後精神的に調和を保っていた。

 問題行動はなし。

 うまくやっている。

 そうして宿で2日。

 カイドウのじいさん猫が、宿へやってきた。

 小さい背中に大きな布で包んだ、長く緩やかなカーブを描いたひし形状の物体を背負って。

 丁度、俺とプラムとシトネで雑談をしていた時だった。


 「あの時はすまんかったの」

 「いや、全然」


 あの時から、俺も何かが変わった気がする。

 それはカイドウも同じみたいで、以前より雰囲気に生気が戻った気がする。

 カイドウが他の猫から変わり者だと言われた理由・・・もしかして、カイドウの父親のことも関係していたかもしれない。


 ストレスは宿主を変えさせる力を持つ。

 それは向上心にも変換出来るし、逆に自身を衰弱させる要因にもなったりする。

 感情に支配されなければ前者に。

 支配されれば後者へと変化していくだろう。

 カイドウは少なくとも、前者みたいだった。


 俺は・・・どうなのだろうか?

 この俺の力。

 その影響を受けているという事実。


 アンバランスな力は自壊を招くだけだ。

 諸刃の剣。

 同調という力は、もしかしたら安易に使っていいものではないのかもしれない。


 「あの後、死体は?」

 「燃やして骨は風に散らした。そうした方が、自由じゃろう?解放されたみたいで」

 「俺もそう思うよ」


 解放された。

 そうであってほしいと俺も思う。


 「で、何の用?」


 プラムが用件を聞く。

 聞けば、プラムとカイドウの仲はビジネスライクな関係だったらしい。

 カイドウの父親の件、あの取引は最初、プラムから持ち掛けられたことだった。


 彼女が、俺を助けて黙認する代わりにカイドウの父親を覚醒させる。

 そんなことが、俺が幻惑の森に行っている間に行われていたらしい。

 多分、宿でプラムが俺を止めてくれなかったのは、あの時俺が殺気を出していたからだと思う。

 プラムは殺気を出していようがいまいが、俺の肩に相変わらず乗り続ける。

 彼女が、俺の精神が異常か正常かの判断指標になることはないのだ。


 「お礼じゃ。お礼に来たのじゃ」

 「・・・確かに言ってたな」

 「お礼ってなんです!?」


 シトネが目を輝かせる。

 俺が思うに、コイツもコイツで猫界隈では変わり者として扱われているんじゃないだろうか?


 「お前にあげる物ではないがの?」

 「でも、期待しちゃうじゃないですか!」

 「いや、シトネは無視していいんで」


 俺のその言葉にシトネが不満そうに抗議の声をあげるが、それも無視した。

 プラムに至っては、最初から無視してたもんな・・・


 カイドウは背中に背負っていた、黒い布に包まれた物を器用に下ろす。

 ゴロンと転がったそれは、見て分かる程の重さだった。

 よく、そんな小さな体でここまで持ってきたなと感心する。

 しかも、目が見えないのに。


 「これは?」

 「刀剣じゃよ」

 「武器?」


 武器か。

 確かに、そういうのを送られるのはありがたい。


 黒い布を触ってみる。

 中から、力強い意思が感じられた。


 「魔剣か」

 「見もせずよく分かるのお」

 「そういう力なんだよ、俺のは」


 黒い布を広げていく。

 そうして出てきたのは、1本の西洋剣みたいな武器だった。


 長さは、俺の背丈の半分。

 扱いやすい長さだ。

 重さも普通。

 だが、刀身の色が黒一色だった。


 俺の持ってる魔剣、暗夜黒剣とどことなく似ている。

 魔剣から流れてくる意思も、似たり寄ったりだ。

 同種と言ってもいいかもしれない。


 「すごく強い魔剣だな」

 「黒錠剣。闇の三振りの1本。君の持っておる暗夜黒剣の兄弟剣じゃ」

 「兄弟?」

 「闇の属性は5種類の属性能力・・・火水風氷土を均等に融合させ、太陽の誉れを(シゲル)の集約能力で圧縮させた能力じゃ。そうそう悪魔が作れるような魔剣じゃないからの。闇の能力を直に扱えた悪魔が、当時3本纏めて作ったのじゃ」


