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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第10章 父祖の辺獄と地獄篇 銀の月の村
139/244

139話 休息

 銀の月の村。

 そこは、かつて害獣として追われた陽叉、夜叉、月叉の3種族の内、銀叉が秘密裏に作った場所だ。


 銀叉には悪魔と同等の知能があり、言葉による意思の疎通が可能なため、創造種と区別されている。

 戦闘力も悪魔と同様に個体差はあるものの、強者から弱者まで様々だった。

 だが、テレパシーのチャント派生・・・ジャミング能力に関しては、銀叉の一族はみんな適性があった。

 知識付与にまで発展させた者はやはり稀だが、精神の干渉妨害だけは、殆どの者が習得することが難しくはなかった。


 悪魔のコミュニケーションは、心を読むことから始める。

 それは相手が他種族で、悪魔側しか心が読めなくても変わらない。

 むしろ、アンフェアな関係があることで、悪魔側は安心さえ覚える。

 そこで敵意がなければ晴れて、悪魔に友好的な創造種として歓迎される。

 ただ、月叉は違った。


 月叉に対しては、心がうまく読めなかった。

 故に、本当に味方かどうかの判別がつきにくくなった。

 当時の月叉一族は悪魔側に対してこれっぽっちも興味はなく、攻撃的でもなんでもなかった。

 だが、心を読まれることはシャクだったため、邪魔してやったそうだ。


 それが原因だったかは定かではないが、月叉に対して信用が出来なかった悪魔側は、月叉を魔物として扱った。

 その対応に怒った月叉側が、悪魔の街の結界をすり抜けて自由奔放に街へ出入りしたのだ。

 他の多種族と同様に。


 猫は閉鎖的なことを嫌う。

 肉体的にも、精神的にも。


 隔離の監視を逃れてやってくる月叉の一族に対して、悪魔の魔王は侵入してきた1匹の月叉を捕らえて、断罪した。

 つまり、その猫の命を奪ったのだ。

 隔離した存在がどうなるかの見せしめとして。

 街へ許可なく侵入した者を、害獣としてみなすと。


 それに反発した月叉の一族は総出で悪魔側に抗議。

 最初は言葉による戦いだったが、お互い平行線のまま。

 長く続く話し合い。

 業を煮やした月叉の若者の集団が戦闘を仕掛け、両者に多数の死者を出してしまった。


 その時点で、やはり月叉の一族は危険だと認識。

 魔王が月叉を害獣として正式に認定してしまった。


 そして、狩人による安定のための狩りが始まった。

 数年後には、月叉の殆どが命を散らし、残った数はわずか100匹以下だったという。


 何故、ここまで追い込まれて月叉はこの村で平穏に暮らせているのか。

 それは、マリアさんの存在が大きく関わっている。


 あてどもなく放浪する月叉は、ある時マリアさんに出会った。

 その時、猫側は殺されると思ったらしいが、彼女は逆に安全に暮らせるであろう幻惑の森で暮らすことを勧めた。


 そこに住むまでに、色々な葛藤が猫にはあったらしい。

 狭い場所で住むこと。

 仲間を殺された恨み。

 そもそも、マリアさんを信用出来るのかどうか。


 けど、結局猫達は彼女に従った。

 従う他なかったからだ。


 後に、幻惑の森内部で、誰にも知られることなくここへ住み着いていく。

 結界を張り、魔物の侵入を阻み、村を作った。

 幸い、この幻惑の森には悪魔の手が入っていない。

 そのせいで、手つかずの資源が数多く残っていた。

 その中には、魔石もあった。


 大量の魔石で結界やライフラインを整えつつ、月叉は少しずつ数を増やしていく。

 その間、マリアさんは月叉が絶滅したという嘘を悪魔達に刷り込ませる。

 危険な生物は狩りきったと。

 そうして、月叉の猫達は安息の時を手に入れたのだった・・・というのが、俺の聞いた話だ。


 今では、好戦的な猫もいなくなり、むしろだらけ切った生活を楽しんでいる場面が所々で見られる。

 もし、戦いを求める好戦的な猫が現れたとしても、それは幻惑の森へ行けばいい。

 魔物自体も、幻惑の森の環境に適応して強くなっているからだ。

 

 うまい循環の生活。

 猫の世界はそんな怠惰な空気で飽和されている。

 そんな理由だからだろうか?

 こんなに宿の従業員の猫がだらけきっているのは。


 「・・・いらっしゃいませ・・・」


 ボソッと声が聞こえた。

 答える猫従業員の声に覇気がない。

 テキトーなのが、俺にもよく分かった。


 「シトネとかいうジャリから話は聞いてます・・・1番奥に部屋、準備してますから・・・行ってください・・・」

 「ちょっと!ジャリはないんじゃないです!?」

 「む・・・いたんですか。失礼しました・・・」


 欠伸をしながらそう言うもんだから、シトネが抗議したがっていた。

 珍しく俺もシトネの肩を持ちたくなる。


 「案内は?」

 「はっ?」


 何言ってんの、お前?みたいな口調で言われた。

 相当なめんどくさがりだな・・・

 と言うか失礼な奴だな。

 若干イラッとくる。


 「じゃあ、支払いは?」

 「何も出さないでいいですよ・・・大おば様の使者からも言われてますので」


 話を通すのが早いな。

 スムーズすぎるぐらいだ。


 「では、ごゆっくり」


 それ以降、猫従業員は俺達を見ることなく正反対の方向へ体を向けて寝てしまった。

 これ、宿として成り立ってるのか怪しい。


 廊下を渡って言われた通りの部屋に入ってみると、少しかび臭い客間のような部屋にたどり着いた。

 ・・・かなり古臭い。

 掃除してないのか?

