126話 守護の間での戦い
「ちっくしょう!!アイツ、俺にまた全部投げっぱなしにしやがって!」
ルシファーが呻いていた。
それはもう、悔しそうな表情で。
本人の前では隠していたんだろうか?
・・・それ、ばれてないか?
いや、団長・・・ダファクルフがジャミングをかけてるんだっけか?
でも、大魔石の近くだとそんなの関係ないか?
ああ!そんなことはどうでもいい!
俺は魔剣を片手に、ナイフを片手に所持する。
俺の本来の戦闘スタイルはこうだったんじゃないのか?ぐらいに2刀流はしっくりくる。
しかし、まだ埋められる余地はありそうで・・・
「魔王様」
団長が前へ出てくる。
側近も。
2人同時に相手か。
大丈夫だろうか?
戦える?
勝てる?
見たところ、側近は近距離タイプではないな。
武器を所有しているようには見えない。
自然干渉系を使用して戦う奴っぽい。
一方のダファクルフの能力は知っている。
感知系の固有能力と、強力な物理結界を扱うサポートタイプ。
単独で戦えるような戦闘スタイルではない。
受けと攻め。
2つに1つ。
さらに言うと、俺の目的はこいつらの撃破じゃなくて、後ろの大魔石を奪うことにある。
大魔石の守り手は必然、団長の方だろう。
大魔石を取りたいなら、団長を。
そんな団長を守るのは側近1人。
それに、魔王の神聖種も気になる。
「おうおう、睨みあってないで、さっさと始めようや!!」
魔王が転移魔石を取り出す。
やっぱり・・・
「今、ここでやってしまってもよろしいので?」
「いいさ。けど、副団長は呼ぶなよ?サタンちゃんに怒られるからな」
「了解」
1人が近寄ってくる。
側近だ。
ダファクルフは後ろで大魔石を守っている。
「危なくなったら言えよ?」
「分かりました」
その言葉を皮切りに、戦闘が始まった。
「大いなる守りの壁よ」
側近が両手から長方形の結界を出現させる。
直径2メートル。
それを武器のようにかざす。
「最大の守りは最大の攻撃にも成り得る!!」
結界をそのまんまブン投げてきた。
「そんな使い方をするのかよ!」
言いながら俺は魔剣に闇を通す。
エネルギーはプラム持ち。
さて、短時間で決着をつけなければいけない。
「うおおおお!!!」
魔剣で結界を弾く。
闇に浸食された個所から脆くなり、結界は砕け散る。
その間にも、側近は同じような結界を作り出して投げ続けていた。
俺は前へ踏み出る。
猫の如く姿勢を低くして、投げられた結界を1つ潜る。
次弾の結界は横へ移動して躱す。
横へ横へ。
移動して攻撃を誘い、移動に緩急を付けてステップで躱す。
そうすると、キリがないと判断したのか特大の結界を投げつけてくる。
さっきの結界よりも数倍デカイ。
ここで俺は闇を一気に拡散させる。
彼女のエネルギーが一気に持っていかれる。
闇で結界の進行速度を沈静化させ、スローモーションにする。
相手の視界ごと全てを闇で覆い、スモッグの役割を持たせる。
闇の中で正常に動けるのは、発動主である俺だけだ。
黒い霧の中に突っこんで、短時間ながら俺の居場所をロストさせる。
「大いなる風よ!!」
側近が風の能力で黒い霧を吹き飛ばそうとするが、その風自体も沈静化してしまう。
俺はその中を移動して、ある地点で霧を抜けた。
・・・大魔石の目の前に。
その間には団長が構えている。
ナイフを3本団長に向けて投げつける。
大して速度はない。
簡単に見切られて、無詠唱の結界で弾かれてしまう。
ストックしていた魔石を取って、エネルギーを抽出。
魔剣に闇を滾らせる。
そこから一気に白兵戦へと持っていく。
周りの邪魔な結界を闇で腐食させ、排除。
単純な縦斬りを浴びせる。
団長は剣を抜いて、それを受け止める。
その剣は薄く結界で守られていた。
「・・・さっきの無詠唱はコイツのおかげか?」
「・・・」
ギリギリと剣同士を伝って力が拮抗する。
闇はその結界をボロボロと崩すが、崩れた端からまた結界を構築し直している。
「もう対処法が分かったのか!」
「悠長に話している余裕があるとはな!!」
力押しで剣を離すと、ダファクルフは怒涛の勢いで剣を乱舞させる。
右から流れるように斬り付ける剣を躱す。
その流れは止まることなく柔和な形を描いて頭上から迫る。
上からの斬撃を刀身で受け止めるが、相手は片手で剣を振り下ろしていた。
もう片方の手には、キューブ状の手に収まる大きさの結界が握られている。
その小さな結界が、急激に長方形の形に伸びだす。
思わずバックステップでそれを後ろへ回避する。
「今だ!!」
