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この世界でただ1人の人間の戦い  作者: 冒険好きな靴
第9章 父祖の辺獄と地獄篇 とある湖
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129話 星が見える湖

 俺は幸せだったか?

 いや、多分そうじゃない。

 そう思う俺がいるのだから、きっとそうじゃない。


 幸せの種類は人によって様々だ。

 人を助けることの幸せ。

 助けられることの幸せ。

 食べ物を食べられることの幸せ。

 健康でいられることの幸せ。

 結婚する幸せ。

 家庭を持つことの幸せ。

 そんな、色々。


 一方で、こんな幸せもある。

 人を殺すことの幸せ。

 復讐することの幸せ。

 人の物を盗むことの幸せ。

 人を騙すことの幸せ。

 戦争の幸せ。

 破壊することの幸せ。

 そんな、色々。


 どれが正しいかなんて、考える意味はない。

 人によって、様々なのだから。


 時代と主導者によって、それらの価値観は大きく変わるが、その間隔は僅か数百年単位。

 そんな短い期間で、人間は考え方をコロコロ変える。

 個々で見れば、強靭な意志と主張を持つ者もいる。

 が、種として見れば、なんて軟弱な意志を持つ生き物達なのだろう。


 人の考え方が変わる時代の境目と言うのがある。

 その狭間に争いがあり、戦争があり、殺しがある。

 それが終わり、次の狭間の期間まで世界は平和になる。

 平和で塗り固められる。

 そして、あっけなく崩壊する。

 それを何回も繰り返すのが人間の習性であり、終生なのだ。


 心は弱くて、脆い。

 だから簡単に操られる。

 人間は希望を抱くから。


 かつて、人間は光を神に仕立てたらしい。

 けど、それは多分希望なんかじゃない。

 それは世界を構成するルールで、希望とは全くの別物で・・・


 ・・・俺はいつからこんな混沌とした考え方を持つようになったんだろう?

 

 ・・・夢を見ている。

 俺が光になって宇宙に行く夢。

 とても気持ちいい夢だ。

 ずっと見ていたい夢。

 なのに。


 ズバァァァン!!


 夢から現実へ強制的に引き戻される不快な衝撃が俺を襲った。


 ・・・


 6回目。

 目を開けると、俺は水浸しになっていた。

 砂浜に横になった状態で、寝ていたらしい。

 俺がいた位置は、丁度波が引いたり迫ったりする境界みたいな絶妙な所だった。


 「・・・何故?」


 ここはどこなんだろうか?

 また、俺の精神世界?なんだろうか?