 ・・・してないだろうなぁ。


 明らかに猫用ではないテーブルの前にドカッと座る。

 プラムとシトネもその場で床へ降りた。


 「むう・・・何ですか!あの猫は!」

 「お前が選んだ宿だろ」

 「最初話した猫はあんなじゃなかったんです!」

 「別の猫か?」

 「そうです!」


 ま、運の悪い猫に当たったってことだろ。


 「俺もイラついたけど、気にしない方がいいぞ」

 「何でですか!」

 「キリがないからだよ」


 ダメな奴はどこにでもいる。

 人に悪意を振り撒かないだけまだマシだろう。

 そう、人間よりはだいぶマシだ。


 「私も同感だわ」

 「ううう・・・」


 1人と1匹の意見に押されて、何も言えなくなる1匹。

 気持ちは分かるが、ここは我慢だ。


 「悪魔は我慢を覚えず。他種族はそれ自体を覚えず。自己の尊さはどちらにも偏らず、と言ったとこかしら?」

 「どっちもどっちだな」

 「私は人間側の考え方は、合理的だと思うわ」

 「俺は正直どっちも嫌いだよ」


 プラムがクスクスと笑いだす。

 彼女が愉快になっている証みたいなものだ。

 愉快になる原因は、主に彼女の予想を裏切ったことだ・・・と本人もとい、本猫は言っていた。


 「神様にでもなる気?」

 「そんなに無茶なこと言ったか?」

 「そんなことを言うのは、天使ぐらいね」


 天使、ねぇ。


 「プラムは天使について、何か知ってるのか?」


 話の方向をあえて変えてみる。

 せっかくの機会だ。

 聞いてみてもいいだろう。

 猫の気まぐれがこない内に。


 「悪魔の言う主張ぐらいは聞いたことがあるわ」

 「・・・何て言ってたのさ」

 「想像して、創造しつくしたせいで、完全になってしまった種族。穢れを全て私達転生生命体に押し付けた害獣・・・らしいわ」

 「誰がそんなことを言ったんだ?」

 「ラースの魔王。代々そう主張してきてるのよ」


 代々か・・・

 悪魔の寿命は長いから、多分俺からしてみれば遥か昔なんだろうな。


 「知ってるのはそれだけよ」

 「そっすか」


 基本的に、ここの悪魔達は天使について何も知らない。

 知っていても、天使に対する否定的な言い伝えしか聞けない。

 きっと、悪魔はみんなそんな感じなのだ。


 偏見に満ちている?

 種族としての価値とは?

 そもそも、価値なんて存在するのか?


 世界はよく分からない方向で飽和している。

 考え方が違うからだ。

 そんなどうでもいいことを思っているような、そんな感じ。


 天使の主張は悪魔と食い違う。

 食い違っても、他種族だから仕方ないのか?


 天使は天使。

 悪魔は悪魔。

 それぞれ違うからこそなのか・・・


 「悪魔に対する俺の偏見って・・・」

 「いきなり何よ?」

 「いや、魔王とか事情を知ってそうな悪魔は、どうして天使を嫌うのかなって」

 「事情を知ってるからでしょう?」

 「それはそうなんだけどさぁ」


 あまり具体的な回答ではない。


 「どんな事情さ」

 「知らないわ」

 「だよな」


 知らないものは仕方ない。

 話の方向を変えることにする。


 「それにしても、村の長は相変わらずだったな」

 「長く時を生きた存在と言うのは、中々性質を変えられないものだわ。時間に比例してね」

 「重い腰は中々上がらないってか?」

 「そういう見方も出来るわね」


 だから、社会も変化していかない、と。


 「で、これからどうしようか」

 「何もすることはないわ。ミレイのばあ様の指定した時間まで待つしかないわ」

 「1週間までやることなしか」


 それはそれで辛いかもしれない。

 俺は手持無沙汰だと、少し困るタイプなのだ。


 「とりあえず、傷を癒しなさい?」

 「こんな傷、1週間もいらないよ」

 「なら、どうしようもないわ」

 「むう・・・」


 余った時間、何か出来ないだろうか?


 プラムがそっぽを向いてしまう。

 俺との応対に飽きた証拠だ。

 他の猫と同じように丸まって、寝てしまった。


 「なあ、シトネ・・・っていないし」


 シトネはどこかへ行ってしまった。

 ・・・どこへ?


 「どこへ行こうと勝手だけどさ」


 俺も猫達に習って、寝ることにした。

 その場で何も敷かずに横になる。


 旅をしていると、どこにいて、どんな姿勢でも寝られるようになる。

 ゴツゴツした岩で寝ることもしょっちゅうだ。

 こんな平らな床であれば、まず寝ることに苦を感じない。

 要は慣れだ。


 瞼を閉じる。

 すると、意識が闇へと落ちていく。

 すぐに寝られるのも、旅をしていて伸びた長所の1つだ。


 そうして俺は、暗闇の世界へと落ちていった。

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