ダファクルフが声を俺の後ろへかける。
すぐ後ろには、両手に結界で出来た剣を持った側近が待ち構えていた。
「ぐっ!?」
体勢的に、動くことが出来ない。
バックステップを抑え込むことも出来ない。
吸い込まれるように、俺は側近の攻撃に近付き・・・
「させないわよ?」
肩に乗っていたプラムが、視線を側近に合わせていた。
死の目線。
眼光から飛び出る異質な力。
それをモロに見てしまった側近は、ソード型の結界を消失させ、その場で滑るように倒れてしまった。
「うおお・・・やばかった・・・」
「このレベルで2対1は流石にキツイわ。仕方ないわよ」
本当にフォロー感謝だ。
そのまま後ろへ行ってたら、絶対に結界の剣で首を落とされてた。
「おい!?今、何された!?」
魔王が場外から声を荒げる。
傍から見たら、何をされたのか分からなかったろう。
「・・・恐らく、精神に干渉する何かでしょう。死んではいません。泡を吹いているのがいい証拠です」
当たりだ。
ただ、もう一生このままだろうけど。
プラムは、この地獄で数少ないテレパシー能力のチャントを使用出来る生物だ。
マリアさんには格段に劣るらしいが、こうやって相手の脳に訴えかけて、脳死の状態に追い込むことが出来る。
目を合わせるだけで。
「余裕かましてなければよかった・・・」
なんか魔王が場外で勝手に後悔してるし。
こんな状況でなければ、ユーモアがある奴って思ってたかもな。
「おい、クルフ!!こっちも出すぞ!!」
「申し訳ありません」
ルシファーが転移魔石を投げる。
あの時のサタンのように。
赤く、視界を塗りつぶすが如く光輝く。
召喚された光は召喚対象の体を構築し直して、原形を再現していく。
そうして召喚されたのは、神聖種・・・貶たりし驕傲の聖鳥獣」
現世での知識通り頭部が鷹、体がライオンだった。
全長4メートル程か。
その大きな翼をはためかせて、俺を見下ろす。
自分以外の存在は許さないと言わんばかりの威圧をもって。
「下がってろ!」
「はっ!」
言われて後ろへ下がるダファクルフ。
あの神聖種は確か・・・
「物を腐らせる能力を使うんだっけか?」
「正確には毒よ。魔王以外差別なく広範囲に攻撃してくるわ」
見ると、ダファクルフは結界を三重にして、部屋の隅っこに立て籠もっていた。
随分な対応だ。
それだけ警戒する必要があるということだろう。
「来るわよ」
鳥獣が羽ばたく。
同時にくちばしからは緑色の息が吐かれていた。
翼から生み出される風に乗って、毒は広範囲に広がる。
魔王のいる場所にも広がるが、本人は平気そうだった。
「いけいけ!!殺せ殺せ!!!」
「何でアイツは毒吸って平気なんだよ!」
「知らないわ」
ゲームでよくあるご都合主義という訳でもあるまいし。
「あれ、吸ったらやばいよな」
「死ぬわね」
「だろうな!!」
毒の恐ろしさは名無しの森でそれなりに理解しているつもりだ。
体内に入ったが最後、内側から蝕まれていく。
手持ちに解毒剤はない。
だから、全て避け切らなきゃならない。
気体を避けるなんて、無茶な話だ。
2個目の魔石を取り出して、魔剣にエネルギーを送る。
魔剣の刀身に闇が満ちる。
発生した闇を拡散させて、守護の間全域に広がろうとしている毒の動きを停止に近い状態まで遅くした。
だが、広範囲に広がる毒全てを包むことは出来ない。
だから俺は全力で上に飛んだ。
天井に届きはしないが、まだ毒は俺が飛んだ地点まで充満していない。
魔剣を持っていない片方の手に、黒い霧を密集させる。
物理的攻撃力を持たせるまでに圧縮させたら、槍状に形を定着させた。
黒い霧で出来た槍を空中に浮いた状態で投げつける。
「クオオォォォッッ!!!」
鳥獣の片方の翼に黒槍が刺さる。
翼の動きが鈍りだした。
「プラム!!」
「分かってるわ」
プラムが俺の数センチ下に床状の結界を張る。
うまくそれに着地して、槍を生成して投げまくる。
「このっ!このっ!このっ!!!」
鳥獣は魔王を乗せて、横へ疾走する。
動きが存外速く、後の槍が刺さらない。
槍を作り出す度にゴリゴリエネルギーが失われていく。
セットしたばかりの魔石がもうエネルギー切れになってしまった。
「飛べ!!」
魔王の指示を受けて鳥獣が跳躍する。
毒の息を吐きながら。
プラムが前方に結界を張る。
だが、いともたやすく鋭いくちばしで突き破られる。
所詮、時間稼ぎだ。
「おおおおお!!!」
真正面から鳥獣に向かって剣を振る。
直接刀身がくちばしに銜えられた。
圧倒的な力が魔剣から俺の腕に伝わってくる。
これ・・・ダメだっ!!!