 疑問に思って、体を起こしてみる。


 「・・・すごい」


 目の前を見てみると、そこは巨大な湖だった。

 空を見ると、月が出ていた。

 でかくて綺麗な満月。

 そして、その月の周りをキラキラと装飾する無数の星々。

 1等星から6等星の様々な星が、パーティーでも開いてるかのように雄大に光り輝いていた。


 そんな自己主張が強い星々を巨大な湖が反射して映している為、夜なのに綺麗で、幻想的で、美しい風景を明るく演出していた。

 その巨大な湖の近くには三角形の標高が高そうな雪山があり、ここが寒冷地帯だということを教えてくれていた。

 ただし、俺の今いる地面は雪なんか積もっていない。

 背丈の低い草で覆われていたり、所々綺麗な砂浜だったりしている。


 「綺麗だな・・・」


 こんなの、誰が見ても美しいと思わざる負えない。

 こんな場所が俺の生きる世の中にあるのだと思うと、それだけで感動を覚える。

 俺が目にしたのは、そういう滅多に見ることの出来ない稀有などこかだった。


 どこかは分からない。

 思い出せないし、そもそも知っているのかさえ謎だ。


 「・・・ヘックシッ!!」


 でも、体は冷たい。

 体を起こして、直立の姿勢へ。

 服がびしょ濡れで、極めて不快だった。


 「大丈夫ですか?」

 「ん、平気だよ」


 綺麗な透き通る声が俺の耳に届く。

 そうだ。

 前にも大魔石に触れた時、いつの間にか傍に現れたのだ。

 今回も会えることは、当然予想していた。


 「1年ぶりか?スティーラ」

 「そうですね」

 「久しぶり」

 「こちらこそ、お久しぶりです」


 輝く王冠の如きヘイロウを頭に浮かばせながら、天使は俺の後ろに立っていた。

 相変わらず後光が眩しい。

 夜なので、余計に輝いて見える。


 「夜だと一層神々しいな」

 「あら?そう見えますか」

 「うん、見える」


 俺がそう言うと、彼女は少し目を閉じる。

 すると、次第に光は薄くなっていった。

 ・・・どういう原理だよ、と思ったが、考えたら負けだ。

 気にしないようにしよう。


 「なぁ」

 「なんです?」

 「1年前のあの飛行機でさ、お前言ってただろ?時間止まってるって」

 「・・・確かそうですね。貴方がおっしゃる通り、言いましたが?」

 「しっかり2年間経ってたんすけど」


 俺はずっとこのことを、スティーラに言いたかったのだ。

 ずっと気になって、ずっと考えてて。

 1年越しに、やっと彼女に言えた。


 少し、考える表情をした後、彼女はそっか、と言いそうな顔で俺を見た。


 「私、あの時は心象風景の中の時間が止まっているという意味で言ったのですよ?」

 「・・・え?」

 「外の時間は貴方には止められません。或いは、そういう能力を持った者と同調すれば可能かもしれませんが」


 ・・・当時、彼女が言ってたこと、何だっけ?

 俺の中では、時間が止まってるとしか覚えていない。

 んん・・・思い出せない・・・


 「・・・でも、俺の中の世界で時間止めても、何の意味もなくないか?」

 「いいえ、ありますよ?」

 「どんな意味があるんだよ」

 「外の世界の住人達は、時間が経った分だけ年を取っていますが、貴方はそのままの肉体で外に出た筈です。肉体年齢はこの世界に入った直後から、出た瞬間まで1秒も加齢していないのです」