 えーと、認定書でも見たな。

 魔具は悪魔の手で作られることもあるって。

 なら、カイドウの言っていることも理解出来る。


 「でも、6種類も能力を混ぜて作る固有能力を、直接扱える奴なんているんだな」

 「72柱の第5位、吸血王ヴラド。今はもういないけど、数百年前に地獄にいた、吸血鬼と悪魔の混血だった男よ」


 プラムが説明してくれる。

 彼女は大概のことを知っているし、俺にも考えれば分かるように説明してくれる。

 なんだかんだで世話焼きなんじゃなかろうか?


 それにしても、ヴラド・・・

 聞いたことのある名前だ。

 主に、現世でその名が知られていたと思う。


 15世紀のワラキア公国で、オスマン帝国と争っていた歴史上の人物。

 それこそ、現世での吸血鬼のモデルになった人だ。


 「確か、数百年前は吸血鬼が害獣指定される前だろ?悪魔と吸血鬼のハーフなんていたのか?」

 「いたのよ。強大な悪魔が、吸血鬼と仲睦まじくくっついてね」


 強大な悪魔ね。

 なるほど。

 悪魔は力が増すと、自身の欲求が出てくる傾向にある。


 「その強大な悪魔は吸血鬼と夫婦かなんかになりたかったとか?」 

 「そうよ。そうして生まれたのが最悪の悪魔の1人、ヴラド。彼は現世へ行くことに成功して、人間の世界で伝説になってる。貴方も聞いたことがあるんじゃない?」

 「あるよ。超有名人だった」


 別名串刺し公。

 敵も味方も串刺しして処刑したから、こんなグロイ2つ名がついた。

 もし現世の歴史に伝えられていることが本当なら、そのヴラドって72柱の悪魔は残虐だったってことになるな。


 数年前にダゴラスさんが言っていたが、当時の吸血鬼は暴走しがちだった。

 吸血衝動のせいだ。

 現在、吸血鬼が悪魔と共存出来ているのは、マリアさんの能力と、悪魔と混血して吸血衝動を和らげたためだ。

 ここまで来るのに、涙ぐましい努力があったに違いないのだ。

 ララがどうして種族の誇りに拘っていたのか、俺も納得出来る。


 「そのヴラドが作った闇の兄弟剣の3本は、暴走した悪魔が作った曰くつきの代物として、長らく隠匿という形で封印されていたのじゃ」

 「でも、ここにあるぞ」

 「封印を破られて、72柱の悪魔に奪取されたのじゃ。そこから、奪い奪われ、末に3本の闇の剣は行方不明になったのじゃよ」

 「流れてここに来たのか?」

 「この魔剣の入手した経緯を話すと、長くなるからの。そういうことにしておいておくれ」


 ・・・説明するのめんどくさいんだろうな。

 まあ、色々あったんだなってことにしておこう。

 