力が強すぎる!!!
「うわっ!?」
鳥獣が刀身を上に持ち上げる。
魔剣を掴んでいる俺も上へ。
そして、中空でブンブン振り回される。
「プラム!!!頼むっ・・・!!」
俺が叫んだ直後、素早く俺の肩から飛び出す。
その先には、魔王がいた。
「あぶねえ!!」
魔王が咄嗟に目をつぶる。
プラムの能力を警戒したんだろう。
こと戦闘においては、視界が塞がることがどんなに不利なのかも理解せずに。
「攻撃は苦手だけどっ!!!」
プラムが思い切りよく、魔王の顔面に体当たりをかました。
ダメージはない。
だが、体制が崩れて後ろへ転げ落ちる。
床にビタンと無様に落下した。
「単純に目をつぶるからこうなるのよ」
「なにをっ!!」
そう言って、魔王は口を閉じる。
狭い結界の中へ閉じ込められたからだ。
プラムのマグナス級結界。
大した能力を持たない魔王には破れない檻と化すだろう。
「クルフ!!助けてくれ!!」
「はっ!!」
ダファクルフが自分の結界を全て解除して、単身突撃してくる。
狙いはプラムだ。
「ぐっ・・・この!!!」
俺は、何とか3つ目の魔石を取り出してセットする。
鳥獣にいいように振り回されている魔剣から、黒い霧の闇を放出。
危険を悟ったのか、くちばしから魔剣を離して上空に飛んだ。
着地時にタイムロスがないよう最小限に四つん這いで降りて、ダッシュする。
少し先にいるプラムを回収して、ダファクルフの攻撃をうまく剣で弾く。
闇を拡散させて、相手に追撃。
ダファクルフがある程度距離を取った。
・・・脅すならここだろう。
「全員動くな!!魔王を殺すぞ!!」
うまく調節して息を吐く。
毒で空気が満たされているからだ。
話すのに息継ぎは出来ない。
プラムは既に、結界内から加工した細かい棘を魔王に向けて伸ばしていた。
魔王の全身を囲む無数の棘。
さぞかしいい居心地なんだろうな。
「次攻撃を仕掛けてきたら、魔王の体が穴だらけになると思え!!」
「分かった分かった!!!だから止めてくれ!!」
魔王本人が直接降参する。
その言葉を聞いたダファクルフは、おとなしく両手を上げた。
「・・・」
そろそろ息を吸いたくなってきた。
プラムに目配せして、結界内の棘を微妙に伸ばしてもらう。
魔王の頬が少し切れて、血が垂れる。
「止めろ!!分かったから!!」
魔王が鳥獣を見る。
それだけで、鳥獣の荒立った息が嘘のように落ち着きを取り戻していく。
毒の息が普通の息に変わった。
周囲に残していた闇の鎮静化の効果で、室内が正常な空気に浄化されていく。
そこで俺は、思いっきり深呼吸した。
「呼吸が出来るって素晴らしいな」
当たり前のことが出来なくなると、物凄い不便になる。
そんなことを、しみじみと思った。
「でだ、このグリフォンを戻してくんないか?」
「・・・」
魔王は無言で俺を見続ける。
やがて何か納得したように、転移魔石と通常の魔石を取り出した。
2つの石が光輝く。
その光と同時に、鳥獣は光に飲み込まれて消滅した。
「これで・・・安全だよな?」
側近は戦闘不能。
団長は無抵抗状態。
神聖種はここから消えて、魔王は結界内に拘束。
ここで誰にも見つからないことがベストだったが、見つかった場合の結果としては最上だ。
何も犠牲にすることなく、無事にその場を制圧出来た。
喜ばしいことだ。
「プラム、念のために団長さんも結界に」
「いいわ」
プラムが新しく結界を作り出して、ダファクルフを閉じ込める。
彼の顔は明らかに不満そうだった。
「これで一件落着と」