 「・・・」


 思わず何も言えなかった。

 そういう意味があったのね・・・

 なんか、これじゃあ勝手に俺が勘違いしてただけみたいじゃないかよ。

 俺に非があるみたいじゃんか。


 「俺、勘違いしてた」

 「1年前、貴方が大魔石から出た時に、地獄では2年時が過ぎていたからですか?」

 「・・・そのとおりです」


 グウの音も出なかった。


 「・・・私の説明が足りなかったかもしれませんね。すいませんでした」

 「いや・・・こっちこそごめんなさい」


 お互いがペコリと誤っていた。

 なんだよ、この奇妙な光景・・・


 「ヘックシッ!!」


 突然くしゃみが出た。

 夜なので、昼よりも寒い。

 湖の近くに雪山が見えるから、ここは平時でも気温が低いんだろう。

 あのウルファンス山脈よりは全然マシだが、ここはここで寒い。

 いい加減、風を引きそうだ。


 「服、濡れていますね」

 「何故か波がたってる所で寝てたんだ」

 「そこで目覚めた訳ですか」

 「多分な」


 なるほどとスティーラが呟いた後、前にやっていた例の指パッチンをする。

 すると、どこからともなく暖かい風がやってきて、俺の周りを包んだ。

 数秒後、服は完全に乾燥していた。


 「魔法?」

 「ええ」

 「万能なんだな、魔法って」

 「魔法は万能であるからこそ意味があるのです。完全に近いことこそ、私達の基盤なのですから」


 完全に近いこと。

 俺の考えでは、完全な物はこの世に存在しない。

 矛盾する言い方だが、0パーセントと100パーセントは存在しないのだ。

 それこそ、100パーセントだと言える。

 だから、今のスティーラの言い方は妙に納得出来た気がした。


 「思ったんだけどさ、その魔法で外の時間も止められないか?」


 そうすれば、プラムが長い間俺を待つこともなくなる。

 俺にしては名案だと思った。


 「無理ですね」


 一蹴された。


 「ダメなのか?」

 「無理なのです」


 無理なのか・・・


 「特別な手順を踏まないと、そういったことは出来ません。それに、あちら側の時間を止めてもなんのメリットもないと思いますよ?」

 「メリットはあるだろ。俺としては、外の時間は止まってた方が都合いいんだけど」

 「貴方自身にとってはそうなのでしょうね」

 「・・・?」

 「立場によって、メリットのあり方は様々と言うことですよ」


 それは何となく分かる。

 けど、今の状況で当てはまることが思いつかない。


 「なんにせよ、時間を止めるのは無理です」

 「そっか」


 無理なものは無理なんだろう。

 ごねても仕方ない。


 「そういえば、毒、治ってんな」


 今更気が付いたが、体が軽い。

 声も出る。

 熱もない。

 全快の状態だった。


 「大魔石に取り込まれる時に、光に分解されて運ばれますから、その時元の原形を取り戻したのでしょう」

 「・・・つまり?」

 「元の健康な状態に戻ったということです」

 「光ってすごいな」

 「神の使いですからね」


 神の使い・・・


 「質問攻めで悪いんだけどさ、光って結局何なんだ?生き物みたいに扱われたり、世界の法則的な扱いもされるし・・・」


 聞く者によって、光の説明が違うのだ。

 混乱しない方がおかしい気がする。

 意見は統合しておいて欲しいと思ったくらいだ。


 「・・・それを説明するには、少し長い時間が必要ですね」

 「お、説明はしてくれるんだな」

 「貴方の使命のために」


 前にも言ってたな。

 その使命ってやつ。


 「まあ、ここでは落ち着きませんから、少し歩きませんか?続きはそこに着いてからでも」


 こうしている間にも、外の時間は相当進んでいるんだろう。

 俺の予想では、こっちの時間の流れと地獄の時間の流れはだいぶ違う。

 数時間で年単位の時間が経過していたのだ。

 もたもたはしていられない。


 けど、ここは聞き逃してはきけない気もする。

 俺にとって、大切なことのような・・・そんな感じがした。


 「・・・分かった」


 俺達は、星の輝く夜の地を歩くことにした。



 ---



 数分後、着いた場所はごく普通の平地だった。

 草は生えていなく、砂浜でもない。

 普通の土の地面。

 遠くには、綺麗な雪山と湖があるばかりだ。

 他には何もない。


 「今、準備します」


 スティーラはそう言って、また魔法の指パッチンをする。

 ポンッと煙が現れて、丸テーブルと2つのチェアが出てきた。


 「どうぞ」


 彼女が俺に座るのを促してくる。

 言葉に甘えて、俺は警戒することなく座った。


 「ここって綺麗だよな」

 「私も美しい場所だと思います。この風景を見るのは久しぶりですね」

 「前に見たのか?」

 「ええ、実際にね」

 「いいなぁ、俺も生で見てみたいよ」

 「貴方は見たことがあるはずですよ?」

 「ん?」

 「生前見たことがあるから、貴方の世界で心象風景として映し出されているのですよ?」


 あ、そうか。

 前に来た映画館も、飛行機も俺が来たことのある場所なのだ。

 だから、俺の世界に映された。

 そう彼女から教えてもらってたな。


 「でも、こんなの見たら、忘れないと思うんだけどな」

 「そうであったらと私も思います」


 2人で空を見上げる。

 本当に綺麗な夜空だ。


 「星の海・・・と言うらしいですよ」

 「ああ、名前は知らないけど、納得だよ」


 まさに海って感じだ。

 雄大で、どこまでも深くて。

 未知の領域。

 そこに満ち満ちている光源の星。

 ロマンが確かにそこにあった。


 「地表に民家などの光源があると、夜空の光と打ち消されるといいます。ここは誰も来ない絶好のスポットなんですよ」

 「・・・詳しいな?」

 「好きなんですよ、ここが」


 遠い目で雪山を見つめるスティーラ。

 だいぶ昔なんだろうか?

 スティーラって一体何歳なんだ?


 「ま、見ていて飽きない場所だな」

 「星は綺麗ですが、その殆どは死の星だと貴方は知っていますか?」

 「知ってる。殆ど生物が生存出来ないような、過酷な環境の星ばっかりなんだろ?」

 「そうですね。けど、そんな星々を見て希望を抱いている人間達・・・不思議です」


 スティーラの空を見上げる横顔をちょっと見てみた。

 その瞳は、満点の星色に染まって輝いていた。

 ・・・純粋に綺麗だな、と思う。


 なんだろう?

 この懐かしい感じは?

 プラムを見た時と、同じこの感覚。

 俺の中で、何かがうずいている。


 これは・・・楽しかった思い出?

 大切な俺の一部。

 心を彩るピースの1つ。

 そんな表現が正しいのかどうか分からないが、そういうものを俺は確かに感じた。


 そうだ。

 俺はここに来たことがある。

 誰かと一緒に。

 それは・・・誰とだっただろうか?

 この美しい風景を一緒に見た人は。


 「地獄の世界の夜空より、こっちの方が綺麗だな」

 「地獄は・・・ある意味で星の命が止まっていますから、それが動き出さない限りはそのままでしょう」

 「星の命?」

 「世界ということです」

 「・・・ますます分からないんだけど」

 「本来、人間は知らなくていいことですからね」


 スティーラが俺に向き直る。

 片手を真上に掲げながら。


 「理解しなくていいことを理解すること。これは愚行です。生きる上で何もメリットなぞありはしません」

 「・・・」

 「ですが、貴方は違う。愚行かどうかは貴方のこれからの行動次第。ですから、その可能性に敬意を評して、私は教えましょう」


 上げた手の平が輝き、1つの光球が生み出された。

 それはフワフワ浮いたかと思うと、突然物凄い速度で上へ上昇していった。


 「真実の断片を」


 遥か上空までいった光球は、中空でいったん停止する。

 プカプカ浮いたままかと思うと、それは急にもっと発光しだして・・・大爆発を起こした。


 星々が連鎖的に爆発して、消滅する。

 でかいスケールの出来事が、一気に上空で起こっていく。

 俺は干渉出来ない。

 それを黙って見ることしか出来なかった。


 そうして星々が数十秒で全て消え去った後。


 この世界は真っ暗になった。

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