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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第10章 父祖の辺獄と地獄篇 銀の月の村
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138話 猫が住む村

 「ここに来たの、1年ぶりか?」

 「あたしは1年ぶりです!」

 「私達は1年とちょっとね」


 1年ちょっと・・・

 俺にとっては、1年に感じられない。

 体感的にはもっと短いのだ。


 大魔石と共にこの世界から消えていた時間と、実際に俺が意識していたスティーラとの時間は違う。

 こっちが長くて、あっちが短い。

 だから周囲との感覚にギャップが感じられる。

 それを表に出すようなことはしないが、違和感は確かに俺の中に残っている。


 「いやー、1年ぶりですけど、全然変わらないですね~」

 「そんな簡単には変わらないだろ。特にお前らは寿命が俺より長いのに」

 「その通りだわ」


寿命が長い者は、大概時間を感じ取る感覚も変わっている。

犬と人間の、一生の感じ方が違うのと同じことだ。


 俺達が横切る建物は、殆どがバラックみたいなボロッちい家か、江戸時代を感じさせる長屋みたいな類のものばかりだ。

 この村は古臭い何かを感じる。

 そこに住んでる奴も住んでる奴で、通り過ぎる猫達はみんな年季を感じさせる風格を醸し出している。

 雰囲気はおじいちゃん、おばあちゃんのよう。

 話してみると、まだ若い奴らばかり。

 銀叉の猫はそんな連中ばかりだ。


 どの猫も、俺達をチロッと見て一瞥するだけで反応が薄い。

 その中には1年前に見知った奴も幾らかいたが、他人も同然みたいな態度を取るばかり。

 まさに、猫って感じがする。


 「相変わらずだな」

 「村の様子が変わるということは、村人が変わったという証拠。村が変わらなければ、それもまた然りと言っていいと思うわ」

 「そうだな」


 プラムに軽く同意する。

 それに、ここはトラブルが持ち込まれないように、幾つも予防線を張っている場所だ。

 色々な意味で堅牢な場所なのだ。


 そうして十数分間歩くと、村の中に大きなお屋敷があるのが見えた。

 お屋敷と言っても、ボロいのは変わらず。

 建物の規模が大きいだけのものだ。


 「大おば様の家ですね・・・」


 シトネが急にショボンと声のトーンを落とす。

 まあ、シトネからしてみればあの猫は苦手な部類に入るだろう。

 俺だって苦手なのだ。

 無理もない。


 シトネはピョンと俺の肩から降りる。

 どうやら俺達とは一緒に屋敷へ行かないみたいだ。


 「わたし、プラムさんに頼まれてた用事を済ましておきます」

 「頼まれてたことって?」

 「宿探しですよ。1週間ぐらい泊まれる場所を探しておきます!」


 そう言って、シトネは全速力で屋敷とは反対方向へと去って行った。


 「・・・余程村の長が苦手なんだな」

 「そうね。ここの猫達は大概そうじゃないかしら」

 「嫌いではないんだろ?」

 「ただ、苦手なだけよ。貴方も1回会ってるから分かるでしょう?」


 村の長は厳格だ。

 それは銀叉という一族全体を視野に入れて発言する責任からくるものであり、彼女個人からくるものじゃない。

 だからプライベートでは優しいものの、正式な場では威圧感がプラムと並んで半端ないのだ。

 プラムには言わないが、村の長とプラムは似た者同士のような気がする。


 屋敷の入り口まで歩いていく。

 入り口の前には、2匹の猫がどこを見ることもなく寝そべっている。

 丸くなって。


 「・・・一応監視役なんだろ?」

 「敵がいないのに、監視なんてやる意味ある?って思ってる猫よ」


 ぶっちゃけてるなぁ・・・


 「さっさと行くわよ?」

 「おう」


 気にしても仕方あるまい。

 惰眠を貪る猫を無視して、屋敷の庭へ入る。


 やはり、ここも1年前と何にも変わっていない。

 庭の風景は、日本庭園そっくりだ。

 建物は古臭いのに、庭だけやけに丁寧に整えてある。


 俺は直接見てないからなんとも言えないが、村の長が庭いじりにはまっているらしい。

 猫のくせにだ。

 変わっているといえば、変わっている。

 猫から見れば、異端の部類らしい。


 「お邪魔します」


 誰もいないが、一応そう言っておく。


 「こっちよ」


 プラムに従って、中へ入る。

  ・・・土足で。

 日本のような建物だけに、靴を脱ぐかと思いきやそんな決まりはないそうなのだ。

 と言うか、猫に土足も何もないもんな。


 長い廊下を渡る。

 幾つか部屋があり、その中では猫が寝たり食ったりを好きなようにしているが、俺達にまるで興味がないのか、完全に無視している。

 オールスルーだ。

 こっちの方を見もしない。


 「前にも思ったんだけどさ、もし敵が来た時にこれ、大丈夫なのか?」

 「全く問題ないわ。屋敷に常駐している連中は、魔物くらい倒せるのよ?」

 「・・・へぇ」


 猫達からは強い雰囲気は感じ取れない。

 でも、プラムはそう言うってことは、そっちが正解なんだろう。


 「おっと」


 床に転がっている猫に気を付けながら、廊下を渡る。

 普通に歩いてると、蹴ってしまいそうで怖い。

 そのまま1番奥の部屋へ。

 その部屋と廊下を遮る障子には、高そうな材料が使われているのが分かる。


 「失礼しまっす・・・」


 恐る恐る中へ入る。


 「・・・いらっしゃい」


 そこには、古ぼけた・・・という他ない印象を感じる、1匹の猫がいた。