「かなり危なっかしい戦いだったわね」
「ある程度悪魔にも俺の動きが通用するってのは実感したけど、やっぱ神聖種を倒すのは無理だ」
「押さえるべきは傀儡ではなく傀儡師。私の教えは覚えてたみたいね」
この1年間で教えられたことは数多い。
召喚師との闘いの基礎も彼女の一族からかなり教え込まれている。
「大魔石を回収しなきゃな」
「うっかり触らないようにしなさい。またどこかに飛ばされるわよ」
「この魔石と同調しなければいいんだろ?大丈夫だって」
俺はバックパックから転移の陣が描かれた大きな丸められた洋紙・・・転移の媒体紙を取り出す。
紐を解き、洋紙を広げる。
縦2メートル、横2メートルの大きな転移の陣があらわになった。
この規模の陣であれば、何とか魔石がなくても転移を使うことは出来る。
多分、事が終わったら枯渇に近い状態でヘトヘトになるんだろうけど。
「・・・ん?」
急に視界がグラついた。
・・・あれれ?
「・・・貴方」
プラムが俺を覗き込む。
だけど、俺に分かったのはそこまでで、周りの景色はぼやけている。
モザイクみたいな靄が、俺の見るもの全てに覆いかぶさっていた。
「頭が・・・痛い」
その場で膝を付く。
急に痛みがやってきたのだ。
何が何だか分からない。
一体俺の頭はどうしたってんだ?
「毒・・・にやられたわね」
プラムが一言そう言った。
「毒か・・・そういえば、吸ったかも」
鳥獣にブンブン振り回されてるあの時。
弾みで呼吸しちゃってたな・・・
「プライドの魔王、ルシファー・エレクシール」
プラムの言葉と同時に、魔王を閉じ込めている棘が一気に首元へ集中する。
「なんだよ?こんな脅しをしやがって」
「この毒の解毒方法を教えて」
「んなもんねぇよ。存在しないのさ」
「では、何故あんたは毒を吸いながらも生きているのかしら」
「俺の先祖が神聖種を飼いだした頃、自分の体に毒の耐性を作ったらしい。多分、先祖代々耐性が遺伝した結果なんだろ」
さっきから周りが騒がしいが、何を言ってるんだかさっぱり分からん。
目ももう全然見えないし。
それに何か頭痛いのに、眠気に襲われてるし。
「クルフの反応見て分かってんだろ?この毒は吸ったら終わりだって」
「・・・」
プラムがこっちに来るのが分かった。
輪郭だけ微妙に認識出来る。
「確か、貴方は3年前大魔石に触れた時、大怪我を負っていたわね」
「・・・え?」
「もしかしたら、大魔石に触れたら治るかもって思わない?」
ああ、そうだったっけ。
俺、片手とかなかったな。
「・・・風よ」
俺の体が突然浮きだす。
・・・風だ。
プラムの奴、何する気だ?
「そんなんで治ると思ってんのか?」
「それしか選択肢がないのならね」
俺のすぐ近くに、光る何かがあるのが分かった。
恐らく、大魔石だと思う。
だって、力強いエネルギーが俺と結びつこうとしているから。
「ちょっと待ったぁ!!!」
突然新しい声が聞こえた。
でも、聞いたことのある声。
・・・誰だ?
「・・・実にバットタイミングね」
プラムの嘆きが混じった溜息が聞こえる。
「なん・・・だ・・・?」
「毒が回るから静かにしてなさい」
プラムに忠告される。
ダメだな・・・これ。
まるで動けない。
体が痺れている。
「おやおや?そこにいるのは街中で会った強そうなお兄さんじゃない?」
「あ・・・あ?」
俺は元気そうな声に導かれて、その声の持ち主を見てみる。
そこには、綺麗な緑色のロングヘアーをポニーテールで纏めた、1人の女悪魔がいた。