 「わしにはこの世の未練がなくなった。従って、わしはこの村の守護役をやめようと思う。だから、これはもういらないのじゃよ」


 カイドウが昔を思い出しているのか、懐かしそうな目で魔剣を見る。

 渡すのが惜しいわけじゃなく、ただ懐かしがっているみたいだ。


 「じゃあこれ、使ってたんだな」

 「魔石がないと、すぐに枯渇する程燃費が悪かったがの」

 「やっぱりか。こっちの持ってる魔剣もすごくエネルギーを使うんだよ」

 「元々、2種類の固有能力ですら、エネルギーの消費は激しい。それを6種類も使うのじゃ。常者には扱えまいて」


 きっと、72柱クラスが使って初めて真価が発揮される魔剣なんだろう。

 俺が持ってても、ある意味宝の持ち腐れなのかも。


 「なら、2本も扱いきれないってことじゃないか」

 「何を言うか。君には同調という力があるじゃろうに」

 「でも、俺は1本しか出来ない・・・よな?」


 途中から、疑問形になる。

 そういえば、複数と同調出来るのか試したことはない。

 ・・・もしかしたら、出来るかも。


 「思い当たるフシはあるわけじゃな」


 カイドウが見透かした風に言う。

 全く、その通りだ。


 「貴方も、自身の力について、知識を持ったほうがいいわ。また、幻惑の森でのことが起きないとも限らないのだから」

 「だよなぁ・・・同調する度に、なんか俺、不安定になってる気がするんだよな」


 そんな不安要素を抱えている状態で、2本同時か・・・

 ますます不安だ。


 「でも、もらっておくよ」


 せっかくあげると申し出てくれているのに、断る理由はない。

 貰えるものは、何でも貰うべきだろう。

 こういう時に、遠慮はしてはいけない。

 逆に失礼だし。


 「2刀流か。出来るかな?」

 「同調すると、勝手に体が動いてくれるんでしょう?大丈夫よ」

 「そりゃそうなんだけどさ」


 でも、いきなり実戦で使う気はない。

 まずは様子見だな。


 「なあ、聞きたいことがあるんだけどいいか?」

 「なんじゃ?」

 「村で邪悪種を管理してるんだろ?」

 「わしが世話しておったの」

 「カイドウが仕事を辞めるんなら、邪悪種はどうなるんだ?」

 「誰かに引き継がれるじゃろうな。その猫を決めるのは、村の長の役目じゃ」


 村の長が猫の役目を決めてるのか。

 初めて知ったぞ。


 「恐らく、屋敷に常駐している猫から選出されるでしょうね」

 「そして、わしから力を渡せば、晴れて守護役の猫の誕生じゃ」

 「力を渡すってどうやるんだよ?」

 「・・・君達が村を出るのはいつごろじゃ?」

 「後、2日後よ」


 プラムがカイドウに言う。

 彼女の目が、何故かカイドウじゃなく俺に向けられている。

 ・・・何だろう?


 「なら、丁度力の受け渡しと合致するのお」

 「ん、同じ日なのか?」

 「そうじゃ。まあ、村を出ていく前に、見ていくといいじゃろう」


 プラムの視線が気になる。

 なんで、俺の顔を見るんだよ。

 ・・・いや、別に見てもいいんだけどさ。


 「貴方、見るの?」

 「ダメか?」

 「いえ」

 「・・・なんだよ?」

 「何でもないわ」


 彼女の態度が少しおかしい。

 何か、気になることでもあったのか?


 「明日から、屋敷入りかしら?」

 「そうじゃ。だから、もうそれ以降は会えぬの。力の受け渡しの時が最後じゃ」

 「・・・分かったわ」

 「ふむ、お互い大した交友は持たなかったが、出会えてよかったと思ってるでの。そのパートナーをしっかり支えてくれ」

 「言われなくても大丈夫よ」


 カイドウがプラムの言葉を聞いて、立ち上がる。


 「もう帰るのか?」

 「やることがあるからのう」


 そう言って、カイドウがトコトコ近付いてくる。


 「別れの挨拶じゃ」


 カイドウが片手を上げて、招き猫みたいなポーズを取る。

 毛並みは年のせいか艶がなかったが、それでも長い年月を経たその姿は従来の招き猫よりもよっぽど威厳だった。

 こっちの方が福が来そうな感じ。


 「猫ってそんな挨拶の仕方なのか?」

 「いやいや、人間はこう挨拶するとプラムから教わっての」


 プラムが教えたのか。

 最近思うが、プラムって現世の知識が結構あるよな。

 彼女も現世へ何らかの形で行ったことがあるんだろうか?


 「オーケー。じゃ、握手だ」


 猫は手を握れない。

 だから、俺がカイドウの手をしっかりと握った。

 そこから繋がる、カイドウの意思。

 それは何かに対して、決意したような堅くて壊れそうもないものだった。


 カイドウが、何に対して決意したのか?


 後日俺は、それを直接目にすることになる。

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