 見た目はそこらの猫と変わりない。

 見た目は灰色の毛で覆われていて、プラムと同じ金の瞳がギラギラと輝いている。

 ただ、他の猫とは違って強者特有の空気を身に纏っている。

 プラムがさらに長い年月を経た姿と言われれば、しっくりくるかもしれない。


 「久しぶりです」

 「そうだねぇ、坊ちゃん」


 思い出した。

 俺の事を坊ちゃん扱いだったな、この婆さん。


 「こりゃ驚いた。また随分と大きくなったもんだねぇ」

 「そうですか?」

 「若者の成長は嬉しいもんだよ。例え、それが他種族でも」


 俺をしみじみと見た後、俺の肩に乗っている彼女を見始める。


 「お嬢ちゃんは相変わらずだねぇ」

 「・・・」


 プラムはそっぽを向いていた。

 今更話すことなんかないんだろう。

 俺の肩で眠る気満々だ。


 「まあいいさ、旅の準備をするんだろう?」 

 「はい」


 この婆さんに何を隠そうと無駄な気がする。

 俺達のやろうとしてくることをあっさり見抜くからだ。

 プラム曰く、心を読んでいる訳じゃないみたいだが・・・


 「坊ちゃんはマリアちゃんの形見の1つみたいなものだからねぇ。遠慮することはないよ」

 「いつも、すいませんね」

 「その分昔に恩は受け取っているから、安心しなね」


 優しい言葉が、ゴリゴリと強制的に俺の心へ刻まれていく。

 俺はこの言葉を拒否するという選択肢を持っていないみたいな感覚になっていく。

 この婆さんと話しているといつもそうだ。


 「ここを寝泊りに使いなと思っていたけど、娘が坊っちゃん達のために探しているみたいだから、これは心配ないねぇ」

 「よく分かりますね」

 「なぁに、お嬢ちゃんが愛娘を1匹連れて行った時から大体分かっていたさね」


 ・・・それ、1年前じゃないのか?

 婆さんの言っていることが本当なら、それはとても恐ろしいことだ。

 だって、実際に当たってるのだから。


 「坊っちゃん達が必要そうな道具は、こちらで用意しようかねぇ」

 「本当に助かります」

 「いいんだよ」


 前回の時にも、同じように魔石なんかを用意してくれたのだ。

 貴重な物なのに、惜しむことなく。


 「道具は・・・そうさね、1週間以内に揃えようかい。1週間後の丁度この時間、またここにいらっしゃいな」

 「お願いします」

 「その間坊っちゃん達はゆっくり傷を癒すといい」


 ここは休息にはうってつけの場所だ。

 大概の物はこの村で手に入る。

 不自由することはないだろう。


 「それじゃあ、もう出てっていいよ。そろそろ庭いじりの時間だからねぇ」

 「分かりました」


 猫の手でどう庭を弄るんだ?と思ったが、気にしないことにした。

 ここの猫達の生態は謎だ。


 どうやって家を建てたのか?

 どうやって日用品を揃えているのか?

 どうやってこんな隔絶された場所に村を築いたのか?

 謎だらけだ。


 疑問の度に、質問しても仕方ない。

 それに、この場からは早く出ていきたいし。


 「それじゃあ、失礼します」


 そそくさと廊下へ出ていく。

 そんな俺の様子を、婆さんは襖が閉まるまでずっと見ていた。


 猫を踏みつけないように気を付けながら来た道を戻っていく。

 そうして俺が一息ついたのは、屋敷の門を潜って数分後だった。


 「・・・ふぅ」

 「疲れた?」

 「何でお前、あの婆さんの時は黙りこくるんだよ」

 「気に入らない奴とは話したくないの」

 「あからさまだなぁ・・・」


 村の長は優しい言動とは裏腹に、佇まいからしてもうやばい。

 落ち着いて話していられる自信がなくなってくのだ。


 例えばこんな話。

 目の前に優しい巨大なワニがいたとする。

 そのワニは話せるし、友好的ではあるのだが、怖さは天下一品だ。

 そんなワニと、落ち着いて話せるでしょうか?

 ・・・答えはノーだ。


 いつ食うとも限らない奴と、信用しあって話せる奴は少数だろう。

 肉食の生態を持っていることを常識として認識されている生物だから、前提からしてもう怖い。

 ましてや、あの婆さんはワニなんかじゃ比較にならない存在感がある。

 優しいおばあちゃんみたいな口調で話すもんだから、ギャップ効果が働いて余計に怖いし。


 「まあ、いいんだけどさ」


 門から少し離れた場所まで行くと、シトネがヒョッコリと現れた。

 いたのが俺とプラムだけと知って安心したのか、また俺の肩にピョンと飛び乗る。


 「大おば様は一緒に来なかったんですね」

 「ああ、たまに外出してるもんな」


 前は俺と一緒にどっかへ行った気がする。

 ブラブラと、何をするわけでもなく。


 「ところで、宿はどうなったんだよ」

 「ちゃんと探しておきましたよ!わたしに感謝してくださいね」


 本当は、村の長の所で泊ってもよかったのだが・・・

 でも、あの婆さんの存在感が漂う屋敷で寝るよりは、そっちの方がリラックス出来ていいか。


 「一応、ありがとう」

 「何ですか!その一応って」

 「別に俺達でも宿は探せたらさ・・・それに、お前が宿探ししたのは村の長に会いたくなかったからだろ」

 「わたし、大おば様に会う必要ありませんもん!」

 「知ってるぞ。村へ帰ったら、長にあいさつしくちゃいけない決まりがあるんだってな」

 「いっ・・・知ってたんですか」


 気まずそうにする彼女だが、それこそ今更だ。


 「別にいいよ。それより、お前が探した宿ってどこだよ」

 「・・・案内します」


 そうして、俺達は宿泊先へと歩くことになった。

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